この本、凄い!/面白い?

 意外な名作ってあるんですよね。川田先生から紹介していただいた作品で実際読んだ本でこれすごいよなと思う作品を紹介したいと思います。(順不同。なんの規則性もありません。ただ、ジャンルは純文学(含む詩)としました。)
お暇なおりに是非入手して読んでみてください。保証つきです。そして、「この作品もすごいよ」っていうものがありましたら、是非紹介してください。


「門」 夏目漱石著

 やっぱり名作といわざるをえません。漱石読破は、わたしのここ近年の目標ですが、昔、高校生のときに読んだものから、まず読み直してみようと思って読んでみました。また、川田先生も『漱石の中では、「門」が最高傑作。それ以外はよむ必要ないよー。」っておっしゃってたのを思い出しので・・・。偶然この間ラジオで、詩人という肩書きの荒川洋治も、『それ以外はよむ必要ないよー。』という過激な発言はできないまでも、「『門』が一番好きですね」って言ってて、やっぱり物書きっていうのは、同じようなことを言うな、と感心したのでした。
 
 内容は、親友の奥さんを奪った主人公が、その罪を背負いながら、子供が産めない(何度も流産した)妻と、静かに暮らしているという、ただそれだけの話ですが、なんというか、文章表現、風景描写、心理描写が圧巻というか、ゆっくり、じっくり噛みしめて読めば読むほど、いいものでした。特に、前半部分はよかったですね。冬の朝の空の描写、凍った土の表現、漱石独特なものだと感じました。皮肉的な人間描写は、ちょっとニンマリさせられ、ユーモラスなところもありました。高校生の時読んだときは、ここまで読みこなせませんでした。逆に、高校生のときに感銘を受けた「夢十夜」は、「門」に比べれば、さほど感動はありませんでした。
 漱石文学は特に、中学生や高校生が読むもの、という一般的なイメージを受けがちですが、こんな漱石ワールドは、とっても大人の世界だということを実感しました。もし、ちゃんと読みこなせる子供がいたなら、是非会ってみたいものです。読むことと、理解することは違いますからね。
 ただ、後半部分は、共感できませんでした。罪の意識を拭いきれず、俄か禅を体験しに、お寺に泊り込むというくだりです。結局、お坊さんから課せられた問題の答えは見つからないのですが、まあ、世の漱石ファンから、「違うよ。後半部分がいいんじゃないか」と怒られそうなので、ここで辞めときます。
 川田氏が、「寛容のみが芸術を殺す」と『あれあ』に書いていましたが、深い言葉ですな。心の中は寛容じゃないので、川田氏にも許してもらいましょう。


「影法師」 遠藤周作著

 主人公に影響を与えた厳格な牧師が、失踪。数年後の再会の衝撃を描いた短編です。宗教の矛盾を衝いた問題作と言えます。遠藤周作は、「海と毒薬」「白い人黄色い人」などの、いわるゆ純文学と、中間小説と言われる軽い作品とを書き分けていたと言われますが、中間小説においてもキリストを主人公に設定したテーマ性が強い作品を多く出しています。


「遁走」 安岡章太郎著

 これは大学時代に、安岡章太郎全集で読みました。二次大戦中、三等兵だった主人公の醒めた戦争感を根底に、生き抜くこと、特に食べることにひたすら貪欲な人間の動物性が率直に書かれています。厠の中で、ようかんを何本も丸呑みするようにかぶり付く場面が印象的です。


「ヴェルレーヌ詩集」 ヴェルレーヌ著
入手可能度 50%

 このHPの「はじめに」にも引用をしてしまいましたが、情熱的なヴェルレーヌの孤独な叫びを聞くようで胸が苦しくなる作品です。


「知と愛(ナルシスとゴルトムント)」 ヘルマン・ヘッセ著

入手可能度 90%

 知性を重んじるナルシスと情熱的で感情的なゴルトムントの友情の物語です。どちらもヘッセ自身の分身といってよいかもしれません。大学時代、これを同性愛の話だと言い切っていた輩がいましたが、そのような要素は全くありませんでした。「車輪の下」で知られるヘッセですが、もともとは詩人を目指していたようです。そのせいか自然描写が繊細で美しく、どの作品も一定の高いテンションを保って書かれているところが印象的です。特にこの「知と愛」はヘッセ文学の白眉といってもいい作品かもしれません。

 


「知られざる傑作」 バルザック著


 封印された絵画。その絵が(もちろん読者は鑑賞することはできませんが)これがものすごく傑作らしい。。。な-んてふざけて書いちゃってますが、この本を読んだ時震えるほど感激したのを覚えています。きびしい芸術論が一貫して展開されています。これも岩波文庫で入手しました。ミーハーでない芸術心のある方、こころ洗われます。


「モンテクリスト伯」 デュマ著

 全7巻!岩波文庫で読みました。面白かったなあ。もう一度読み返したい作品です。あまりにも有名ですが、主人公・船乗りダンテスの復讐劇!19世紀のフランス文学だったと思います。
 こんな逸話があります。山田風太郎の「人間臨終図巻」という本にありました。

 大デュマが死の病床に伏しているとき、小デュマに言いました。
「息子よ。そろそろ人生も短い。死ぬ前にもう一度だけ読んでおかなければならない本は何かね?」
「モンテクリスト伯ですよ。お父さん!」
「おお、あれがあったか!!」

大長編ですが・・・そうですね、これを読まずに死ぬのは確かにもったいない。絶望の淵から、人間生きてさえいればどんな逆境にも向かっていける、そんなスカッとする要素があります。
 元婚約者メルセデスへの言葉「悲しきかな。汝は女なり」印象に残りました。


「すみっこ」 尾崎一雄著

 尾崎一雄は「虫のいろいろ」という作品で芥川賞を取った作家です。額の皺で蝿をつかまえるとかいう作品(笑)。
 大学1年生の時にこの「すみっこ」という作品を読んで震撼いたしました。自分の子供が兎口として生まれ、そのことをずっと心の中で負い目として生きていく主人公(父親)の残酷な心の動きを淡々と書いたものです。その子供がぐずついた後、兎口のため片方だけ平たく細くなっている鼻の穴にお気に入りの座布団の端を押し付けて寝るため、いつのまにかその座布団の隅だけが黒くなっているのをいつもにがにがしい思いで見ていた主人公。その座布団の端が「すみっこ」そのものです。もしかしたら、健全な人間社会の片隅で卑屈に苦悩しながら生き長らえなければならない主人公そのもの、または、そんな障害を背負っていることも気付かない幼い我が子のことかもしれません。ちょっと深読み?!(*_*)
 残念ながら、文庫本にはなぜがなっていないようです。本屋にはまず売ってないと思います。図書館などで「昭和の文学全集」みたいなものがありますよね。そんな全集の一部にたしか、3人ワンセットになっているものの中に尾崎一雄が入っています。そこに必ず「すみっこ」が掲載されているはずです。ちなみに私は古本屋(100円!いいのか??)で見つけました。
 なんて、上に、以前に書きましたが同じ本が、ネットでなんと売っていました。多分、この本にしか、今のところ、この作品は載ってないと思います。ただ、ちょっと高いので、お金のない方は、わたしのように古本で見つけるか、図書館で借りるかしてください。でも、誠実なそこのあなた!もし、図書館で借りて読んでしまったら、あまりにも凄いので、多分、自分のライブラリーの入れたくなると思いますよ。1988年発刊の本なので、絶版になるまえにどうぞ。


「機械」 横光利一著

 これは比較的有名な本ですよね。中学や高校の文学史のなかに必ずあるものです。文学史にある作品って堅すぎてつまらないと思っていましたが、「機械」は抱腹絶倒、いやー笑った。。主人公がある工場で働いていて、その仕事仲間と喧嘩する場面があるんですが、ホント面白いんです。その場面は、・・・ちょっと表現できない。これはすぐ本屋で手にはいます。新潮文庫かなんかで文庫本で出てます。


「畜犬談」 太宰治著

 太宰はダサイ、暗いなんて言わないで。1/3以上が笑える作品なんじゃないかな。でも実は私は、やっぱり「人間失格」が一番好きだけど・・・。今回は「畜犬談」をご紹介。これは超短い作品で、ものの20、30分で読めてしまうでしょう。ちなみに私は可笑しくて涙出た、じゃなくて涙流しました。
 リズムがあるんですよね。太宰治の作品って。「。」が少ない作家としても有名です。「黄金風景」なんか丸々1ページ「。」がないところがありました。「畜犬談」は主人公がいかに犬が嫌いか、恐ろしいか、から始まり・・・。まあ、まだ読んだことない方は必読。


「ボロ屋の春秋」 梅崎春生著

 梅崎春生の代表作は「桜島」ですが、この梅崎は「ボロ屋の春秋」で直木賞を受賞しました。大きな受賞作ですごいなと思ったのは今のところ私はこの一冊だけです。古い一軒家で朝鮮人の李さんと住まなければならなくなった主人公。李さんとの大人げない確執、どうでもいいことの意地の張り合いを書いたものです。これも抱腹絶倒。読んでるとき「生きててよかった〜」いや、「字が読めてよかった〜」と思わず思ってしまったほどです。他に梅崎作品に「庭の眺め」というのもあるんですが、これも笑えます。「ボロ屋の春秋」は、梅崎春生全集でしか読めないと思います。


「幻化」 梅崎春生著

 再び梅崎作品登場!これは梅崎春生の遺作です。凄くテンション高いです。20年前ほどNHKでドラマ化されたようです。私は再放送でドラマも観ましたが、映像ではつまらなかったな。人間の生と死がテーマになっています。自殺しようとする若者と旅先でいっしょになった主人公が、その若者に自分と重ねあわせていくというこの作品。熊本にある阿蘇山頂上の火口で、その少年が死ぬか生き延びるか賭けをする、そんな話でした。読み終わったときしばらく呆然としました。


「クロイツェルソナタ」 トルストイ著

 クロイツェルソナタは、バイオリン独奏クラシック音楽として有名ですよね。その激しさと、うねるような憂鬱は、この小説にピッタリといえると思います。私は、岩波の文庫本で読みました。薄い本なので一気に読めました。浮気をしていた妻を撃ち殺す話です。以前にケーブルテレビで映画になっているのをチラッと見かけたことがありますが、それ以来、もちろんビデオ屋でも見つけることができません。もし、映画を入手できたら観てみたいなと思っています。


「ねむい」 チェーホフ著

 関係ないけど、チェーホフって、すっごくかっこいいの知ってますか。全集の最初に家族の集合写真みたいなのがあって、その光輝溢れる美しい顔!びっくりました。これはモテただろうな・・・。そう言えば、チェーホフの代表作「子犬を連れた貴婦人」は、簡単に言えばダブル不倫を描いた作品でしたよね。やっぱり実話をもとにしてるのかなぁ。「子犬を連れた貴婦人」は、私はまだ映画で観ただけですが、原作でも是非読んでみたいと思っています。「ねむい」という作品はほんの十数ページの作品なので、またあまりに衝撃的な結末なので、内容についてのコメントは止めときます。ロシア文学は描写が細かくてすごいですね。


「夜」 エリヴィーゼル著

 エリヴィーゼルはたしかポーランドの作家だったと思います。7,8年前にみすず書房の分厚い単行本を購入して入手しました。「夜」「昼」「夜明け」の三部作になっていて、第二次対戦中のナチスドイツのユダヤ人強制収容所の話です。アウシュヴィッツのドキュメンタリーとしてはV.E..フランクル「夜と霧」が有名なのかな。映画では「ショアー」(12,3時間の長いドキュメンタリー映画)、スピルバーグの「シンドラーのリスト」という作品もありますね。
 何が起こるのかも分からず、意外と能天気に強制収容されていった主人公家族から始まり、ガス室に連れて行かれる前日まで殺されることを信じなかった様子、まわりが状況を把握していく様子。実に生々しく、怖かった。。以前に行ったアウシュヴィッツ展で、ユダヤ人たちの集合写真のなかに笑顔の少年が写っているのを見たことがありますが、この作品を読んで妙に納得しました。人間って怖いですね。
 三日三晩走らされ、止まったり、倒れたりしたら殺されるため、走りながら眠っていたといった描写など、壮絶を極める内容でした。
「神の沈黙!」がこの作品の中に盛んに書かれていましたが、遠藤周作の「沈黙」は、この特殊なテーマ性があまりにも酷似していたため、もしかしたらこの作品に影響を受けたのではないかなととも思いました。この作品は単なるドキュメンタリーではなく、筆力がある文学作品です。
 


「月と六ペンス」 サマセット・モーム著

 モームは大好きな作家です。「人間の絆」が代表作で、「雨」という作品もおすすめですが、モーム作品で私の一番は「月と六ペンス」です。古本バザーで10円で買って、ほとんど一気に読みました。これは、岩波文庫で出てます。平凡なサラリーマンが妻と子を棄て、突然の失踪。屋根裏部屋のようなところでひたすら絵に打ち込む男の話です。ゴーギャンがモデルになったようです。素晴らしい芸術論が展開されています。


「フランダースの犬」 ルイズド・ララメー(ヴィーダ)著

 アニメで有名ですが、これは子供にはちょっと理解できないんじゃないかなと思っています。なぜなら、この作品は真の芸術家の悲劇がテーマだと思うからです。主人公の幼馴染の女の子も原作では、愛らしいなかにシビアな側面をもつ「女」の現実性が実によく描かれています。意外かと思われるかもしれませんがへミングウェーも「フランダースの犬」は世界最高の文学と言ったそうです。ルイズド・ララメー(通称ヴィーダ)は、女流作家。犬と子供の友情を描いた最初で最後の作品でしょう。
 新潮文庫からで出ます。


「雨の品川駅」 中野重治作(詩)

 演歌の題名みたいですが、これは詩の題です。
品川駅に朝鮮へ帰る在日朝鮮人を見送った時の詩です。初めて読んだ時泣きました。
「金(キム)よ さようなら  もう一人の金(キム)よ さようなら」
のくだりは涙でよく読めなかった。。
 映画の「泥の河」って知ってます?それを彷彿とさせました。友情と別れ・・・。いいですね。


「盲目の秋」 中原中也作(詩)

「浪が立ち 風が騒ぎ 無限の前で腕を振る」
スケールの大きい世界観です。言葉というのは宇宙だなとつくづく実感させられるフレーズです。

「山羊の歌」に収録されてます。



この本、面白い?!

 記憶している過去読んだ本を独断と偏見でHP編集者が、評価してみました。(川田先生お勧め本も一部入っています。)
面白いと思った度数を星で表してみました。読書選択のご参考に。また読書意欲を刺激していただければ幸いです。


「刺青(しせい)」 谷崎潤一郎 ★★★
 
 日本語って美しい。と久々に思わせてくれた作品でした。先日、谷崎全集を安価で入手しました。驚きの安さで手に入ったのですが、素晴らしい装丁で、しかも読まれた形跡はなし。谷崎は、意外と(わたしのイメージより)古い人で、大正時代後半から活躍した人で、長生きしたので、たくさんの作品があります。段落ちしないで書くのは、谷崎だけかもしれません。
 読めない旧字体が多く、広辞苑にも載ってない造語もあり、辞書を片手に読んでますが、全部読破するまで、早くて10年はかかりそうです。
 天才的刺青職人が、芸妓の使いの少女に、男を食い物にする魔性を見出し、若くて美しい肌の背中に、女郎蜘蛛を彫るという、短い作品です。

 シュリーマンの日本滞在記のなかに、舟漕ぎ男の背中にある刺青の美しさ、ちょんまげの粋な様子が書いてありましたが、ほんの百十数年くらい前の日本人の庶民の姿です。

『其れはまだ、「愚」と云う貴い徳を持って居て、この世が今のように激しく軋み合はない時分であった。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・当時の芝居でも草双紙でもすべてが美しいものは強者で、醜いものは弱者であった。誰も彼も挙(こぞ)って美しからむと努めた挙句は、天稟の体へ絵の具を注ぎ込む迄になった。芳列な、或いは絢爛な、線と色とが其の頃の人々の肌に躍っていた。・・・・・・』

 ちょっと、出だしを書き写してみました。PCで漢字がでない旧字は勘弁してください。
 
 現在は、外人の真似をした茶髪若者が、汚い色の素彫りをしているのをよく見かけますが、情けないなぁ、と個人的には思います。かっこよくするのも、むかしは命がけだったようですが、今は、かっこよさも、簡略化したということでしょうか。


「永遠の都」 加賀乙彦著 ★★★★

 全7巻。MY VALUE を4つ星と高い評価にしてしまったのは、自分でもよく読みきったなぁ―。と思っているからです。加賀乙彦氏は「宣告」という作品で有名な大御所作家ですが、たまたま、ブックオフで、「岐路」という上下2巻本・立派な装丁のハードカバーが、100円で投げ売りされているのを見つけ、ラッキー!という感じで手にしました。

 時代は昭和10年から始まる。裕福な家庭の女性たち、その父が主人公に設定され、ちょっとメロドラマ風(?!)の感を抱きながらも、不義の恋、ままならない恋の行方をわくわくしながら読み進めていった。そして、何よりも心引かれたのは、大正時代の1次大戦、関東大震災などを経て、平穏をを取り戻した平和でのどかな東京の風景。今の東京、とくに私の馴染み深かった三田の風景、新大久保の風景が多く描写されていた。そして、下巻を読了した後、なんとなく判然としないものが・・・。もしかして、これって続きもの?調べてみると「永遠の都」という大長編の一部であることが発覚!!んんー。もう読むしかないでしょう。。。

 加賀氏のライフワークとして書かれたというこの作品は、約10年にわたって「新潮」で連載された作品のようだ。しかし、10年も連載されていた作品も、本の形になれば、読者は数ヶ月(読むのが早い人は数十日)で読むことができるのだから、こんな贅沢はない。
 作者の自伝的・昭和史的作品と謳われており、時代背景は、昭和10年〜22年。平和な日本が、第二次世界大戦で、狂乱していくさまが、じつになまなましかった。第一人称(主人公)が、10名ぐらいいて、入れ替わり立ち代り変わっていく。その間に時間が微妙に前後して、重ねられる。その面白みを感じたこともあったが、正直、まとまりに欠ける感はある。しかし、最後まで読ませてしまう魅力があった。

 この作品には実にたくさんの本が登場する。ダンテ「神曲」から、ゲーテ、ドストエフスキー、ユーゴ、デュマ、スタンダール、フローベル、カーライル、中国文学、仏教書などなど。その当時、本はいまよりもずっと高価だったと思うが、そのころの知識階級の読書量は、凄かったんだろうなとつくづく思った。たくさんの主人公なかで、私のお気に入りだったのは、加賀氏本人の要素がつよいと思われる「悠太」だ。

 つらい幼年学校の生活の末、敗戦という結末を迎えたことに深く傷つきながら帰路につこうとする悠太は、自然と二重橋のほうに足がむかう。陛下に挨拶をしようとする人で、二重橋前は人だかりだ。そのなかで、若い男が切腹をしていた。腹から腸(はらわた)がはみ出し、唸り声をあげながら短刀で掻き回す様子を、まわりは黙って見ていた。そして男がばったりとすると、周りのみんなが「死んだ、死んだ」といい、誰かが拍手した。というシーンがある。とくに印象深いところだ。(こんなことがあったのか!と私は衝撃をうけたが、後に全くのフィクションだったことが発覚。またしても小説家にだまされた!!)


「賭博者」 ドストエフスキー著 ★★★★

 面白かったです。賭博の種類は、ルーレットです。賭け事に入れ込む破滅的な青年が主人公です。ケチで金持ちの老婆が一夜にして財産をすってしまうところが圧巻でした。


「新訳 チャタレー婦人の恋人」 D.H.ロレンス著 ★★★

 チャタレー裁判で一躍有名になったという作品だそうですが、問題になった猥褻部分も含めた完全訳のものがあると聞いて、興味を持ったので読んでみました。全然猥褻じゃないのでびっくりしました。完全訳じゃないものと照らし合わせてみましたが、どうしてこんなところが削除される?といった感じです。
 この作品は、前半部分が非常にテンションが高く、伊藤整の訳もいいのか、登場人物の精神描写、人物描写が特に素晴らしいものでした。物語は、下半身付随になってしまった夫・クリフォードへの主人公コニーの愛憎を中心に展開していきます。男女の関係で肉体的要素が如何に関係しているが、地位と金を取り巻く人間の虚栄心と深層心理のようなものが客観的に書かれている部分が気に入りました。後半部分になるとちょっとだらけた印象をもちましたが、芸術性の高い名作の1つに数えられると思います。


「泥の河」 宮本輝著 ★★★★
 
 最初は映画「泥の河」でこの作品を知りました。戦後、家がなく船で生活しながら、いろいろな土地を転々としていく漂流者の子ども、キーちゃんと主人公の男の子(名前は忘れました。。)との淡い幼い日の友情を描いた作品です。キーちゃんは、船で売春をしてる母ひとり、子二人という境遇。時代の波に翻弄される先行きあやしい少年と、貧しいながらも幸せな家庭を営む家の子である主人公の、純粋な魂だけの友情関係。しずかで、きれいな文体だったという印象が残っています。


「四一番目の少年」 井上ひさし著 ★★★

 
 「ひっこりひょうたん島」などで有名な井上ひさし氏の処女作です。
仙台の孤児院で育った筆者の幼少時代が書かれています。井上ひさしといえば、大衆文学作家という印象が一般的なようですが、この作品で井上ひさしという作家に初めて触れた私は、どうしても大衆作家というイメージが持てません。孤独で寂しく、純粋な幼少時代がとても美しく描かれた作品で、このうえなく素晴らしいものです。これは、川田氏おすすめの一冊でもあり、胸をはって推薦できる本です。


「グリムの童話のなかの怖い話」金成陽一 (大和書房) ★

 ちょっと前に、「本当は怖いグリム童話」という本が流行りましたが、それより面白かったです。グリム童話は残酷な話が多く、当時の実話に基づいて書かれたもの、性的な話もあったようです。また、教訓的で謎解きのような話もあり、この本で紹介している話の中でとても興味深い話がありました。
 金成さんという筆者は、「何度読み返しても、なぜ物語の登場人物が全員死んでしまわなければならなっかたのか、全く納得がいかない」と書かれていましたが、答えは明快です。でも、非常に深〜い教訓でした。。背筋がぞぞっときました。さあ、みなさんも一緒に考えてみましょう!!

「しらみとのみ」<KHM30>


「白夜」 渡辺淳一 ★★

 新潮文庫、全5巻。渡辺淳一が北大時代から医大へ再受験、医師から小説家へ転向していく過程を追った自伝的小説です。渡辺淳一って「失楽園」とかちょっとエロエロ(笑)なイメージだったのですが、非常に読ませます。書店で在庫がなかったため、取り寄せたところ、「全5巻ですがいいですか?」と店員に言われ内心ぎょっとしましたが、そんな心配も空しく、あっという間に読了できました。約30年から40年まえを舞台にしていますが、医療現場に関する一種、暴露本的要素もあり、非常に興味深く読めました。私小説ってとかく叩かれやすい傾向があるようですが、やっぱり筆者自身(らしい)のことを書いた作品は迫力があるし、いいですね。


「遠き落日」 同著 ★★★

 同じく渡辺作品ですが、この作品は10年ぐらい前に映画にもなった作品なので有名ですね。吉川英治文学賞を獲った作品のようです。野口英世のことを書いたものです。子供の時、必ず読まされるのが野口英世の伝記ですが、医者になるまではなんとなく知っていたものの、結局何をした人?という疑問がありました。子供ものの、おきれいな伝記とは違って、野口英世がいかに変人であったかが随所に描かれています。金銭感覚がめちゃくちゃだったみたいですね。金銭感覚がめちゃくちゃ、悪く言えば金にだらしない文人といえば、そう、石川啄木もそうでしたね。友達に借金しまくり、踏み倒したそうです。その額、うん千万というから驚きです。
 「遠き落日」は全2巻でしたが、これもほとんどいっき読みできちゃう勢いです。


「女優」 同著 ★★★

 大正時代の舞台女優、松井須磨子と早稲田大学の教授だった島村抱月の実話に基づいた話です。まだ、芸能人ということばがなかった時代、芸人は河原乞食と言われていた時代です。坪内逍遥が、日本の文芸演劇の発展をめざして早大に「文芸協会」を建ち上げたのは日本史などで知られていると思います。
 ずっと前に、田中絹代主演の「松井須磨子の生涯」という映画を見たことがあって、もっと詳しく知りたいと思い読んでみました。この本を読んでいくうちにフランス映画の古典「嘆きの天使」が彷彿としてきました。
 わがままで教養もなく、さほど美しくもない芸人とインテリ教授との恋愛。結局、抱月亡き後、須磨子の自殺という形で結末を迎えるわけですが、愛情関係というのはやはり理屈じゃないんだなあとつくづく考えさせられました。面白かったです。とりわけ、抱月のラブレターは圧巻です。新潮文庫上下刊本です。


「永遠のジャック&ベティー」 清水義範 ★★★★

 中学にはいって初期に習う英語の文体で一貫して書かれたもので、笑えます。20ページ足らずのものですが、中学のときにこういう表現あった、あったという文ばかり・・・。最初は何書いてるんだ?と不思議な思いで読み進めていったのですが、その意図に気付いた瞬間この作品の虜になってしまいました。



「インパクトの瞬間」  同上著 ★★★★★
 
 なぜ、ゴルフのインパクトの瞬間、ぶれてしまうのか・・・。から・・・だからインパクトの瞬間ずれるのだ。で終わり、一見、首尾一貫しているようでしていない。うまく説明できませんが、面白すぎる作品です。これも20ページ足らずのものです。

清水義範作品はたくさーんあって、この2作の面白さを求めていろいろ読みましたが、これに優るものはまだ見つかっていません。もうひとつあげれるとすれば、「国語入試問題必勝法」です。国語の問題集の名前ではありませんのであしからず・・・。


戻る