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《チョー・ヨンピル(1980) 窓の外の女》



 チョー・ヨンピルの名作中の名作。
プサン港ふうの退屈な韓国ソングではない。哀切な、短い叫びである。スタジオでも舞台でもいっさい変わらない透徹した声質を保持できるヨンピルならではの、魂に響く絶唱だ。難解な韓国詩が、難解なまま美しい。恐らく、売春婦が恋した男を想うエレジーだろう。


  窓際に立つと 涙のように
  思い出す あなたの白い手
  回って目を閉じれば 川の水だ
  一筋の風になって 街に立つ
  あなたは街灯になって
  私のそばに留まる
  だれが愛を 美しいと決めたのか
  いっそ いっそ あなたの白い手で
  私を眠らせてほしい


 詩の解釈はタブーだが、させてほしい。曲想が理解できる。

女は窓辺に待機する娼婦だ。客引きに外に出て、館を取り巻く堀端でたまたま出会った細身の男に、商売を忘れて恋慕した。それからは彼を待つだけの日々になった。
思い出すのはあなたのきれいな白い手。あなたを求めて堀を巡っても、あなたはまるで手につかめない風のように、街灯の姿で川端に立っているだけ。こんなに愛しているのに、あなたには二度と逢えない。幻に恋する日々―

こんなものは美しい愛ではない。たとえまた逢えたとしても、あなたはまた風になって遠くへ去っていく。だから、今度私を抱いてくれるときは、私をその手にかけてください。あなたを思いながら永遠の眠りにつきたいのです。