鯉 人
こいひと ―淀屋辰五郎想い書

元禄一代男 淀 屋 辰 五 郎
―そ の 凄 絶 な る 滅 び

 天下の台所大坂に君臨した御用商人《淀屋》の盛衰絵巻を異才川田拓矢が鮮烈に描き切った入神の傑作!

近代文芸社より  定価:3000円+税
書店にてご予約受付中

 灯火の蕩れる前座敷。黒檀の床柱に背を凭れて坐っていた辰五郎は重ね敷いた黄金絹織の一双の座布団を外して展げ示し、それを客の前へ両手で押しやってじかに畳に坐った。額に角ある鬼が、それぞれ一匹ずつ、金の生地に織り出されている。左向き一本角の鬼は、顔が緑色で金髪を振り乱しており、右向き二本角のほうは、灰色の額に金の輪をはめている。おどろおどろした鬼の姿は、人にその上に腰を下ろすことを躊躇させる。客は、この二匹の鬼を向かい合わせに並べて、立って眺め下ろし、 「見事―」  と感嘆した。

                                         ― (序章より)

先生の新境地とも言える『鯉人』、何度ゲラを読んでも涙が浮かぶ名作です。         

                 (近代文芸社・編集部)