百六

 白のブラウスに海老茶色のミニスカート姿の詩織は、ブラットホームの人目を惹いた。眼鏡を外して、空ろな目をしていた。
「特上品だね。泊まっていく?」
「ううん、最終で帰る。あした十時に上野駅集合だから」
「あさってから合宿開始だものね」
「うん、吉祥寺に出て井之頭線で神泉まで帰る」
「きょうはヤバい日?」
「平気」
「ひと月以上もどうしてた?」
 詩織はボソボソ小声で言う。
「……私、神無月くんに目を覚まされたの。こんな気持ちは初めてです。初めて恋に落ちたような……神無月くんのことを考えると、感極まって、息もできない。もう元には戻れないと思う」
「悪いことをしたね。静かな気持ちで生きてたのに」
「静かというより、平凡な気持ちで……」
 電車が入ってきた。きょうも満員だ。
「満員電車か。東京にきて初めて見たときはビックリしたけど、慣れるもんだなあ」
「ほんと。満員でないことのほうがめずらしい」
「合宿へいくメンバーは何人?」
「三十人くらい。バトンは十人」
「へえ! 増えたねえ」
「特訓につぐ特訓で、ようやくバトンが揃うようになったわ。そういえば、四年生の準レギュラーの有本さんと、矢島さんが退部しました。このままいても出場のチャンスはまずないし、準優勝なんかしちゃったから、さすがに年功序列が利かなくなって」
「その二人、名前すら記憶になかった。篩(ふるい)が利くのはいい傾向だよ。レギュラーが集中して練習できる。……詩織は、四年以内の東大の優勝はあると思う?」
「わからない。神無月くんは?」
「あると信じてる。六大学野球が注目されはじめたから、来年はどの大学にも優秀な選手が集まるだろうな。特定の大学が抜きん出るという傾向がだんだんなくなっていく。三冠王が東大生だということに刺激されて、野球が得意なやつ、その中でも早稲田や慶應を併願できるほど勉強のできるやつとかが、ひょいと東大に受かるようになると思う。東大の優勝の可能性も出てくる」
「とにかく来年からね。秋のリーグはまた準優勝かしら」
「僕自身は優勝を頭に置いてるけど、いまの戦力なら、ほかの大学が心を入れ替えて練習する分、たちまち追い落とされると思う。せいぜい三位だろうね」
「本心?」
「いやいや、下心あり。……力を振り絞るつもり」
 荻窪駅に降りる。
「丸の内線の荻窪駅は国鉄荻窪駅の南口に接してるんだ。本郷から直通で四十分。池袋経由で戻るより十分ほど多くかかるけど、乗り換えの面倒のなさを考えれば、十分ぐらいなんでもない。帰りはこの丸の内線で池袋まで戻って渋谷に出るんだね。一時間以上かかるよ」
「へっちゃら。一日かかったって―」
 女の過激な感想は聞き流さなければいけない。ヤニ下がって応じれば、常に身に備えるべき大事な劣等感が損なわれる。カズちゃんは私に心を打ち明けるまで五年待った。言葉を相手の人格に重ねて吟味する時間は重要なのだ。恋心が慈愛に変質するまでの時間は思った以上に長い。
 ガード下のトンネルをくぐって北口に出る。
「わあ、ごちゃごちゃした街!」
「無秩序なだけで特徴がないだろ。荻窪ラーメン食べていこう。少し油っぽいよ」
 ロータリーを右に折れ、丸福というカウンターだけの店に入る。満員に近い。ラーメン百五十円。高い。十年前は十五円、五、六年前は三十円か四十円だった。素直に〈ラーメン〉を注文する。主人が素軽い動きで作り上げたラーメンが待つほどもなく出てくる。モヤシ、二枚のチャーシュー、ネギ、シナチク、味玉という醤油色した玉子。ふつうの醤油味だが、かなり油っぽい。どんなラーメンも、桜木町や浅間下の支那そばほどうまくはない。夢にまで見たあの味を、おそらく一生口にすることはない。しばらくすすっていた詩織が小声で言う。
「これ、油っぽくて、ムリ」
 私は三百円をカウンターに置くと、詩織の先に立ってさっさと店を出る。
「ぼくも食えなかった。一度入ったときも、三口ぐらい食って出た。確かめるつもりだったけど、やっぱりだめだったね。うまいものを食いにきたんだ、ちゃんとした店にいこう」
 夜のランニングに出たとき、料亭ふうの店に白暖簾が垂れていたのを憶えていた。ロータリーから線路沿いに歩く。アーケードのほうへ曲がりこみ、保土ヶ谷に似た家並を抜けていく。
「あそこにしよう」
 魚政と染め出した大暖簾が涼しげに揺れている。
「高そう」
「うん、高いだろうね」
 店内に入ると、けっこうな客の入りで、調理場を白木の分厚いカウンターでぐるりと囲んだ席と、黒テーブルのボックス席と、掘り炬燵に長テーブルを架け渡した席と三種類ある。どの席にも目立った空席はない。
「清酒と焼酎も棚に並べてある。すごい数」
「カウンターにしよう。料理人に近いほうがいい」
 三人分空いていた席に並んで座る。カウンターの中の白前掛の男に尋いてみる。
「お勧めはありますか。魚をちがった調理法で何品かいただきたいんですが」 
「へい、海鮮盛り刺身、ぶり照り焼き、キンキの煮付け、三品でごはんを食べれば、お腹いっぱいになります。魚だけでいきたいのなら、四品目にトラフグ鍋で決められたら?」
「それでいきます」
 ツマに載せた海鮮盛りが出る。切り身の大きいハマチ、赤身、ホタテ、車海老の尾つきの剥き身、イカ、タコ。詩織はまずハマチを、私はホタテを食べる。
「おいしいわね! 山形よりおいしい」
「ホタテも野辺地よりうまい。気のせいじゃないな」
 チラと郷土を蔑む気持ちが頭を巡る。
 ―新鮮なものは都会に出る。地元には傷みものが残る。高く売れる都会へ素早く流通させることで利鞘を増やすためだ。
 根拠はない。ただ、同じものを食ったときの味わいが、野辺地の店と東京の店とでは明らかにちがう。野辺地のほうがうまいと感じるのは、ばっちゃが浜からもらってくる魚介だけだ。
 そんなことを思いながら、詩織と競争するようにたちまち平らげ、次を待つ。ぶり照りが上がってくる。小振りなものが二つ。照りが鮮やかだ。
「うわあ、これもおいしい!」
 私は吉永先生の濃い味つけのほうが好みだった。
「淡い味だね」
 とだけ言った。詩織は店内の騒音に紛れさせるような明るい声で、
「人間て、セックスばかりして、食べてばかりいるって、いま思ったの」
「ぼくも考えたことがある。一瞬ね」
「人間は生きるためにいろいろなことを絶えずやってるけど、本能だけをピックアップされると、下卑たものに聞こえちゃう。命の維持のためにすることは、どれも下卑たことじゃないのに。食べることも、寝ることも、考えることも、創造することも、肉体の感覚を満たすことも、ぜんぶ生命維持のための活動。神無月くんほど、それをぜんぶ自然にやってる人はいないなって思う」
「そうかなあ。いろいろ考えたり、悩んだりしながらやってるよ」
「自然なだけじゃなく、一生懸命やってる。わかるの。一生懸命やってるのは野球だけじゃないって。何でもかんでも一生懸命やってる」
「ぼくはこのごろ、確信してることがあるんだ。大切なのは孤独に何かを一生懸命やることじゃない、いまの詩織のように、そうやって人が思い余って口に出す言葉を信じることだってね。じゃないと、人間同士話し合うことがなくなってしまう。そんな人生、何もないのと同じだ」
「すてき! やっぱり神無月くんの言葉は胸にくるなあ。私、神無月くんのしゃべる言葉を信じる。神無月くんに比べたら、私の言葉のスケールなんて小さいわ。信じてもらうほどのものじゃない」
 キンキの煮付け。キンキの大振りな切り身二切れを、豆腐、大根、ナス、ごぼうといっしょに煮しめてある。醤油の甘辛い味つけもちょうどいい。
「おいしい!」
「とてつもなくうまい!」
 料理人は、ありがとうございます、を連発しながら、真剣に立ち働いている。
「腹六分くらいになったね。鍋もするっと入りそうだ。詩織の仰せのとおり、下卑ていない生命維持活動にどんどん励もう」
 二人前のフグ鍋が小さなコンロの上に置かれる。フグの切り身少々、ゆば巻き、白子、鮭の切り身四切れ、鍋の縁に沿って長ネギ、白菜、豆腐が並び、真ん中にカラス貝とハルサメ、そのあいだから車海老の頭と蟹の足が突き出ている。山口と食ったような本格的なフグ鍋ではないが、ダシが出てうまそうだ。鍋が泡立って煮立ってきたところで、料理人は火を弱め、
「そろそろいいですよ。もう食べられます。おつゆもぜんぶ召し上がってください。まだお腹が余ってるなら、そのあとで雑炊にします。……お二人のおっしゃることはおもしろいですね。つい、聞き耳立てちゃいました。四十五年も生きてきて、世間離れした会話を初めて聞きました。人に語りかけられた言葉を信じることが人生の意味だって、シッカリわかりましたよ。ふだん私はあまり口を利かないほうなんですが、そのことを信頼していれば、自分もこうやってしゃべって信じてもらえるかもしれないってわかりました。ありがとうございます」
 詩織が愉快そうに微笑むと、男もつられてにっこり笑った。詩織は白子から、私はネギとハルサメから。ダシにかすかに味つけがしてあるので、タレはいらない。つづけて詩織は鮭、私はカラス貝。じつにうまい。詩織がフグ、私もフグ。詩織豆腐、私白菜。一巡りして、詩織はコンロの火を落とした。蟹の脚と二本の海老だけになった。熱の退いた蟹を小鋏で切り、ほぐした身を小皿に盛る。つつき合う。フグと同様、淡白な味だ。好みではない。詩織は海老の頭を折り、剥いた身を私の口に差し入れる。えぐみがある。これは好みだ。野菜かすの浮いた汁が残った。
「雑炊お願いします。小盛りで」
「はい」
 料理人はアクを取り、しゃもじ一つのめしを残り汁に入れて掻き混ぜる。溶き卵を円く流しこむ。いい香りだ。できあがると、ちょうどめし椀二つだった。
「ああ、最後までおいしい。贅沢」
 詩織は椀の底の一粒まで食い終えると、お腹をポンポンと叩いた。
「ごちそうさま。ほんとにおいしかった」
「ありがとうございます。豪快に食べていただいて、ほんとうに料理人冥利に尽きます。ぜひ、またお越しください。首を長くしてお待ちしています」
 深く頭を下げる。レジで大枚五千円を払った。それでも安いと感じた。満ち足りた気分で表へ出た。
「ほんとに、またきたいね」
「神無月くんの財布にカラッ風が吹いちゃう」
「早く吹いてもらいたいよ。増えてくばかりで、処理が追いつかない。十歳で飯場に入ってから急にモノ貰いの人生になった。みんな、くれたがる」
「貢物よ。……まだちゃんと鍵持ってる?」
「どこかにある。訪ねていかなくてごめんね」
「いいの。こうしてときどき逢えるし」
 黄昏の風がさわやかだ。詩織は私の腕に腕を絡ませ、笑顔で見上げる。アーケードの下を歩いてアパートへ戻っていく。小柄な詩織は、深夜の舗道をちょこちょこともつれるような小刻みな足どりで歩いた。節子とちがって内股だ。
「そういうちょこちょこした歩き方をした女がいた。何度かいっしょに名古屋の坂道を歩いた。十五歳だった」
「だれ?」
「一度別れて、また巡り合った女だ。いまは武蔵境にいる。……いまぼくを取り囲んでいる女たちのことは、複雑すぎて説明できない。たまたまそういう形になってるということだね。みんな独立した生活を送ってる」
 詩織はやさしい目で私を見上げた。
「一人ひとり、時間をかけて会っていきたい」
 直観したとおりの女だ。少し受け口で、ほんのわずかに唇を開けている欠点が、私には彼女だけが持つ特別な美しさに思われる。開いた唇からたえずちらちら見えているまばゆいばかりに白い歯を見ていると、心が和む。
 アパートの玄関を上がり、詩織を導くように短い廊下を歩く。私の部屋はいつも片づいている。律儀な性質のせいで片づいた部屋に万年布団を敷いてある。
「ふうん、やっぱり敷きっぱなしの蒲団が好きなのね。私もあれから好きになったわ」
「今度あの広い湯船にいっしょに浸かろう。きょうは汗くさいけど、がまんして」
「神無月くんの汗は、いいにおいよ」


         百七

 詩織は子供のようにその場で服を脱ぎ捨てる。先日は目に留めなかったが、胸はふつうの大きさだ。かえってめずらしい気がする。詩織は屹立した私のものを見て、すぐに握ってきた。愛しそうに口に含む。男も女も、たがいのからだの一点に対して、なぜ同じことをするのだろう。おそらくこういう行為は、何千年、何万年も繰り返されてきたのだ。いつまでも舐めている。やがて、上目で私を見つめ、
「笑ってる」
「そんなに長く舐められると、なんだかうれしくてね。人類の歴史まで感じてた」
 胸を寄せ合い、前戯もなく合体する。詩織が望んでいるからだ。
「ほっとする?」
「はい。からだの底から。でも、ほっとする前に、感じてきちゃう」
 そこに触れると硬く勃起している。突起を二、三回押してやる。
「あ、神無月くん、だめ、ウーン!」
 痙攣する腹を尻ごと引き寄せる。荒い呼吸が愛らしい。
「きれいな女だ。ぼくはたいてい、女の美しさに、ずっとあとで気づく。醜さにも」
 醜さ? ちがう。自分をあまりにもやるせなく感じて、自愛から他人を拒否するとき、他人は醜い生きものに見える。醜い人間など存在しない。
「女はすぐに気づくわ。それにしか関心がないから」
 動きだす。詩織も合わせてぎこちなく動く。そうすることが私に対する礼儀だと律儀に信じているようだ。しかしそれは自分の快楽に対する鼓舞だとすぐに気づく。
「あっ、だめ、また! ウーン!」
 アクメに合わせて射精し律動すると、詩織は極限まで腹を収縮させ、尻をふるわせ、懸命に両手で私の背中を抱いた。
「ああ、気持ちいい! 愛してます」
 しっかり抱き締めてやる。
「こんなからだをしてるのが、怖い」
「その快楽のせいで、嫉妬や別れの悲しさがあるんだ」
「……ふうん。なんだかイヤだな。嫉妬しながら、悲しみながら生きていくのって。でも神無月くんには、そんなものないみたい」
「だれもぼくと別れようとしないから」
「……ずっとそばにいていい?」
「会ったら、別れないのがあたりまえだ。あたりまえのことに許可なんか要らないよ」
         †
 八月十四日水曜日の午後三時に、カズちゃんと素子といっしょに浜中を高円寺駅に迎えた。浜中は襟の大きいポロシャツにブレザーを引っかけ、大きなボストンバッグを提げていた。春には気づかなかったヒゲの濃さと頭髪の薄さが目立った。重そうな荷物を肩に担った二人の若いスタッフを連れている。彼らは私に寄り添っている女二人の存在に驚き、カメラマンがさっそく写真を撮った。浜中がそれを手でさえぎり、頭を下げた。
「今回はよろしくお願いします。けっしてご迷惑はおかけしません。いまのフィルムも表に出しませんのでご安心ください」
「新聞や雑誌に載せないなら、いくらでも撮っていいわよ」
 カズちゃんに言われて、三人は笑った。
「ほうよ、新聞に載せたら、キョウちゃんにヤイノヤイノ言ってくる人がたくさんいるんやからね」
 素子が追い討ちをかけた。カズちゃんが、
「疑問を抱えながら私たちといっしょに動き回るのはたいへんでしょうから、あらかじめ言っておきます。私たち二人はキョウちゃんの〈ファン〉。あらゆる意味でね。新幹線には、あと三人の女性と二人の男性が乗るけど、その人たちもファン。女五人は全員名古屋出身、男二人は青森出身。四時にうちに集まることになってます。向こうに着いたら、あと二人の女が現れるわ。キョウちゃんが東京に連れてこれなかった女たち」
 角張った機材を肩に提げたもう一人の男が、
「ファンと言うより、愛人……?」
 カズちゃんが、
「磁石にくっついてきた鉄の粉に、おまえたちの正体は何だって訊いても無意味でしょ。自然にまかせて、あえて質問しないこと」
「わかりました!」
 全員で応え、ぞろぞろとカズちゃんの家へ歩いていく。
「感動ものだ。スケールがでかすぎる」
「芸能レポーター根性を鎮めるほどのものだな。とてつもない。五足す二だぜ」
 互いに嘆息しあいながら歩いている。
「もっとやよ!」
 素子が言う。倶知安の二階から新ちゃんがきょうも、
「ヘイ! キョウちゃん」
 と呼びかけ、フジの玄関からマスターが、
「ヨッ!」
 と声をかける。カメラマンがシャッターを切る。浜中が感嘆し、
「人気者ですね」
「ファンよ」
 カズちゃんが応える。素子が、
「みんな口が堅いんよ。キョウちゃんがここにかよっとるのを知っとる新聞社は、一つもあれせん」
「心酔するファンならいいけど、中には悪さするつもりで近づいてきて、キョウちゃんに虫酸を走らせる人もいるかも知れないでしょう? そういう人をつまみ出すのも、私たちの大切な役目です。いまのところはいないけどね。名古屋で滞在するのは、私の両親の家です。もと置屋さん。北村席という屋号です。両親はいま二軒のトルコ風呂を経営しています。北村席には十人ほどの賄いと、十人ほどの〈従業員〉もいっしょに住んでいます。トルコ風呂のそばに、百人くらい収容できる女子寮もあって、そこにも賄いが十人ほど詰めてます」
「大所帯ですね」
「ええ、トルコのほうの取材はお断りしますけど、なんやかや退屈しないと思いますよ」
 家に着くと、カズちゃんはコーヒーをいれ、素子は出発の荷造りをつづけた。男三人はかしこまってコーヒーを飲んだ。
「中学三年生で、キョウちゃんはもう、ふつうの人の何十倍もの人生を背負っていたんです。野球の才能一本で彼を見ると、とてもわかりやすいでしょうけど、一筋縄でいかない人生歴なのよ。東大なんかメインにするのは単純すぎるわね。複雑なことは、新聞の一般読者には受け入れられないことだから、ぜったい書いちゃいけないわ。書くなら、キョウちゃんが死んで世間にいじめられなくなってからね。とにかく、キョウちゃんをプロ野球に入れて、彼の趣味を完成してもらうことが当面の目標。これからの数日で、あなたたちは本格的にキョウちゃんに惚れこむでしょうから、ショックを受けないよう覚悟してください。野球の才能なんか小さく見えてくるはずよ」
 シャッターの音がしばらくやんだ。
「お姉さん、下着は五組ずつ?」
「そう、あとは洗面道具ぐらいにして。服は一張羅で通しましょう。必要になったら名古屋で買えばいいから。キョウちゃんのブレザーは麻の上下を用意して」
「はい」
 浜中は何やらメモを始める。デンスケが、
「お二人とも、ものすごくおきれいですね」
 二人が応えないので、それきり黙っている。こらえ切れず、
「私、録音の田代です。二十九歳」
「カメラの恩田。二十六歳です」
「私は北村和子。三十四歳」
「あたし、兵藤素子。もうすぐ三十女」
 恩田がハハハと笑い、
「高一の春の練習試合から、神無月さんをずっと撮ってます。北村さんをフェンスの金網で見かけたことを思い出しました。こういうことでしたか。神無月さんの行脚のお供をずっとしてきたわけですね。感動だ! 私、将来浜中が神無月さんの伝記を書くときの写真を担当することになってます。少なくとも二十年後ですね」
 恩田も田代も浜中と同じような丸顔でヒゲが濃い。造りが似ているわけではないが、遠目には区別がつかない。背の高低と体型を目安にするしかない。浜中が、
「飛島のかたたちはお元気ですか」
「無沙汰をしてます。十六日か十七日に、一夜会います」
「取材してもよろしいでしょうか」
「どうぞ。母には気を使わないでください」
 そうこうしているうちにギターケースを提げた山口と、スーツに身を固めたよしのりがやってきた。節子、法子、吉永先生とポチポチ訪れる。恩田たちは彼女たちの光輝にふたたび目を瞠った。山口が三人の男の存在を気にする様子もなく、
「八時前に着くよな。あっちではレンタカーで動こう。ようやく運転の腕が試せるぜ」
「免許取り立てだったね」
「素質があるって教官に言われたよ」
 カズちゃんが、
「菅野さんも動いてくれるし、足には不自由しないんじゃない? 十六日の夜にキョウちゃんは飛島にいってくるって」
「俺も顔を出したほうがいいな。神無月の行動が疑われなくてすむ」
「俺は遠慮しとくわ。神無月のおふくろさんは苦手だ」
 よしのりが言う。
「私たちはぜったいだめ」
 女五人が一斉にうなずく。素子が浜中たちに向かって、
「あたしらのことを飛島でこれっぽっちも口に出したらあかんよ。キョウちゃんのお母さんは、自分の息子のことを百分の一も知らんのやからね。この世でいちばんキョウちゃんのことを知らん人なんやからね。ほうよね、お姉さん」
「そう。彼女がキョウちゃんのことをどんなふうに〈こしらえ〉てるかと言うと、もと不良で、彼女の荒療治で改心して、いまは東大生で、くだらない野球にうつつを抜かしてる信用ならない息子。それだけ」
 田代が、
「東大へいかないかぎり野球をするのを許さなかった人ですよね」
「厳密には、永久に許してないわ」
 恩田が、
「スカウトを三度も追い払った人」
「それは正解。女というものはこの節子さん以外は知らないと思ってるし、その節子さんとも自分の荒療治で別れたと思ってるし、いま、まさかこれほど大勢の女に囲まれて暮らしてるなんて想像さえしてない」
 田代がデンスケのスイッチを入れた。山口が、三人の男たちの顔色を観察し、
「もう少し教えておいたほうがいいな。神無月のおふくろさんは、虚栄心が強く、身勝手で、支配的な人間だ。こう言えば簡単な類型的人物に思えるが、影響というものを受けない人だから対処法はない。神無月は五歳から八歳まで、夫に捨てられて孤独だった彼女を支える〈いい子〉だった。それから彼女の人格に対する本能的な疑いが生じて、徹底的な抵抗が始まった。言わば、そのおふくろさんの〈面倒を見る〉のをやめて、子供ながらすべてを自分で決めたんだ。神無月という苗字も自分で押し通したものだ。おふくろさんの苗字は佐藤だ。神無月の本能はまちがわない。その本能におふくろさんは怒った。十一年間、いまも怒ったままだ。―そのことを知ってるだけで、彼女に対する行動が慎重になる。自己紹介が遅れたけど、俺、山口勲といいます。神無月の青森高校時代の同級生。彼のそばにいたくて青森高校をやめて転校し、こうして東大にきた。押しの弱い神無月の後援者のつもりでね。神無月は押しが弱いというより、押しがない。ま、押してやるのも神無月がプロにいくまでのあいだで、それ以降は俺もトットと中退してギターの道に邁進する予定です」
「明快な説明でした」
 浜中が言うと、連れの記者たちは明るく笑った。
「ざっと説明しておいたほうがあなたたちも何くれとなく動きやすいし、将来の記事も書きやすいでしょう。あ、そうだ、ここにいる縄文面した美男子は、神無月の野辺地の友人で、横山よしのりさん。阿佐ヶ谷でバーテンをしてます。そちら二人の自己紹介はもうすんでるだろうから、こちらの女性たちを紹介しとこう。滝澤節子さん、吉永キクエさん、山本法子さん。それぞれ看護婦さん、看護婦さん、スナックのママさん。みんな神無月を慕って名古屋から集まってきた人たちだ。信じられない人間模様だけれども、信じるしかないね。和子さんが神無月の事情に詳しいのは、かつて神無月のお母さんと同僚だったからです。西松建設時代にね。大学出の栄養士という肩書を活かさずに、和子さんは建設会社で飯炊きの下働きをしてた。大学で学んだ栄養学の実践のつもりでね。そのころつぶさに神無月の日常の不幸を目の当たりにしたわけだ。まあ、それ以前に、神無月の〈男〉にぞっこん惚れこんじゃったんだけどさ。それで神無月に生涯寄り添おうと決意したんだね。そのために離婚までしたんだからふつうじゃない。彼女の生家が置屋を経営する素封家だということはここにいる人間以外に知られていないし、彼女が神無月のそばで暮らしてるなんてことも知られていない。節子さんやキクエさんや法子さんや素子さんの事情も似たようなもんだ。節子さんは、神無月が中学時代、ヤケドをした親友を見舞ったときに知り合った看護婦、それが原因の一つとなって島流しを食らった。流された先でよしのりさんと、それから俺と知り合った。和子さんは神無月を青森まで追っていって、彼のそばに寄り添って暮らした。西高へ転校して、宮中の同級生だった法子さんと再会した。そして奇跡的な巡り合せで節子さんとも再会した。それから西高の教師の吉永さんと知り合った。街頭で運命的に素子さんと知り合った」
 街頭という言葉に浜中たちが反応したので、
「あたし、どうせわかっちゃうことだから言っとくけど、もとストリートガールなんよ。いまは喫茶店のウェイトレス。お姉さんはバリスタ、あたしは調理師の免許を取って、将来いっしょにお店をやる予定なの」


         百八 

 シャッターの音がしきりに鳴る。
「俺は神無月の転校に合わせて、実家の東京の高校に転校した。よしのりさんは十和田でバーテン修業を終えて、神無月のそばへやってきた。ま、そんなところが神無月の表の皮だ。どうですか、だいぶ動きやすくなったでしょう」
「はい!」
 浜中がメモの手をあわただしく動かしつづけている。
「名古屋にいらっしゃる二人の女性というのは?」
「キョウちゃんの子供を産んだトモヨさん」
「お子さんが!」
「書いちゃだめよ。母子で北村の籍に入ったから、生活に不自由はないの。波風を立てないことよ」
「はい。もう一人は」
「節子さんのお母さんの文江さん」
 浜中以外の男二人が下あごを落とした。節子が、
「母がキョウちゃんを愛して引き止めてくれたおかげで、私はキョウちゃんのもとに戻れたんです」
 カズちゃんがまじめな顔でうなずいて、
「トモヨさんは北村席のもと従業員、つまり素ちゃんと同じ仕事をしていた人。文江さんは書道のお師匠さん」
 よしのりが笑って、
「どいつもこいつも、神無月の火が消えたら、自分の火も消える女たちだ。男は俺たち二人だけだけど、やっぱり神無月が消えたら、消える。カクレ神無月という人間たちも、あと何人かいるだろう。そいつらも消える。ただし、神無月は教祖じゃない。そこがすごいところだ」
 恩田が、
「神無月さんに、何か超能力のようなものが?」
 山口が、
「能力とか才能じゃないんです。そんなもの、神無月が十分の一も使えば、ホームランや東大ですよ。そういうものじゃなくて、人間です」
 カズちゃんが、 
「浜中さんだって、それに魅かれて取材する気になったんでしょう?」
「そのとおりです。いわく言いがたい磁力です」
 山口が、
「気づきましたか? 神無月はほとんど口を利かないんだ。口を開くときは聞きものになるよ」
「天の声―」
 吉永先生が言った。法子が、
「からだがふるえて、抱きつくたくなっちゃう」
 なぜともわからずに、全員の雰囲気に巻きこまれて、記者たちは和気藹々と笑った。私は言った。
「ぼくは、口数は少ないけど、たえず心に閃いてることはあるんです」
 カズちゃんがうなずき、
「現瞬を生きる、ね」
「そう」
 浜中が、
「現瞬―いい言葉ですね」
 出発する。高円寺から中央線快速で東京へ。浜中たちの顔が引き締まる。私を入れて総勢十一人、五時三十三分のひかりに乗った。
 車内が修学旅行のような賑やかさになる。浜中は私の連載記事のことを滔々と語る。
「青森市では取材に応じてくださるかたにこと欠きませんでしたが、地元であるはずの野辺地では神無月さんのエピソードを引き出すのはたいへんでした。直接神無月さんに関わったかた以外は、まったく関心がないんです。神無月さんを知らないかたも大勢いましたし、知っているかたも口が重いので驚きました。語ってくれたかただけで、毎週連載にしていきましたが、それでも購読者数は倍増しました」
 よしのりが、
「野辺地は、どこどこ回ったの」
「飛びこみも含めていろいろ回りました。ほとんど空振りで、取材に応じてくださったのは、お祖父さん、お祖母さん、野月俊一校長先生、奥山允先生、中村政夫先生、野辺地種畜場の中島さま母子、その七人でした。学友のかた、ご親族のかた、ご近所のかた、いろいろお訪ねしましたが、よく知らないの一点張りでした」
 山口が、
「青森高校は豊作だったんじゃないの」
「はい。三年間の連載も特集も、教師のかたがたや学友のかたがた、野球部OBのかたがたで賄えました」
 恩田が、
「神無月さんが、微妙に人気がないのは、その神秘性と、庶民性のなさのせいです。プロにいっても、同じことになると思います。取材する人間にとってはあまり芳しくない特徴ですが、私どものような〈追っかけ〉にはじつにありがたい特徴です。ある種の独占取材ができますし、マスコミ他社にも大きな影響が与えられます」
 法子が、
「小学校、中学校でもキャーキャー言われなかったわ。ひっそりファンがネット裏で見ている感じ」
 カズちゃんが、
「近づきがたいのね。応援に報いてくれない雰囲気。大衆は自分がいちばん大切だから」
 私は浜中に、
「野球そのものを好む純粋な野球ファンというのは、どのくらいいるんですか」
「二割程度でしょう。あとは専門家筋」
「この先ずっと静かに野球ができそうだ」
 恩田がシャッターを切り、田代がテープを回している。
「いっときの盛り上がりは避けられませんよ。数年のうちにほんもののファンをつかむ岩のような存在になるでしょう」
「いま、プロ野球はどういう状況ですか」
「巨人が四連覇の勢いです。王は今年三百三十号を打ちました」
「パリーグは野村ですね」
「今年で八年連続ホームラン王確実でしょう。五年前には三冠王を獲りましたし。ただもう三十三歳です」
 たぶん活躍しているのだろうが、そんな高齢では、世代交代の波に侵食されつつあるにちがいない。そう言えば、私が憶えている選手はいまほとんど三十代だ。
「金田や尾崎や山内、張本、中西、豊田、稲尾、杉浦といった人たちはどうなったんでしょう。尾崎はまだ二十代ですよね」
「二十四歳です。怪童尾崎は、おととしの二十四勝を最後に、すっかり衰えました。三十代の長嶋、王、野村は健在です。張本も連続首位打者を獲るなどして相変わらず東映で活躍しています」
「いま彼らに次ぐ選手はだれですか」
「江藤、高木、中などのドラゴンズの選手でしょう。往年のスラッガー中日の森徹、大洋の桑田、阪神の藤本たちは姿を消しました。近ごろ名が売れだしたのは、セリーグでは巨人の堀内、高田、高橋一三、阪神の江夏、カークランド、大洋の平松、広島の衣笠」
「ほとんど活字の記憶しかないです」
「そうでしょうね。神無月さんの球界に関する知識は、三年前、いや、話を継ぎ合わせてみると、スカウトを追い返された小六の七年前、あるいは肘を手術した中一の六年前で途切れてますから。……それ以来リアルタイムの知識吸収を拒否したんですね。神無月さんの記憶は、一九六○年を挟んだ二、三年でストップしてる」
 山口が、
「悲しいな。ドラゴンズの生き残りと野球を再開するわけだ。記憶にある対戦相手はすべてロートル……」
「いや、年齢不問の学校の新学期みたいなものだ。心新たにって感じで、それもまたいいことじゃないか。で、パリーグの有力選手は?」
「阪急の長池、近鉄の土井あたりですかね。強豪だった西鉄も、南海も、いまや伝説のチームです。中西は監督になってほぼ出場なし、稲尾も影が薄くなり、豊田は昭和三十八年に国鉄に移籍しました。大毎ミサイル打線は、山内のセリーグ移籍でバラバラになりました。彼は三十九年に阪神に移籍し、今年広島に移籍しました。毎年二十本前後のホームランを打って、重宝されてるようです。金田は巨人に移って四年、そこそこやってます」
「尾崎行雄の消息が心細いのは残念だけれど、中日ドラゴンズが健在ならばそれでよしとしましょう。とにかく、中日球場でホームランを打ちたいだけだから」
 田代が、
「神無月さんは、まちがいなく球界を震撼させますよ。王、長嶋が中堅レベルに感じるほどね」
 七時十七分名古屋駅着。ホームに降り立つ。暑い夜気。半年ぶりの名古屋の空気だ。太閤通口の改札を出る。菅野とおトキさんが出迎えた。菅野が、
「神無月さん、山口さん、ようこそ。お嬢さん、お帰りなさい。首を長くして待っていましたよ。そちらは噂の横山さん、こちらのお三人は東奥日報さんですね。それから女性陣と……お初にお目にかかる人が二人おりますね」
「吉永です」
「山本です」
「どうぞよろしく。しかしすごい人数だな。車で迎えにこなくてよかった。五分ほど歩きますよ。私、北村席で運転手をしている菅野と申します」
「北村席で賄いをしている狭山時子です。どうぞよろしく」
 スッと山口に寄り添う。短いコンコースを通って駅裏へ歩み出す。すっかり寂れて灯りのない太閤口に、新開発で建ちはじめたビルのシルエットがポツポツ見える。古くさい質屋が混じっていたりするのが開発途上を感じさせる。ガード下を眺めると、四角いタイルをはめこんだように商店がポツポツ灯りを点している。食い物屋が多い。家路を急がない人の姿が目立つのはそのせいだろう。菅野が、
「駅西の食い物屋はほとんど韓国系です」
 おトキさんが、
「節子さん、お母さんはほんとによくなりましたよ」
「すみません、いつもお世話をおかけして」
「いいえ、お世話なんて。生徒さんの数が百人を超えたそうです」
 それからおトキさんは、山口ににっこり笑いかけた。山口は笑い返して、ぴったり彼女に肩を並べた。南へ歩きだした菅野の背中に私たちはついていった。人がほとんどいない。カズちゃんが、
「駅からちょっと離れると人がうんと少なくなるというのが、名古屋という大都市の特徴なの」
 蜘蛛の巣通り。よしのりは暗い空の下に平伏するバラックをキョロキョロ見やりながら歩き、吉永先生はそのよしのりの背中に隠れるように歩いた。弾むような足どりだった。
「素ちゃん、実家に寄ってく?」
 もうすぐ整理されるバラック小屋の前を通りかかったとき、カズちゃんが尋いた。
「ええわ、たかられるだけやから。妹は仕事に出とるし」
「こっちにいるあいだに顔を出してあげなさい。あなたの未来を認めてくれた人たちなのよ」
「うん」
 一戸建ての並ぶ住宅街、再開発事業事務所、牧野小学校と抜け、牧野公園に出る。園沿いの葉桜の道を隔てて、旧を凌ぐ大邸宅が建っている。白壁塀に切られた庇つきの数寄屋門に、初々しい三枚の格子戸が立っていた。門燈がしっとりと赤い。新しい北村席の大きな門だ。その横の、横道にまで達する広々とした空間が、十台と言わず車が停まれる車寄せになっていた。横道を隔てて、瓦を葺いたトタン造りの民家や長屋が二十メートルもつづいている。むかしからある〈その種〉の建物でないだけに、残酷なほどの貧富の対照だった。門の前の牧野公園をあらためて見渡す。そこにも園灯が数本立って輝いている。あたかも北村席つきの憩いの場に見えた。フラッシュが始まる。
 三枚戸の前に北村夫婦と、直人を抱いたトモヨさんと、見覚えのある賄いの女たちが朗らかに笑って立っている。笑いながら近づいてくる。デンスケとカメラを不審げに流し見ながら、父親は私と山口の手をとってしっかり握った。
「大きくなったなあ、神無月さん。山口さんより大きい」
「お父さん、いつもご援助ありがとうございます。おかげさまで、学生生活をつつがなく送ることができます」
 山口も、
「俺も心から感謝してます」
「山口さんは神無月さんを、神無月さんは直人という宝物をくれたからね。私らは何をやったって恩返しはできんよ。そちらは?」
 浜中は、東奥日報新聞の社員です、と三人をまとめて紹介した。
「神無月さんのグランド外の生活の取材にきました。本人の了解は取ってあります。よろしいでしょうか」
「もちろん。しかし、ここいらへんは評判の悪い場所ですよ。この家の裏手へ三百メートルも歩けば、名にし負うかつての遊郭街になります。神無月さんの立場を悪くするような記事は書かんでしょうね」
「ご安心ください。それはけっして」
 格子戸の左右を松やモミの常緑低木が覆い、戸を引いて一歩入ると、大きな空間に芝の庭が拡がり、芝を囲む塀の内が小森のようにしつらえられている。賄いたちがボストンバッグとギターケースを受け取り、両手に提げて、庭石伝いに歩いていく。私たちも庭石を歩き出す。わずかな上りの勾配だ。途中に大きな池が切ってある。薄暗くてよく見渡せないが、ところどころの園灯を頼りに樹木を眺める。クチナシ、ユキヤナギ、沈丁花、シャリンバイ、アジサイ、トキワマンサク……。



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