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《ラオ博士7つの顔(1964 日本未公開)》


 監督 ジョージ・パル  
出演 トニー・ランドール



 西部劇では、欲に長けてある町を買収しようとしたり、無法を働いたりする連中を懲らしめるのは、正義漢のシェリフか無法者のガンマンと決まっている。この映画でやってくるのは、中国人の超能力者である。ドクター・ラオと名乗る。

 彼はサーカスをこの街でやりたいので広告を出してくれと町の新聞社にやってくる。そして早速サーカス小屋を建てる。彼はサーカス団の団長なのか? 見世物の統括主任なのか?
 彼は人間改革者だった。シェリフやガンマンは、悪漢をなぎ倒す。そして悪漢に唯々諾々と従って彼らに存在意義を与えていた弱者を叱ることなく去っていく。

 ラオ博士は、サーカスのアトラクション一つひとつによって弱者の意識を改革していく。そして一人ひとりをシェリフかガンマンのような精神の持ち主にするのである。叱責するのではなく、非日常のきらめきを教え諭すのである。日常に埋没している人間は、非日常(=サーカス)によってしか改造されない。ラオは言う。
「世の中すべてがサーカスだ。草木が成長し、鳥が歌い、月光が砂漠を照らす。砂を握れば、その掌の中に自然の神秘と驚異がある。すべて、だれにとっても楽しいサーカスだ。生きているすばらしさを知る人間は、いつもサーカスの一員だ」

 埋没できるようなありきたりな日常などこの世にはない、と彼は言っているのだ。
 出し物ひとつひとつを演じているのが、ラオ博士であるというのが微笑ましい。ラオ博士本人を入れて7つの顔(パペットアニメのガラガラヘビも1つに含めておく)。『底抜け男性7』のジェリー・ルイスや、『博士の異常な愛情』のピーター・セラーズを思い出させる。