八十五

 足の幅しかない橋を渡っていた。足のはるか下にオパールの海が広がっていた。落下すれば、あの海はコンクリートの硬さである、という知識を反芻したとたん、足を滑らせ、まっさかさまに転落しはじめた。海の青さがしだいに薄くなり、からだを砕く灰色の水面が迫ってくる。私は静かにあきらめた。目覚めて、闇の中に目を開いた。生きている。私はそのことがうれしかった。生きてカズちゃんにまた会えることがうれしかった。  
 その夜から、私は母といっさい口を利かなくなった。たがいに視線を逸らし合う顔は仮面のように無表情だった。母にはもう息子に何か言う気力はないようだった。ただ、寺田康男だけは許すことができないようで、ある夜、襖越しに言った。
「あのヤサグレにさえ会わなかったら、おまえもそんなふうにならなかったのにな。ぜんぶあの小童(わっぱ)のせいだ。あいつは、おまえを殺したんだ。なんだ、あの女。一癖ありそうな顔して。あんな女にどんなふうに誘惑されたんだか」
 私は襖を開けて怒鳴った。
「下衆が! あんたの世界の中だけで人が生きてると思ったら、大まちがいだぞ!」
 母の額に、冷たい絶望の色が現れた。
「わが子が死ぬのを見るのよりも、もっと悲しいことがあるんだよ。それは、生きている自分の子が悪い生活に溺れて、転落していくのを見ることだよ。……かあちゃん、ほとほと疲れたよ」
「勝手に疲れとれ! 転落って何だ。近所の目に悪いというだけのことだろ。学校なんていつでもやめてやるし、あんたのそばからいつでも離れてやるよ」
 おそらく、息子が大瀬子橋の人混みの中へ歩み去ったとき、母は確信したのだ。父親が抱えていたのと同じヤケっぱちな気持ちを、まちがいなく息子も持つだろう、いずれ傷ついてヤケになるだろう、そのせいで傷は膿んで、もっとタチの悪い、手のつけられないものに変わるだろう。彼女の考えが不足していたのは、父にせよ、私にせよ、だれがヤケな気持ちにさせたのかという点だったし、サトコやカズちゃんのおかげで、私たちがちっともヤケになっていないという点だった。
         †
 母が流しの前に立ち、目の回りの皺をさすりながら、社員たちに交じってめしを食う私を長いこと見ている。動かないで、ただ見ている。私を見ることで、悲しい確信をどうこれからの行動に結びつけるかを必死に考えているようだ。カズちゃんが微笑みかける。
「いい男ねえ、ほんとに」
 私も微笑を返す。小山田さんたちもまぶしそうに目を細めている。
「それだけじゃない。深みがあるんだよ、キョウちゃんの顔には」
 めずらしく西田さんが発言する。
「こんな顔で生まれてきたら、俺の人生も変わってたろうな」
 小山田さんが歯を剥いて笑った。
 私の素朴な頭では、十五歳の自分が、性の開花によってどんなふうに怠惰になっていくか、毎日の不安定な心の原因がどこにあるのかまったくわからなかった。私はもう何も考えられなかった。ただ、ときどき、カズちゃんの神秘的な痙攣を思い出しながらオナニーをしたり、レコードをかけながら八月末の中統模試のヤマをかけたりしていた。私の胸はカズちゃんへの気持ちですっかり満たされていたけれども、ふだんの生活では、野球や勉強の習慣のレールの上を相変わらず律儀に走っていた。
 わけても野球は、私の生活の核心を占めていた。それは何と言っても、自分が野球の技量を発揮することに痛快さと誇りを感じていたからだし、周囲の人びとから前途を嘱望されていたからだし、自然に発揮できる能力がほかにないと見極めていたせいで、前途の希望のすべてを注いでいたからだった。
 私はまちがいなく、飯場の人たちや、野球部の連中から愛され、尊敬され、誇りに思われていた。一つのことに華やかな才能を持ち、栄達への大道が開けていると思われる人物が人一倍熱心にその道に邁進する姿に、彼らは明るく確実な未来を見ていた。
 私は自分の胸の内を学校仲間のだれにも語らなかった。帰り道で彼らが、快い疲労から気軽に自分の悩みや家庭の事情を話題にするときでも、けっして軽率な言葉が私の口から洩れることはなかった。しかし、彼らに対して以外は、つまり、私に深い愛情を寄せ、私の行動を肯定するカズちゃんに対しては、自分のすべてを開放して甘えた。彼女はときどき帰りがけに小屋を覗いて、
「どう、うまくいってる?」
 と尋いた。私は熱田祭りで節子と遇ったときの様子や、母と浅野が結託して運んできた厄介ごとの次第を話した。するとカズちゃんは、白く美しい顔を紅潮させて、
「何ごともなければいいけど、何かあったら、天地がひっくり返ってもなんとかしてあげる。なんともならなかったときは、かならず私がキョウちゃんを引き受ける。……私、心からキョウちゃんのこと愛してるの。女として、人間として。この言葉を信じて、いつまでも忘れないでね」
 と言った。私は、満ち足りた気分で、うん、と言った。カズちゃんの尻の動き方を思い出しながら節子を努力してイカせたことを語ると、
「努力しなくちゃいけないようなからだは、キョウちゃんを疲れさせるわ。そういう人にかぎって感謝の心がないものよ」
「もう彼女とは、ぜんぜんする気がなくなった。エロ本は捨てたけど、どうしてもカズちゃんのこと思い出して、オナニーしちゃうんだ」
「うれしい。でもそんなことしちゃだめ。ごめんなさい、もう何カ月もしてないわね。つらいでしょう。女の私でもつらいもの。……どうしましょう。なんとかチャンスを作らなくちゃ」
「うん、三十日の日曜日は模擬試験の日だから、帰りに寄れるよ」
「三十日は危険日じゃないわ。私、日曜日は夕方出勤だから、キョウちゃんを送り出したあと、少し遅れて出る。これからも、ときどきそうしましょう。オナニーなんかもったいない。キョウちゃんの大切なもの、ちり紙になんかあげないで、私にちょうだい」
 カズちゃんは私にやさしくキスをすると、下着の中の濡れた襞をしばらく触らせたあと、バッグを開けて、ショートケーキやらチョコレートやら菓子パンやらを取り出し、
「勉強のとき食べてね」
 と言って、畳の上に置いて帰った。
         †
 中統模試は朝の八時半に始まり、午後の二時に終わった。私は飛ぶようにして神戸町まで走っていった。鶴田荘の鉄階段を上り、二○三号室のドアを叩く。待ち構えていたようにドアが開いて、
「いらっしゃい!」
 カズちゃんの笑顔が覗いた。沓脱ぎでディープキスをする。スカートの下の股間を触る。何も穿いていなかった。
「安心した? ちゃんとキョウちゃんのものが準備万端で待ってたわよ。さあ、コーヒーを飲みましょ」
 長テーブルを置いた六畳の居間に接して、採光のいいきれいな台所がついていた。奥の襖は閉まっていたけれど、敷かれている蒲団が目に浮かんだ。カズちゃんは台所で湯を沸かし、少し猫背になってフィルターでコーヒーをいれた。刺激的ないい香りがする。クマさんが連れていってくれた喫茶店のにおいだ。デザインのちがう別々のカップにいれて運んできた。
「新しいカップよ。飲んでみて」
 香りを嗅ぎながら飲んだ。喫茶店よりも濃い味わいだった。
「おいしい!」
「よかった。キョウちゃんにはぜったいコーヒーが似合うと思って。……私ね、高校時代はやんちゃだったけど、これでもきちんと女子大を出てるのよ。名古屋の椙山女学園の家政学科。栄養士の資格を持ってるの」
「どうりで」
「どうりで、何?」
「いつも言うことに理屈が通ってると思った」
「まあ」
 カズちゃんは心からおかしそうに笑った。
「きょうから私、キョウちゃんのオンナよ」
「とっくにそうじゃないか」
「キョウちゃんが生きているあいだだけ生きているということ。キョウちゃんが死んだら、私も死ぬということ。キョウちゃんの倍も生きてきたんだもの、ぜんぜん惜しい命じゃないわ。キョウちゃんが長生きしたら、私も七十、八十までちゃんとオマンコもできるようがんばる」
 こういう屈折のない言い方が大好きだ。私も率直に答えた。
「ぼくも、チンボが勃つかぎり、カズちゃんとオマンコする」
「ほんと? すごくうれしい。でも私とだけして、男の世界を狭めちゃだめよ。キョウちゃんには女の前では堂々としていてもらいたいの。これからの長い人生、キョウちゃんが相手をする人間は、男も女もどんどん増えてく。男との親しい関係は友情というもので強くできるでしょう。女との関係は、友情とは別の形をとることになるわ」
 思ったとおりカズちゃんは、新鮮な表現をする大らかな女だった。白い皮膚、大きな二重の目、形のいい鼻、玉子型の輪郭。彼女の顔と、からだつきと、下心のない言葉は、私を大空の下に解放する。カズちゃんは四畳半の襖を引いた。タオルケットだけの涼しげな蒲団が整えてあった。
「服を脱いで裸になって」
 素直に従った。
「カズちゃん、お願いがあるんだけど」
「なに?」
「オシッコするところを見たい」
「あら、どうしよう。どんなふうに見てもらおうかしら。……そうだ」
 カズちゃんもその場で全裸になると、バスタオルを二枚持って、靴脱ぎの脇のトイレに私を連れていき、便器の裾の一段低い床に、二枚のタオルを二つ折りにして敷いた。
「このタオルの上に立ってて」
 そう言うとこちら向きにしゃがんで両手をタイルに突き、少し尻を上に突き出した。便器の隠しの向きが逆なので、彼女の陰部がそっくり露出する格好になった。
「そういう格好をすると、クリトリスがポコンて出るんだね。勃ってきちゃった」
 カズちゃんは、愛しそうに私のものを見つめ、
「私も濡れてきたわ。いま、オマメちゃんの下からオシッコが飛び出すから、ちゃんと見ててね。トイレの戸を閉めてちょうだい。外に飛んでっちゃうから。キョウちゃんの足もとにも当たるわよ。すぐ拭いてあげるからね」
 遠い日のけいこちゃんの再現だった。突起の下から小陰唇を舐めるように二筋の小便がチョロリと出たと思うと、たちまち一筋にまとまって低い放物線を描き、勢いよく便器を越えて足もとに飛んできた。思いのほかそれは長くつづいて、タオルがぐっしょりになった。私は放水の先に掌を差し出して受け止めた。温かかった。カズちゃんは驚いたように微笑んだ。彼女は便器の脇に置いてあった柔らかそうな紙で、性器全体と肛門のあたりを拭った。立ち上がった彼女は、
「お尻を見ておきましょうね」
 と言って、隠しを向いて立ち、脚を大きく開くと上半身だけ屈めた。逆立ちした性器が露わになった。唇を開けた小陰唇のあいだに淡く光るピンク色の裂け目があった。
「はい、お尻の穴」
 カズちゃんは両手で尻を左右に押し広げた。瞳の虹彩のようにきれいにすぼまった尻の穴が見えた。周りが淡く茶ばんでいる。私はそれに指先を触れた。ピクリと尻がすぼまった。カズちゃんの指が伸びてきて、肛門と焦げ茶の小陰唇のあいだの平らな面を指した。
「これが会陰(えいん)、蟻の門渡(とわたり)とも言うわ。とても感じるところ」
 またこちらを向いて立ち、
「あとはぜんぶ知ってるわね。部品説明はきょうで終わり。あら、戸を開けなくちゃ」
 カズちゃんは私の脇をすり抜け、トイレの戸を開けて廊下に出ると、洗面台のワイヤに掛けてあった小さなタオルを取ってきて、私の足と掌を拭った。尿を吸って重くなったバスタオルを便器の上で絞り、床もきれいに拭いた。それを台所のシンクへ持っていった。動き回っているあいだ、胸と尻が妖しく揺れた。
「さ、今度は私のリクエストよ。キョウちゃんのオシッコを見せて」
 私は便器の前に立ち、からだをくの字に折って放尿した。カズちゃんも同じように水の先に掌を当てた。
「あったかあい。キョウちゃんみたい」
 尿切りを終えると、カズちゃんはひざまずいて、亀頭の先に残っているしずくを舌に受けた。


         八十六

 四畳半の部屋に戻ると、最初は蒲団にしか目がいかなかった空間に、淡い黄緑色のカーテンが引いてあるのがわかった。隅の壁に、ぎっしり本の詰まった書棚が立ち、大きな和ダンスと鏡台が別の壁に接していた。本の種類は、栄養学の専門書から、和洋の小説本まで、多岐に渡っていた。カズちゃんが読書家であることがわかった。
 カズちゃんはこの前と同じように蛍光灯を点けて小部屋を煌々と明るくした。明るい光に照らされた立像を隈なく見る。長い首、少し外に張り出した大きな乳房、柔らくふくらんだ腹、縦長にへこんだ臍、淡く翳る陰毛。ためらいもなく開放された肉体が、鮮やかに私の目に焼きつけられ、心を解放する。カズちゃんは蒲団に横になった。
 肉体が先にある―簡明な真実だ。七面倒くさい心の手続からゆきちがいが生まれる。カズちゃんのからだは、節子よりも豊かに肉づき、乳房は彼女より一回り大きかった。自然と私の手が胸に伸び、腹に伸び、陰部に伸びて、触れた。目が感じ取ったとおりの柔らかさと湿りだ。片方の胸を揉みながら、片方の乳首を吸った。その私をカズちゃんは掌で押して離し、仰向けに横たえると、腰の傍らに正座した。頭の先から足の先まで眺めわたす。
「真っ白! ほんとに大理石の彫刻みたい。いつ見ても不思議。腕も、脚も、脇にも、ぜんぜん毛が生えてない。オチンチンにだけ少しあるのがアダムそっくり」
 陰茎を握って仔細に点検し、
「ぜんぜん色がついてない。きれい―」
 屈みこみ、口に含んだ。いよいよ血が流入する感覚があった。びっくりしてカズちゃんは口を離した。
「すごい。何カ月かのあいだに、こんなに立派になっちゃった」
 カズちゃんはもう一度それを含んだ。やさしく舌が動く。
「わあ、どこまで大きくなるのかしら。怖いぐらい。ぴんと張って、はち切れそう」
 いったん顔を離して眺め、もう一度含む。頬をふくらませて口を上下させる。喉にまで入っていくのではないかと思った。とつぜん下腹が熱くなり、射精しそうになった。カズちゃんは口を離し、やさしい目で見上げた。
「いいのよ、出して」
 もう一度温かい口の中に包みこみ、待ち構えるように陰茎の腹をさすった。ドクンと打ち出した。呼吸を合わせたように飲み下す。私が反射するたびに、睾丸を揉み包みながら飲みこむ。少しも奇異な行為に思えなかった。
「おいしい。これで、長もちするはずよ。さ、横になって。口の中に残ったものを漱(すす)いでくるわ。キスしたいから」
 台所にいって口を漱ぎ、戻ってくる。横たわって抱き合いながら、舌を絡めたキスをした。少し力を失った私のものは彼女の手にしっかり握られていた。そうしているうちに、ふたたび血が流れこむ感覚が強くなった。
「うれしい。すぐ回復してくれた。ドクドク脈打ってる」
 私は新しい自信をそこに見た。これまでは、こういう本能的な衝動を何の恥じらいもなく受け入れることはできなかった。性の衝動はふだんとちがう肉体の反抗や敵意と感じたし、克服しなければいけないもののようにも感じた。でも、カズちゃんの掌の中で心地よく脈打っている分身の意志を感じて、こんなふうに抑えきれない欲望がふいに現れてもそれは恥じるべきことではなく、堂々と主張するべきことなのだと信じることができた。カズちゃんは私のものをいっそう強く握りしめた。私は上半身を起こして言った。
「あそこにキスするね」
「はい」
 カズちゃんは大きく股を開いた。明るい光の下に、茶とピンクの入り雑じった女陰が口を開いた。カズちゃんの美しい顔と不思議な対照をなしていた。縁飾りのような茶色く色づいた襞に触った。ぬるりと滑った。襞を押し開いた。襞のいただきの包皮から、白い突起が覗いている。彼女は包皮を剥いて見せた。小指の先ほどのクリトリスが現れた。
「私、大きいほうなの。イクときは、もっと固く大きくなるわ」
「最初のとき、ここに触ったら、感じちゃうから強くしたらだめ、って言ったね」
「ごめんなさい。私も感じたかったんだけど、あのときはそうしちゃいけなかったの。おたがいそれだけじゃすまなくなっちゃうから。いまならわかるでしょ? あれ以上のことをしたら、結局キョウちゃんを苦しめることになったわ」
 そこを刺激すれば女のからだがどうなるかは、すでにカズちゃんと節子の反応で知っている。その反応を見せれば、私が苦しむことになると気遣った彼女の思いやりがうれしかった。私はカズちゃんの開いた両腿に手のひらを載せ、首を伸ばして突起に舌先をつけた。カズちゃんの腿と腹がブルッとふるえた。
「……あのときもこうしてほしかったの。がまんするのがつらかったんだから」
 カズちゃんはもっと大きく股を拡げた。舌が動きやすくなったので、自信を持って上下に動かしたり、押したり、回したりした。厚い小陰唇も含んでみた。ぬるぬる出てくる液体も舐めた。クリトリスが固く大きくなり、舌の表面で脈を打ちはじめた。
「ああ、キョウちゃん、ごめんね、私、もうだめ、あ、イクわね、あ、あ、イク!」
 カズちゃんは腰を私の顔の前に突き出し、それからグンと尻を引いた。二度、三度と痙攣する。腹の筋肉が臍のほうへ引き上げられては縮む。腹をさすると、カズちゃんはにっこり笑った。
「わ、すごい、キョウちゃんの、見てごらんなさい」
 下腹を見下ろすと、分身がいきり立っていた。脈打つように前後に動いている。カズちゃんはからだを反転させて尻を向け、私の顔の上に跨った。目の前が性器だけでいっぱいになった。その格好で、カズちゃんはまた私のものを含んだ。
「これ、シックスナインていうのよ。私のも好きなように舐めて」
 言われたとおりにした。絶え間なくカズちゃんの下腹に引き攣りが走る。
「指を入れていい?」
「いいわ。入れてみて」
 透明な液体が染み出しているあたりに人差し指を入れると、体温よりも熱い襞に触れた。ザラザラした感触があった。指を何度か往復させてザラザラをこすってみた。
「ああ、がまんできない……バックでして」
 カズちゃんは四つん這いで蒲団の裾へ移動していき、その格好のまま私を待った。私が彼女の股間に自分のものを押しつけると、彼女は、そこはちがうの、と言って後ろ手につかみ、正しい位置へ導いた。
「そのままグッと、入れて」
 熱い油の中に滑りこんだとたん、カズちゃんがハアーという長い息を吐いた。
「ああ、うれしい、キョウちゃん、うれしい」
 私はゆっくり動きはじめた。
「ああ、ほんとにうれしい、あれからなんべんも夢に見たのよ、キョウちゃんとしてるのを」
「気持ちいい?」
「とっても。どんどん昇っていくの。……入口のところで、ゆっくり動いてみて」
「こう?」
「そう。それを五、六回したら、奥に深く入れるの」
「―こう?」
「そう、上手よ。それを何回か繰り返して。そうよ、そうよ、奥だけゆっくり何回か押して。ああ、上手よ。そう、入口、奥、入口、奥、だんだん速くして。そうよ、ああ気持ちいい」
「なんだか、グイグイ締まってきたよ」
「イキそうになってきたの。グッと一回、奥を突いて」
 言われるとおりにした。
「ああ、気持ちいい! 引くのを速く、押すのをゆっくり、ときどき回すようにして、そう、あ、あ、ほんとに気持ちいい。そうやって、何度もキョウちゃんがイキたくなるまで繰り返して。あああ、キョウちゃんの大きい、気持ちいい!」
 ひどく純粋な興味が湧いてきて、亀頭をいちばん強く包みこむ奥のほうだけを何度か速く突いてみた。
「あ、だめ、そんなことしたらすぐ……。キョウちゃんは、まだだいじょうぶ?」
「うん、だいじょうぶ」
「強いのねえ、あ、だめだめだめ、キョウちゃん、速くしちゃだめ」
 速度を緩めないままでいると、
「ああ、だめ、ほんとにだめ、私が先に……キョウちゃんに悪い!」
 カズちゃんはそう言って、あわててからだを離し、こちらに向き直って仰臥すると、膝を立てて両腿を開いた。屹立したものにもう一度指を添えて熱い襞の中に導く。数回往復しただけで、
「ああ、やっぱりだめ、キョウちゃんより先にイッちゃう!」
 と言って私の腰を押さえて止め、両脚を直線に伸ばして浅く挿入させた。すべてが目新しい経験だった。私は襞に強く挟みこまれるのを感じながら動きつづけた。性器が窮屈に感じたけれども、ぬるぬるしているので刺激が強い。カズちゃんはしばらく歯を食いしばるようにがまんしていたが、耐え切れなくなって、ふたたび脚を拡げて深く導き入れた。彼女の目が急に細くなった。
「あー、ごめんなさい、キョウちゃん、私どうしても先にイッちゃいそう。気持ちよくてがまんできないの。でも、だいじょうぶ、イキながらキョウちゃんを待ってるから、好きなときにイッてね、あ、あ、だめ、ごめんなさい、イクわね、だいじょうぶよ、そのまま動いていて、私先にイクから、あ、あ、ごめんなさい、ウ、イクウウウ!」
 膣がぐいと奥へ引きこむように蠕動した。弛緩と収縮を繰り返す動きが強い刺激になって、たちまち私にも迫ってきた。腰の動きが本能的に速くなった。
「あー、またイッちゃう!」
 ふくよかな腹筋が縮み、上半身がわずかに起き上がる。耐えられなくなった。
「カズちゃん、ぼくも!」
「イッて、キョウちゃん、イッて! ああ、イク、ウ、ウ、イックウウ!」
 からだがクの字になってこちらに起き上がってきた。私は絞るように狭まってきた空間へ激しく射精した。カズちゃんのからだが跳ね、膣が何度も収縮する。それに合わせて私も反射を繰り返した。


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