百五十七

 居間で二人がういろうをつまみながら、テレビを点けたまま話に興じていた。テーブルに問題集が開けてあるところを見ると、まじめな勉強話のようだ。
「あらあ、二人ともつやつやになって、かわいらしい!」
「千佳ちゃん、クリーム塗りや。はい」
 手渡して台所へいった。缶詰のパインと白桃を皿に入れて持ってくる。おやじ太鼓が始まる。建設会社社長の進藤英太郎が険しい顔で癇癪を爆発させるだけのドラマだが、女三人はケラケラ笑っている。
「進藤英太郎って、溝口映画の名脇役だよ。祇園囃子の中風のお父さん役なんか、哀れでよかったな」
 聞いていない。かえってホッとする。パインを齧る。
「おいしい?」
 カズちゃんが尋く。
「うん。とても」
 またテレビを見返る。
「忠臣蔵の吉良上野介、憎たらしかったわよね」
 ちゃんと聞いていたのだ。
「あたし、祇園囃子ゆうの観とらん」
「リバイバルで、いつかテレビでやると思うよ。十五年も前の映画だ。若尾文子が出てる」
 千佳子は白桃にかぶりついている。手が美しい。ミヨちゃんを思い出した。
 テレビが終わると、素子は勉強にかかった。しばらくカズちゃんは千佳子としゃべり合っていたが、焼そば、餃子、と呟いて、台所へいった。素子が千佳子の手を握り、
「協力して、がんばろまい。ぜったい受かってや。うちは十月に調理師の試験だが。受かるで」
「はい。私も精いっぱいやります」
 スパイスの効いた焼そばをすすり、餃子を醤油とラー油につけて食べる。
「お二人とも何を作っても上手なんですね。私にも料理を教えてください」
「勉強の合間を見てね。夕方の食材の買物はまかせるわ。考えることも料理が上達するもとよ」
「はい」
「さ、私と素ちゃんはお風呂入ってから一勉強して寝る。千佳子さんは長旅で疲れてるでしょうからすぐ横になりなさい。キョウちゃん、いっしょに寝てあげて。千佳子さん、あまり欲張るとあしたに響くから、ほどほどにね」
「はい、気をつけます」
 千佳子は約束に反して、二回も求め、疲労困憊して昏睡するように眠った。
         †
 八月三十一日の土曜日の朝早く、加藤雅江から荻窪に電話が入った。歯を磨き終わったばかりで、本郷へ自主トレに出ようかと思案していたところだった。石手荘の近辺を走り回るだけでは、マシーンバッティングやウェイトリフティングも含めて、思いどおりの鍛錬ができないとわかったからだ。補欠連中のだれにも話しかけず、話しかけられず、黙々と練習に励むのがいやで練習から遠ざかっていたが、そろそろレギュラーたちが熱心にトレーニングを再開するころだと踏んだ。補欠組に対しては、寡黙を通して人払いの雰囲気をただよわせておけば、まず寄ってこないだろう。
「年末、一家で待っとる。……かならずきてね」
「え、はい」
「約束、憶えてくれとる?」
「もちろん」
「野球、がんばってね。私も毎日ようけ歩くようにしとる。大好きな神無月くんの女になるからだやから、少しでもまともにせんと」
「雅江はむかしからまともだよ」
「からだのことやが。―愛しとる、心から」
「ぼくも」
「うれしい」
 電話が男の声に変わった。
「もしもし、雅江の父です」
 かしこまった声だ。
「あ、お父さん……」
 部屋に戻っていなさい、という彼の声が聞こえた。腰が引け、憂鬱が兆した。
「どうか、雅江をよろしくお願いします。あなたの誠実な人柄は、中学生のとき以来、折々お顔を拝見して、いや、娘に内緒であの交換日記を読んで以来ですが、私なりにわかっております。今回の雅江の決意も、私はあの子の気持ちをよくわかっておりますので納得できます」
 決意? そうか、待ちきれなかったのだ。
「七年間、いや、小学校四年生以来十年間、考えに考えた上でのことでしょう。どうか雅江の愛情に免じて、わがままを聞いてやってください。あなたに拒まれたら、娘は……死にますよ」
 嗚咽をこらえる声が聞こえてきた。私から言い出したことだ。拒めない。しかし、年末―。
「雅江さんはぼくの心を動かします。ぼくが雅江さんを拒むことはけっしてありません。年末にうまく調整がついたら、かならずお伺いします。調整がつかなかったら、春までにはきっと」
「ありがとうございます。雅江は、あなたの愛人で終わってもいいと言っています。わが子ながら見どころのあるやつです」
「ぼくは永遠に結婚しないので、愛人という表現は仕方ないんでしょうね。雅江さんの身分を社会的に整えてあげることはできませんが、一人の男として幸福にしてあげることはできると思います」
「おっしゃること、重々わかります。妻はまだ納得しておりませんが、私に異存はありません。どうかいつまでもかわいがってやってください。じゃ、失礼いたします」
 ひっそりと電話が切れた。父親も娘と同様、奇人だった。
 本郷にいこうと決める。霧雨。二十二・四度。ジャージを着て、青梅街道のまだ薄い排気ガスを吸いながら、天沼の陸橋まで走り、線路沿いの裏道を石手荘まで走り戻る。子供たちが遊んでいる空地でバットを振る。無理せず百本。空地を斜行して八十メートルほどのダッシュを休み休み五本。体調はいい。野辺地中学校の校庭で百メートル全力疾走して吐き、青高のプールで五十メートル泳いで吐いた弱い体質が、この三年ですっかり改善されている。小中学校時代、青い斜めのスタンプを捺された《頻脈》はどこへ消えたのか。腕立て伏せ百回。腹筋、背筋、五十回ずつ。子供たちが遠巻きにめずらしそうに眺めている。近所の喫茶店でモーニングセット。
 十時に詩織から電話。
「七月につづいて、八月の京大戦も勝ちました。京都の中辻という老舗で白革鼻緒の下駄を買いましたから、九月に渡しますね。このあいだは睦子さんが糸千の下駄を買ってきたでしょう? それに対抗したつもり」
「ありがとう。下駄は何足あってもいい。東大チーム、快進撃らしいね。ホームランはどうなの?」
「横平さんが四本。あと、克己さんが二本、水壁さんと臼山さんが一本。そのほかのメンバーも、長打をバンバン飛ばしてます」
「優勝に近づいたね」
「ほんと。今年はだめでも、来年こそはと思います」
「来年はないと思う。ぼくはこの秋が最後のチャンスだと思う。快進撃の話を聞いて、ますますそう思うようになった」
 詩織は息を呑み、
「……メンバーに伝えます」
「かならずね」
「いまは東北大戦で仙台にきてます。きょうの夕方帰ります」
「そうか、まだ遠征試合をやってたのか」
「はい。たぶん勝てます」
「たぶんじゃだめだ。コールドの勢いで」
「はい! 牛タンておいしいんですよ。お土産に買っていきますか?」
「いらない。肉はようやく食えるようになったけど、舌(タン)と聞いただけで、横倒しになって死んでる牛の口からだらりと垂れた舌を思い出して、ゲッとくる」
「ハハハ、へんに繊細。神無月くんらしい」
「バトンやブラバン、どうなった」
「バトンは六人増えて、二十人になりました。京都にも仙台にも、みんな自費で駆けつけてくれたんです。地道な勧誘活動がようやく実を結びました。黒屋さんの指導で、パフォーマンスもすばらしいものに仕上がってます。白川さんがお目付けのブラバンも、力が入ってます。五十人くらいの部員が毎日猛練習です」
「それに応援団も加えて、どうやって移動してるんだい」
「バス五台です。ぜんぶ部費。東大野球部は金持ちです」
「鈴木睦子はどうしてる?」
「仲良しになりました。いつもいっしょにお風呂に入ります。バトン指導でくたくたになった黒屋さんが眠ってしまったあと、睦子さんといつも神無月くんのことを話してます。青森高校時代の神無月くんのこと、いろいろ聞きました。味噌っ歯を神無月くんがじっと見たって話、笑ってしまいました」
「帰京したら、林の唄ってる店にいこう。曜日はちがうけど、青森高校以来の親友の山口という東大生がギターを弾いてる。ぼくが唄いにいくと、かならず三人集まる」
「いきたい! リーグ戦まで二週間あります。その中の一日でどうでしょう? ……でも、睦子さんに悪いような」
「睦子とはいずれデートする。彼女はそんなことちっともこだわってないから。どれほど啓(ひら)けた女か、いずれわかるよ」
 絵図面のように女たちの顔を浮かべながら本郷へ出た。
         †
 九月一日日曜日。曇。本郷はお休み。ランニングを兼ねて高円寺に向かった。天沼陸橋手前の交差点を左折して細道に入り、ひたすら直進する。出発から十七、八分で天徳泉通過。しばらく走って右折し、ポエムに出る。ここまで二十五分。知った道なので安心して走る。ガード沿いに一気に高円寺駅まで十五分。四キロの道のりを四十分かけて走った。トリアノン前からカズちゃんの家まで歩く。
 庭の物干しに洗濯物がたなびいている。下着が多い。カズちゃんと素子は居間のテーブルで向き合って勉強していた。
「わあ、キョウちゃん!」
 素子が飛び上がった。カズちゃんも身をよじるような仕草で喜び、
「来週から二週間ぶっとうしで雨か曇りだというから、朝から洗濯機回したのよ。三人分だから、洗濯竿は満員電車。生垣からチラチラ見られたらいやだけど、これだけの量だと部屋干しはにおうから、仕方ないわね」
「下着だけなら、部屋に干すんやけど」
 離れから千佳子が出てきた。
「あ、勉強してたんだね」
「はい。しっかりやってます。このあいだテレビの深夜放送で『汚れなき抱擁』という映画を観てて、和子さんそっくりの女優が出てました。すぐにクラウディア・カルディナーレだってわかりました」
「ビックリしたよね、お姉さんそっくりなんで」
「カズちゃんのほうが、もう少し輪郭が柔らかいけどね」
「そう、和子さんのほうがずっと美人」
 カズちゃんのコーヒーがはいる。加藤雅江から電話があって、彼女の希望を叶える約束をしたことを話す。
「よかったわね! 雅江さん、これで元気に生きていけるわ」
「逢うのは名古屋やろ?」
「うん、名古屋でぼくを待つって言ってた」
「正月は動きたくないわね。こっちでゆっくりしたい。年末は無理ね」
 千佳子はこの数日で私の事情をすべて把握したらしく、うなずきながら聴いている。カズちゃんは鉛筆の軸を厚い下唇の下に挟んで弄びながら上の空でいたが、ふと、
「……その先は成りゆきにまかせればいいわ。恋しくてたまらなくなったら、向こうから出てくるでしょうし。どうしても家を離れられないなら、名古屋で待つでしょう。向こうの親は子供がほしいって言い出すと思う。何の下心も悪気もなくね。でも妊娠はぜったいだめ。加藤家に取りこまれちゃうわ」
 素子が、
「野球にサワリが出たらたいへんや。きょう野球の練習は? 出んかったんやろ」
「きのうは出た」
「電話が気にかかって、きょうはやる気が湧かんかったんやろ? もうサワリが出とるがね。電話一本で勝手にキョウちゃんを縛って」
 カズちゃんが、
「そう邪険にしちゃだめよ。心を決めて電話してきたんだから。名古屋では自重してくれると思うわ」
「あしたの月曜日から練習に出る。十三日までぜんぶ。十二日間」
 カズちゃんが、
「十四日の土曜日から合計二週間の中休みを挟んでの土日よね。七週間。法子さんはほとんどこれないし、私たちも土日に出勤することがあるから、おとうさんたちが出てくる十月の五日は、私と千佳ちゃんだけが応援にいくことにしたわ。ちょうど素ちゃんは試験だからいけない。六日は素ちゃんもいけるわ」
「無理しなくていいんだよ。どうせ翌日の新聞に載るんだから」
「キョウちゃんのホームランが見たいのよ。節子さんやキクエさんも、五週間のうちどこかの土日に応援にいくって言ってたわ」


         百五十八

 四人で昼下がりの高円寺を散歩する。見たことのない場所を発見しようということで、それはお寺だと決め、まずフジのそばの真言宗長仙寺に向かう。山口と肩を並べるほど物知りのカズちゃんが、
「真言宗ということは、不動明王が本尊ね」
「空海!」
 私が叫ぶと、
「だれでも知ってることを言わないの」
「えへへ」
「教条の眼目は即身成仏」
「よく聞くけど、どういう意味なのかな」
「日々、仏さまをまねた行いをし、仏さまの心ですごせば、その肉体のまま仏さまになれるということ。仏さまがたくさんいれば、争いのない平和な世の中になるってこと」
「慈悲の心で毎日暮らしましょう?」
「そう。不動明王は右手に刀、左手に縄を持ち、背中に火を背負ってるけど、私たちが成仏するときに、その火が悪を断ち切るんですって」
「刀と縄は?」
「死を受け入れられない人間を、刀や縄で懲らしめて成仏させるらしいわ」
 千佳子が目を丸くしてカズちゃんを見ている。極彩色の門前の三段の石段を上り、草や木や岩がみごとに配置された緑の小庭を通り抜け、さらに数段の石段を上って寝殿造りの本堂へいく。紫の作務衣を着た若い住職が私たちのたなごころに香を一つまみずつくれた。
「手ですり合わせ、からだにお塗りください。塗香(ずこう)と呼びます。赤子は仏として生まれてきますが、生活の中で汚れていきます。それを清めます」
「キョウちゃんには要らないわね。永遠の赤ちゃんだもの」
「ほうや!」
 素子がにっこり笑う。ぼんぼりを何本か点した仏間の真ん中が不動明王、両脇に空海像と興教大師像。
「不動明王像は木造五十五センチ、室町時代の作です。昭和二十年四月の空襲時、当時のご住職がこの像だけを持って逃げたので、今日に無事な姿をお見せできるわけです」
 若い住職の叩く馬鹿でかい木魚がいい音を響かせた。境内に出る。如意輪観音の石仏が置いてある。頬を押さえている。
「虫歯の神さまらしいわよ。ここは紅葉が有名だから、秋が深まったらまたきましょう」
 素子が、
「花博士のキョウちゃんに、このへんのものを教えてほしいわ」
「桜、モミジ、モチノキ、樫、ベニカナメ、ツツジ。庭の五重の小塔がいいね」
「ほんと、きれいやわ」
「こんな落ち着いた散歩も、めったにできなくなるわね。きのうの高円寺は阿波踊りだったけど、キョウちゃんはこなくてよかったわよ」
「フジの前でみんなで見たんよ」
「マスターが地獄の人混みだって言ってました。ねぶたより狭い道を進むので、ほんとにすごい混雑」
 南口から氷川神社へ回る。黒い鳥居のある参道を通って狭い境内に入る。二匹の狛犬に導かれて黒い社殿に参る。女三人が黒い手水舎で手を洗い、黒い拝殿に賽銭を投げ、掌を合わせる。黒づくめの神社だ。拝殿の横手に、全国に一つしかないという気象神社と呼ばれる小社(やしろ)があった。氷川神社の由緒を書いた埋めこみの碑や、気象神社の名の由来を書いたタテカンがあったが、だれも読まない。気象神社の鳥居前に、絵馬掛けがある。絵馬はすべて下駄だった。敷地の隅に赤鳥居の稲荷神社まであって呆れた。
 最後に、曹洞宗の宿鳳山高円寺へいった。門柱も鳥居も石造で、上下を向いた龍の浮き彫りが施されている。
「鳥居って、神域と俗界の境界なのよね。どうして鳥居って言うか当ててみて」
「鳥が止まるから」
 私が答え、素子と千佳子は考えつかないという表情をする。
「それも一説。通り入る、からきてるというのが主説よ。こっちの竜を昇龍、あっちの竜を降龍って言うんだけど、名古屋にもこれのある神社があったから、意味を調べたことがあったの。昇龍は悟りを求めて厳しい修業に励むこと、降龍は慈悲をもって庶民に救済の手を差し伸べることを象徴してるんですって」
「仏道修行の二大柱か」
「お姉さんて、学者にもなれるわ。本の虫やもの」
「クイズマニア程度よ」
 看板を見ると、徳川家光が鷹狩りの途次でこの寺に立ち寄り、粗茶であえて庶民待遇を受けたことを気に入り、その後長く愛顧したと書いてある。家光手植えの茶の木があるようだ。庶民待遇というのは嘘だろう。住職は禅宗の作法でもてなしただけのことにちがいない。ここにも稲荷社があったが、こんもりとした緑に囲まれた立派な堂だった。そろそろ飽きてきたので細かく見ない。
 フジの裏手のトリアノンに寄った。ミートソースをおやつで食べる。
「名古屋ではたいへんだったね、ごくろうさま」
 カズちゃんと素子に頭を下げる。
「おたがいさまよ。キョウちゃんがいちばんたいへんだったでしょう」
「ほうよ、ほうよ」
「ぼくは能天気に、唄って、食べて、オマンコしただけだから」
「その最後がたいへんなのよ。この半月で何十回したと思ってるの。信じられない精力だわ。その上に、野球でしょ」
「先週の金曜日、吉永先生の家からの帰り、四十八歳の人としちゃった」
 さりげなく告白した。
「ま!」
 カズちゃんがいたずらっ子を叱るような眼つきをした。素子が、
「もったいない!」
 と叫び、千佳子が、
「私のおかあさんより、十歳も年上。なんだか口惜しいです」
 カズちゃんが、
「年上の人に妬いちゃだめよ。性の手管はキョウちゃんに敵わないんだから、みんな私たちを相手にしてるみたいなものよ。仲間意識を持たないと」
「はい」
「で、どういうことなの?」
「ひさしぶりに自主練習をすましてから、上板に回って先生をかわいがり、午後出勤の彼女を花岡病院まで送ったあと、喫茶店に入った。資格マニアのマスターでね、壁にズラッと資格証書が並んでるんだ。彼の自慢話に飽きて、会計して外に出たら、一足先に出た女が待ってた。大柄のきれいな女で、カズちゃんより少し大きかった。あなたに一目惚れしました、下心はないって言うから、どうすればいいかわからずに立ってたら、家に誘われた」
 素子が少し残念そうに、
「キョウちゃんは絶世の美男子やから、あれ目当てやよ」
 千佳子も残念そうにうなずく。カズちゃんは首をひねり、
「お金持ちね。ご主人と別居してるんじゃない?」
「広島に単身赴任だって。子供は二人とも明治大学の学生で、都内に下宿してる」
 素子が、
「やっぱり!」
「ちょっと待って素ちゃん、それ、セックス目的というより、ほんとうの一目惚れだったのよ。もちろん家にご主人と子供たちがいたら誘わなかったと思うけど、どうせだれもいないし、話をして、ごはんでも食べさせて帰せば、それだけでじゅうぶん満足だっんでしょうけど、やっぱりキョウちゃんを目の前にして疼かない女なんていないから、ムラムラっときちゃったのね」
「訊いたんだ、それが目的かって。そしたら笑って、齢も四十八だし、四年以上もセックスをしてないから、できるかどうか不安だって言うんだ」
 カズちゃんはにっこりうなずき、
「でしょうね」
 素子が、
「四年もセックスしとらん人が、ムラムラするやろか」
「私もそうだったわ。キョウちゃんを見てると、齢とか、長年セックスをしてなかったことなんか忘れるのよ。すごい包容力だから。それで、流れのままに抱いて上げることになったんでしょ」
「うん」
「……そして、ものすごく感激されたんでしょう?」
「そう」
「もともと欲望の強い人は、四年も男断ちはできないもの。私もそうだった。欲望が薄かったのよ」
 千佳子が真っ赤になってうなだれた。
「あなたは処女みたいなものだったんだから、たとえ欲望が強くたって、初めて感激したようなものよ。法子さんもそう。私やトモヨさんや文江さんや素ちゃんや、青森の健児荘の管理人さんや、その四十八歳の女の人は、千佳子さんとはぜんぜん条件がちがうの。からだが感じることを知らないで何年も何十年もすごしたと思ってごらんなさい。並ひととおりでない感謝の気持ちになるわ。で、お金出されたでしょ」
「うん。断った」
 素子が心配顔で、
「亭主持ち、子持ちやと、ゴタゴタせんかな」
「だいじょうぶよ、女はずるいから。でも、頻繁にかようと本気になっちゃうわよ。気をつけてね。ゴタゴタするかもしれない。ふた月、み月にいっぺんなら、向こうの都合が悪くなったら自然と遠くなるわ」
「彼女は喫茶店でぼくの顔を見たとたんに、東大の神無月郷だと見抜いたようだ。ゴタゴタするとしたら、それだね」
「安心して。そのことはどんな女も自分から口に出さないわ。周りに騒がれてキョウちゃんを手離すことになりかねないもの。その人のほかに増えてない?」
 私は頭を掻き、
「陸子でない東大チームのマネージャーに迫られて」
「ああ、ムッちゃんに聞いたことがあるわ。東大で、ムッちゃんのたった一人の友人だって。美人ですってね。迫られてもしょうがないわよ。いつか連れていらっしゃい」
 素子が、
「キョウちゃんの女はみんな特A級の美人やが。うちもな、ヘヘ。キクちゃんだけが毛色がちがうけど、不美人ではないで。デルタ地帯、芸術品みたいにきれいやわ」
「素ちゃん独特の褒め方ね」
 素子が私の両頬を指でつまみ、
「キョウちゃん、活躍しすぎやよ」
 カズちゃんがプッと噴き出し、
「女の数が多いだけで、回数はそれほどじゃないわよ。短期間で度を過ごしてるようだったら、私たちがそのあいだ、いまよりもっと控えるようにしましょう。節子さんに聞いたんだけど、射精の回数や量は、生きてるかぎり無限ですって。ただ、短い期間で射精しずぎるのは健康に悪いそうよ。一日三回から四回の射精は、健康に響くことはないって。もちろん勃起して射精できればの話よ。女体に飽きないかぎり、勃起と射精はできるし、勃起して射精したほうが、次の勃起と射精にも好影響を与えるから、とにかく女は男を飽きさせないことが重要なんですって。それに、キョウちゃんは根が清潔なタチなので、いっさい勃たなくなる時期がとつぜんやってくるだろうから、勃つうちにウンとしてもらっておいたほうがいいって言ってたわ」
「それじゃお姉さん、私たちはキョウちゃんがいつも興奮するようにしてあげんとあかんし、新しい相手も探してあげんとあかんのじゃない?」
「新しい相手は自然と増えるわよ。探す必要なんかないわ。とにかく流れのままに。たまには興奮してもらうように工夫することも大事かもしれないけど、最終的には愛情の深さが興奮を持続するの。さ、晩ごはんの買物をするわよ。今夜は何にしようか」
 素子が、
「精のつくものやね。トロロ、うなぎ、牡蠣、レバー、ゴマ、ニンニク、アスパラ」
「ゴマなんてよく知ってたわね」
「これでも調理師受験生やよ」
「それじゃカキフライ、トロロ、アスパラとイカの炒め物にしましょ。餃子も焼こうかな」
「そうしよ。餃子は毎日食べてもええくらいや」
「じゃ、キョウちゃん、先に家に戻って本を読むなり、テレビ観るなり、横になるなりしてなさい。私たちはゆっくり買い物をしていくから。それから、きょうは私、百パーセント危ない日だから、素ちゃんとしてあげてね」
「うん」
「うち、長くできるようにがんばる」


         百五十九

 うまい夕飯のあと、女三人が後片づけをしているあいだ、一人で風呂に入った。三人以上で入るとひどく気疲れするし、ひょっとして妙なことになって余計な精力を使ってしまいかねないからだ。そのことをカズちゃんは了解している。私が疲れていれば彼女はけっして持ちかけないし、イヤだといえばけっして無理強いしない。
 パンツ一枚で風呂から上がると、カルピスが出た。喉と胃袋に沁みた。キッチンの床で腕立てと腹筋をやる。腹筋のとき、カズちゃんに足首を持ってもらった。
「そうだ、山口さんから、きのうの昼、フジに電話があったわよ」
「昼? 本郷で練習中だった」
「林さんが家庭教師のアルバイトを辞めたがってるから、助けてやってほしいって。林さん、歌のバイトが手いっぱいになってしまったんですって」
「そうだろうな。山口はグリーンハウスのほかにラビエンもあるから、林が隙間を埋めるしかない。そうこうしているうちにもてもてのスケジュールになっちゃったんだろう」
「週一回、夜二時間。何曜日でもいいって」
「相手は?」
「小学四年生の男の子。門前仲町らしいわ」
「門前仲町は遠いなあ。リーグ戦のあいだは、土日月はだめ、水木金と練習に出るから、可能なのは火曜日だけだな。……林の頼みじゃ断れない。次が見つかるまで、一カ月でも中継ぎをしてやるか」
「うちら、グリーンハウスって一度もいっとらんよね」
 千佳子が得意そうに、
「私はムッちゃんと先月連れてってもらいました。すてきな店でした。それ以上に神無月くんの歌が―」
 カズちゃんがにっこり笑って、
「でしょうね。九月に入ったら、リーグ戦が始まる前に、そのマネージャーさんも連れてみんなでいっしょにいきましょう」
「彼女、上野詩織と言うんだけど、ぼくや林と同じクラスなんだ」
「詩織ちゃんね。いい名前。グリーンハウスにいくとしたら、やっぱり土曜日の夜しかないわね。九月七日」
「飛び入りで唄うことになる。そういう約束だから」
「そのほうがうれしいわ」
「うちも。涙流すのって気持ちええもん」
 カズちゃんが心配そうに、
「その東大のマネージャーに私たちのことを話した?」
「睦子から百パーセント伝わってると思う。本人からぼくに訊いてきたことはない」
「覚悟があるのね。しっかりした子だわ」
「訊かれたら、女たらしだとでも言えば、それで伝わるだろう」
「たらすって意味知ってるの? うまいこと言って騙すということよ」
「そのほうが第三者に理解しやすい表現だ」
「やれやれ、鑑識眼のない第三者をおだててどうするの」
「そうよ、うちらが一方的に惚れこんだんよ。女たらしって、プレイボーイとか、政治家のヒヒおやじみたいなやつらのことやろ。政治家って言えば―」
 素子がポートで出た話題だと言って、
「石原慎太郎って、石原裕次郎のお兄さんよね、芥川賞とか獲った。当選して政治家になったんやって。……お姉さん、タレント議員て、どう思う?」
「女性参政権のなれの果てよ。女は有名人が好きだから。議席確保のための弾(たま)にするには参議院しかだめ。参議院は個人名を書いて投票するけど、衆議院は政党名を書くことになってるの。国の政治を牛耳ってるのは衆議院。議席のほしい政治家連中にしても、馬鹿は参議院に閉じこめておくのが得策だと思ってるわ」
 簡にして要だった。文学者に幻想を抱いている素子は、
「横山ノックや大松監督は知恵がないとは思うけど、石原慎太郎とか青島幸男も馬鹿なのかなあ」
「もっと馬鹿よ。彼らの上にいる政治家は底なしの馬鹿だけど」
「上の政治家って?」
「明治百年でアホ騒ぎしてるやつらのことよ」
 思考力のある人間の意見は聞き応えがある。
「お姉さん、キョウちゃんを追いかけていったとき、お祖父さんやお祖母さんに会った?」
「会わなかった。そういうことが目的じゃなかったから。キョウちゃんを慰めて、絶望させないこと。そのことだけで必死だったの」
「知り合った人は?」
「旅館や幼稚園の職場の人だけ。ぜったい親しくならなかったから、いまも交流がないわ」
「徹底してたんやね」
「神無月くんの前に男の人は何人ですか?」
 千佳子が訊いた。
「亭主を入れて二人」
 千佳子は少し考え、
「その人たちのこと、憶えてますか」
「憶えてるわよ、何もかも。チンケな男たち。性格も、容姿も、セックスも。ふと、キョウちゃんに申しわけないと思うことはあるわ。でも、キョウちゃんにとって、私の過去なんかどうでもいいことなのよ。私にとってキョウちゃんがすべてだって、キョウちゃんがわかってるから。私がキョウちゃんを浄めたんじゃなく、キョウちゃんが私を浄めてくれたの。私が男に惚れて、男を愛したのはキョウちゃんだけ。そういう私をキョウちゃんに捧げたの。千佳子さん、あなた、以前の男経験をキョウちゃんにすまなく思ってるんでしょう? そんなこと、キョウちゃんにはどうでもいいことなのよ。処女だろうと、ベテランだろうと関係ないことなの」
「あたしなんか、商売柄、男の数は数え切れんわ。でも、何人でも関係ないんよ。キョウちゃんに心の処女を捧げたんやから。……そうやけど、大好きなキョウちゃん以外の男をからだに受け入れてきたことはつらいんよ」
「わかるわよ、とってもよくわかる。心を触り合ってから、最後に触り合うのがからだだものね。その逆をしちゃったんだから、つらいのよね。私もだけど、素ちゃんも千佳子さんも、あのときに何度も、愛してるって叫ぶでしょう? からだじゃなく心がそう叫ぶのよ。心もなくからだを触らせて、愛してるって叫べる? 心がないから強く感じることさえできないしね。心の優位は揺らがないのよ。まず心を持ってることが何よりも大事なこと。愛せない相手とのからだの触れ合いは、触れ合ってないのと同じ。ただ、キョウちゃんは心を触ってからセックスをするから、だれとしても、だれにも後ろめたくないのね。この理屈はキョウちゃんにしか通じない。キョウちゃんは神さまだから、私たちとちがって心を持ってる人間とばかり触れ合っちゃうのね。……私だってむかしの男のことを後ろめたく思うわ。空しいセックスだったと思う。でも、神さまじゃないから仕方のないことよ。キョウちゃんが気にしてないことに甘えましょう」
「はい」
「……千佳ちゃんはほんとにええ子やね。お姉さん、お店はやっぱり、名古屋で出そうね」
「そのつもりよ。でも、キョウちゃんが阪神に入ったら大阪、巨人に入ったら東京、ライオンズに入ったら福岡にするわよ」
「うん!」
「私、名古屋大学にかよってるあいだ、喫茶店でバイトします。二人といっしょに仕事をします」
「もう受かった気でおるが、この子」
「大学生のあいだは、大学にかようだけにしなさい。それだけは守ってね」
「―はい」
         †
 素子と並んで横たわり、荒い呼吸をしている胸にやさしく手を置いた。
「よくがんばったね」
「秒ゲームが、一分ゲームになったやろ。キョウちゃんも早めに合わせて出してくれて、ありがと。死ぬほど気持ちよくて、死ぬほど苦しかったわ。次は一分半に挑戦するね。そしたらキョウちゃんももう少しゆっくりイケるやろ」
「ほんとうにありがとう。やさしいね、素子は」
「お礼を言うのは、うちやよ。いつも心の中でお礼を言っとるもん」
 まだ九時にならない宵の口なので、寝物語をする時間がたっぷりある。しかし素子はいつものように私の胸に額を埋めて寝入ってしまった。
         †
 九月二日月曜日。曇。朝の早い食卓で、カズちゃんが、
「あんなに夜早く寝てしまったの、初めてだったわ」
 千佳子が、
「私も四時ごろに目が覚めて、キョロキョロしてしまいました。さびしかった。お風呂沸かして入りました。そしたら、和子さんと素子さんが起きてきて、うれしかった」
「案外さびしがり屋なんだな、千佳子は。ぼくは六時まで目が覚めなかった。八時間も寝ちゃった」
「きょうの予定は?」
「林にバイト受け継ぎの電話をして、本郷の練習に出てから、一応、門前仲町に顔を出す」
「夜にいけばいいんでしょう?」
「もちろん。火曜日しかできないけどどうだろうと打診してくるよ。そのまま荻窪に帰って、読書する。火曜日からと決まったら、あした家庭教師の帰りに武蔵境にいってみる」
 カズちゃんが首を振りながら、
「キョウちゃんは休むことがないのね。誇張じゃなく、地球上で最も偉大な男よ。キョウちゃんは自分に何かを課すことで運命をコントロールしてきたのね。いまだけじゃなく未来を生きてる感じ。そうやってプレッシャーを与えて、自分が言ったことに責任を持つ。そういう意味では、人生を極めてるわ。……ちょっと待って、節子さんに電話してあげる」
 節子は在宅していて、カズちゃんは上機嫌に話した。電話を切り、
「今週は早番で、八時半から四時半までですって。ぴったりだったわね。とても喜んでたわよ。千佳子さんはリーグ戦まで勉強ね」
「はい、きょうも神無月くんといっしょに門前仲町にいきたいですけど、もういいかげん腰を据えないと」
「そうね。じゃ、夜のお買物お願いね。いつものようにメモを置いとくから」
「はい」
 朝食のあと、カズちゃんと素子が出勤してから、林に電話した。
「神無月だ」
「お、ひさしぶりだな有名人。おまえの声が聴きたいけど、雲の上から下界に降りてくるチャンスがないだろう」
「まさか、いつも下界でウロチョロしてるよ。すごい活躍らしいね。山口からいつも聞いてる」
「むかしのバンド仲間を二人誘ってステージに上げた。ドラムとベースだ。山口とセッションしてたら、ポリドールレコードから声がかかったよ。俺も山口も断った。人生の目標が芸ごとじゃないからな」
「企業人として生涯を全うすることだろ。山口はグループサウンズをやりたいわけじゃない。クラシックギターだ」
「ああ、あの超絶技巧ならメシ食えるだろ。ところで、引き受けてくれるか」
「おまえの頼みなら仕方がない。週に一回、ひと月ぐらいならなんとか中継ぎできる」
「ありがたい! 門前仲町の四国屋という店でな、電器店を兼ねた菓子屋だ。小遣い稼ぎに軽い気持ちでやってたんだが、たった週一のことで練習時間の調整がうまくいかなくなった。小学四年、国語と算数、時給三千円、毎月前払い。週二時間教えて、ひと月二万四千円だ。悪くないだろ。公務員の月給と同じくらいだ。好きに休んだり、日をずらしたりしてもいいぞ。東大という肩書きが効いてるからな」
 電話番号を尋いてメモする。
「九月の第二土曜からリーグ戦だけど、その前、たぶん七日にグリーンハウスに飲みにいく。女たちを連れていくからね。山口にも言っといて」
「そうか! ひさしぶりに天使の声を聴けるな」
 電話を切ると、千佳子がコーヒーを出した。上手に落としている。
「うまい」
「和子さんに教えてもらいました。……こうしているのが夢のよう」
「ぜんぶ千佳子が自分の決意でやったことだ。勉強は楽しい?」
「はい、高校時代にサボっていたせいで、空っぽの頭にどんどん入ります」
「ちょっと勉強部屋見せて」
「はい」
 いっしょに離れの六畳へいく。千佳子は薄暗い部屋のカーテンを開けた。カズちゃんの机が奥の壁にきちんとつけてあり、入口の壁に中背の書棚が接している。落ち着いたたたずまいだ。窓辺にシングルベッドが置いてある。
「これだけは送ってもらいました。高校一年から使ってるものだから」
「うん……いいことだよ。受験勉強は孤独な作業だから、気持ちだけは納得いくものにしておかないとね。長つづきしない。……一年生のころ、何か絵本のようなものを読んでたね。ときどき窓の外を眺めたりして。いい感じだった。あの本は何だったの」
 千佳子はポッと赤くなり、
「私を見ていてくれたんですね。うれしい。谷内六郎という人の『旅の絵本』です。ほのぼのとした牧歌的な絵に、短い文章が添えられてるんです。日本全国の風景を断片的に切り取って、たわいのないひとことを添えてあります。たとえば、赤い靴の横浜散歩―飛行機のないころは、汽船にエキゾチックなロマンを託した時代だったのです―というふうに。おかしいでしょう?」
 なんとも言えず純粋なものに触れ、目の奥が熱くなった。
「千佳子をどうにかしてしまったね。どうやって償いをすればいいだろう」
 千佳子はひどく驚き、
「償いなんて! どうしたの、神無月くん。私、こんなに幸せなのに」
「ぼくのろくでもない人生に巻きこんでしまった。こうなったら、即刻解放するか、一生拘束するしかない」
「拘束してください」
「それでいいの? 無責任な拘束だよ」
「いいに決まってます。何もかも満足しています。神無月くんに遇わなければ、私には何もなかったんです。何も起こらないような生き方しかできなかったんです。絵本なんかより、神無月くんのほうがよほど人を幸福にしてくれる人です。人の幸福を願う責任感はだれよりも強い人です。泣かないで。神無月くんは一人の女をしっかり幸福にしたんです。ろくでもないというのは、女の人がたくさんいることですか? 大学生なのに野球ばかりしてることですか? ぜんぶ、人が神無月くんに求めてることです。それともお母さんを愛せないことですか? 神無月くんは心のままに生き延びたくて、危険なものからわが身を守ったんです。心のままに生きることにろくでもないも何もありません。私は初めて命を捧げられる人に遇いました。つまらない命ですけど」
 千佳子はボロボロ泣きながら、私を抱き締めた。
「こういう生活をろくでもないと言うなら、私はろくでなしのレッテルを貼られたい。よい子のレッテルを貼ってる人とはお付き合いしたくありません。生きてるかぎりだれだってろくでなしの申し子です。自分を心の底できちんと、ろくでなしだと思ってる人に巻きこまれて生きたい。それが私の望む自然な生き方です」



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