高く青く孤独なところ

 野球を志した青年の栄光と挫折を描いた、川田文学には珍しいスポーツ小説です。
 淡々とした主人公の静かな雰囲気の中に、ボールのスピード感が妙に浮き立つイメージです。「静」の作品だから、「動」が浮き立つのか、「動」が主体だから「静」が引き立つのか、どちらが正しいのかわかりませんが、野球をしたことがない人間でも十分楽しめる作品だと思います。スポーツ小説ながら、主人公の幼い頃からの純愛と肉欲で結ばれた男女の大人の関係との葛藤もあり、私個人としては意外と性描写の濃密なイメージがあります。
 「挫折こそが出発点」がこの作品のテーマかもしれません。栄光の中にも主人公独得の憂鬱と諦念のようなものが根底にあり、挫折してはじめて本当のすがすがしさを獲得する主人公の様子、感慨深いものがありました。
 果たして、真の成功とは一体何なのでしょうか?充実の一瞬のことかな?



帯文
ライトフィルダ―の憂鬱
野球に生命を賭けた青年の栄光と挫折を描く エポックメーキングなスポーツ小説

―本文より―
走ってゆく、勢いよく走ってゆく。風が耳の両脇で鳴る。強くベースを爪先で蹴って、急角度に方向転換し、また一つのベースを目指して走ってゆく。
野球しかなかった。

(近代文藝社 1500円)04.5.30再版

高く青く表紙

高く青く孤独なところ

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