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《チャンス(1979) 監督ハル・アシュビー 主演ピーター・セラーズ》
三十歳を過ぎたころにビデオ屋めぐりで発見した映画。ピーター・セラーズに対しては『博士の異常な愛情』や『パーティ』でも、ユーモアに満ちた、それでいて心魂に迫る演技力を感じていたが、この映画で徹底的に度肝を抜かれた。
知的に劣った純朴な人間は、じつは神である―文学の永遠のテーマ、生命の絶対肯定(永遠回帰)。ドストエフスキーの『白痴』、宮沢賢治の『虔十公園林』、坂口安吾の『白痴』、辰巳ヨシヒロの『人形』(漫画)、遠藤周作の『私が・棄てた・女』……。これらはすべて、世間から受け入れられない人間の神性、あるいは死後の復活を描いている。復活とはもちろん、神性を持った人間の魂の、神性を持たない人間の魂への復活である。魂の具有者同士の、すなわち命ある者同士の合一が持つ永劫の価値、それに対する絶対的な信頼である。この世で最も美しい楽観。
どういう事情かわからないが、幼いころからある素封家に庇護されて、その屋敷の庭師として生きてきたチャンスは、当主の死によってその邸を出なければならなくなる。道すがら、さまざまな権力者に遭遇し、気に入られ、ふたたび庇護され、ついには大統領候補にまで押し上げられる。そのさなか、彼はキリストの湖上伝説よろしく、湖の上を歩いて神の棲家へ戻っていく。エンディングの静けさの中で、私は震撼とした。
生きたまま神であることを証明する映画は、私の観てきたかぎりでは、これ一本である。