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《和田アキ子(1971) 天使になれない》



 1971年夏、名古屋に里帰りして、高校時代の同級生の父親が営む今池のパチンコ店でひと夏アルバイトをした。
彼は私と同期の早大生だったので、アルバイトの便宜を図ってくれたのだった。
鍵をぶらぶら提げて、台釘に玉が挟まった客にサービス玉を供給しながらホールを回るというだけの仕事。昼めしはいつも、ソーメン・ライスだった。

ホールには一日じゅう有線が流れていた。黛ジュンの同じ曲が何度もかかった。かならず脚を止めて耳を傾けた曲が二つあった。
和田アキ子の『天使になれない』と平山三紀の『真夏の出来事』。
とくに『天使になれない』は、じっと三番まで聴いた。『どしゃぶりの雨の中で』に代表されるこれまでのさっぱりした歌唱から一転して、情緒纏綿(てんめん)たる歌いっぷり。息を吐き出し切ったあとでひっくり返る裏声がすばらしい。沁みた。

後年、LPのまとめ買いをし、『星空の孤独』という名曲を知った。1968年のデビュー曲だった。曲想がちがうので甲乙つけがたいが、彼女の二双の金屏風ということにしておく。二曲とも巷にあまり知られていない曲である。

彼女のコンサートは『星空の孤独』で〆ることが多いと聞いた。