東奥日報平成14年7月7日(夕刊)



団塊世代の青春文学

川田拓矢著「ブルー・スノウ」青森舞台快い文体 
笹田隆志

郷土の一冊

 昭和二十四年生まれの作者自身とおぼしき<ぼく>は、名古屋にいた中学二年のとき。六歳年上の女性と恋愛事件を起こし、追われるように母の手を離れ、野辺地にやってくる。<ぼく>をかばい、あたたかく迎えてくれたのは母の実家の祖父母だけだった。
 女手一つで自分を育ててきた母の意固地なまでの愛に反抗し、引き裂かれた傷あとも癒えぬまま、雪深く木枯らし吹きすさぶエボシ岳のふもとの町で、孤独な転校生の<ぼく>は、次第にささくれだった心を開いていく。けんか仲間や受験勉強を一緒にする友もできたが、やがてひとり野辺地を離れ、太宰治や寺山修司が学んだ高校へ進学する。
 少年から青年への移行期にさしかかっていた<ぼく>は、最初に入った下宿で、夏休み帰省した野辺地で、そして再び青森に戻って入った寮で、先輩やクラスメートに囲まれて、幾多の冒険や出会いを重ねながら、脱皮する蛹(さなぎ)のように成長していく。
 中学から高校の二年間で古今東西の名作を読み、「猛勉」とあだ名される数学教師の言いつけどおり猛勉強する。しかし、どんなに成績が上がっても癒されない思いをかかえた<ぼく>は、詩を書くことによって自分と向き合う努力をする。恋人を失ったことに絶望し、自殺を試みる<ぼく>は縊死(いし)寸前に友人のトランペットの音で自生する。
 友に誘われて、水で濡らした手ぬぐいを寒気のなかで回し凍らせ、凍てつく天に突き上げて新しい生を誓うところで、この小説は終わる。このように団塊の世代の青春は、選別されるための競争と自我の葛藤なかでたゆたうのだ。
 この小説を読んでいくと、<ぼく>の担任の数学教師やクラスメートが書評子と同時代の実名で登場していて驚かされる。
 しかし、この小説の特徴は、団塊世代の青春に特有な酒や煙草の匂(にお)いがこびりつき、怠惰な生活に明け暮れた、あのどろどろした臭みが全くない点である。川田拓矢の文体は、けれん味がなく、澱(よど)みのない清流のごとくであり、清潔感あふれる力強さ、快さを読後感として味わうことができる。
 梅雨の蒸し暑さに耐えかねた書評子は、川田文学の清涼感が恋しくなり、慌てて旧作を買い求め、週末を温泉場の緑陰でたっぷり読書して愉(たの)しんだ。
 (「北狄」同人、青森市)※「ブルースノウ」は近代文芸社刊、一八〇〇円。

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