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《アラバマ物語(1962)》

 監督 ロバート・マリガン  出演 グレゴリー・ペック


 早稲田に入ったばかりのころ、リバイバル館の池袋文芸座で観た。血液が透析されていくような澄みわたった映画だった。情熱を内に秘めた正義漢役のグレゴリー・ペックに魅かれた。彼の演じる思慮深い弁護士アティカスは、『ローマの休日』の浮わついた新聞記者よりも数段よかった。
ものまね鳥を殺すこと。原題の意味が難解だ。ものまね鳥は、美しい声で鳴くことで名高い。美しい声で鳴く者を殺すこと。ものまね鳥というのは、理不尽な裁判にかけられて殺された善良な黒人のことだろうか。

 もう一人近所に、子供たちからミスター・ブーと呼ばれ、伝説の怪人として恐れられている口の利けない知恵遅れの青年がいたが、彼のことを指しているのかもしれない。ブーはアティカスの子供たちを差別主義者の魔手から救った。唖で白痴だと思っていた男が美しい声で鳴いた―。
つまり、心地よい幸福を与えてくれる無害な鳥を殺すとは何ごとだ、ということなのだろう。もしそうだとすると、美しい声というのは、善良な魂をさす。差別とは、善良な魂を殺すことだという主張だ。
ともかく、正義感あふれるアティカスと、彼の二人の子供と、ミスター・ブーの絡みがみごとだった。ブーを演じるロバート・デュヴァルは、私の好きな俳優の一人である。