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《ブルグ劇場(1939) 監督 ヴィリ・フォルスト》



 三十代半ば、βビデオの時代、南浦和の貸ビデオ屋で見つけた。老いた名俳優と新人女優。スタンバーグの『嘆きの天使(30)』や、チャプリンの『ライムライト(53)』が浮かんだ。
老いらくの恋。人間的な醜態を取るか、老いの悟りを取るか。私はどちらも取らない。私は老いらくの恋に陥る精神的な素養がない。醜態を曝さず、悟らず、ひたすら青春を花のように観賞する。つまり、美に精神性で対応せず、目という感覚器の充足で自得する。
若いころはどうだったか。同じだった。観賞に肉欲が雑じっただけのことだった。みずから近づくことはなく、つねに相手まかせ。近づいてくれば、同量の愛で応える。遠ざかれば、望見する。
相思相愛の物語を見聞すると、感動して滂沱(ぼうだ)の涙を流す。希少な愛だ。愛は相思相愛にしかない。そしてそれは、芸術の華であり、芸術家の糧だ。
この種の独り相撲の映画を見ると、しみじみと自分の冷血性を思い知る。だから、かえって永遠に忘れられない映画となる。