十八

 バットケースとダッフルを忘れていないことを確認する。回廊まで迎えに出た警備員や松葉会の組員に従って裏口へ急ぎ、群衆に包まれながら無理やりバスに乗りこんだ。窓の下のファンたちに手を振る。バスが出発するまで彼らは貼りついている。バスが出る。江藤が、
「なんやら、ファンが柔らこうなったばい。バス揺すったり、野次浴びせたりせん。金太郎さんのせいやろのう」
 水原監督が、
「そればかりでなく、野球がおもしろくなったせいですよ。勝てるうちに勝っておいたのはいいことです。第一試合の、チームこぞってのお遊び的な打撃も、また、いまの試合の木俣くんの打撃にしてもそうだったが、勝ってるんだからあまり点を取らなくてもいいじゃないかという遠慮した気分はこちらの事情です。お金を払って観にきているファンの事情じゃない。これからは勝てない試合も出てくる。強いところをファンに見せておかないと、いざというときにファンは希望を持てなくなる。とにかく失点を少なくして、破竹の攻撃で試合を短時間で終わらせてしまうことです。わかりましたね」
「オース!」
 マネージャーの足木が、
「球団本部に神無月さん宛てのファンレターが何通か届いてます。則武のご自宅のほうへお送りしましょうか? それとも本部に置いたままにしましょうか?」
「置いといてください。たとえ五通でも十通でも、ぼくには拷問になるんです。じっくり読んで、返事を書いてしまいますから」
「神無月さんほどの選手なら何千通何万通ときて当然なんですが、キャンプ以来、たった十九通です。畏れ多いと思ってるのかもしれません」
「足木さん、気が向いたときに、ゆっくり目を通しておいてください。特殊な事情があるような手紙は、たとえば例のベーブ・ルースを動かした少年の手紙のようなものは、ぼくに見せずに処理してしまってください。ぼくは人の特殊事情を引き受けてしまおうとするお節介な気質なので、いくら時間があっても足りなくなるんです」
 水原監督が、
「足木くん―ドラゴンズの選手はファンの手紙すべてに目を通している、ただしシーズン中は返事を書く暇がない、オフに鋭意返信する心づもりである―と広報から中日新聞のほうへ連絡しといてくれたまえ。小見出しでコラムを載せるようにと」
「はい、わかりました」
 高木が、
「一軍選手ほどファンレターは少ないんだ。二軍やOBは多い。そして、丁寧に返事を書くのも彼らだよ。一軍選手で奇特に返事を書くことで有名なのは、野村、中西、長嶋。OBでは杉下さん。俺は返事を出すことには反対だな。自分なりの気持ちをしたためて、陰ながら応援していますという、一方通行の気持ちを届けるのがファンレターの本質だと思うからね。金太郎さんの言うとおり、返事を強要したり、特殊事情を押しつけてくるなんてのはもってのほかだ」
 田宮コーチが、
「金太郎さんはプレイでみんなに応えてる。何も心配しなくていいよ。足木くん、忙しいだろうけど、とにかくよろしくね」
「はい。代筆はかえって失礼なので、しないことにしてます」
 太田が、
「俺にもきてますか?」
「はい、何十通も。ファンレターのこない選手は一人もいません」
「寮に送ってください。読むだけ読んでみたいな。ね、菱川さん」
「いや、別に。がんばってくださいなんて言葉、眉に唾つけないと聞けない。実際がんばってるのが見えないの? そんな気になっちゃう」
 車中に同意の笑いが起こる。足木が、
「中さんや木俣さん、高木さんや小川さんや浜野さんには何百通も届いてます。みなさんには、ご自宅のほうに半年ごとにまとめて郵送します」
 小川が、
「女房がいちいち読んで、段ボールで物置にしまってるよ。俺は、応援のありがたみだけいただいてる」
 小野が不思議そうな顔で首をひねり、
「神無月くんにはほんとにそれしかファンレターがこないの?」
 長谷川コーチが、
「人は神秘的な雰囲気に恐れをなすんだな。浜野、もらいすぎだろ」
 浜野は頭を掻き掻き、
「入団以来、月に三百通はきます。俺には大衆性があるってことですよ」
 水原監督が、
「早くその大衆性をなくしたまえ。プロと呼ばれる人間に必要なのは神秘性だ。それと天真爛漫な明るさ。江藤くんは商売を離れてから神秘性が出てきた。彼のファンレターは減ってるだろう」
 足木が、
「そのとおりです。激減しました。彼ばかりでなく、レギュラー陣全員、減りました」
 監督は、
「みんな真のプロに近づいたということだよ。ファンに報いるのは、その神秘性をもってであって、大衆性を掲げてにょろにょろ近づくことでじゃない」
「反省します!」
 浜野が大声を上げる。板東が、
「適当なやつだな。おまえは恐持てのするタレントだよ。俺と同じ愛される中堅ピッチャーとして長生きするだろう。二十勝挙げた年にカリスマに変身するかもしれんが、まあ無理だな」
 別館に到着するとすぐに散会して、それぞれの部屋に戻った。江藤と交代でシャワーを浴び、交代で湯に浸かる。
「バッターボックスに立つ神無月郷の姿には鬼気迫るものがあり、バッターボックスの外で人に接する態度には悠揚迫らぬものがある」
「何ですか、それは」
「スポーツニッポンの有本義明ちゅう解説者が書いとった記事ばい」
「江藤さんは謙虚ですね。北村席のお父さんのスクラップブックで、江藤さんがどれほど偉大な選手であるかを頭に叩きこみました。王が五十五本を打った昭和三十九年に、二厘差で差し切って首位打者を獲り、三冠王を阻止したでしょう。翌年もケガに悩まされながら首位打者を獲りました。あのころのプロ野球はONの寡占状態です。おととしのオールスターでは、二人を前後に置いて四番を打ってます。このひと月半で、自分の目で確かめた江藤さんのすごさがあります。右打者で右投手の外角スライダーを弾丸ライナーで左中間へ引っ張れるのは、プロ野球界で江藤さんただ一人です。右手を返さずにバットのヘッドだけでボールを捉えにいくんです。下半身をしっかり残してね。天才です」
「照れくさかよ。野球は根性でなか、技術やと思っとったけんな。その技術ばあたりまえのように完成させとって、人生懸けて打ちにいく金太郎さんば見て、ワシもすべてを空しゅうして、人生懸けて打ちにいくごつしたとたい」
「江藤さん、今度ギターを弾きながら『ラ・マラゲーニャ』を唄ってください。張本さんがそれを聴いて感動した記事がスクラップブックにありました。それから大河内傳次郎の丹下左膳の物真似、すごくうまいそうですね。いつかぜひお願いします」
 言い終わらないうちに江藤は、
「姓は丹下、名は左膳」
 とぶっ放した。私は思わずほとばしるように大笑いした。
 ルームサービスの時間が終わっていたので、太田と菱川を誘い、めしを食いに出た。出かける前に江藤は、二軒の店に予約を入れた。ブレザーを着た。
 三分ほど歩いて、みっちゃんという赤い派手な暖簾のお好み焼屋へ入った。戦後二十年もやっていると江藤が言う。
「去年一度きた店ばい」
 店内は小ぎれいで、幅広の鉄板のカウンターがすがすがしかった。カウンターの端の四席が予約席だった。頭に白巾を巻いた店員は四人。店主ふうの男が寄ってきて、
「いらっしゃいませ。ご予約ありがとうございました。中日の江藤さまと聞いて驚きました。昨年以来ですね。そちらのお三かたは、神無月さま、菱川さま、太田さまですね」
 二十人ほどの客が気づいてどよめいた。中年の女どもが寄ってきて、私たち四人に触りまくる。店主が、
「やめて、やめて。江藤さんたちの営業時間は終わりじゃ。すみませんね、どうぞゆっくりしてええんさい。焼きはすべてこちらがいたしますけぇ」
 店員の一人が、最敬礼して江藤に色紙を差し出し、サインを求めた。江藤が闘魂と大きく書いて名前を添えた周囲に私たちの連署も求めた。みんなで放射状に書いた。太田―初心、菱川―野球に感謝、私―ホームラン。
「暖簾が相変わらず派手やな」
「屋台を牽いとったころからのものです。これからもご愛顧つかぁさい」
「カウンターがこげん長かったかのう」
「十三人がけです。広島一です。奥には十人用のテーブルもあります」
 江藤が、
「生の中四つ、スペシャル四つ」
「はい、スペシャルはみっちゃんのオリジナルです。ソースは―」
 太田が、
「オタフクですね」
「はい、特注オリジナルのオタフクソースです」
 店主は手つきも鮮やかに、四人分のお好み焼きを焼きはじめる。私たちは生ビールで乾杯し、ごくろうさんと言い合う。太田が、
「レフトの前列に落ちた神無月さんのホームラン、きれいだったな。高く舞い上がって、照明塔の高さを越えるといったん消え、もう一度現れる」
 菱川が、
「看板や場外もすごいけど、ああいうホームランもすごいと思うな」
 焼きそば入りの豚玉を食う。焼きそばと分けて焼いたほうがはるかにうまいとわかったけれども、がまんして平らげる。ソースがうまかったので、私はあらためて単品で、豚玉と、焼きそばと、イカ炒めを注文する。みんな同じ気持ちだったようで、ワシも俺もと注文する。生ビールをもう一杯。
「……とうとう始まったのう。去年の開幕戦は中日球場のサンケイ戦やった。三連戦を二連勝した」
 江藤がしみじみ言う。菱川が、
「一戦目は江藤さんの犠牲フライでサヨナラ勝ち、二対三。二戦目は江藤さんがスリーラン、木俣さんがスリーラン、伊藤竜彦さんがソロ、それぞれ一号を打って、三対八で勝ちましたね」
「おお、今シーズンはいけるて思った。三戦目は十三対八で負けた。まだジャクソンが生きとって、スリーラン打ったな。今年は三連勝か。気を引き締めんばな」
「はい!」
「金太郎さん、長谷川コーチにネット裏の野球教室の話しば聞いとったの」
「はい」
 太田と菱川にザッと説明する。太田が、
「そんな部屋があるんですか。初耳だ」
「若手の勉強の場を設けとるちゅうこったい。十年以上つづけとるが、一向に効果が出んごたる」
 菱川が、
「一軍に学ぶと言っても、学ぶ相手がコマイと感動がないでしょう。感動すれば、なんとかそのレベルまで上がろうとするから、成長しはじめます。井の中の蛙では成長しません。きょうはまったくちがったと思いますよ」
「史上最高のものを見たけんな。続々よか選手が出てくるやろうもん」
 太田が店主に、
「街なかでカープの選手を見かけないけど……」
「野球のない日なんか、袋町公園のすぐ北の本通商店街や、このそばの流川ほうでちょくちょく見ますよ。奥さんや子供連れというのが多いのう」
「市民球場には女性客はほとんどいませんね」
「宮島競艇の新聞片手の、ジャージにサンダル履きの地元のオッサンばかりじゃけぇな。たまにスッピンのスナックのママさんがいるくらいで」
「野次がすごいです。カズヨシ、打てなかったら殺すぞ」
「広島ファンはきびしいですからね。カープはベンチからも味方に野次を飛ばしますよ。打球がフェンスぎりぎりで越えんかったら、もっとめし食え! とかね」
 菱川が、
「そういうのはホッとするし、笑える野次ですね。しかし、最下位の分際で張り切りすぎるなやァ、という野次は口惜しかったなあ。菱川風呂入れーという野次よりね」
 客たちがシンとなった。私は、
「菱川さん、それも笑いましょう。野球をする妨害さえされなければ、ぼくたちは万々歳ですよ」
「そのとおりたい」
 全員食い終わると、江藤はすぐさま腰を上げた。
「うまかったァ! さ、焼肉、いくばい。前哨戦終わり!」
 なぜか店内に拍手が上がる。飲み食いのスピードに驚いたのだろう。客の一人が、
「みなさん、びっくりするほど美男子やのう!」
「あたし、倒れそうじゃわ。どうしよ」
「ご亭主の胸に倒れてください」
 私が言うと別の客が、
「ええ野次や! 拍手!」
 江藤が五千円札をカウンターに置いた。領収書をもらう。私は、
「今度きたときは、焼き物をぜんぶいただきます」
「お待ちしとります。ありがとうございました!」
 店を出てタクシーを拾う。
「うまい焼肉屋へ連れてっちゃる。広島にはまたひと月はこれんけんな。東広島橋のホルモンキング」
 と江藤が運転手に言う。菱川が、
「広島でいちばん有名な焼肉屋ですね。俺初めていきます」
 太田が思い出したように江藤に、
「浜野や板東さんの大衆性というのは、社会性ということですよね」
「ほやな。水原さんが言っとらしたことね」
「はい。社会性がないほど神秘性が出てきて、スターに近づくとすると、スターは庶民には敬遠されるということになりますね」
「そうたい。そして、尊敬されて、崇められる。ひそかに愛されるとたい。それが足木マネージャーの言っとった〈畏れ多い〉の意味ばい。嫌われることやない。そのほうがよかろ」
「はい!」
 運転手が、
「放送聴いとりました。鬼のようなチームがこの世に出てきたね。もちろん、尊敬して崇めますが、いつ負けるのか、それも楽しみになった。双葉山を破った安藝の海や、大鵬を破った戸田みたいにの」
 私は、
「大鵬も連勝してたんですね?」
「先月、四十五連勝でストップしたが、戸田の足が先に出とったことが写真でわかったんじゃ。大鵬には気の毒なことをした。行司はちゃんと大鵬に軍配を上げとったんじゃけど、勝負審判四人が全員それを見とらんで、行司差しちがえにしてしもうた。大鵬は何も不満を言わんで、相撲は完全に自分が負けていた、誤審を招くような相撲をとった自分が悪いと言ったそうじゃ」
「立派やのう! 金太郎さんソックリばい」
 太田が、
「俺もそう思いました。記録にこだわってないんですよ。相撲は完全に負けていたというひとことは、プライドの高い人間にはぜったい言えない。ある種のマゾでないと」
 運転手が、
「神無月選手がマゾというのはおもしろいのう」
「いじめても復讐ばせん。ほやけん、いちばんいじめたらあかん人間たい。あとで恥ずかしゅうなるけん。そうなったら死に切れんぞ」
「クワバラクワバラ。しかし神無月選手をいじめる人なんかおるんかね」
「川上監督やら、評論家やら、身内やら、けっこうおる。東大優勝の祝賀会では、金太郎さんを脳タリンゆうた記者もおったけんな。あんたらもいろいろな記事で見て知っとうやろうが」
「はあ、島流しじゃいうんは、信じられんじゃった」
「そういう紙一重のところにいつもおる男たい」
 菱川が、
「それで、野次ごとき笑いましょう、というわけですね」
「そうたい。とにかくいじめたらいけん。復讐やらし返さんと、面倒くさいなあ言うてサッサと野球界から姿ば消してしまうけん」
「ほんとですよ!」
 太田が叫んだ。
 これも派手な看板のホルモンキングに着き、人目につかないようにすぐ個室に通される。江藤は五千円コースを注文した。
「ここは夜の六時から朝の六時までばい。ゆっくりでくっぞ」
 生ビールで乾杯して、コースの品書きを見る。塩タンさいころステーキ(太田と菱川に譲ろう)、セセリ、コウネ……。
「セセリって鶏の首の筋肉ですよね。明石で覚えました。コウネって何ですか」
「牛の前足の付け根から胸にかけての肉ばい。コリコリしとる。広島県人ぐらいしか食わんて思う」
 牛ロース、特上カルビ、レバー(江藤に譲ろう)、豚ロース、ハラミ(たしか横隔膜のことだったな)、お好きなホルモン二品(太田と菱川に譲ろう)、野菜焼き、ホルモンバーグ……。
「ホルモンバーグ?」
 菱川が、
「ホルモンをミンチして作ったハンバーグ。この店だけのものみたいです」
「ワシはホルモンバーグの材料ばぜんぶ調べた。豚ミンチ、鶏ミンチ、鶏の胸骨の軟骨、ヤゲンゆうらしか。ミノ、小腸、タマネギ、ニラ、ニンニク、ショウガ、卵、塩、コショウ。これを焼いて、塩ダレで食う」
 ライスお替わり自由、玉子スープか、わかめスープ。わかめスープにしよう。

 
         十九

「きのうきょうと、ワシは、金太郎さんに立ち向かうときのピッチャーの投球の傾向ば研究した。ばってん、傾向がまったくなかとよ! ふつう強打者に対する場合、ノーツーかワンツーかツーツーになったら、走者がいなければ―」
 菱川が即答する。
「ストレート」
「ほいほい。走者がいれば、スライダーかカーブかシュート、そのほかいろいろな変化球が多か。ノースリー、ワンスリー、ツースリーになった場合、インコースには―」
 太田が、
「百パーセント投げてきません」
「そんとおりたい。そうやってワシは狙い球を絞り、首位打者ば獲ってきた。金太郎さんに対しては、ほとんどのピッチャーがパニックに陥っとる。傾向がなかとよ。ただバットから遠いところへ投げてきよる。苦手なコースを持たんと、球に芯を食わせ、遠くへ飛ばすんは金太郎さんの天性ばい。ふつうの打者がいくら努力してもまねできん。ほやけんピッチャーが対策を練るにも限界が出てくるっちゃん。変化球のコースや、それを打つタイミングは、金太郎さんはかならず研究し尽くしてしまうけんな。同じ天性のスピードボールで対抗するしかなかちゅうわけたい」
 次々と皿が出てくる。もうもうと煙が上がる。有線に耳を傾ける。平尾昌章の焼き直しのミヨチャン、ドリフターズとやら。軽薄な時代の到来を感じさせる唄いぶりだ。白いブランコ、白いサンゴ礁、白って何だ? 菱川が、
「足の速いのも天性ですよね」
「たしかにそうやが、ピッチャーに与える恐怖としては根本的なものでなか。掻き回すことでチャンスば広げたにしたっちゃ、打たれんば一点も入らん。二盗、三盗、ホームスチールまでされて失点したゆうなら別やが、じつにめずらしかことばい。ふつうは足で掻き回されたこととは関係なく、打たれたことが原因で失点するとたい。外人も怖くなか。大リーガーじゃからとか、実績があるからとかゆうて、不見点(みずてん)で獲得したような選手は大して打てんもんばい。この十年、活躍した外人を考えてみんしゃい。スタンカ、バッキー、どっちもピッチャーたい。スペンサー、これはホンモノのバッターばい。その三人のほかにおらん」
 太田が、
「結局、打って勝つしかないんですよね」
「そういうことや。二十勝ピッチャー三人、天才バッター一人、秀才バッター二人いれば、そのチームは永遠に優勝しつづける」
 菱川が、
「今年からの中日ですね」
「ピッチャーが一人足りん。だから水原さんは、一度だけ優勝したいと言っとるんだ。今年の優勝は骨かもしれんが、来年はもっとラクになる。榊さんが去年から貼りついて、今年のドラフトで狙ってる速球ピッチャーが社会人にいる」
「だれですか」
「日本軽金属の戸板という右の本格派だ」
「戸板! 三本木農業の!」
「知っとるんか」
「はい。高校二年の夏、対戦しました。孤高のピッチャーで、好きでした。百五十キロ近いボールを放ってたと憶えてます」
「いまも百五十二、三キロを投げるらしか。それでいて、コントロール抜群ちゅう話や。プロにきたらもっと速うなるやろう」
 私はからだを乗り出し、
「彼がきたら、しばらく中日の天下ですよ。ああ、実現してほしいなあ」
「戸板を獲れたとして……いずれバッターをあと二人獲らんとのう。ワシも年だ。おい菱川、太田、おまえらがワシレベルのバッターになってくれんといけん」
「がんばります!」
 私は、
「ピッチャーはもう一人ほしいと思いますが、バッターは要りません。江藤さんが五年がんばってくれれば、ぼくと、菱川さんと、太田がバックアップして、じゅうぶん長保ちします。二人はもう大活躍できるレベルです」
 一時間、だれのじゃまも入らず、四人、肉を焼き、ビールを飲み、めしを食い、笑い合いながら楽しい時間をすごした。
         †
 四月十四日月曜日。七時半起床。曇。十七・一度。排便し、シャワーを浴び、ブレザーを着る。窓からコンクリートの街並を眺める。
「自分の田舎もそうですが、日本はどこにいってもその土地特有の景色というものがありません。あるとすれば、ふと気づいて見上げる空の高さとか、小高い岡から見下ろす海の青さとか、たまたま見上げた夜空から落ちてくる雪とか、部屋の窓枠に切り取られた山並や稲田とか、好みのイメージで作り上げた〈風景画〉があるだけです。つまり景色と言ってもパノラマではなく、せいぜい小景です。結局、世界じゅうどこにいっても、見渡す景色なんかないですね。あるのは空と、水と、地面にヒゲみたいに生えてる植物と建物だけ……。人間は人間にしか感銘できないんですよ。顔と思想。それがまぶたと脳味噌に映るほんとうの景色です。朝日や、夕陽や、月夜や、星空じゃありません。人間がすべてです」
 江藤はいい喉で軽快に唄っていた鼻歌をやめ、
「どうした、金太郎さん、人恋しくなったと?」
「なったんじゃなく、いつも恋しいんです。きのうの三本木農業の戸板というピッチャーのことを聞いて、彼のことを景色として一日も忘れたことがなかったと気づきました。人間のことなら、毎日だれのことも忘れない。日や月や草や木のことは、毎日忘れる。そんなものに美を見出して生きている人たちの気が知れない。江藤さん、ぼくは江藤さんのような人と暮らせて幸福です。ぼくの景色です。これからも景色でいてくれませんか。ぼくも江藤さんの景色になります」
「おお、いつでん景色のごつ、そばにおるぞ!」
 江藤はがっしり私を抱き締めた。
「シーズンオフには博多にきてくれよ」
「いきます。今年は青森にいきますが」
「おお、いつでんよか。とにかくきてくれ」
 ロビーが新聞記者とカメラであふれている。一般客もごっそりいる。きのうが連戦最終日だったので、きょうは特別に入館が許可されたようだ。マイクとデンスケが見えないので安心する。いや、柱の陰から竿マイクを捧げた男女の一団がひょいと現れ、早足で近づいてきた。漁夫の利にありつこうとする記者たちもくっついてくる。
「HTV広島テレビです。少しよろしいでしょうか」
 女子レポーターの前に太田と菱川が立ちはだかる。江藤が、
「五分!」
 テレビ局の男女たちはたちまち笑顔になり、
「ありがとうございます。手短にすませます。では、江藤選手からお願いいたします」
 江藤が、
「ワシらはよかけん、金太郎さんだけにしなっせ」
 RCCというマイクを持った一陣も後ろに控えている。
「ありがとうございます。じゃ、遠慮なく。では、プロ初ヒットがホームランの神無月選手、おめでとうございます」
「大先輩高木さんも、プロ初ヒットがホームランでした。ところで、今年初ヒットの江藤さんも、ホームランでした」
「ワシはよかよか」
 マイクの前で手を振る。
「初球の危険球をものともせず、みごとに照明灯まで弾き返しました。あのときはどんなお気持ちでしたか」
「逆方向にしてはよく飛んだなと」
「危険球には驚きました」
「プロの洗礼です。江藤さんや水原監督たちが怒鳴りながら走ってきたのを見て、口はばったいですが、愛されてると実感しました。……うれしかった。王さんがバッキーにデッドボールを食らったとき、長嶋さんは乱闘に参加せずに、冷静にホームランを打った。あれを褒める人が多いようですが、ぼくは長嶋さんが王さんを愛していなかったんじゃないかと思います。これも口はばったいですが、少なくとも立派な行為とは思えません。……これからも危険球を投げられることがあると思います。プロの基本は守りではなく攻めですから。いちいち腹は立ててはいられません。問題は乱闘です。乱闘が起きたら、ぼくは率先して参加しそうで怖いんです。腹は立たなくても、根が粗暴なので、歯止めが効かなくなるんじゃないかと」
「そういうコメント、初めて聞きました。ふだんのご様子から、暴力的なかたとは思えませんが」
「ぼくは、全体の利益のために自分の名誉を汚す臆病な人間が許せないんです。臆病だった自分の幼いころを髣髴とさせるので、悲しくてがまんがならない。自分の技量でぼくを打ち取ればいいだけのことなのに、駆け引きの一部として相談し合って、悪さという形で名誉から身を引くわけです。とにかくぼくは、いざとなると、ファンを幻滅させるほどの怒りを爆発させてしまうにちがいないと思いますので、懸命に自重します」
 記者たちが猛烈なスピードでメモをとっている。
「……見ていて恥ずかしくなるほどおきれいな神無月選手の口から、思いも寄らない激しい言葉を聞いて、全国のファンもまた、ちがった意味で大きな魅力を感じたことと思います。ただ、暴力は神無月選手に似合わないので、他球団のバッテリーのかたがた、どうか神無月選手を刺激しないようにお願いいたします。さて、チームは三連勝、ご自身は八本のホームラン、この二日間を振り返っていかがですか」
「プロ野球選手としての初めての二日間、何もかもめずらしく、場ちがいなところにいるというか、別の世界に入りこんだ気がしました。でも野球場こそ、少年のころからのぼくのあこがれの場所だったんです」
「江藤さんはじめ、みなさん暖かくうなずいていらっしゃいます。野球場はまちがいなく神無月選手にふさわしい場所です。あしたからジャイアンツ戦です。ひとこと抱負をお願いします」
「まず、純粋に野球人として尊敬している長嶋さんと王さんのバッティングをじっくり見て楽しみたいと思います。あとは国松さんのさりげなく長打を放つミートバッティングにも期待しています。味方が劣勢のときの川上監督の貧乏ゆすりも見てみたいし、バントが何本出るのかも見ものです」
「どうもありがとうございました」
「どういたしまして」
 オーケー、という声と大きな拍手がテレビスタッフから上がった。
 フロントに鍵を返し、郵送の荷物が部屋に積んであることを告げてから、四人で一般の朝食会場へいく。レギュラーたちの顔は見えるが、監督・コーチ陣の顔はない。一足早く引き揚げたようだ。和定食。和やかに箸を動かす。太田が、
「神無月さん、江藤さん、暴力は俺たちにまかしといてください。大物は泰然としていなくちゃいけません。何があっても、じっとしていてください」
 江藤が、
「わかった。金太郎さんのバッティングの記録を途絶えさせるわけにはいかん。ワシが暴れれば、金太郎さんもかならず暴れる。ワシはじっとしとる。みんなも暴れさせんようにする。金太郎さんもじっとしとれよ。だいたい暴力ゆうんは、陰険でヤケッパチなものになるけん」
「はい。睨むぐらいはするかもしれません。特に、監督と参謀のキャッチャーを」
「おお、よかよ。金太郎さんに睨まれれば、すくみ上がるやろ」
 菱川が、
「ピッチャーは?」
「睨みません。監督の傀儡になる臆病さは悲しいですが、悲しい人間を睨めません。菱川さん、帰りに北村に寄って、バットを十本持っていってください」
「ありがとうございます! 十本は多い。三本ぐらいいただきます」
「あしたの巨人戦は、一時でしたね」
 太田が、
「そうです。ホームなので九時四十五分からフリーバッティング開始です。先発は、たぶん山中さん。浜野かも。巨人はわかりません。初戦は金田、若生、宮田、二戦は堀内、三戦は倉田、渡辺、吉村ときたので、あしたは高橋一三あたりかなあ。二勝一敗できてるから、あしたは勝ちにくるでしょ」
「巨人はあしたで四連戦てこと?」
「はい、疲れてますよ。長嶋は出てこないでしょう。この二、三年、春先の連戦のときはかならず長嶋を休ませますから」
「どのくらい休むの?」
「三、四試合です」
「大事にされてるんだね」
 江藤が、
「……長嶋は王を愛してない、か。ようわかるばい。長嶋は王にかぎらず、だれも愛せん男たい。オールスターでいっしょにプレーしとっても、いっちょん温かみを感じれんかった。ヌケ上がっとると言えばそれまでなんやろうが、金太郎さんのような、やしゃしか人間性ば感じれん。フアンレターの話しばしよるとき、水原監督は神秘性に加えて天真爛漫の話ばしたっちゃろう。監督は金太郎さんのことば天真爛漫と言うたんであって、長嶋のことやなか。天真爛漫ゆうんは、やしゃしか人間が持っとる性質やけんな」
「彼は子供には好かれるでしょうね。ぼくも幼いころは裕次郎を愛したし、長嶋も愛しました。この二人が親友と聞いて、いまはうなずけるものがあります。ぼくは晴れ上がった人間は愛しますが、鈍感なヌケた人間は愛せない。ヌケているということは、どこか情緒の一部が抜け落ちているということですから。そういう彼らの欠陥はぼくたちのような晴れ上がった人間にしか感じられない。子供には無理です。じつは情緒の欠落こそ社会的大成功の秘訣なんです。ぼくは王さんのデッドボール事件で、長嶋さんには人間的に幻滅しました。彼は愛情乞食のような女々しいところが嫌いなはずです。だから彼に向けるぼくの好奇心は、野球だけです」
 ぶちまけずにおれない胸の内をぶちまけたあとの自嘲の気分に襲われた。四人でめしをお替りする。菱川が、
「天覧試合のフィルムをむかし何度も観ましたが、水原監督が跳びはねて長嶋に抱きついたと言ってましたよね。たしかにそのとおりです。でも、長嶋はそれに何の反応もしないで、シラッとホームに向かってるんです。そしてホームで取り囲んだ大勢に揉みくちゃにされて大喜びしてます。集団に愛されるのが好きなんですね。集団は顔を見つめなくてすむ。神無月さんは監督としっかりタッチしたり握手したりして、俺たちとも一人ひとり顔を見つめてしっかり抱き合う。いつも暖かくて、ジーンとなります」
「……器と才能のスケールがちがうのかもしれんのう。金太郎さんは大きすぎて、ファンレターが十九通たい。なんか、うれしかなあ。泣けてくるばい」
 江藤は思い切りめしを掻きこんだ。
 
 
         二十

 小川と田中勉をホテルに残し、広島駅十時四十分発の鈍行で帰名組と出発。
 江藤、菱川、太田に加えて、中と高木と一枝も名古屋駅まで同行することになった。大阪駅から新大阪を経由して、新幹線で帰る。私たちは八時間のあいだ、乗り換え時と駅弁の昼めし(岡山八角祭弁当)時を別にして、在来線も新幹線もずっと寝ていた。七時間余りの〈仮眠〉から目覚めると、すっかり疲労が飛んでいる。
 名古屋駅に主人夫婦と菅野とトモヨさん母子が出迎えた。
「おとうちゃん!」
 私は直人を抱き締め、頭を撫でた。トモヨさんが、
「おとうちゃんを迎えにいくってきかないので、保育所を休ませました」
「しかたないな。いい子にしてたか?」
「うん!」
「かわいかのう」
 江藤が抱き上げる。そのまま肩に乗せて歩きだす。
「えちょうしゃん」
 太田が脇から手を差し伸ばして直人の腰を支える。
「おしましゃん」
 菱川が直人に並びかけて、縮れ毛をいじらせる。
「ひしわしゃん」
 中が主人夫婦とトモヨさんに、
「初めまして。中です。いつかお伺いしようと思っていたんですが、なかなかチャンスがなくて。ふうん、この子が噂の金太郎さん二世ですか。かわいいなあ! 私も東山に七歳の一人娘がおるんですよ。今度遊びに連れてきます。いつのことになるかわかりませんが」
 トモヨさんが、
「いつでもぜひ。直人が喜びます」
「なかしゃん」
「直人くんは頭のいい子だね」
 また中に頭を撫ぜられる。
「少しおじゃまして、早いうちに失礼します。娘が待ってますので」
 中は北村に寄っていくことになった。一枝が、
「お初にお目にかかります、一枝です。俺もきょうは昇竜館泊まりなんですよ。ちょっとおじゃましていいですかね」
「もちろんですよ。高木さんは?」
「昇竜館に帰ってバットを振ります。あしたの先発の高橋一三は苦手なピッチャーなんですよ。外角にするどく落ちるスクリューボールが厄介です。小野さんにカーブドロップを投げてもらって、少し練習することになってます。じゃ、みんな、きょうはお先に」
 そう言うと、こわごわ直人の頬を撫ぜ、手を振りながらタクシー乗り場へ向かった。主人が、
「神無月さん、すごかったですなあ。アナウンサーが、神はまします、神が降臨しましたって叫んでましたよ」
 江藤が、
「スローモーションは出ませんでしたか」
「出ませんでしたな。速すぎるバットスピードの謎を解明したいと、解説者が言っとりましたが」
 太田が、
「解明してもムダでしょう。微妙な動きは学べないんだから」
 中が、
「でもスローで見てみたいな」
 一枝と中が北村席にきたのは初めてのことだった。一枝の実家は大阪ミナミのど真ん中にある一栄という有名なホテルらしい。阪神戦の期間中にたまに里帰りすることはあるけれども、それ以外ではめったに寄りつかない。そんなことを歩きながら主人たちに語る。菅野が、
「じゃ、一枝さんは、ふだんは寮住まいですか」
「それは慎ちゃんの専売特許。俺はね、名古屋に港があるの」
「へえ! 今夜はそちらへ?」
「そ、港が二つあるから、いつもどちらへ寄ろうか考えちゃう」
 主人が、
「お子さんがいるほうにしたらどうですか」
「どちらもいないのよ。でも、俺二十九歳、疲労が応える齢になっちゃったからね。あっちの激しくない女のほうを選んじゃうんだよね」
「ま! だらしない」
 と女将が笑った。
 夕暮れの門前に賄いやトルコ嬢たちが出迎えた。一枝が、
「聞きしにまさるあでやかさだな! すげえや。菱、タコ、いままで目の毒だったろ」
 太田が、
「ここは神無月さんの聖域ですよ。下心を持って見たことはありません」
「聖人君子みたいなこと言いやがって」
 菱川が、
「ほんとうですよ、一枝さん。三十分もしたら神妙な気持ちになります」
 ガレージにピカピカのハイエースが停まっているのが見えた。女たちが中や一枝にまとわりつきながら庭石を歩いていく。玄関の式台に千佳子と睦子が出迎えた。千佳子が、
「お帰りなさい! 神が降臨しました、神はまします。ホームラン八本、十四打数十一安打、打率七割八分六厘、打点十九、ただいまダントツ三冠王です。あ、江藤さん、太田さん、菱川さん、いらっしゃい」
 江藤が、
「またきてしまいました。ちょっと寄っただけです。すぐおいとまします」
 睦子が、
「和子さんがもうすぐ帰りますから、それまではゆっくりしてってください。そちらは中さんと一枝さんですね」
 一枝が、
「そうです、よくわかりましたね」
「二日間、テレビ観っぱなしでしたから」
 千佳子と睦子は二人に自己紹介する。直人が、
「いちえしゃん」
 と言って肩にまとわりつく。中が、
「ドラゴンズのちびっ子カップルです」
 睦子は、
「背は関係ありません。馬力です。中さんは一本、一枝さんも一本ホームランを打ちました。江藤さんは三本、菱川さんは一本、太田さんは左中間の二塁打一本。当たってませんでしたね。出場機会が少ないですから仕方ありません。オープン戦であれだけホームランを打ったんですから、そのうち回復します」
 中が、
「こりゃ、すごいや。コンピューターですね」
 主人夫婦が男どもを座敷へいざなう。ソテツとイネがコーヒーを運びがてら、ほかの賄いたちも呼んで挨拶をする。
「賄いのソテツです」
「イネです」
「よろしくお願いしまーす」
 賄いたちが全員で平伏する。トモヨさんが、
「賄い頭みたいなことをしている北村トモヨです。北村の養女で直人の母です。今後ともよろしくお願いいたします」
 座敷の女たちも、キッコを真ん中に畳に平伏する。キッコが、
「うちらは、トルコ羽衣とシャトー鯱の従業員です。百人ほどおるうちの、北村席さんに住まわしてもらっとるほんの何人かです。どうぞご贔屓に」
 思わず中と一枝も畳に両手を突いた。一枝が、
「キラキラして、大らかで、隙がない。とても手が届かないな。みんな金太郎さんの恋人のようだね」
 女将が、
「みんなというわけやないんやけど、そんなもんやね。神無月さんを中心に結束しとるから。お手がつこうとつくまいと、みんな神無月さんの官女やね」
「ほかの女のかたは?」
「大門のほうの別建ての寮に住んどるか、かよいです」
「駅西にかようのは物騒でないですか」
「かよいは名駅のネオンがすぐそばの子ばかりで、みんなで帰りますから物騒やありません。寮のほうには松葉会さんが詰めてくれとります」
 みんな納得してうなずく。主人が、
「お、和子たちが帰ってきた」
 千佳子と睦子がバタバタと玄関へいく。
「お帰りなさい。神無月くん帰ってきたわ。江藤さんたちもいっしょ」
「そう!」
 素子やメイ子や百江、天童や丸の声もする。ドヤドヤと座敷に入ってきて、
「お帰りなさいキョウちゃん! ドラゴンズのみなさん、いらっしゃいませ。中さんと一枝さんですね。北村和子です」
 畳に正座して頭を下げる。素子たち四人も、自分の名前を言いながら頭を下げる。顔を上げるとみんな美しい。中が、
「まるで綺羅星だなあ」
 直人がカズちゃんの膝に乗る。一枝が、
「これまた女優の集まりだ。これを基本にして金太郎さんの生活が展開するわけか。ふだんの物静かな金太郎さんとどう結びつくのかな」
 江藤が、
「金太郎さんをわかることはできん。わかる必要もなか。わしらの考えの内にはおらんけん」
 カズちゃんが、
「あらあら江藤さん、ほんとに惚れちゃったのね。心中するしかなくなるわよ」
「とっくに心中しとります」
「俺も!」
 太田と菱川が身を乗り出した。一枝は、
「とにかく、金太郎さんには驚きました。野球の能力が並のものでないことは前評判で承知しとりましたので、何を見せつけられてもうなずけましたが、そのこだわりのない人間性には腰が抜けましたよ。みなさんもそうだったんですか?」
 菅野が、
「出会ったころは考えましたよ。こいつは何者なんだってね。そして、結局江藤さんみたいにモロ身を投げ出すんです。それが快適で、生れてきてよかったなあって思います。宗教じゃないですよ。神無月さんに手を合わせることなんか愚の骨頂ですから。いっしょの時間を生きるってやつですね。羨ましいですよ、ドラゴンズのかたがたが。仕事とはいえずっといっしょにいられるんですから」
 トモヨさんが、
「軽く玉子丼と豚汁でも食べていかれたらどうですか。中さんは、ご家族のかたに叱られるかもしれませんから、豚汁だけでも」
「はい、ぜんぶいただきます」
 カズちゃんが、
「私たちにもお願い。お台所で食べるわ。一時間休憩したらまたお店に出るから、豚汁とごはんだけでいいわよ。ソテツちゃん、みなさんにビール出してあげて」
「はーい」
 ソテツといっしょにイネがビールとコップを運んでくると、店の女たちが寄ってきて栓を抜き、酌をする。私にもついだ。カズちゃんたちは厨房に去った。主人が、
「十対十の同点になってからの十二点の取り方は、情け容赦のないものでしたなあ」
 一枝が、
「水原さんが、情け容赦なく点を取らなくちゃいかんと言ったものでね。きのうの第一試合で、ナメたような遊びをしちゃったから、ちょっとおカンムリだったんですよ。そのときはけっこう監督も楽しんでたんですけどね」
「ああ、みんなで内野のライナーを打ったやつですね」
「そう。遊びならまだしも、木俣のやつ、同情するみたいなトスバッティングをして、最初ニコニコ笑っていた水原さんもついに堪忍袋の緒が切れたんだね。大勝ちできるときに大勝ちしておかないと、大負けしてる試合になったとき、ファンが逆転の希望を持てないだろうって。そのとおりですよ。情けを捨てたせいで俺も一本打てた。俺はせいぜい年間五、六本しかホームランを打てないバッターでしてね。一本でもありがたいんですよ。一本のありがたみ―中さんや慎ちゃんは知ってる話だけど、新人の金太郎さんやタコや菱にも聞いてもらいたいな」
 玉子丼と豚汁が出てきた。いただきますと言って、いっせいに箸を取る。睦子が、
「私たちも聞きたいです」
 一枝は、キュッとビールを流しこみ、豚汁の具をつまみながら、
「阪神に本間勝(まさる)というピッチャーがいましてね」
 菅野が、
「はあ、中商ですね。三十五年に十三勝、翌年に八勝挙げたきり、萎んでいっちゃったピッチャーですよ。たしか、王の四打席連続ホームランの四本目を打たれてますね。西鉄に移って、おととし引退してます」
「ここは、NHK記録室みたいな家だね。そう、その本間。睦子さんは馬力と言ってくれたけど、俺みたいなパワーのないバッターが、年間打てるホームランの数なんかささやかなもんです。プロ入り初ホーマーを三十五年に本間から打ったんだけど、その試合が降雨ノーゲームになった。そのガックリ感はすごかった。天気とルールには勝てないから、腹は立たなかったんだけど、ほんとにガックリしちゃってね。一本のありがたさ、うれしさというのをしみじみと知った。一本のヒット、一本のホームランを打つことがいかにたいへんか知っていたら、きょうの第一試合のような遊び心なんて出てくるはずがない。そのことを水原さんが思い出させてくれた。これからは何点だろうと、情け容赦なく取りますよ」
 江藤が箸をしきりに動かしながら、
「よか話ばい。たしかに十点以上取ると、相手が気の毒になってくる。ばってん、それは取れたけんそう思うだけで、取れんかったら……。ファンは希望がなくなるばい」
 中も豚汁をすすりながら、
「金太郎さんや慎ちゃんがいるから、いつでも大量点が取れるなんて大きな気持ちになっていたんだね。私たちはプロ野球選手同士だ。いくら百人力がいても、大量点なんてことがそうそう簡単に起こるはずがない。一人ひとり、自力で取れる点を積み重ねようとしても一点も取れないことだってある。ことごとくうまくいって三十点取れることもあるかもしれない。いずれにせよ、ぜったい手を抜いちゃいけないんだよ」
 太田が最後のめし粒まできれいに平らげ、豚汁も飲み干すと、
「ごちそうさまでした。さあ、先輩たち、帰りましょう。あしたは九時から球場に入れます。十一時にはジャイアンツの連中がきますよ」
 食事を終えたカズちゃんたちが厨房からやってきた。千佳子と睦子に、
「いいお話を聞いてたみたいね」
 千佳子が、
「はい。これからは遠慮しないで三十点でも取るってお話」
「あたりまえよ。二人とも青森高校のマネージャーをしてたときを思い出してごらんなさい。青森高校は、十五点、二十点ふつうに取ってたでしょう」
「はい。相手を気の毒だと思ったこともありませんでした」
「相手が生活のない学生だったからよ。プロは生活のある者同士。プロに徹することができないと、遠慮が出てくるの。相手にも生活があるんだからなんてね。たとえば、写真を撮りたくて追いかけてくる新聞記者は、相手の生活を考えてたら写真なんか撮れないでしょ。どうやれば恐ろしい長嶋を封じられるか。どうもこうもないわ。カメラマンと同じ。長嶋に遠慮しないで、自分のプロ根性で抑えこむしかない。ボールの投げ方をフルに工夫して、長嶋の生活や恥なんか考えずに、ひたすら抑えるしかない。デッドボールや敬遠は抑えたことにならないわ。塁に生かしたわけだから。金田投手の連続四三振は工夫の最たるものね。さっき少し聞こえてたけど、江藤さんたちのやった遊びも、安仁屋投手のビンボールまがいのことも、五十歩百歩。遠慮して才能を出し惜しみしたの。広島テレビのインタビューがこちらでは二時間前に放送されたのよ。アイリスのテレビでみんなが観たわ。キョウちゃんが臆病と言ってたのはそのことよ。相手の生活を考える遠慮は、プロたるもの、臆病にほかならないわ。三十点でも五十点でも取ってください。取られたほうに、プロにふさわしい自分の生活を守る才能と工夫がなかったということですから」
 部屋中に拍手が沸き上がった。カズちゃんは一枝がついだビールをグッと飲み干した。太田と菱川が満面の笑みを江藤と交わした。一枝が、
「ああ気持ちよかったなあ。こんなにすがすがしい思いをしたのは生れて初めてです。ご主人、みなさん、あしたも勝ちますよ。先発で出してもらえたら、ホームランを狙います」
 胸を張ると、江藤が、
「金太郎さんには気の毒やが、ランナーかっさらって、打点王ば狙うばい」
 睦子が、
「江藤さんの打点は五です。神無月さんに十四点負けてます。気の毒がるのは早いですよ」
「アチャー!」
 中が、
「ほんとにコンピューターだね。あなたたち二人は何をしてる人?」
「名大で古典文学をやってます。万葉集の研究家を志してます」
「名大で法律をやってます。公認会計士を目指してます」
「畏れ入りました。あなたたちに計算されてると思って、一生懸命数字を上げるようにします」


         二十一

 全員立ち上がり、眠そうな直人を抱いたトモヨさんと、食事を始めたばかりの主人夫婦が箸を置いて式台に見送りに出る。主人が、
「今後とも神無月さんのこと、よろしくお願いします。自分の家だと思って、気兼ねせんと遊びにきてくださいよ」
「ありがとうございます!」
 全員で頭を下げる。中がやさしい顔でトモヨさんに抱かれた直人の頭を撫ぜた。直人はみんなが帰るのがさびしいのか、トモヨさんの胸に顔を埋めたままピクリとも動かなかった。私は下駄箱の納戸からバットを三本取り出し、古い革ケースに入れて菱川に渡した。
「折れたら何本でもあげますけど、なるべく自分に快適な握りの太さを発見して、久保田さんに注文したほうがいいですよ」
「はい。しばらく素振りを繰り返して確かめます。ほんとにありがとうございました」
 店の女たちと賄いは式台で頭を下げ、残りの者でぞろぞろ門まで送って出た。
「じゃ、あした、中日球場で。ぼくは九時四十五分までにグランドに入ります」
 江藤が、
「高橋一三は防御率二点台のピッチャーばい。三点取るのはきつか。それでも五回までに十点は取っといたらんといけん。山中は、好調なときは三点取られんばってん、調子の悪かときは六、七点いかれる。浜野が先発かもしれんな」
「ホームラン攻勢しかないですね」
「ほうや。高橋に短打は集められん」
 中が、
「きょうは楽しかったです。ありがとうございました」
 一枝が、
「ほんと、みなさん、ありがとう」
 中と一枝が頭を下げ、私に握手を求めた。五人の男たちは手を振りながら、牧野小学校の辻へ消えていった。
 カズちゃんたちが午後からの仕事に出かけた。トモヨさんが、
「郷くん、あしたから三連戦ですよ。今夜はゆっくりお休みなさい」
「そうする」
 イネが、
「風呂へって、バタンキュー、寝でまるのがいじゃ」
「うん」
 菅野が、
「江藤さん、中さん、一枝さんか。すばらしい仲間たちですね。太田さんや菱川さんたちともぴったし息が合ってる」
「ぼくとも息が合いすぎていて怖いくらいです。ほかのチームじゃ到底やっていけなかったでしょうね。……オープン戦は二敗したことでだいぶ気がラクになった。みんなの話を聞くと、ペナントレースは連勝しつづけて負けると、ガクンとくる度合いも大きいようですね。早く一敗しておいたほうがいいな」
 主人が、
「早いうちに一敗しておくのもたしかにええことやとは思う。負けたときのチームの雰囲気を知っておけば、みんな気を取り直すのが早くなるし、もっと団結力が上がるでしょうからね。しかし、神無月さんはいっさいそういう気分とは関係ないな。勝ちなれていない二軍や新人連中はそうなるかもしれんが、勝ちつづけてきた人ですからね。レギュラーのベテラン連中も心配ないですよ。連勝にも連敗にも慣れてます。この巨人三連戦で一敗するかもしれん。オープン戦の二敗のうち一敗は巨人やったからね。しかし試練というほどのものでもないでしょう。ま、勝てるうちに勝ちつづけておくに越したことはないですな」
 睦子がしみじみと私を見つめ、
「……神無月さんはどんなふうに年をとるんでしょう」
 菅野が、
「神無月さんも年をとるんですかね」
 女将が、
「そりゃそうやろがね」
「ずっとこのままのような気がしてしょうがないですよ。一人だけ細胞がちがうんじゃないかって」
「ほんなんやったら、自分の周りの人間が年とっていくのを見るのに耐えられんようになるわ。頭がおかしくなるやろ。神無月さんだって、年とったねェって言われたいがね」
「不老不死のように見えるんですがね。神無月さん、そういうの、いやですか」
「肉体は衰えて変形するのがいいな。みっともなくない程度にね。癌細胞は栄養さえ与えてれば不老不死らしい。グロテスクなものだ」
「……ふうん、グロテスクですね」
「でしょ? 変形に美しさがあるのは、寿命のあいだだけの変化だからですよ」
「なるほどね。だから神無月さんは、年とった女を美しいと感じられるんですね」
 トモヨさんが微笑しながら直人を昼寝に連れていった。主人が、
「神無月さんも晩めしまで、少し横になりなさいや」
「はい。そうします。ダブルヘッダーはきつかったです」
「目はだいじょうぶでしたか」
「まったく。宇野ヘッドコーチが、鈴下監督にまた眼鏡を注文してくれました。数年もちます」
 賄いの幣原が納戸部屋から蒲団を持ってきて、座敷のガラス戸のそばに床を敷いた。数日ぶりに彼女の顔を見た。特徴のない顔がやさしく微笑んだ。服を脱いで蒲団にもぐりこむと、枕から庭の緑が眺められた。千佳子や睦子たちのしゃべる声を聞きながら、うとうとする。千佳子が、
「ドラゴンズの人たちって、神無月くんのことよく知らないのに、あんなに親しくなれるなんてね……」
「神無月さんのことをずっと前から知ってる気がして、親しく思ってたからよ。人生には遇うべくして遇う人がいるのかもしれないわ」
「……」
「私へんなこと言った?」
「ううん、不思議だけど、ムッちゃんの言ってる意味わかる。そうね、遇ったからにはもっと神無月くんのことを知りたいのね」
         †
 夕方の六時まで熟睡した。生き返った。歯を磨き、みんなのいる夕食の卓に混じる。直人を膝に抱く。私と同じように、人を恋しがる子だ。
「おじちゃんたちが帰るとき、さびしかった?」
 コックリする。
「また遊びにきてくれるからね。何度だってきてくれるよ」
 コックリをする。
「保育所でいじめられてないか」
 コックリをする。
「おとうちゃんの仕事は何?」
「やきゅうせんしゅ」
「野球は好きか?」
 私の指をいじりながらコックリする。
「おとうちゃん、直人が大きくなるまで野球をやってていいか」
 コックリする。カズちゃんが、
「だいじょうぶよ、キョウちゃん、直人は北村席でさびしくしてないから。ドラゴンズのみんなが帰るときにさびしそうにしてたのは、キョウちゃんがさびしそうな顔をしたからよ。おとうちゃんを助けてあげたかったのよ。キョウちゃんは、ほんの少しでも人と別れるのがさびしい人だから」
 トモヨさんがまぶたを拭い、直人を抱き取って食卓につかせた。おさんどんにやってきた百江に、
「百江は三人の子持ちだね。そもそも〈子を持つこと〉や〈親になること〉とはどういうことで、よき家族やよき親とはどういうものなんだろうね」
「……考えたこともありませんでした。すみません」
 睦子が、
「生物学上や戸籍上の〈親であること〉と、子供の真の〈親となること〉はちがうと思います。真の親というのは、真の人ということじゃないでしょうか」
 いい問題提起だが、どう応えていいかわからない。素子が、
「子を産めない人もおるし、産みたくない人もおる。だれでも親になれるわけやないけど、だれでもどっかの親から生まれたんよね。どっかの親から生まれたゆうことをどう引き受けるか、その親に育てられてきたことで自分がどんなふうに作られてきたかを考えて、応用問題を解くみたいに子供に接すれば、親として生きとることになるんやない?」
 ほう、と主人や菅野が賞賛の息を吐いた。カズちゃんが、
「親対子で考えるんじゃなくて、個人対個人で考えればいいんじゃないかしら。家族を特権視して考えなくていいということ。家族は、財産の配分のような法律的な正義と、正義より高尚な徳、たとえば寛容で守られてるという考え方が主流ね。そういう考え方は家父長的な家があるべき姿だという一般常識を無意識に前提にしてるわ。人は家だろうと、もっと大きな集団だろうと、愛にあふれた個人が引き合って集まるものよ。親なんていう統率者は要らないの。直人やトモヨさんを見てごらんなさい。キョウちゃんと個人的な愛情で引き合って、家族や家庭の存在意義なんて考えてもいないでしょう。ムッちゃんの言う真の親と真の子、真の人よ」
 座敷じゅうの女たちから拍手が上がった。私は、
「子供は親とちがった、親では実現できない価値を持ってる。親の所有物ではないし、作品でも可能性でもない。たまたまだけど、それ自体価値のある存在を造り出せてうれしい」
 トモヨさんがまた目頭を拭った。
「キョウちゃん自身が永遠の子供ですものね。立場が逆転したわけでもないし、親も子もないですね」
 キッコがもぐもぐやりながら、
「愛し合うのって〈生まれてしまった〉者同士の幸せよね。生まれてこられん人がおったと思うと、ありがたいような……罪深いような」
 トルコ嬢の一人が、
「うちらには中絶したことのある女が多いんやけど、罪の意識ゆうより、生まれてこられんかった子をでかしてまったたゆう、さびしさのほうが強いわ」
 私は、
「深いさびしさだね。そのさびしさに感謝しないと」
 カズちゃんが、
「そのさびしさは消えないでしょうね。だれでも命は神聖だと思ってるから。特に直人のようなかわいい子を見てるとそう思うわね。でも、命はたまたま生み出されて、性格がはっきりして、だれかに愛されてから、ほんとうに神聖になるのよ。人間の命は一般に神聖じゃないの。生まれたかぎり、すべて守られる価値があるというわけじゃないの。自分が生きてるからそう思うだけ。もし生まれた人間ぜんぶに価値があるなら、出産は無条件にいいことで、どんな中絶も許されないということになるでしょう? 人にはからだの健康状態があるし、どうしようもない一身上の都合もある。生命を神聖だと思ってもらえるのは、たまたま生まれるラッキーに巡り合った人だけの特権よ。キョウちゃん流に言えば、子供というのは、健康や、喜びや、徳のように、それ自体価値のあるものだし、そのかぎりでは子供を持つこともそれ自体価値のあることだと言えるわ。でも、人が価値ある人生を送るためには、価値あるすべのことを選択する必要はないのよ。子供を持たないという選択をすることも、子供を産み育てるのとはちがった価値のある生き方を選択したことになると思うわ。優劣などないのよ。でも、さびしさの意識は捨てないほうがいいでしょうね。人間的なふくらみになるから」
 今度こそみんな安心して箸を動かした。主人が、
「おトキに聞かせてやりたかったな。喜んだやろう」
 菅野が、
「みなさんそうですよ。神無月さんと一心同体ですから」
 深く愛されれば人は強くなり、深く愛せば人は勇敢になる。その関係性にある人間だけが信じられる。素子が、
「お姉さんの頭の中って、いったいどうなっとるんやろな。直ちゃんをお風呂に入れてくるわ。爪も汚れとるけど、こんなちっちゃな爪、どうやって切るんかなあ」
 トモヨさんが、
「子供専用の小さな鋏があるんですよ。それは私があとでやります」
 直人は素子の胸にしがみついて風呂にいった。千佳子と睦子がつづいた。女将がポツリと言った。、
「……みんないっしょに好き合って暮らしとる、それだけでええのよ」
 トモヨさんと百江が心底満ち足りたように微笑み合った。
「神無月さんも、あんまり子供に気使わんとき。子供が子供に気使ってどうするんね」
 夕食のあと風呂に浸かって、二日間の汗を流し、サッパリする。



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