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《美空ひばり(1976) さくらの唄》

 

 幼いころから嫌いな歌手である。声質、節回し、ファルセット、すべて嫌いだ。
 メロディだけの名歌が二曲ある。津軽のふるさと(1953)と、さくらの唄。1976年、同棲していた女の故郷愛媛県松山に引っこんだ。表に出ず、昼は詩を書き、夜はテレビを観て暮らした。ある夜、TBSの水曜劇場連続ドラマ『さくらの唄』のエンディング曲が流れてきた。聞き耳を立てた。
 ドラマで長男役をしていた少年は浪人で、長女と次女は男女関係に悩んでいる。ありふれてはいるが、人間の通る悲しい道だ。その悲しみにピタリとはまる曲想だった。
 ひばりはドラマと関係なく、40周年記念公演でこの曲を歌ったようだ。このドラマに使うことになった経緯は知らない。ギターのイントロから入り、何もかもぼくはなくした……と哀調切々と歌い出す。スタジオ録音のみがすぐれていて、ライブはだめ。鵜戸参りと同様、友人の後藤が借りていってそれきりになった。