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《切腹(1962)》
 監督 小林正樹  
主演 仲代達矢 三國錬太郎



 サスペンスは上出来、結末は平凡の、並作。かつては政治性の陳腐さに気づかず、大傑作だと思っていた。平凡になったのは、政治の勝利を肯定的に打ち出し、個人の懲悪が完遂されなかったからだ。ということは、勧善も不完全なものとなったわけだ。
芸術作品の使命は、社会秩序肯定や風潮是認の教科書となることではない。個人的な感情のカタルシスを起こす終着点へ、猛烈な表現力と倫理で折り合いをつけてやることだ。
 悪を勧め、善を懲らすのは日本の映画のながく改善されない致命的な欠陥である。すばらしい復讐を果たした人間のもとに、パトカーが捕縛にやってきたり、何を思ったか復讐者がうなだれて自首したり、あるいは復讐者にえらそうに自首を勧めたり、復讐者が図ったように悪人から大逆襲を受けて最終的な敗北を喫するといったごときである。
 ひとこと―仲代達矢を殺す結末は失敗である。『恐怖の報酬』の失敗から学べ。
次回は、この意味で最高のカタルシスを起こす映画、極大射程を取り上げてみたい。