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《村下孝蔵(?) 『丘の上から』》

 

 それまで彼の歌はラジオで聴いた『春雨』にとどめを刺すと思っていた。熊本のスナックで歌っていたとんでもなくうまい地元の歌手に『春雨』をリクエストしたら、「村下孝蔵は歌えないんです」と言われた。村下孝蔵の模倣を許さない喉の異常さを知った。

『春雨』も収められた『初恋』というCDアルバムを買って聴いた。最後に収録されていた曲がこれだった。大傑作だった。これが代表曲にならないという音楽界の仕組みや、代表曲にしない大衆の耳に疑惑を抱いた。傑作は世に出ない、といつもの思考を反芻して、安んじた。とにかく彼の群を抜いた最高傑作を拾えたことは幸運だった。彼がからだの中に、いつも憂鬱の旋律を流していたことがわかる。歌詞は聴かない。しばらく日本の歌を逍遥してみよう。








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