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《五木ひろし(1974) 別れの鐘の音》

 五木ひろしの《これ一曲》。

 早稲田を出たあと、入籍もしていない女の実家に居候していたときに、近所の五木ファンの老人に借りたLPの中から発見した。ふるえた。こんなふうに五木ひろしが歌えるとは知らなかった。そのLP全曲の中で一曲だけ異質のメロディラインと喉使いだった。入れこんで歌っていた。
作曲が平尾昌晃と知って納得した。かの名曲『おもいで(1961)』の作曲者だったからだ。66年か67年にデビュー当時の布施明が絶唱した。ピンキーとキラーズが一世を風靡していたころだ。

 その老人は翌日、レコードを返してくれと催促にきた。よほど大事なものだと思い、礼を言って返した。それから何ヶ月も経たないうちに、彼は亡くなった。ステレオと自前のレコードは持っていたが、買い足すことなどできない困窮時代だったので、またレコードを借りにいった。生き残った奥さんは、レコードは形見だからと言って、貸してくれなかった。

 晩年、中古レコード屋で傷だらけのLPを手に入れたが、雑音がひどくて聴けたものではなかった。それでも感動した。五木ひろしは、コンサートの最後はこの歌で締めることが多い、とのちに聞いた。