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《オー! ゴッド(1977)》

監督 カール・ライナー  出演 ジョン・デンバー  ジョージ・バーンズ

 まじめさ―この定義は難しいが、人間的な不正を許さぬ自他の信念に殉じる誠実さというのではなく、人間的に不誠実ではあっても、そういう身近な人間同士、愛し、愛され、その小さな集団の利益を最大限に尊重し、そこにこそ幸福感を見出すという、いわゆる律儀さのことを言うだろう。

 そういう人間が、個人にも社会にも不正を許さない絶対正義の象徴である《神》に、誠実さの芽生えであるまじめさを見こまれ、使徒として絶対正義を喧伝して歩くよう命じられたらどうなるか。それがこの映画のテーマである。
 まずその男は、信念に殉じる誠実さを持たないので、「私は神の命令で絶対正義を訴えて歩いている。神は具体物として存在する。私は狂気ではない」と律儀に吹聴して歩くだろう。

 その結果は、彼がこれまで拠りどころにしてきた、まじめな人間たちの牙城である『誠実なき幸福』からの追放である。つまり彼は、『幸福なき誠実』へと追放されたことになる。うなるほどシンボリックな結論だ。
 神は男に最後にこう声をかける。
「いつもおまえを見守っているよ」
 たとえ不幸であっても誠実な姿を絶対物に見守られること、それこそ真の幸福だという結論である。エセ幸福論者にとってはつらい映画だったろう。つらさは拒否を招く。この誠実な映画が絶賛される日はやってこないにちがいない。