八十二

 話が弾む。
「あら、すみません、ぼんやりしちゃって。お昼ごはんにしましょう」
 ばっちゃが、
「ワがつぐるすけ、和子さんはねまってろ」
「はい。お昼ごはんのあと、食材の買いものにいきましょう」
 焼きホッケと津軽漬けで軽い昼飯をとった。じっちゃは満腹だじゃと言って、半膳のめししか食わなかった。眼鏡をかけ、すぐ新聞を手に取った。
 カズちゃんと交代で便所へいき、ばっちゃを連れて三人で粉雪の中へ〈まましたぐ〉の買出しに出た。ジャージに運動靴、カズちゃんはじっちゃの長靴、ばっちゃは雪下駄。
 ヤジ煙草店を左折して細い道を歩く。幼いころよく歩いた木立の多い道だが、一軒の家も知らない。新町へ出る十字路の左角に、松と柳を玄関木に植えた大万(だいまん)旅館。仏閣のような趣のある建物だ。
「金沢町、本町、八幡さまに囲まれてる区画を新町って言うんだね」
「そんだ。商人町だ。八幡さまからの右は、武家もあいだに入りこんで町の護りを固めでだ。銀映の通りは商家ばりよ。オラはそごの廻船問屋の家の末だ。新道は大砲の台場を作るために敷かれた通りだったんだ。師範代てへったら大した格式でせ、そごさ女中で入(へ)るのは名誉だったんず。最上徳内て知らねが」
「習ったことある。北方探検家」
「それの嫁のフデてへるのも、そのあたりの商家の出だ。大万てのは、むがしの女郎屋よ」
「そうなんですか! 野辺地にも遊郭が」
 カズちゃんが知り合いに出会ったような親しみのこもった声を上げた。
「おお、野辺地でたったふとつのな。和子さんとごは遊郭でねべ」
「はい、芸妓の置屋です。遊郭の親戚みたいなものです」
 けいこちゃんの土蔵を通って、うさぎやに出る。
「うさぎやって古いんでしょ?」
「郷がすみと野辺地さきた年に建った。昭和二十六年だな。隣の縦貫はもっとあどだ。昭和三十七年からだ」
「ボッケの店は?」
「江戸の終(し)めがらやってら。百十年だず。ボッケがあとを継げば四代目だ」
「へえ! 野辺地って古い町なんだね」
「盛岡藩の窓口だすけ」
 カズちゃんが、
「五年前に町の図書館で調べたことがあるわ。大阪からくる千石船が、いろいろな文化や品物を運んできたんですって。だから野辺地には京ふう料理が残ってるの。味噌貝焼きとか、豆腐の磯辺揚げとか」
「浜の常夜燈は本町の野村てへる大金持ぢが建てたんだ」
「あのヤジの前の邸宅?」
「ンでね。役所のほうにあら。おっきた廻船問屋よ。離れを行在所ってへって、国宝になってら」
 結局あの素封家は正体不明のままだ。
 大丸雑穀に寄り、三十キロの米を合船場の玄関に届けておくように言い、金を払う。
「三十キロだば、おもですけな」
 ばっちゃが言う。
「ひと月ごとに届けてください。これでしばらくもつと思います」
 米屋に二万円渡して領収証をもらい、ばっちゃに渡した。
 パチンコハッピーの前を通る。この二、三年でできた店のようだ。けっこう客がいる。思うところなし。
「野辺地東映の横にあった風呂屋、何て言ったっけ」
「洗心湯。まンだあんで。東映会館はおっとし取り壊した」
 青森銀行の真ん前の五十嵐商店に到着。ばっちゃはさっそく野辺地納豆を買った。包装紙に、長寿の友、やわらかで風味のよい、と銘打ってある。笹餅も買う。餡の入っていない平たい餅を笹の葉で包んで藁しべを結んだやつだ。端午の節句に食う餅だが、なぜかいまどき売っていた。カズちゃんは、豚挽き、生姜、玉ねぎ、ニンジン、じゃがいも、トマト、ナス、インゲン、マッシュルーム、りんご、それから辛口カレールー、コンソメ、バターを買った。
「塩、胡椒と油はあったから、これでよしと。夜は挽肉野菜カレーを作ります」
 大きなカズちゃんはばっちゃと腕を組み、ゆっくり歩く。
「今度きたときは、古間木というところにいってみたい。国際ホテルを見たいんです。もちろんキョウちゃんがいきたいと言ったらですけどね。このごろキョウちゃんは過去に興味がないみたいだから」
「いまは古間木でねぐ、三沢ってへんだ。国際ホテルは取り壊したんでねがったかな。あれァ進駐軍のアメリカさん用の建物だったすけ」
「そうだったんですか」
 通りすがりのあねさんかぶりの老婆がカズちゃんを見て、
「わやァ、めごいこだ!」
 低く叫んだ。カズちゃんは美しい。まったく化粧をしていないのに、目鼻にハリを入れたようなくっきりした顔立ちをしている。老婆がカズちゃんに、
「日本人でねべや」
 と言うと、カズちゃんは微笑み返し、
「外人です。外の人」
 と言った。カズちゃんは新町の北英堂書店(五年前ここで中原中也詩集を買った)に寄ると、これからずっと新道の合船場に朝日ジャーナルと週間文春と文芸春秋を届けるよう頼み、三万円渡した。領収書をばっちゃに渡す。野田靴店にも寄り、女物のゴム長を二足買った。一足はばっちゃの分だった。私の分は買わなかった。二十八センチの長靴を置いてなかったからだ。黒足袋も五足ずつ買った。門林衣料店でじっちゃとばっちゃの暖かい下着を上下二枚ずつ買った。ほとんどの荷物を私が持たされた。浮きうきした。
「お祖母さん、お墓参りもしていきましょう。近いんですか?」
「役場のすぐ裏だ。お武家の墓だすけ、ちゃっこい石が立ってるだげだ」
 十分も歩かずに常光寺に着いた。背の低いベンガラ色の鳥居をくぐって境内に入る。私はカズちゃんに、
「常光寺という寺は日本じゅうに何十もある。野辺地の常光寺は曹洞宗のお寺でね、盛岡の報恩寺の末寺だ。石川啄木は盛岡の常光寺で生まれたんだ。啄木の母親のお兄さんが野辺地の常光寺の住職だった関係で、父親も何度かこの寺にきてる。どういう事情だったのか知らないけど、寺の金を使いこんじゃって、逃げるように家出してこの寺に身を寄せてる。父親を迎えにきた啄木が、金沢海岸で詠った歌は有名だよ。潮かおる北の浜辺の砂山のかのハマナスよ今年も咲けるや」
「知ってる! 大好きな歌。もう一つ好きな歌があるの。盛岡の中学校のバルコンの―」「手すりにも一度われをよらしめ」
「そう……涙が出てくるわ」
「ぼくとまるっきり波長がいっしょだね。この常光寺には、明治天皇の野辺地巡幸のときに疲れて死んだ花鳥という名馬も葬られてる」
「お祖父さんが巡幸列車を運転したというのは、それ?」
「花鳥が死んだのは明治九年だから、まだじっちゃは生まれてない。いま七十四、五歳ということは、たぶん明治二十八年前後の生まれだと思う。だから、じっちゃの巡幸列車は昭和天皇だね。昭和二十二年八月。じっちゃがぜんぜん語らないから、調べるしかなかったんだ。逆算して興味深いことがわかった。そのときじっちゃは五十代前半で、とっくに引退していたから、その日だけ駆り出されたということになるんだよ。よほどすごい機関士だったんだね」
 ばっちゃがじつにやさしい笑いを浮かべた。
 本堂のお参りを省き、玄関口にある僧坊でいろいろな墓参り道具を借りたり買ったりした。バケツと柄杓、線香、生花、茶碗酒。ばっちゃについて墓石の前にきた。幼いころに幾度か目にした、角の削れた六、七十センチの高さの雪をかぶった石くれが雪の中に突き立っている。一メートル四方の土地が周りを囲んでいる。広いというほどの敷地ではない。ばっちゃが墓石に柄杓で水をかけ、カズちゃんは華を手向け、線香を焚き、茶碗酒を供えた。ばっちゃはしゃがんで合掌し、カズちゃんはスラックスの膝を雪の上に突いて合掌した。私は彼女の背中で直立したまま合掌した。
 新道のヤジでじっちゃの『しんせい』と『朝日』を二カートンずつ買った。
「朝日は夏目漱石が吸ってた煙草だよ」
 煙草を吸わない女二人は笑うだけで、何の関心も示さなかった。
「町ですれちがう人も、いまの煙草屋さんみたいな商店の人も、みなさん愛想がないですね。お祖母さんの心配がわかりました。いくらキョウちゃんが平気でいても、無愛想にされると気疲れして、のんびり暮らせないということですね」
 カズちゃんは弾むように歩く。
「ほんだ。人間がちがうってへったって、通用しね」
「お祖母さんお祖父さんも無愛想にされてますしね」
「オラんどのこどはどうでもいんだ。あんたを見でで考え直したじゃ。郷は無愛想にされでも、どんでもいいど思ってのんびりしてるこった。郷がいいなら心配するこどね。オラんども好ぎだように歩ぐべ」
「こういう目引き袖引きの環境の中で、キョウちゃんはわれ関せず、すくすく育ってきたんですね。大人物だわ」
「郷は特別だんだ。こったらとごさ置いとぐのはもったいね」
「ほんとに。……どこに置いといてももったいない人ですけど、これだけの人物になると落ち着ける適所というのはなかなかないので、私たちが落ち着く場所を見つけてあげないと」
「ほんだこった」
 合船場に帰ると米が届いていた。カズちゃんはすぐにじっちゃに言った。
「お金は使わないとだめですよ。キョウちゃんが悲しむでしょう? コツコツ使ってくださいね」
「そうすべ。ババにも通帳作ってやったたて、なんも使わねのよ」
 ばっちゃが、
「もってなくてよ」
「必要なものはどんどん買うこと」
         †
 一時をかなり回って、浜中たちが機材担いでやってきた。
「遅くなりました。編集の指示を出すのに手間取りまして」
 私たちみんなに丁寧な挨拶をし、囲炉裏端に坐る。カズちゃんが彼らにインスタントコーヒーをいれた。
「ご存じなかったでしょうからお持ちしました。一面ぜんぶ使ってます」
 浜中がじっちゃに日刊スポーツを差し出す。
「三億ってが! どったらカネなんだべな」
 見出しだけ見てすぐばっちゃに渡し、ばっちゃも、たまげだ、と言ってカズちゃんに渡した。
「二週間も前に同じ記事を見ました。MVP、三冠王、ベストナイン、その他もろもろ、しめて三億円なり。どういう計算なのかわからないけど」
 私によこしたので見出しを見た。


         八十三

     
二十歳神無月三億五千万円!
          
二億八千万円アップ
 中日ドラゴンズ神無月郷外野手(20)が、すでに先月二十八日に中日ドラゴンズ球団事務所で、今季年俸七千万円から四倍以上の増額となる三億五千万円でサインしていたことがわかった。今季打撃タイトルを総なめしたことと、リーグ優勝、日本シリーズ優勝に大きく貢献したこと、さらにMVPに選ばれたことが正当に評価されたものである。来季ドラゴンズ入団が決まっている高校時代のライバル戸板光投手(22)や、大学時代のライバル谷沢健一外野手(22)との切磋琢磨に期待の胸を躍らせながら、鬼神神無月郷は最高のオフをすごすことになった。
 ちなみに、彼とともにドラゴンズを牽引し、王の本塁打記録を塗り替えた江藤慎一内野手(32)は、五千万円から倍増の一億円でサインした。彼につづいて続々とサインした主な選手は以下のとおりである。高木守道内野手(28)七千百万円、中利夫外野手(33)六千二百万円、木俣達彦捕手(25)七千七百万円、一枝修平内野手(29)四千六百万円、菱川章内野手(22)三千七百万円、太田安治外野手(20)三千二百万円、小川健太郎投手(35)九千万円、星野秀孝投手(20)四千百五十万円、小野正一投手(36)五千五百万円。
  一億の大台どころか、三億へのスキッピングは球界史上初のことで、江藤選手が述べたところでは、
「生き神さまについては何を話していいかわからんです。とにかく一生懸命神さまについていったおかげで、みんなとんでもない幸運にあずかりました。金太郎さんの給料はゼロでも三億でも同じばい。何も考えとらんやろ。泣くるったい」
 高木選手は唇を引き締め、
「びっくりしています。金太郎さんの波及効果に感謝している。彼の年俸は五億でも少ないと思う。一試合でも多く彼といっしょに野球をやりたい」

 中選手は目頭を拭いながら、
「ロートルの私がこんなに……。金太郎さんのおかげです。老骨に鞭打って、彼といっしょに連覇を狙います」
 菱川選手は、
「金なんかどうでもいいです。神無月さんに会えたことが人生の奇跡です。彼といっしょに野球をできる喜びに比べたらすべて空しい。来季もいい意味で神無月さんの金縛りになってがんばります」
 とシャレた。太田選手は、
「こんなにもらえるのは神無月さんのおかげに決まってますよ。あの人は人間じゃないので自分の身の上に関心はないんです。給料のことなんか三日もすれば忘れてしまうでしょう。俺はありがたくいただいて、両親に家を建ててやります。神無月さんが野球をやめたら、俺はその家に帰ります。神無月さんのいないフィールドなんか無意味ですから」
 一枝選手は、
「金太郎さんのおこぼれ、おこぼれ。フロントは一兵卒の俺のような者も高く買ってくれたんだな。ありがたいかぎりですわ。フロントには感謝するけど、金太郎さんには感謝するなんてことはひとことも言わないよ。人格を疑われちゃうもの」
 小川選手は、
「金太郎さんとリアルな金? タブー。あんまり大々的に報道すると、うるさい、金なんかいらないって言い出すよ。彼は人的資源の大金持ちなの。俺たちも、フロントもその一員」
 小野選手は、
「神無月くんに退職金をいただいたも同然です。もう一年、彼のために全力を尽くしてがんばります。彼にはこういうことは露骨に言わないようにします」
 木俣選手は、
「年俸? 関係ないね。金太郎さんといっしょに道を歩けば、自分が給料取りであることを忘れるよ。とてつもなく大きな価値観にからだが包まれるんだ。人間に生まれてよかったってね。その充実感に比べたら、ほかのことは関係ないね。せっかくくれた年俸は、せいぜい野球のために使わせてもらいますよ」
 星野選手は、
「神無月さんに一回でも多く抱きつけるなら、年俸はいくらでもいいです。神無月さんの年俸もいくらでもいいです。神無月さんが生きていて、自分もいっしょに生きていることに感謝して、できるだけ長く野球をやっていきたいです」

 私はポトポト涙を落とした。ばっちゃが、
「おいや、なしたってが!」
 カズちゃんが私から新聞を受け取って目を通し、すぐに目を潤ませ、
「うれしいわ。キョウちゃんはみんなに愛されてることがうれしくて泣いてるのね。私も一人ひとりのかたを知っているので、涙が出てきます。浜中さん、この新聞もらっていいですか」
「どうぞどうぞ。記念すべきインタビューですよ」
 恩田が、
「みなさんすばらしい受け答えをするものですね。これほどの友情の表現を私は知りませんよ。しかも、競争意識の激しい仲間同士にも関わらずですからね」
 ばっちゃがカズちゃんと昼めしの支度に立とうとすると、丹生が、
「支度無用です。いま寿司が届きます。佐藤製菓の隣の鮨屋に頼んできました」
「まさ鮨か。あそごは高げんだ」
「ご心配なく。取材費の一部ですから」
 オートバイの音がして、大きな鮨桶が二つ届いた。店員に見覚えがあったが、思い出せない。私がじっと見ているのに気づいて、ペコリとお辞儀をした。思い出した。
「あ、金沢海岸の喧嘩……」
「あのとぎは、ひでェこどして、すまねこってした。背中ブッたくった中にオラもいたんだ。ンガは立派なオドゴだった。……十年もしたらあの店継ぐすけ、食いにきてけんだ。ロハでかへるすけ」
 バイクを飛ばして去った。恩田が、
「不気味な顔の広さですね」
 丹生が、
「一桶はワサビ抜きです」
「お祖父さんお祖母さんは、どちらを?」
 田代が尋くと、じっちゃは、
「ワサビねほがいな。まンまもいらね。さがなだげ」
 カズちゃんがめしから引き剥がして皿にとりどりの刺身を揃えた。軽かったとは言え、昼めしを食ってから二時間も経っていない。小皿に醤油を差し、割り箸を割ってじっちゃの卓袱台まで運んでいく。残りのワサビ抜きはばっちゃと丹生の取り分になった。裸になっためしの握りはカズちゃんが平らげるはずだ。めいめい箸をとる。丹生が、
「さきほど佐藤製菓の文雄さん宅にお集まり願って、同窓会の出席者のメンバーのかたのビデオ録りをしました。七人ですけどね。本番の映像といっしょに編集します。佐藤製菓の佐藤文雄さん、村上タイルの村上幸雄さん、赤泊林業の赤泊悟さん、瀬川クリーニング店の瀬川三男さん、岡田製パンの岡田淳さん、スナック海幸のママさん西舘セツさん、浜町の四戸末子さん」
「種畜場の中島チビタンク、甲子園に出た杉山四郎、熊谷番長、角鹿家具のイツミちゃんは現場にくるんですね」
「たまたまでしょうが、それらのかたのお名前は出席者名簿にはありませんでした」
 じっちゃが、
「うめもんだな。刺身はいづでも食えるたって、タゴ、イガ、あが身、白身、まどめで食ったのは二十年ぶりでェ」
「二十年前、何か祝いごとがあったの、じっちゃ」
「熊本から神無月さんが訪ねできてよ。スミが出てったって手紙コよごしたあどでな。二日がかりできたんだァ。駅まで迎えにいって、まさ鮨で上寿司食った」
 ばっちゃが、
「そのころスミは、赤んぼのンガを連れて、熊本から家出したのよ。神無月さんはてっきりこっちさ帰ってべど思ってきたんだども、スミは東京にいたのせ」
 私もカズちゃんもすでに知っていることだった。私はその話の先を求めなかったし、老人二人も詳しく話す気はなさそうだった。浜中が、
「それきりお二人は別れたということですか」
「よごはまの簡易裁判所で白黒つぐまで籍は入れであった。八年もよ」
 田代が、
「五百野がつながりましたね」
 私は、
「結婚当時の父に関する五百野の描写は、母から聞いた話を鵜呑みにして書いたものです。事実ではありません。先月熊本までいって、田浦の父の家の近所に住んでいた人たちに聞いて確かめました。父は浮気をしていませんでしたし、芸者の存在も、麻雀の話も母の作り話でした。川の字の話も嘘ということになります。父は地元の人のために尽力したまじめな人でした。あの小説は、理想の母親像を描こうとしたものなので、書き変えるつもりはありませんが、結果的に、父以上に母を脚色しすぎたきらいがあります」
 私が言うと浜中が、
「神無月さんはあの作品をいつも〈作文〉と言ってきましたが、ほぼ完全なフィクションだとすると、まぎれもなく芸術作品ということになりますね」
「表現が作文です」
「いや、魔術的な表現ですよ。あそこまで澄んだ川の流れのようなてらいのない文章は書けません」
 恩田が、
「日本文学大賞はまずまちがいないと思いますよ。仕事柄その筋の話はしっかり入ってきますから」
「辞退します。過去の天才たちにすまない。気の引けた受賞など、生涯の後悔のもとです」
 浜中が、
「神無月さん、あなたは天才ですよ! 過去の天才たちにこれっぽっちも引けをとっていません。現今の受賞者たちをごらんなさい。カスばかりです」
「その人たちを受賞させた人びとに、ぼくはかつて拒否されました。―彼らから表彰されたくありません」
「カスを受賞させてきたカスに何をされようと、神無月さんが気に病むところじゃありません。受けてやりましょうよ。野球人生のあとの人生がスムーズになります」
「辞退します。彼らは彼らの好みと思惑の中で仲よく生きればいい。彼らの中でスムーズに生きるなど、もってのほかです」
「たしかにあれほどの詩を拒否されたら、文学界に対する信頼を失って当然ですが、中原中也でさえ死ぬまで無名でした。川上徹太郎や小林秀雄や三好達治といった特定の個人に認められていただけです。詩壇には受け入れられませんでした。神無月さんと同様、そのことが中也のトラウマになりました。そして悲しいことに、小林らがいなければ、中也の詩はこの世に出なかったんです。文学界なんてその程度のものです。今回神無月さんが賞の候補に上がっているのは詩ではなく小説ですが、詩壇の仕組と大差ありません。市場が詩よりもはるかに広いので受賞の方向へ動いているだけのことです。神無月さんを天才と認めたからでなく、有名人なので動いてるんです。有名人の本は売れますから。チンケなやつらです。くどいようですが、文学界なんてその程度のものです。受賞を拒否なさるなら、私どももそれをよしとします。受賞などしなくても出版を図ろうとする有志がかならずいるはずですから。わが社の出版部は百パーセント動きますが、腐った大手でない出版社も乗り出してくるでしょう」
「ぼくも、もともとそれでいくつもりでした。中日新聞の文芸部が出版することになっています。この話はこれでエンド」
「はい、エンド」
 四人の男たちが拍手した。カズちゃんがハンカチで目を押さえた。じっちゃとばっちゃは何のことやらわからず、私たちを眺めながら微笑していた。田代が、
「神無月さんが出歩いても町の人たちはほとんど寄ってきませんよね。田舎の人びとがスポーツや芸術全般に無関心な理由がなんだかわかるような気がするんです。小さな町はほかに関心を飛ばせないほど〈事件〉に満ちてるんですね。イベントという意味じゃありません。イベントの数はごく少ないです。結婚式、葬式、祭りぐらいしかない。事件と私が言うのは、のどかな生活の中に人間の基本的な情念が渦巻いているということです。殺人事件がよく起こるのも村や町ですし、夜這い風習などは事件の最たるものです。それに比べて都会は退屈です。スポーツや芸術のようなイベントで満たしてやらないとね」
「おもしろいですね! 退屈を知らなかった田舎者が都会に出て退屈し、娯楽を求める。その結果都会は娯楽に満ちあふれる、ということですね」
「はい。田舎に戻ればそんなものは必要なくなる。神無月さんも注目されずに静かに暮らせるというわけです。しかしそれはすべて、だれにも注目されない、進んで娯楽を求める平凡な人の話です。みずから他人のための娯楽を体現する才能ある人は、才能を発揮することが娯楽です。才能というのは遊びの分野で発散されるものですからね。田舎に安住するとそれができなくなる。村や町には才能を発揮する場所がないからです。つまり、都会以上に退屈になる」
 浜中が、
「もともと情念のかたまりの神無月さんは、田舎で暮らす意味はないということです。都会にいても、自分の中で嵐を起こしながら、ちゃんと静かに暮らしている。しかも、遊びの重視される都会で才能を発揮している」
「……罪人意識に悩みながらね」
「何の罪ですか。悩みと罪悪感はちがいます。悩みというのは情念の悩みでしょう。自分に悪さをしかける母親を切り捨てたり、親しい人と疎遠になったり、多くの女性を屈託なく自分の人生に引きこんだりすることは、罪ではなく、情念の結果です。自分一人のベクトルじゃありません。罪は自分からの一方的なベクトルです」


         八十四

 鮨が平らげられた。じっちゃが、
「新聞記者てのは、うだでアダマのいいこだ。たんだ、郷は、その情念のかだまりてのに罪業ば感じてるんだべ。生まれつぎだ。理屈でね。……やさしい人間なのよ。よろしぐ付き合ってけろじゃ」
「……承知しておりました。何をどう理屈を言っても、神無月さんの底なしのやさしさは変わりません。甘えさせていただきます」
「ぼくは大勢の人から過分に守られてますが、近ごろ、それ以上に人を守りたい気持ちが強くなってきたんです」
 恩田が、
「何から守るんですか?」
「不幸な気分からです。情念は人を不幸にします。情念のせいで思いどおりにならない人生を送る人は多い。情念のもたらす不幸にめげずに、明るく楽しく生きてほしいという気持ちです。自分の楽しみのためばかりではなく、彼らの楽しみのために野球を一生懸命やろうという気になったのもそれゆえです。ぼく自身が情念など捨てて、明るく楽しい人間になり、彼らの幸福の一部として役立つ行動をしたいということです。守るという意味が正しければ―」
 ばっちゃが、
「な、ジョッパリなわらしだべ。たンだのほほんとしてるわげでねのよ」
 カズちゃんがホホホホと高らかに笑った。釣られてみんなも声を上げて笑った。
 丹生が家の内と外を検見(けみ)しながらビデオを担いで回った。私やばっちゃの部屋はもちろん、じっちゃの寝間、台所、風呂、便所、裏庭に出てすももの樹やスグリの垣根まで撮った。一段落つくと、浜中が、
「ジョッパリが全速力で駆け抜けるのに付き合わせていただきます。では、あらためて五時に華竜のほうへ参ります」
 そう言って、四人で馬門へ引き揚げていった。
 じっちゃばっちゃに日常のペースが戻ってきた。じっちゃは心置きなく新聞に、ばっちゃは、どれどれ、と言って針仕事をしに自室に戻ったので、私とカズちゃんは勉強部屋にいって炬燵にあたりながら読書することにした。これはふだんの私たちのペースではない。適当に善司の書棚から引き出した本を読んでみるけれども、心が逼迫せずに和みすぎているので、活字を追う目に真剣味がなく、活字が上滑りする。
「仕事で紛らせないと、一日を暮らすので精いっぱいになるね」
「うん、私も働いてないとそうなる。キョウちゃんといる一日でテンパイだから、きのうもきょうもテンパイ。幸せもテンパイ。幸せは少し足りないほうがいいわね。まじめな気分にならない」
「結婚しようか」
「だめよ。テンパリすぎちゃうでしょ。いまみたいにだれるわ。精いっぱいには余力がないと。余力は仕事よ」
「異議なし」
 昼下がりの窓に雪がバラつきだした。山田三樹夫の顔が浮かんだ。四郎と三人で歩いたシバレる海岸。膝まで埋まった雪。彼の家に顔を出すべきだろうか。何のために。この数年でセンチメンタル・ジャーニーはじゅうぶんすませた。これ以上私は〈過去〉に顔を出す理由はない。明日の予定と〈きょう〉にだけ理由を見出せばいい。常にあすまでの命だと覚悟し、あすが幸いやってきたらその〈きょう〉に没頭する。このごろとみに感じる。精力が一日分しかないと。
「過去を不用に感じるようになった」
「もともとそうよ。未来も不用に感じてるんでしょう。気持ちが疲れて、くたくになったなのよ。うんざりしたのね。キョウちゃんの気持ちをうんざりさせないように、なかなか周囲の人たちは気を使えない。キョウちゃんに心底愛されてないから。でも私たちはちがう。キョウちゃんに心底愛されてる。もし、キョウちゃんに思い出があるならそれを愛するし、未来があるならそれも愛するし、毎日の退屈も、愚痴も、希望も、性欲も、ぜんぶ愛する。キョウちゃんは私たちの産みの親だから、親孝行するのはあたりまえよ」
「孝行……」
「ふふ、理屈を言っただけ。死ぬほど好きなだけよ。何も不用に感じないで、自由に泳ぎ回りなさい。私たちも、いいえ、私だけは自由についていくから。もう四日だけ青森のお勤めを果たして、名古屋に帰りましょう。名古屋にもお勤めが待ってるけど、場所が変われば、気分も変わるでしょう。きょうからはできるかぎり、どこへいくにもキョウちゃんについて歩くわ。私といっしょなら疲れないでしょ?」
「うん、ぜったい疲れない。自分の精力を信頼できるようになる」
「むかし出会った人と、これから出会う人を大切にする精力ね」
「うん、そのうえで、いま出会っている人に打ちこむ精力」
「そうよ。疲れたなんて贅沢言ってられないわ。疲れはかならず回復するものよ。それにキョウちゃんは天馬、鬼神なのよ。野球をするからだはもともと疲れない人。人より敏感に生れついた感情が疲れるのね。野球をし、本を読み、音楽を聴き、映画を観、ものを書いて疲れを癒しなさい。感情の疲れを癒すには、頭を働かせるのがいちばん」
「直人とカンナは元気かな」
「ほらほら、そうやって気を回す。そうすると、ムッちゃんは、素ちゃんは、ということになっていくでしょう? キョウちゃんが元気ならみんな元気。気を回さないこと」
 本を書棚に戻し、二人で玄関に出て、屋根から道の端に落ちて積もった雪をドブに蹴落として楽しむ。午後の明るい空から細かい雪が落ちている。凍った道に金粉になって貼りつく雪だ。
「毎日こうやって道がコンクリートになっていくんだよ。……冬というものを意識した回数はあまりないな。たくさん見ているはずなのに」
「北国だから、あたりまえのことをあまり意識しないのね。でも、家に暖房があって、外に冬があるのってすてき。桜を見るように雪景色を見ちゃう」
「カズちゃんといると楽しいな」
「私はキョウちゃんといると楽しいどころじゃない。命が弾むって感じ」
「じっちゃばっちゃに会ってよかった?」
「もちろんよ。キョウちゃんのやさしさの源を感じるわ。やさしいってことは、何もしないでじっとしてることだってよくわかる。ただ受け入れるだけ。ミツゴのころからあの二人に育てられて、キョウちゃんが完成したんだわ。お祖父さんが言ったでしょう、生まれつきだ、理屈じゃないって。品よく完成させたのはあの二人よ」
「品よくって?」
「強引でないやさしさ。人を疲れさせないやさしさ。強引な人はけっこういるわ。やさしさの押し売り。エゴイスト。いま思うと、よしのりさんはその骨頂ね。自分の利益しか考えないから、そういう人間になってしまう。お祖父さんお祖母さんは、余計な仲間を求めず、町の中で孤立して生きてきたから人格を保存できたの。めずらしい人たちよ。この町で信用できるのは、お祖父さんお祖母さんと、キョウちゃんに全力で体当たりしてくる人だけ」
 ヒデさんと四戸末子の顔が浮かんだ。
「烏帽子見ながら散歩してくる」
「おお、いってこい。あしたは雪だすけ」
「うん。カズちゃん、風呂用意しといて。帰ってきたら入るから」
「ガスだから出かける前に簡単に焚けるわよ。私もいっしょに散歩するわ」
 ばっちゃが十畳から出てきて、
「三時過ぎだばりだ。八幡さまさ寄って、願かけてきたらいがいに。野球はアブね仕事だすけ、願かけねばまいね」
「そうします」
 カズちゃんはバカチョンカメラを持った。
「知ったふとに遇ったら、頭下げで、サッと通り過ぎればいんだ。野球のこど知ってるふとはほどんどいねすけ、寄ってたがるこどはねこった」
「だいじょうぶです。繁華街でなければ人にほとんど遇わない町だってわかってきましたから」
 カズちゃんは長靴、私は運動靴で歩み出す。気温八・五度。もんぺ姿の主婦や婆さん連中とチラホラ行き交う。角鹿製麺所、ひだか整体院、じっちゃが傘の杖を突いてかよう郵便局。
「県道243号線。馬門野辺地線とも言うのよ」
「そういう名前がついてたのか」
 左手に文化屋雑貨店、しまやカメラ店、右手に銀映、西野理容、郵便局の向かいには、門林衣料店、野田靴店、安田精肉店とつづく。八幡神社のほうへ曲がる。西野理容。幼稚園のころずっとここで頭を刈った。カミソリでよく、鬢(びん)の先や耳の後ろの生え際を傷つけられた。その話をすると、
「何度も聞かされたけど、ここだったのね」
 銀映の路地。
「この先に見えるのは銀映という映画館でね、よく義一と竹竿で便所に忍びこんでタダ観した」
「それも何度も聞いたわ。キョウちゃんの映画鑑賞の出発点」
 安田精肉店の隣の居酒屋を隔てて北英堂書店、熊谷米穀店、さいとう洋服、毛糸屋、その隣に和田電気本店。
「ばっちゃと歩き回るの、楽しい?」
「楽しい。私のことあんまり褒めるから、ヤンキー時代の話をしたの。親に反抗して、厚化粧してオートバイを乗り回してたころの話をしたら、とっても喜んでくれて。そこまでグレねば人間は本物にならね、なんて、また褒めるの」
 ガラス屋、アパート、自転車屋。赤い大鳥居の前に出る。野辺地八幡宮。パチリ。鳥居の右に東奥日報支社。パチリ。
「八月に祇園祭と呼ばれてる神社祭があるけど、きらきらした雰囲気が小さいころから嫌いだった。合船場一家で祭見物に出かけて、じっちゃと二人で留守番したんだ。じっちゃは新聞、ぼくはビー玉。敷居の溝に転がして遊んでいるうちに、何気なく口に入れて、何かの拍子に喉に詰まって悶絶した。じっちゃに気づかれないように何回もちっちゃく咳をしたんだ。咳といっしょに飛び出てくれて助かった。この話は初めてするよね」
 ケラケラとカズちゃんは笑った。
「そんなときにお祖父さんの背中を気にしてるところが超人ね。飯場のころもお祭り嫌いだったわね」
「うん」
「祇園て、京都の八坂神社のことよ」
「そうなの? 知らなかった。たぶんそう呼ばれるのは、北前船で関西のほうから祭り文化がきたからじゃないかな。野辺地は江戸のころは賑わった港だったから」
「どうしてキョウちゃんはお祭りが嫌いなのかしら」
「浮かれた人混みのせいだね。浮かれるという気分が理解できないんだ。いまの新宿や池袋とそっくりだ。でも、祭囃子の音曲だけは好きだった。祇園囃子に合わせて山車(やま)が町じゅうを練り歩くんだけど、あの音色だけは好きだった」
 その一本調子の音色を、ラーララーラ、ラーララ、と二度ハミングした。
「その笛太鼓を鳴らせるのは、ブルジョアの子供たち、というわけね」
「そう、山車の高い櫓の上でね。山車を牽くのも子供会のやつら」
 参道に入った。両脇に一対の狛(こま)犬が腰を下ろしている。台座に昭和十二年と彫ってある。一匹の狛犬には大きな皹(ひび)が入っていた。
「私よりも三歳も若い狛犬。ヒビなんか入って情けないわね」
 八重歯を出して明るく笑った。短い参道を歩いて社殿の前に立つ。簡素な建物だ。本殿は覆い屋の中に入っているので見えない。カズちゃんは拝殿の階段を上り、賽銭箱に小銭を放って掌を合わせる。私は後ろから眺めていた。
「何を祈ったの」
「キョウちゃんが死ぬまで私も生きられますようにって」
 鳥居を出て右折し、八幡の坂から農道に入る。野辺地駅の方角だ。トランペッター中野渡の家。
「ここが、トランペットの天才中野渡の家。スカウトされて青森市の山田高校にいったけど、その後、噂を聞いたことがない。将来、山口みたいになってくれればいいと思ってる」
「山口さんみたいな天才ならいいけど。でもまだ二十歳でしょ。これからよ」
 野辺地川を渡る。雪野原の向こうに真っ白い山並が連なっている。スキー大会のときに眺めた光景だ。
「この道をスキー大会で走って、はるかに離されたドベだった」
「そうだったわね。この道は県道208号線、野辺地停車場線とも言うわ。広大な景色の道ね。さびしい……」
「本町の裏街道みたいな道だからね」
 民家と種々の営業所と倉庫がポツポツあるきりの道をゆっくり歩く。手をつなぐ。右も左も雪帽子かぶった草むぐらと小森と田畑。
「キョウちゃんといると、時間を忘れちゃうわ。ゆっくり歩き、道端に目を注ぐ。美しいの! その姿を見てるだけで、時間の感覚が吹き飛んじゃう」
 三十分ほど歩き、野辺地駅までいかずに引き返す。城内幼稚園の鉄門を覗く。
「大きな幼稚園ね。十字架の尖塔がきれい」
「ここに二年間通った。中三のときの同級生は、ほとんどここの出身だ。中学校も幼稚園も町に一つしかないからね。お昼の時間に、顔の上を跨いでいった女先生の下着を覗いた」
「ませてたのね」
 園児たちの声が聞こえる。中学時代に眺めたほどのなつかしさはない。通りの右手の外れに『すえ』という青看板が見える。カズちゃんには何も言わなかった。言っても、寛容のオブラートにくるまれて、自分を叱りつけたい気分になるだけだから。
 鉄門から離れて左手へ歩みだす。ガマの家。家とはとても言えない押し潰されたような小屋だ。
「ガマの養い親が駄菓子屋をやってた家だ」
「……ガマさん」
「うん、村上幸雄。今夜の同窓会幹事」
 野辺地東映の建物も看板もなく、跡地がただの空き地になっていた。貧相な引き戸の雁乃湯はまだ〈健在〉だった。三島平五郎ちゃんの床屋はボッケの店より大きい大湊製菓に変わっている。県道を新道へ渡り、立花先生の家の前から、野辺地中学校につづく道へ曲がる。看板屋。ストーブ修理屋。野辺地にこんなめずらしい店があるとは知らなかった。どういういきさつだったか、遠い日の夕暮れに、この道で、見知らぬ青年のスキー板に乗せてもらったことがあった。ヤッケの背中にしがみついた。彼の足といっしょに私の足も交互に躍動した。ジェスチャーをつけてカズちゃんに語る。カズちゃんは目を細めて微笑する。




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