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《ヴェラ・リン(1943) We’ll Meet Again》
からだがふるえ、涙が湧く佳絶な曲。第二次大戦中、死地へ赴く兵士たちに向けて、慰問先で彼女がかならず歌った希望の歌。
また会えるでしょう
どことはわからないけれど
いつとはわからないけれど
きっと私たちは
明るく晴れた日にまた会えるでしょう
この曲を『博士の異常な愛情』という映画の、原子雲が巻き上がる絶望的なエンディングで聴いたとき、私はその場にうずくまりたいほど戦慄した。生涯の一曲になった。肺活量豊かな発声、泣くような独特のビブラート。完璧な唱法だった。
オリジナルサウンドトラックだと思っていたが、ちがった。また、ふくよかな美人が歌っているものと思っていたが、これまたちがった。大造りな目鼻立ちの、少し歯の反った痩せた女だった。その齟齬に趣を感じた。
ジュリー・アンドリュース、ヘイリー・ウエステンラ等、ヴェラ・リン以外の歌手も多々歌っているが、鬼気迫る穏やかさとでも言うのか、恐怖まで起こさせる神秘的な歌唱のできる歌手は彼女のほかにいない。みな単なる美しい歌になってしまうのだ。
リンは今年98歳になった。忘れられる日も近い。永遠に忘却されないことを願って、一文を記しておく。