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《浮草(1959) 監督 小津安二郎 主演京マチ子》

 

 京マチ子がなつかしくなったら、この映画か、市川雷蔵の『濡れ髪牡丹』を観る。彼女は私の中で世界一のセクシー女優である。清潔な愛らしさもナンバーワン。京マチ子という女優は、宇野重吉と共演した『痴人の愛』で初めて知った。かわいらしい丸顔と、脚の美しさに驚いた。彼女もいつか風化して骨になると思うと、つらかった。

小津ものは、紙のように薄っぺらい科白まわしのせいで、どうしても好きになれないので、彼の映画を観るときは内容にこだわらないことにしている。この映画の場合も、京マチ子が出演していればそれでよかった。ただ、『浮草』は小津作品の中では紙っ気が最も少ないものであり、最も男と女の切ない感情に近づいたものでもある。何年かにいっぺんは観直す。

雨の降りしきる道を隔てて、京マチ子と中村雁治郎が罵り合う距離がすてきだ。その道の隔たりが、どうにもならない男と女の距離だ。近くて、遠い。