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《ある日どこかで(1980)》
監督 ヤノット・シュワルツ
主演 クリストファー・リーヴ ジェーン・シーモア
ご存知《スーパーマン》のクリストファー・リーヴが大傑作SF映画で凄絶な名演技を!
これもご存知のことだろうが、彼は43歳のときに、落馬事故で脊椎骨を折り、首から下が麻痺した。車椅子生活をしている彼のことをたまたま知ってから、ビデオ屋で借りて観た映画だった。
『僕の彼女はサイボーグ』もそうだったが、タイムトラベルものは、ふっと理屈がわからなくなる。時空を越えた愛―というメインテーマだけを念頭に置いて観ればよい、と最近思うようになった。
パーティ会場の壁に掛かっていた六十年前の肖像画の女(ジェーン・シーモア)にいっぺんで惚れこんだリチャード(クリストファー・リーヴ)は、彼女に逢いたい一心で、ベッドに横たわり魔法のコインを手に必死で呪文を唱える。すると、タイムトンネルのようなものに吸いこまれていき……。話をはしょらせてもらう。
結局彼女を失うことになったリチャードは、魂の抜け殻になって、海辺のベンチにぼんやり腰を下ろす。そのションボリと丸まった背中に戦慄する。演技には思えない。クリストファー・リーヴ生来の寂寥なのだろう。その背中を見たくて、この映画を幾度も観る。むろん、リチャードはそのまま衰弱して死ぬ。命懸けの恋だったのだ。
クリストファー・リーヴは、落馬事故から10年、車椅子で暮らした。懸命にリハビリをつづけながら、同病者の救済施設創設などにも尽力し、52年の生涯を終えた。その間彼は、
「絶望せずに、努力することを決してやめないふつうの人こそ、真のヒーローだ」
と語った。彼は絶望しないスーパーマンだった。役者としてのイメージ固定に絶望して拳銃自殺したスーパーマン(ジョージ・リーヴス)とは志の高さがまったくちがう。人間としての志が高くなければ、人を愛する精神は理解できず、恋愛映画の主役は張れない。