この本、凄い!

 意外な名作ってあるんですよね。以下ほとんどが、川田先生から紹介していただいたものです。そのなかで実際読んだ本でこれすごいよなと思う作品を紹介したいと思います。(順不同。なんの規則性もありません。ただ、ジャンルは純文学(含む詩)としました。)
お暇なおりに是非入手して読んでみてください。保証つきです。そして、「この作品もすごいよ」っていうものがありましたら、是非紹介してください。


「門」 夏目漱石著
入手可能度 100%

 「この本面白い?!」のカテゴリーに入れるか迷いましたが、やっぱり名作といわざるをえません。漱石読破は、わたしのここ近年の目標ですが、昔、高校生のときに読んだものから、まず読み直してみようと思って読んでみました。また、川田先生も『漱石の中では、「門」が最高傑作。それ以外はよむ必要ないよー。」っておっしゃってたのを思い出しので・・・。偶然この間ラジオで、詩人という肩書きの荒川洋治も、『それ以外はよむ必要ないよー。』という過激な発言はできないまでも、「『門』が一番好きですね」って言ってて、やっぱり物書きっていうのは、同じようなことを言うな、と感心したのでした。
 
 内容は、親友の奥さんを奪った主人公が、その罪を背負いながら、子供が産めない(何度も流産した)妻と、静かに暮らしているという、ただそれだけの話ですが、なんというか、文章表現、風景描写、心理描写が圧巻というか、ゆっくり、じっくり噛みしめて読めば読むほど、いいものでした。特に、前半部分はよかったですね。冬の朝の空の描写、凍った土の表現、漱石独特なものだと感じました。皮肉的な人間描写は、ちょっとニンマリさせられ、ユーモラスなところもありました。高校生の時読んだときは、ここまで読みこなせませんでした。逆に、高校生のときに感銘を受けた「夢十夜」は、「門」に比べれば、さほど感動はありませんでした。
 漱石文学は特に、中学生や高校生が読むもの、という一般的なイメージを受けがちですが、こんな漱石ワールドは、とっても大人の世界だということを実感しました。もし、ちゃんと読みこなせる子供がいたなら、是非会ってみたいものです。読むことと、理解することは違いますからね。
 ただ、後半部分は、共感できませんでした。罪の意識を拭いきれず、俄か禅を体験しに、お寺に泊り込むというくだりです。結局、お坊さんから課せられた問題の答えは見つからないのですが、まあ、世の漱石ファンから、「違うよ。後半部分がいいんじゃないか」と怒られそうなので、ここで辞めときます。
 川田氏が、「寛容のみが芸術を殺す」と『あれあ』に書いていましたが、深い言葉ですな。心の中は寛容じゃないので、川田氏にも許してもらいましょう。


「影法師」 遠藤周作著
入手可能度 80%

 主人公に影響を与えた厳格な牧師が、失踪。数年後の再会の衝撃を描いた短編です。宗教の矛盾を衝いた問題作と言えます。遠藤周作は、「海と毒薬」「白い人黄色い人」などの、いわるゆ純文学と、中間小説と言われる軽い作品とを書き分けていたと言われますが、中間小説においてもキリストを主人公に設定したテーマ性が強い作品を多く出しています。


「遁走」 安岡章太郎著
入手可能度 50%

 これは学生時代に、安岡章太郎全集で読みました。二次大戦中、三等兵だった主人公の醒めた戦争感を根底に、生き抜くこと、特に食べることにひたすら貪欲な人間の動物性が率直に書かれています。厠の中で、ようかんを何本も丸呑みするようにかぶり付く場面が印象的です。


「ヴェルレーヌ詩集」 ヴェルレーヌ著
入手可能度 50%

 このHPの「はじめに」にも引用をしてしまいましたが、情熱的なヴェルレーヌの孤独な叫びを聞くようで胸が苦しくなる作品です。


「知と愛(ナルシスとゴルトムント)」 ヘルマン・ヘッセ著

入手可能度 90%

 知性を重んじるナルシスと情熱的で感情的なゴルトムントの友情の物語です。どちらもヘッセ自身の分身といってよいかもしれません。大学時代、これを同性愛の話だと言い切っていた輩がいましたが、そのような要素は全くありませんでした。「車輪の下」で知られるヘッセですが、もともとは詩人を目指していたようです。そのせいか自然描写が繊細で美しく、どの作品も一定の高いテンションを保って書かれているところが印象的です。特にこの「知と愛」はヘッセ文学の白眉といってもいい作品かもしれません。

 



「知られざる傑作」 バルザック著
入手可能度 80%

 封印された絵画。その絵が(もちろん読者は鑑賞することはできませんが)これがものすごく傑作らしい。。。な-んてふざけて書いちゃってますが、この本を読んだ時震えるほど感激したのを覚えています。きびしい芸術論が一貫して展開されています。これも岩波文庫で入手しました。ミーハーでない芸術心のある方、こころ洗われます。


「モンテクリスト伯」 デュマ著
入手可能度 99%

 全7巻!岩波文庫で読みました。面白かったなあ。もう一度読み返したい作品です。あまりにも有名ですが、主人公・船乗りダンテスの復讐劇!19世紀のフランス文学だったと思います。
 こんな逸話があります。山田風太郎の「人間臨終図巻」という本にありました。

 大デュマが死の病床に伏しているとき、小デュマに言いました。
「息子よ。そろそろ人生も短い。死ぬ前にもう一度だけ読んでおかなければならない本は何かね?」
「モンテクリスト伯ですよ。お父さん!」
「おお、あれがあったか!!」

大長編ですが・・・そうですね、これを読まずに死ぬのは確かにもったいない。絶望の淵から、人間生きてさえいればどんな逆境にも向かっていける、そんなスカッとする要素があります。
 元婚約者メルセデスへの言葉「悲しきかな。汝は女なり」印象に残りました。


「すみっこ」 尾崎一雄著
入手可能

 尾崎一雄は「虫のいろいろ」という作品で芥川賞を取った作家です。額の皺で蝿をつかまえるとかいう作品(笑)。
 大学1年生の時にこの「すみっこ」という作品を読んで震撼いたしました。自分の子供が兎口として生まれ、そのことをずっと心の中で負い目として生きていく主人公(父親)の残酷な心の動きを淡々と書いたものです。その子供がぐずついた後、兎口のため片方だけ平たく細くなっている鼻の穴にお気に入りの座布団の端を押し付けて寝るため、いつのまにかその座布団の隅だけが黒くなっているのをいつもにがにがしい思いで見ていた主人公。その座布団の端が「すみっこ」そのものです。もしかしたら、健全な人間社会の片隅で卑屈に苦悩しながら生き長らえなければならない主人公そのもの、または、そんな障害を背負っていることも気付かない幼い我が子のことかもしれません。ちょっと深読み?!(*_*)
 残念ながら、文庫本にはなぜがなっていないようです。本屋にはまず売ってないと思います。図書館などで「昭和の文学全集」みたいなものがありますよね。そんな全集の一部にたしか、3人ワンセットになっているものの中に尾崎一雄が入っています。そこに必ず「すみっこ」が掲載されているはずです。ちなみに私は古本屋(100円!いいのか??)で見つけました。
 なんて、上に、以前に書きましたが同じ本が、ネットでなんと売っていました。多分、この本にしか、今のところ、この作品は載ってないと思います。ただ、ちょっと高いので、お金のない方は、わたしのように古本で見つけるか、図書館で借りるかしてください。でも、誠実なそこのあなた!もし、図書館で借りて読んでしまったら、あまりにも凄いので、多分、自分のライブラリーの入れたくなると思いますよ。1988年発刊の本なので、絶版になるまえにどうぞ。

昭和文学全集(11)尾崎一雄・丹羽文雄・石川達三・伊藤整
著者:井上靖
出版社:小学館
本体価格:4,369円

楽天ブックスで購入する

「機械」 横光利一著
入手可能度 99%

 これは比較的有名な本ですよね。中学や高校の文学史のなかに必ずあるものです。文学史にある作品って堅すぎてつまらないと思っていましたが、「機械」は抱腹絶倒、いやー笑った。。主人公がある工場で働いていて、その仕事仲間と喧嘩する場面があるんですが、ホント面白いんです。その場面は、・・・ちょっと表現できない。これはすぐ本屋で手にはいます。新潮文庫かなんかで文庫本で出てます。


「畜犬談」 太宰治著
入手可能度 99%

 太宰はダサイ、暗いなんて言わないで。1/3以上が笑える作品なんじゃないかな。でも実は私は、やっぱり「人間失格」が一番好きだけど・・・。今回は「畜犬談」をご紹介。これは超短い作品で、ものの20、30分で読めてしまうでしょう。ちなみに私は可笑しくて涙出た、じゃなくて涙流しました。
 リズムがあるんですよね。太宰治の作品って。「。」が少ない作家としても有名です。「黄金風景」なんか丸々1ページ「。」がないところがありました。「畜犬談」は主人公がいかに犬が嫌いか、恐ろしいか、から始まり・・・。まあ、まだ読んだことない方は必読。


「ボロ屋の春秋」 梅崎春生著
入手可能度 50%

 梅崎春生の代表作は「桜島」ですが、この梅崎は「ボロ屋の春秋」で直木賞を受賞しました。大きな受賞作ですごいなと思ったのは今のところ私はこの一冊だけです。古い一軒家で朝鮮人の李さんと住まなければならなくなった主人公。李さんとの大人げない確執、どうでもいいことの意地の張り合いを書いたものです。これも抱腹絶倒。読んでるとき「生きててよかった〜」いや、「字が読めてよかった〜」と思わず思ってしまったほどです。他に梅崎作品に「庭の眺め」というのもあるんですが、これも笑えます。「ボロ屋の春秋」は、梅崎春生全集でしか読めないと思います。


「幻化」 梅崎春生著
入手可能度 50%

 再び梅崎作品登場!これは梅崎春生の遺作です。凄くテンション高いです。20年前ほどNHKでドラマ化されたようです。私は再放送でドラマも観ましたが、映像ではつまらなかったな。人間の生と死がテーマになっています。自殺しようとする若者と旅先でいっしょになった主人公が、その若者に自分と重ねあわせていくというこの作品。熊本にある阿蘇山頂上の火口で、その少年が死ぬか生き延びるか賭けをする、そんな話でした。読み終わったときしばらく呆然としました。


「クロイツェルソナタ」 トルストイ著
入手可能度 60%

 クロイツェルソナタは、バイオリン独奏クラシック音楽として有名ですよね。その激しさと、うねるような憂鬱は、この小説にピッタリといえると思います。私は、岩波の文庫本で読みました。薄い本なので一気に読めました。浮気をしていた妻を撃ち殺す話です。以前にケーブルテレビで映画になっているのをチラッと見かけたことがありますが、それ以来、もちろんビデオ屋でも見つけることができません。もし、映画を入手できたら観てみたいなと思っています。


「ねむい」 チェーホフ著
入手可能度 20%

 関係ないけど、チェーホフって、すっごくかっこいいの知ってますか。全集の最初に家族の集合写真みたいなのがあって、その光輝溢れる美しい顔!びっくりました。これはモテただろうな・・・。そう言えば、チェーホフの代表作「子犬を連れた貴婦人」は、簡単に言えばダブル不倫を描いた作品でしたよね。やっぱり実話をもとにしてるのかなぁ。「子犬を連れた貴婦人」は、私はまだ映画で観ただけですが、原作でも是非読んでみたいと思っています。「ねむい」という作品はほんの十数ページの作品なので、またあまりに衝撃的な結末なので、内容についてのコメントは止めときます。ロシア文学は描写が細かくてすごいですね。


「夜」 エリヴィーゼル著
入手可能度 30%

 エリヴィーゼルはたしかポーランドの作家だったと思います。7,8年前にみすず書房の分厚い単行本を購入して入手しました。「夜」「昼」「夜明け」の三部作になっていて、第二次対戦中のナチスドイツのユダヤ人強制収容所の話です。アウシュヴィッツのドキュメンタリーとしてはV.E..フランクル「夜と霧」が有名なのかな。映画では「ショアー」(12,3時間の長いドキュメンタリー映画)、スピルバーグの「シンドラーのリスト」という作品もありますね。
 何が起こるのかも分からず、意外と能天気に強制収容されていった主人公家族から始まり、ガス室に連れて行かれる前日まで殺されることを信じなかった様子、まわりが状況を把握していく様子。実に生々しく、怖かった。。以前に行ったアウシュヴィッツ展で、ユダヤ人たちの集合写真のなかに笑顔の少年が写っているのを見たことがありますが、この作品を読んで妙に納得しました。人間って怖いですね。
 三日三晩走らされ、止まったり、倒れたりしたら殺されるため、走りながら眠っていたといった描写など、壮絶を極める内容でした。
「神の沈黙!」がこの作品の中に盛んに書かれていましたが、遠藤周作の「沈黙」は、この特殊なテーマ性があまりにも酷似していたため、もしかしたらこの作品に影響を受けたのではないかなととも思いました。この作品は単なるドキュメンタリーではなく、筆力がある文学作品です。
 


「月と六ペンス」 サマセット・モーム著
入手可能度90%

 モームは大好きな作家です。「人間の絆」が代表作で、「雨」という作品もおすすめですが、モーム作品で私の一番は「月と六ペンス」です。古本バザーで10円で買って、ほとんど一気に読みました。これは、岩波文庫で出てます。平凡なサラリーマンが妻と子を棄て、突然の失踪。屋根裏部屋のようなところでひたすら絵に打ち込む男の話です。ゴーギャンがモデルになったようです。素晴らしい芸術論が展開されています。


「フランダースの犬」 ルイズド・ララメー(ヴィーダ)著
入手可能度99%

 アニメで有名ですが、これは子供にはちょっと理解できないんじゃないかなと思っています。なぜなら、この作品は真の芸術家の悲劇がテーマだと思うからです。主人公の幼馴染の女の子も原作では、愛らしいなかにシビアな側面をもつ「女」の現実性が実によく描かれています。意外かと思われるかもしれませんがへミングウェーも「フランダースの犬」は世界最高の文学と言ったそうです。ルイズド・ララメー(通称ヴィーダ)は、女流作家。犬と子供の友情を描いた最初で最後の作品でしょう。
 新潮文庫からで出ます。


「雨の品川駅」 中野重治作(詩)
入手可能度 30%

 演歌の題名みたいですが、これは詩の題です。
品川駅に朝鮮へ帰る在日朝鮮人を見送った時の詩です。初めて読んだ時泣きました。
「金(キム)よ さようなら  もう一人の金(キム)よ さようなら」
のくだりは涙でよく読めなかった。。
 映画の「泥の河」って知ってます?それを彷彿とさせました。友情と別れ・・・。いいですね。


「盲目の秋」 中原中也作(詩)
入手可能度99%

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「浪が立ち 風が騒ぎ 無限の前で腕を振る」
「山羊の歌」に収録されてます。


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