百九

「プレイボール!」
 アンパイアの声がするどく空に昇った。吉岡が胸を張ってボックスへ歩いていく。アンパイアに帽子を取って礼をする。私はあれをやったことがない。去年の夏も、私もチームメイトも一度もやらなかった。あれをやると神経が散漫になるし、審判も応答に困るだろう。相馬に訊く。
「あれは礼儀としてやるべきなんですか」
「要らない。高野連も、打席に入る前の球審への礼をあまりやってほしくないようだ。試合前の整列でも挨拶をしないようにという通達を出してる県もある。ルーティンでやる高校が多いが、禁止することはできない。吉岡は気を引き締めるつもりでやったんだろう」
 室井の目が確かならば、吉岡の三振はない。当たってきたということは、好球を選択できるということだからだ。吉岡の足がふるえている。手柄を上げようとしている。
「吉岡さん! まず、三振しちゃおう!」
 私はとっさに叫んだ。手柄と関係なく何でも振ってやるという気持ちになってくれれば大成功だ。吉岡は下がり眉でこちらを見た。意気阻喪した顔ではなく、冗談じゃないという表情だった。初球、外角へカーブ。ストライク。二球目、内角へ浮き上がる直球。ボール。よく見ている。三振はない。三球目、また外角へ逃げていくカーブ。ボール。
「ナイス、セン! ナイス、セン!」
 私は声を張った。次は長打になると確信した。四球目、真ん中低目から浮き上がる直球がきた。シンプルな配球だ。吉岡は上がりハナを思い切り叩いた。レフトポールに向かって舞い上がった。ファールか。いや、切れない、切れない。
「おい、いったぞ!」
 相馬が叫ぶ。金網にぶつかる音がした。レフトの一年生線審がポールに向かって両足を四股(しこ)のように踏ん張って確認すると、右手をグルグル回した。吉岡が飛び跳ねるようにして一塁ベースを回っている。
「ウソだべや!」
 ベンチの連中が叫びながら飛び出した。真っ先に飛び出した室井に私もつづいた。吉岡は石のベンチ前で手荒い祝福を受けながら、私に向かって抱きついてきた。
「金太郎! おまえのひとことでふるえが止まったじゃ!」
「初ヒットが初ホームランか!」
 相馬に尻をこぶしでどやされる。三振しちまおう! とベンチが怒鳴り合っている。二番打者の金が、三振しちまおう! と叫んで飛び出していった。ひょうきんな男だ。バットでセンターを指している。ベーブルースのまねだ。二球つづけてすごい空振り。出っ歯でない小山田さんが懲りずにセンターをバットで指す。三球目、外角へ逃げるカーブ。ブン! 運よく当たった打球がピッチャーのグローブをすり抜けて、センター前へ転がっていった。バットを指した方向なので、予言にまちがいはない。ベンチが大笑いになった。弘前ベンチも笑っている。ブラバンのかしましい演奏が聞こえる。ずっとつづいていたにちがいない楽器の音がいま聞こえてきた。ひどく緊張していたことがわかった。
「山内さん、第二号!」
「オッケ!」
 山内はじっくり選び、ツースリーまで粘った。ホームランを狙っている。その覇気はベンチの全員に伝わった。宮中のデブシのようなタンク型の全身から気力がみなぎる。顔はベン・ケーシーだ。その不釣合いが何とも言えない。
 残念なことに六球目は内角に落ちるシュートだった。打てばサードゴロゲッツーだ。思い切り掬い上げた。ギシッとバットにヒビの入った音がした。フラフラと上がったボールが意外に伸びていき、レフトが二・五メートルのコンクリートフェンスに手をかけた。ベンチがざわめいた。
「これもいったが!」
 小笠原がテントから走り出て、ポール方向のラインを見やりながら、入れ、入れ! と叫んだ。打球はジャンプしたレフトのグローブの先にいったん収まってから、ポロリとグランドに落ちた。グローブごと金網にぶつかったのだ。
「惜しい!」
 小笠原が地団太を踏む。しかし捕らなければホームランだった。長打になる。ホームランだと思ってゆっくり走っていた山内はセカンドへしかいけなかった。捕球されると思った金も三塁止まり。ノーアウト二塁、三塁。
 ―このピッチャーのボールは当てただけで伸びるのか。
 そう思いながらバッターボックスに向かった。真ん中から内側にはまずこない。私の打ち方だと、浮き上がるところを叩きつけるのは難しい。掬い上げれば確実にポップフライになる。何も思いつかないまま構えた。ドンチャン、ドンチャン。
 初球、くるぶしのあたりに速いカーブが落ちてきた。見逃せばクソボールだが、得意のコースなので見逃すわけにはいかない。腰を入れて渾身の力で掬い上げた。真芯で捕えた感触があった。真芯だとまちがいなくラインドライブする。ドライブするボールは急速に落下する。白線ぎわへ打球を追うライトの動きに余裕がある。犠牲フライを捕球する動きだ。それがライトの油断だった。予想以上に曲がり落ちたボールは、彼のグローブの先をかすめて抜けていった。私は二者生還を確かめながら二塁へ滑りこんだ。それまでに倍するドンチャンがきた。私はベース上に立ち、味方ベンチにピースサインを送った。応援団の太鼓の連打。三対ゼロ。
「ナイスラン、金太郎!」
 相馬の声だ。弘前チームがマウンド上に集まっている。高々三点、しかも初回でエースピッチャーを代えるわけにはいかない。室井がバッターボックスに入った。五所川原戦ではホームランを打っているが、彼はがんらいシュアな中距離ヒッターだ。三センチほど短く持ったバットを寝かせて低く尻を落とす構えは、阪神の吉田義男そっくりだ。初球、室井は外角のスライダーにバットを水平に振り出し、ライト線へ流した。定位置よりも少し後ろのフライだ。私はタッチアップして悠々三塁へ滑りこんだ。ワンアウト三塁。犠牲フライで一点取れる。四点あれば小笠原も安心して投げられるだろう。私は三塁ベースから大声を上げた。
「柴田さん、バカ振り、バカ振り!」
 筋肉マンのガマがバットを上げて応えた。初球の内角球をヘッドアップするように振った。ボテボテのサードゴロ。アドバイスが裏目に出た。私は一歩も動けない。しかし、わざとサードの真横まで走り出た。と、サードが私の動きに気を取られてファーストへショートバウンドの暴投をした。草野球だ。私が生還して、もうけものの一点。柴田はセカンドへ走ったが、タッチアウト。つづく七番の木下は、これまた強振してショートライナー。チェンジ。四対ゼロ。
 相馬が手を叩きながら、
「オッケー、上出来! 小笠原、四点くれてやるつもりで投げろ」
「はい!」
「みんなちゃんと守ってやれよ!」
 守備に散った。ほうぼうでフラッシュが光る。左中間の弘高スタンドから校歌演奏が華やかに聞こえてくる。レフトの守備位置から振り返る。男女学生とも劣勢に不満を感じていない余裕のある顔だ。いや、劣勢そのものを楽しんでいる顔だ。野球が弱いのは名門校の証とでも思って安心している。やはりこのチームは勝ち進めないだろう。
 視線をめぐらし、カズちゃんと山口を見やる。手を振り合う。センターの山内と力をこめて遠投のキャッチボール。
「格好いい!」
 黄色い声が青高スタンドから聞こえた。
 相手打線のレベルが低いとはいえ、小笠原は快刀乱麻の勢いで、一回から三回まで打者十一人、シングルヒット二、三振六、内野ゴロ二、外野フライ一で締めくくった。つづく沼宮内が二者連続二塁打、シングルと打たれ、二点を献上した。踏ん張って後続の三人を凡打に抑えたところで、五回から三田につなぐ。
 その間、青高は三回に私のライトへのスリーラン、四回に足の速い四方のランニングホームランで一点を加え、八対二。五回、六回、七回は不発で、私のライトライナーを含め九者凡退だった。やはり七回までにコールドは成らなかった。しかし八回終了時で十点差をつければコールドになる。それが七回コールドの規定だ。
 三田はナチュラルにシュートする速球で、一番からクリーンアップに当たる五回、六回をしっかり抑え、七回裏から佐藤につないだ。佐藤は下位打線を三人でキッチリ抑えた。
 弘高はサブマリンが一人で投げつづけている。八点取られながらも尻上がりに調子を上げている。八回の表は一番吉岡から。ここで一点でも取っておかないと、上位打線に当たる佐藤が六点差を守り切れるかどうか不安だ。できれば四点以上取って、八回裏コールドですませたい。
 ここまで吉岡は二本ヒットを打っていたが、殊勝にもみずから言い出して、七戸に交代することを求めた。七戸が痛々しいほどの緊張顔で打席に入った。青高スタンドから喚声が立ち昇る。この回で決めてくれという叫びだ。
「神無月は七戸を買ってるすけな」
 室井が言う。
「手首の返しのセンスがいいんです。ホームランは難しいけど、常にライナーが打てます」
 一人出ればチームの士気が上がる。どうにか出てほしい。
 ふと、七戸と似たようなスイングをする関のことを思い出した。彼はいまごろ熱田高校で野球をやっているはずだ。デブシ、太田、御手洗、本間さん……軒並になつかしい顔が浮かんできた。彼らはまだ野球と腐れ縁をつづけているだろうか。そして私の噂を遠い空の下で耳にしているだろうか。それはないだろう。人の周りには、永遠に、たまたまそのとき身近にいる人間しかいない。吉岡が呼びかけた。
「七戸、大事にいげよ! 大事に、バシッといげ!」
 情のこもった檄にうなずき、七戸は与えられた一打席を宝物のように扱おうと決意したようだった。初球の絶好球。するどいダウンスイング。こすった。
「アチャー、上げでまったでば!」
 吉岡が叫んだ。私も叫んだ。
「テキサスだ!」
 フラフラと上がった打球がライトとセカンドのあいだにポトンと落ちた。
「ウオー!」
 吉岡が動物のように吠えた。うれしいのだ。
「決めるぞ!」
 相馬のするどい声。彼もこの回で勝負を決めたがっている。コールドの爽快感は麻薬だ。金が相馬に、
「先生、このピッチャー苦手す。当たらないすよ」
「一本目はセンター前へいったろう」
「当たり損ねっす。あとはセカンドゴロばっかす」
「打てる。あいつは一人で投げて、もうくたくただ。ボールが浮いてこなくなった。継投は、あれだぞ」
 相馬の視線の先に、弘高のブルペンで幼い顔をしたオーバースローが、懸命に投球練習をしているのが見えた。悲愴感さえただよっている。責任の重さに耐え切れないのだ。ボールも遅い。登板すれば五点は取られる。
「あれは出せないだろ。こいつの続投だな」
 相馬は私の顔をつくづく眺めた。私は金に向かって、
「ここで決めましょう!」
「オーシ!」
 金は、ぐるぐるバットを振り回しながらホームベースに近づいていく。懲りずにセンターをバットで指す。青高ベンチに明るい笑い声が上がる。二球当たり損ねのファールのあと、外角にゆるいカーブがきた。金は思い切り振った。しっかり捉えた。
「よし、抜いた!」
 右中間に白球が飛んでいく。大柄なからだが一塁を蹴る、俊足の七戸が二塁から三塁を回って一挙にホームインする。金が二塁に滑りこんだ。九対二。ものすごい歓声。つづく山内の打球が左中間を抜けていく。
「よーし、またいったァ!」
 金がホームインし、山内がセカンドに滑りこむ。十対二。神無月コールが始まる。
「神無月!」
「ホームラン!」
「神無月!」
「ホームラン!」
 静かな弘高の応援スタンドも私のホームランを望んでいるような気がしてきた。相馬が、
「金太郎さん、ツーランで十点差コールドだ。頼むぞ。八回裏は佐藤がぜったい抑える」
「はい!」
 もう一度青高スタンドの脇を見る。はっきりと赤い服と黒い学生服が見える。あそこに流して記念のホームランを打ちたい。帽子をしっかりかぶって、ゆっくりバッターボックスに向かう。
 ―外角高目を踏みこんで打とう。少しバットを遅らせて、全球狙ってみよう。
 二塁打、ホームラン、ライトライナー、きょうの私はすべて内角を打った。内角に強いとわかった以上、サブマリンはもう一球も内角を投げてこないはずだ。代わりがいないとはいえ、ここまで十五本以上もヒットを打たれながら、ヤケも起こさず、黙々と七回も投げつづけている。表情一つ変えない生白い顔。引き結んだ唇。試合終了のとき、彼と握手しよう。


         百十 

 初球、外角低目、ぎりぎりストライク。二球目、外角に高く外れるボール。三球目、顔のあたりへすっぽ抜けのカーブ。まともに勝負するつもりはなさそうだ。もう内角でも外角でもかまわない。次にきた球を打つ。四球目。だめだ! ベースのはるか前で無常にワンバウンドする。ワンスリー。ベンチがざわめき、スタンドがどよめいた。みんな私のホームランを見たいのだ。ピッチャーが冷静な顔でボールをこねている。歩かすか。ホップをきかせたボールを投げて空振りを取るか。いや、もう彼のボールはホップしない。うまく空振りを取れたとしても、次に投げる球は? 悩んでいる。
「金太郎、歩いてもいいぞ! あとで室井と柴田が浚うから」
 相馬のこの声援は効果的だった。歩かせてなるものかと、サブマリンがめずらしくキッとした表情を顔に出した。キャッチャーがマウンドへ走っていき、何か相談し合う。サブマリンが力強くうなずく。勝負と決まったようだ。それでもズバリとはこない。くさいストライクゾーンにくる確率が高くなった。
 サブマリンは南海の杉浦ばりに腕を高く引き上げ、からだを水平にして上半身を回転させた。かなり外目に渾身のスピードボールがきた。瞬間、レフトへ打つのをあきらめ、左手のカブセを意識しながらボールの少し下を狙って叩きつけた。
「よっしゃ、いった! よっしゃあ!」
「いったー!」
 ベンチの合唱だ。打球がセンターの右へ伸びていく。二、三歩追いかけてセンターが背中を向けて止まった。ボールが金網を越え、新設の簡易スコアボードの向こうの木立に消えた。一瞬静まり返ったグランドが、たちまち大歓声と太鼓の音であふれ返った。一年生のライト線審が右中間へ走っていきながら右手を回している。一塁を蹴り、二塁を蹴り、赤いブラウスと黒い学生服のカップルに手を振る。大歓声を耳に三塁を回る。ホーム前に並んだチームメイトと手を拍ち合わせていく。間断なく光るフラッシュがまぶしい。相馬に腰を叩かれた。
「ナイス、ホームラン!」
 春には恐ろしげに感じたガクランたちが空手のパフォーマンスで踊り狂っている。ブラバンが惜しげもなく演目を変えていく。十二対二。これで八回の裏が無事終わればコールドだ。
「ノーアウト、ノーアウト!」
 ベンチの叫び。あと何点入るかわからない。ようやくサブマリンはブルペンの紅顔の少年に交代した。私はベンチに戻っていくサブマリンの背中に声を投げた。
「ナイス、ピッチング!」
 彼は一瞬振り向き、帽子を取った。
 室井が打席に立つ。室井がショートゴロでアウトになった。マウンドの少年が得意げに外野に向かって指を一本立てている。私はほとんど試合に興味を失い、グローブに何度もこぶしを叩きこんだ。スコアボード係をしていた弘前高校の補欠が走ってきて、
「ワ、ネロメといいます。このホームランボールもらってもいいですか」
「ニャロメ?」
「んにゃ、根路目(ねろめ)です。根っこの根、道路の路、まなく玉の目です。飾って励みにしてんです」
「いいよ、持ってって。きみはバッターか」
「はい。ホームラン、打でるバッターになりてんです」
「素振り、二百本。それ以上は腱鞘炎の危険が出てくる。がんばってね」
「はい!」
 彼はバックネット裏を走って一塁側の自軍テントのほうへ去った。ボールを友人に預けると、金網の外に出てスコアボードへ走っていた。
 柴田が高いレフトフライを打ち上げた。ツーアウト。七戸に打席を譲った吉岡の気持ちが伝染したのか、ここまでノーヒットの一塁手木下が相馬に申し出て、控えの長身梶田に打席を譲った。一年生の梶田が初打席に立った。私は叫んだ。
「低目を打て!」
 梶田は二球つづけて低目を見逃し、高目を打って浅いセンターフライに倒れた。打席を譲った木下が、さびしそうに言った。
「金太郎、低目は打でねんだ。膝に目がついてねすけな。ほとんどのやづは低目を捨てて高目打つんだ」
「低目の素振りを何千回もやれば、そういうからだに仕上がりますよ。勘で打てるようになります。佐藤さん、きょうはレフトフライが一本も飛んできてません。弘前に長打力のあるやつは一人もいないんで、高目を投げてやってください。外野フライ三つで終わらせましょう」
 私はレフトの守備位置へ全速力で走っていった。両軍の応援スタンドまで十メートルもない。いちばんうるさい場所だ。弘前の応援団が生徒たちに校歌を斉唱させている。ブラバンの響きのせいで背中がくすぐったい。
 一点でも返されれば、九回まで続行だ。観客は喜ぶけれども選手は疲れる。レフトフライが飛んできた。片手でキャッチする。セカンドへ意味もなく矢のような返球をする。スタンドが拍手喝采になる。右投げに換えた肩が鉄砲肩だった幸運。この幸運を大勢の人びとに目撃してほしい。ただ、いまのようなスタンドプレイはみっともない。
 左翼線のヒットが私の右を抜いて、出入り口金網の裾に打ち当たった。肩を見せるにはおあつらえ向きだ。今度はスタンドプレイではない。あまり弾まないクッションボールを拾い上げ、セカンドへ矢のような送球をする。ゆうゆうタッチアウト。二塁塁審のジャッジの手振りがみごとだ。
「ホオー!」
 というため息がスタンドを埋める。つづいてそれに倍する拍手。最後の打球は四方の頭上に上がったショートフライだった。
「ゲームセット!」
 審判の右手が挙がる。勝利のあとの整列。ホームベースへ駆けていき、弘前チームと向かい合い、礼をする。美しい制服の審判団にもルーティンの礼。サブマリンと真っ先に握手する。
「ほとんど、出会いがしらでしか打てませんでした。球種をもう一つ増やして、あと五キロでも速くなれば、県を代表するピッチャーですね」
「とんでもね。天才というものを初めて見たす。ありがとございました。いい思い出になりました」
 いろいろな選手が握手してくる。あのホームランボールを進呈した補欠が腕を握った。
「素振り二百回、がんばります。トーナメントでまた対戦できることを祈ってます」
 カメラが走ってくる。茶色い顔の男たちは、きょうもいち早く姿を消していた。弘高の監督がやってきて相馬と握手し、私にも握手を求めた。
「あのスイングはまねできません。あなたの集中力だけを学ばせていただきました。後進の指導に役立てたいと思います。おたがい夏の大会、がんばりましょう」
 エール交換の演奏が聞こえてくる。相馬の先導でスタンドの前へ走っていく。両チーム並んでスタンドに向かっているのがおかしい。カズちゃんと山口に手を振る。山口がガッツポーズをとった。カズちゃんはひたすらやさしくうなずく。
 スタンドの右端に石崎と並んで西沢がいた。西沢を見つめると、立ち上がり、頭の上で拍手した。石崎は坐ったまま拍手しながら、さびしそうに微笑んだ。西沢と石崎の左脇に去年の五組の連中が寄り添うように坐っていた。帽子を取って振った。古山をはじめとする男連中が立ち上がって、
「神無月、よぐやった、甲子園頼むど!」
「小笠原、おめ、そたら能があったのな!」
 木谷と鈴木睦子がしきりに拍手していた。校歌斉唱。みんなの声に合わせて唄う。唄い終わると全員揃って礼をし、新聞記者やデンスケにつかまらないように、猛スピードで部室へ走った。その部室はすでにマスコミ関係者であふれかえっていた。私たちを見ると固まって押し寄せてきた。
「四試合で十本。まるでホームラン製造マシーンですね。中京商業と早稲田実業のスカウトが観戦にきていましたが、誘われたら、越境入学をしますか」
「しません。青高で全力を尽くします」
 別の記者が、
「プロのスカウトが二人きておりました。サンケイと中日でした。彼らは今年の夏、来年の夏ときますよ。来年はほとんどの球団がくるんじゃないですか。プロへ進むことを視野に入れてますか」
「もちろん入れてますが、いったん迂回して、大学へいきます」
 部室がどよめきで揺れた。小笠原がうなだれて聴いている。また別の記者が、
「高校でのプロ入り拒否には、進学以外の理由はありませんか?」
「ありません」
「大学野球に拘る理由は?」
「まだ基礎体力も足りませんし、技術も未熟です。このままプロにいって二軍で鍛えられるよりは、大学の実戦の中でじっくり鍛えて、プロの即戦力になれるようにしたいからです。それに、プロの勧誘には不文律のようなものがあります。大イベントを通過しないかぎり、つまり甲子園出場を決めないかぎり、誘いの手を出し渋ります。さもなければ、言わば甲子園以外の運動場にいる目立った選手をジンワリと追跡するだけです。全国区でない選手は、ましてや北国の一介のスラッガーごときは、プロとして注目に値しません」
「もっともらしいお答えですが、理屈として納得できませんね。甲子園を経ずに高校中退でプロ入りする選手もいないわけではありませんし、神無月選手はすでに全国区です。しかも、北海道東北からもプロ野球選手は大勢出ています。やはり、進学以外にプロ入りを拒む重大な理由があるんじゃないですか。たとえば、どこか痛めているとか」
「全身、健康です。大学進学以外に理由はありません」
 とつぜん一人の記者が叫んだ。
「やめたまえ! 個人には事情というものがある。プロ入りを急ぐかどうかは個人の自由だ。最終的にプロに進む意思があるなら何の問題もないだろう」
 相馬が痛切な面持ちで、
「お話しておかねばならないことがあります。……じつは、神無月には親族の反対という致命的な障害があります。彼の野球は、この夏で一時中断されます。これ以上は申し上げられません」
 そう言って、相馬は私の肩を抱いた。私は感謝の気持ちをこめてうなずき、それから学生服をダッフルに詰め、ユニフォーム姿のまま部室を出ようとした。記者たちが追ってきて出口を塞いだ。マスコミに対する私の逃げ腰は、彼らのよく知るところだが、相馬の思わぬ通告にどの顔も蒼白になっている。
「どういうことですか!」
「もう少し詳しくお話ください!」
「野球をやめるということですか?」
 私はもう一度長椅子に戻って腰を下した。
「―仕方ありません。みなさんにも、チームメイトにも初めてお話します。……ぼくはこの一学期を終えると、名古屋市のある高校の転入試験を受けることになっています。野球をするためではなく、生活を勉学一本にするためです。すべて、母の意向です。ご存知のように、未成年者が親に反対された場合、プロ球団でも手の打ちようがありません。ぼくは母子家庭の環境で暮らしてきました。母親のぼくに対する拘束力には尋常でないものがあります。反撥しろとおっしゃるかもしれませんが、いままで反撥してきた結果、ぼくが名古屋ではなくここにおり、そしてここに長居できずに名古屋へ去らなければならないと言うに留めておきます。最終的に、野球を再開するために、ぼくはここを去ります」
「解せないですね!」
「もっと深い事情があるんじゃないですか!」
 私のしゃべったことを決して信じたくないという激高ぶりだ。
「重大発言ですが、記事にしてよろしいでしょうか」
「はい、でも記事にするならば、母のことはぜったい書かないでください。大学であらためて野球への情熱を燃焼させたいというぼくの密かな計画が、すみやかに崩れ去る危険があります」
「高校からプロ野球へはいかないということでしょうか」
「はい。いまは母の意向を尊重して、現時点でプロ入りを遅延せざるを得ないということです。大学入学以降に命運を懸けます」 
「そのとおりだ! きみは万難を排してプロへいくべきだ!」
 さっき叫んだ記者が言った。
「あなたに惚れました! 私、東奥日報の浜中と申します。折に触れ、名古屋へでも、どこへでも取材にまいります。勉強に邁進する生活を乱すようなことはいたしません。とにかく、あなたの人生を追跡させてください。母親に蹂躙された野球人生が、ようやく戻ってきたんじゃないですか。その僥倖にあなた以上に感謝しているのは、私たち野球ファンですよ。あなたはまちがいなく日本を代表するスラッガーになる。見守らせてくださいよ、見守りたいんですよ。優勝なんか、甲子園なんか、どうでもいい。五年後でも、十年後でも、あなたはプロ野球のグランドに立つべきです。私は見守ります。大学へいこうと、社会人野球へ進もうと、見守りつづけます」
「ありがとうございます。その言葉、一生憶えておきます。一年半のあいだ、自分というものの存在意義を見つめて生き直すことにします。勉強をし、本を読み、人間関係を深めながら。くどいようですが、野球は大学でかならず再開します」
 もはや、どの記者も驚きの表情を収めていた。チームメイトも穏やかだった。熱血漢の記者が、
「じゃ、平凡な質問に切り換えましょう。次の青森工業との練習試合が終わると、いよいよ来月の中旬から夏の地区予選に入るわけですが、昨年の準優勝校の中心打者、しかも青森県のホームラン王、三冠王として、今年にかける意気ごみは?」
 デンスケのマイクが差し出される。
「がんばります。ホームランをたくさん打てば、チームの勝利に結びつくと思います。もちろん、優勝を狙います。すみません、そろそろ帰って、ユニフォームを洗濯しなくちゃいけません」
 彼らの真剣な同情と共感がはぐらかされ、ざわざわと和んだ笑い声に変わった。
「じゃ、相馬先生、みんな、またあさっての練習で。お先に」
「オー!」
 仲間たちの空元気の声が返ってきた。戸を出て振り返ると、何人かの記者やカメラマンがしゃちこばった最敬礼をした。私も丁寧な辞儀を返した。月曜日に会える仲間たちが相馬と並んで手を振った。私も手を振った。


         百十一

 相馬のおかげで期せずして、転校のことを肝心な人びとに伝えることができた。伝えながら暗い気分にはなったが、この先のインタビューに関わる面倒くささは一挙に省けた。私は安心してカズちゃんの家に向かった。
 玄関戸を開け、
「愛してる!」
 と呼びかける。
「私も!」
 と応えてカズちゃんが出てくる。
「風呂、風呂。汗ビッショリだ」
「入れてあるわ。いっしょに入りましょ」
 ダッフルを手渡す。風呂場へ直行。湯船で乳房に掌を置きながら、
「トモヨさんに、転校のことを短い手紙に書いたんだけど、返事がこない」
「私に義理を立ててるのよ。手紙のやり取りは、私に秘密を作ることになると思ってるのね。トモヨさんらしいわ。返事をよこさなくても、とっても喜んでるはずよ」
「これからは忙しくなるね」
「いいえ、ふつうにすごしましょ。転校先が決まったら、動きだすわ」
「名古屋西高に決まった。八月七日が転入試験」
「名古屋西高! ……じつはね、西高は私の母校なのよ」
「ええ!」
「びっくりした? そうなってほしいって、薄々思ってたの。うれしいわ、キョウちゃんが後輩になって。……西高はむかしから硬式野球部がないの。非公式な軟式同好会はあるようだけど」
「やっぱりね。おふくろにはまったく関心のないことだな」
「調べもしなかったでしょうね」
 頭をシャワーで洗っているあいだに、カズちゃんは私の足の裏に軽石をかけた。
「キョウちゃんは皮膚が弱いわ。足の裏が硬くならない。陽射しと、汗と、それから虫刺されに過剰反応を起こすようね。よく爪に白い斑点ができるでしょう? 虫刺されもなかなか治らない。幼稚園の校医さんに教えてもらったの。膠原病性エリトマトーデスでしょうって。たぶんお父さんの遺伝ね。四十過ぎたら本格的に発症するかもしれないと言ってた。プロを引退したら静かにすごしましょうね」
「死病なの?」
「そう、発症すればね。全身の皮膚を冒されたらアウトだし、内臓に出たらもちろんアウト」
「ロマンチックだ。死病を抱えてるというのはロマンチックだ。うれしくなる。一度死に損なってるから死ぬのはいつでもいいんだけど、でも、カズちゃんともう少し生きたいから、いますぐは死ねない。ロマンチックだなんてうれしがってる暇はないな。目先のことを片づけなくちゃ。トーナメント、それから転入試験、そして東大、プロ野球」
「ふふふ、そうよね。爆弾を抱えてるだけで、ずっと発病しないかもしれないし、ふだんどおり生きていきましょ」
 湯船に入り、〈ふだん〉のように交わり、カズちゃんの限界に合わせて射精する。〈ふだん〉より少しだけ命を感じた。
 音楽を聴きながら蒲団に並んで横たわっていると、カズちゃんは思いついたように立ち上がり、箪笥の抽斗を開けた。
「浅虫から帰ったあと、すっかり忘れてたわ。ごめんなさい。これ、名古屋に出てからの当座分。五十万円」
 と言って、厚い封筒を手渡した。
「また五十万!」
「何やかや買い整えていたら、あっという間になくなるわよ。そのときはまた補充してあげる」
 翌日、健児荘に戻ると、山口がコーヒーと東奥日報を持ってきた。私のことが特集されていた。今季かぎりで青森を去り、愛知県名古屋市の高校へ転校の予定、とある。大学進学後ふたたびフィールドへ、とも書いてあった。

 
県立青森高校の四番バッター、通称〈金太郎さん〉は、最終打席でホームランを打ってホームインしたあと、交代を言い渡されてマウンドから降板する敵軍のピッチャー丹沢の背中に、
「ナイス、ピッチング!」
 と声を投げた。その声は、不思議な神気を帯びてグランドじゅうに響きわたった。
 希代の野球の天才、神無月郷という飛行物体は、理由はともあれ、彗星のごとく別の宇宙から〈流されて〉当地にやってきて、ひっそりと不時着した。彼の不時着に深い理由があることは、そのミステリアスな面持ちや振舞いから察せられるが、あえて問わないことにしたい。とにかく神無月はやってきて、当地に目覚ましい恩恵をもたらした。私たちは、青森県下に日本一のスラッガーありという、かつてない誇りを得たのである。
 その飛行物体が、ふたたびひっそりと立ち去ろうとしている。神無月が言うには、今季終了後、たとえプロの誘いがあっても受けない、野球はしばらく休止し、大学入学後に再開する、と。
 野球に対するわれわれ庶民の全幅の興味が最高潮に達しているいましか、神無月が野球漬けになるチャンスはないと判断するのは素人考えだろうか。神無月にとってはそうだろう。この〈旬〉を失うと、興味が活性を欠いた生活に集中して、野球に打ちこむエネルギーが減衰する、と判断するのは素人考えだろうか。神無月にとってはそうだろう。
 私は胸が痛んだ。才能がもったいないというおためごかしからではない。まちがいなく、いま旬の神無月は、このまま青森高校で野球をやりつづけたいのだ。不時着して、思いもかけなかった栄光に照らされているあいだに、自分を野球の楽園へさらっていってほしいのだ。そう彼の胸の内を忖度したからだ。
 神無月は、この夏の終わり、彗星の光芒を私たちの網膜に残して、故郷の宇宙へ去っていく。数カ月後、その故郷を逍遥する彼は、背番号7をつけていない。しかしどんな曲折を経ても、彼は野球から離れないだろうと私は信じ、見守りつづける。野球は彼の命であり、希望であり、宿命なのだから。
 神無月はきっと、しばらく休息したのち、彼を快く受け入れる集団の中で野球を再開するだろう。彼の才能は驚嘆されるだろう。そうして私たちはいつの日か、彼をプロ野球のグランドで見出すにちがいない。
 彗星の光芒をこの一夏、しっかり目に焼きつけておこうと思う。神無月郷という光輝体が軌道をめぐり終え、私たちのもとに回帰することを信じながら。


 あの記者が書いた記事だろう。相馬が私を抱き締めている写真が載っていた。かたわらに泣き顔の小笠原と室井が立っている。
「すばらしい記事だ。おふくろさんのことはいっさい伏せてある。切り抜いて、ノートに挟んどけ。野球を忘れないためにな。転入試験まであとふた月もない。和子さんに転校先の高校を教えたのか」
「ああ。彼女の母校だと言っていた」
「ほんとか! そりゃまた奇遇だな」
「すごい偶然だ。……野球部は軟式同好会しかないらしい」
「そうか。さびしい時期に入るな。しかし、おふくろさんの目の届くところで一時中断というのは、かえって都合がいいじゃないか。エネルギーを温存できる。おまえのホームランは芸術品だ。人目にさらす義務がある。義務を果たすまでエネルギーをなくすんじゃないぞ」
         †
 じっちゃから手紙がきた。

 母からの手紙を読みそろ。新聞も読みそろ。自分の生きる道は、自分で決めねばならぬ。しっかり決意したうえで、おまえが名古屋に戻って再生を図りたいと言うならば反対はせぬ。よくせきの事情があってのことならん。婆はおまえがスミとうまくいくかどうか心配しておるが、そういう小さな摩擦で悩むようでは、人物の器が思いやられる。笑い飛ばして生きよ。野球であれ、学問であれ、自分を成就させるよう奮闘すべし。向こうへいっても、ときどき遊びにこられたし。名古屋へいく前に一度面会を望む。

 私はすぐに返事を出した。

 母と暮らすことが目的ではないのです。小学校から野球にまみれて生きてきた人生をとりもどすためです。野球のない生活をしばらく送ることになりますが、けっして捨てることはありません。転入試験の結果が決まったら会いにいきます。向こうへいってもときどき帰郷します。
 
 山田三樹夫の妹からも手紙がきた。

 お祖母さんにアパートの住所を尋き、お手紙をしたためています。新聞を読んで泣きました。神無月さんはいつも苦しい気持ちの中で暮らしていたんですね。何も知りませんでした。そんな中で、兄もあんなやさしい言葉をかけてもらって、天国でどんなに喜んでいることでしょう。切り抜いて、大切にカバンにしまいました。
 私にはどういう精神構造で、神無月さんがあんなにやさしく振舞えるのかわかりません。ただ感謝の心でいっぱいです。
 野辺地高校の一年生として勉強に精を出しています。高校の勉強は難しくてたいへんです。種畜場の秀子さんに会いにいきました。彼女はいま中三で、横山恵美子さんと抜きつ抜かれつのデッドヒートをしていると言っていました。彼女は青森高校に進む予定です。新聞を読んだらしく、青高にいく意味がなくなった、でも青高で勉強をがんばって、神無月さんと同じ大学にいきたい、と明るく言っていました。
 名古屋にいらしたらしばらくお会いできなくなりますね。向こうへいらっしゃる前に一度、野球の応援にお伺いしようと思います。じつはこの案、秀子さんが言い出したんです。試合のあと、少しでいいですから青森の町をいっしょに歩いてください。ユニフォーム姿で。それを思い出に、秀子さんと同様、上京を夢見てがんばります。神無月さんはきっと東京の大学へいくでしょうから。
 秀子さんが言っていました。名古屋へはあまり手紙を出さない、神無月さんが静かに生きるじゃまになる。私は強くうなずきました。この手紙も、神無月さんの時間をむだにします。このへんでやめておきます。では夏の野球場で。
   神無月郷様                             一子

         † 
 夜、カズちゃんのところへいった。
「誠実な記事を書いてもらって、ほんとによかった」
「キョウちゃんに惚れたのね」
「うん、そう言ってた。おふくろのことは書かないでくれと言ったら、きちんと約束を守ってくれた。……野球一色の騒がしさから逃れれば、別の種類の充実がやってくるかもしれない」
「充実するようにがんばらなくちゃね。とにかく気長に構えましょう」
「うん。まず、転入試験に成功しなくちゃ」
「だいじょうぶ、ダントツの一番で受かるわ。定員一人だから、ダントツでなくてもいいんだけど。でも、うれしい。名古屋西高だなんて信じられない。名古屋駅前から市電で五つ目の天神山で降りるの。那古野町、菊井町、菊井通四丁目、押切町、天神山。なつかしいわ。どのあたりに家を借りようかな」
「うれしそうだね。ぼくもうれしくなる」
 胸ポケットから一子の手紙を出す。カズちゃんはゆっくり目を走らせ、
「秀子さんという人はほんもの。かならずキョウちゃんのそばにくると思う。この一子さんは、まだわからない。お線香を上げにいった家の人でしょう?」
「うん、山田三樹夫の妹。ヒデさんは、あの踏切で死んだけいこちゃんの親戚だ。よく似てる」
「やっぱり運命ね。私に似た顔だわ、きっと」
「もっと和風にした感じ。一子は目の大きい平安ふう」
「一子さんの場合、お母さんを克服できるまで時間がかかるでしょうね。応援にきた日の帰りに、二人と青森駅まで歩いてあげればいいわ」
「そうする」
「試験は八月七日だったわね。七月二日が土曜日だから、それを青森で最後の私たちの夜にしましょう。ひと月は野球と勉強にびっしり打ちこむこと。徹夜をつづけちゃだめよ。私、七月二十三日で幼稚園を辞めて、一週間ぐらいかけてこの家の後片づけをするわ。キョウちゃんの最後の試合が終わった七月末に、名古屋に引っ越して、しばらく北村席にいる。転入が決まったら、八月中に西高のそばに家を借りるわ」
「わかった。たぶん、準決勝、ひょっとしたら決勝までいけると思うから、カズちゃんの出発は七月の末だね」
「そうね。三十日か、三十一日かな。じゃ、お風呂入りましょ」



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