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《バベッドの晩餐会(1987) 監督ガブリエル・アクセル 主演ステファーヌ・オードラン》
1800年代末のノルウェーのフィヨルドの寒々しい村が舞台。その村の牧師に二人の物静かなマチーナとフィリッパという姉妹がいた。ある日その村を通りかかった青年将校が、姉のマチーナに恋をした。恋は実らず、失意のもとに去った彼は王妃の侍女と結婚した。
パリの大歌手パパンは、公演のあとの保養にこの村に立ち寄り、歌のうまい妹のフィリッパに恋をした。パパンは歌のレッスンをするという口実でフィリッパに近づき、みごとに失恋する。この二つの失恋劇が伏線となる。
16年後―ある雨の夜、姉妹の家に尾羽打ち枯らしたような中年の女が訪ねてくる。パパンの手紙を携えていた。パリ内乱のさなかに夫と息子が殺され、身寄りのなくなった女だが、助けてやってくれ、彼女はバベット(ステファーヌ・オードラン)という名のプロの料理人だ、とあった。ある意味、姉妹に清廉を強いて精神的枷になっていた父は、いまはすでにない。二人は心の赴くままにバベットを受け入れた。この日からバベットは、姉妹の家政婦兼料理人として仕えることになった。
バベットは神秘性を帯びた女で、町の人びとに親しまれ、尊崇されるようになる。14年の月日が流れた(バベッドが老けないのがメルヘンチックで楽しい)。父の生誕100年を祝うささやかなパーティを催したいと姉妹は思った。しかし、赤貧の彼女たちにはその余裕がない。そんなみぎり、バベットが1万フランの宝くじに当たった。姉妹の窮状を知っていたバベットは、記念パーティの料理を作らせてほしいと申し出る。そうして、村の少年を調理助手につけて本格的な準備に取りかかった。
姉妹は、招待したい村人11人に、いまは将軍となっているあの将校を加えた。ここからが見せ場である。パーティの当日、12人の男女が食卓についた。一品一品の料理に、グルメの道に精通した将軍が大仰に驚く。その表情や挙措がたまらない。これを見たくて、この映画を繰り返し観ることになると言っても過言ではない。うれしくてたまらないのである。わが家では、この驚きの身振りをすることが、うまい! を表現する定番になっている。
みなが帰ったあとの、バベットが厨房に坐りこんだ孤独な背中が哀しく、美しい。姉妹は百フランか千フランで料理が作られたと思っているフシがある。だから、残った金でバベットがフランスに帰ってしまうのではないかと危惧する。その心を隠し、あなたがパリに帰っても今夜のことを忘れません、と告げる。バベットは、
「帰りません。料理に1万フランぜんぶ使ってしまいましたから。じつは私は、パリの高級料理店カフェ・アングレのシェフだったのです。そこでは12人分のディナーは、1万フランでした」
と言った。姉妹はバベットをしっかり抱き締めた。
私の話には、この映画の強い印象からくる多少の脚色があるかもしれないので、原作者をあたってみることをお勧めする。生涯男性名で小説を書きつづけたカレン・ブリクセンというデンマークの女性であったと知るだろう。それ以上のことは私も詳しくは知らない。