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《底抜け男性№No.7(1965) 監督ジェリー・ルイス 主演ジェリー・ルイス》
昭和41年の春、青森高校から名古屋西高に転校を果たして、別れたまま行方が知れなくなっている女を捜しはじめた。中村区に引っ越したと、彼女の元同僚に聞いていた。放課後や休日を利用しての捜索は、三ヶ月経っても成果が上がらなかった。行き当たりばったり、目についたアパートを訪ね歩く日々だったからだ。
夏休みにも歩きつづけた。暑気に当てられ、歩き疲れて、名古屋駅前のリバイバル館の前に出た。ジェリー・ルイスの底抜けシリーズをやっていた。しばらく映画を観ていないな、と思った。映画少年がまったく映画から遠ざかって七、八年が経っていた。道を歩きながらいつも泣きたい気分だったので、ひさしぶりに笑いたいと思った。
センスのいいドタバタ映画だった。思い切り笑った。片岡千恵蔵の多羅尾伴内もどきの七変化をこなしながら、お屋敷付き運転手のジェリー・ルイスが、主家から誘拐された少女を助け出すためにスーパーマンになる。神出鬼没、八面六臂の活躍をするさなかにも、爆笑もののギャグが混じる。少女に対する父性愛までにおいはじめる。もちろん、めでたしめでたしのエンディングだ。
すがすがしい気分で映画館を出て、深呼吸し、残りの半日を徒労に終わるにちがいない捜索に費やした。