百

 時評番組になった。奥さんがタクシー会社に七時四十五分にきてくれるよう電話を入れた。主人が、
「おもしろい番組を観ましたな。球離れ、球付ぎか。神無月さんも何か、こういうやづはだめだとが、こういうやづは大成するとが、感じたこどはありますか」
 たいていの人はテレビを前にすると、話題がテレビのことだけになる。奥さんが残念そうな顔をしている。再会の感激がそっちのけになっているからだ。しかし、これが彼らの麗しき習慣なのだ。寛容になるべきだ。
「グランドに立つユニフォーム姿を見て、だめな選手はすぐわかります。二軍を見にいって感じました。ダレてるんです。いい選手はユニフォームをまとっただけで雰囲気が引き締まります」
「神無月さんのユニフォーム姿は絶品でしたがらな」
 話を遮断して、別れに備える。
「あと十分くらいですね。お母さん、きょうはごちそうさまでした。またチャンスを作ってごちそうになりにきます。名古屋に遊びにきてくれれば、ぼくがごちそうします。また逢える日まで、ご一家元気でいてください」
 意図して力をこめた目で奥さんを見つめた。奥さんは頬を赤らめてうなずいた。主人を見やり、
「ご家族の柱として、健康に気をつけておすごしください。ぼくも健康に気をつけながら野球選手としての使命をまっとうします」
「いっつも応援してますよ。役所では、むがし神無月さんがわが家に下宿したこどがあるて聞きつげで騒ぐやづらがいで、神無月さんのサインをもらってけろってうるさくせがむんですよ。一年にいっぺんも会えね、とんでもなぐえれェ人だんだとへって断わってますけどね。ハハハハ」
「お父さんの顔が立つなら書きましょう。葛西家にも書きます」
「ほんですか! だば、おらえど、次長の息子さんさ書いでもらうべ。こたらこどもあるべと思って、色紙用意してあるはんで」
 色紙を二枚持ってきたので、文江サインをした。葛西さんの添え書きには、故旧忘れがたし、葛西さんご家族へ、役所のそれには、道一筋、××くんへ、と記した。
 タクシーのホーンが鳴った。私は玄関に出て革靴を履き、
「ほんとにお元気で」
 と言って、二人と握手した。奥さんに差し出された傘を断ってタクシーに乗りこむ。主人が式台で頭を下げ、奥さんは車の窓までやってきて、もう一度握手した。泣いていた。
         †
 野辺地駅前からタクシーに乗り、九時十分に合船場に着いた。融けない雪が道一面に積もっていた。老人二人は寝ているものと思い、そっと玄関を開けて土間に入った。ばっちゃが障子を開け、彼女と顔を並べてカズちゃんが覗いた。
「お帰りなさい。けっこう早かったのね」
「晩めしごちそうになって、八時前に引き揚げてきた」
 囲炉裏のストーブにあたる。ここでもNHKニュースがついている。
「葛西さんご夫婦、元気だった? 会ったことない人たちだけど」
「うん、奥さんは少し齢をとり、ご主人は相変わらず好人物だった。世間話好きの」
 ばっちゃが、
「娘にはあした会うんだべ」
「うん、講演のあとでね。種畜場のヒデさんとも会う」
「ヒデコは成績優秀で、東奥日報さもよぐ載ってら」
 じっちゃが寝間から出てきた。
「起ぎでるつもりだったども、ねぷたくなってまったせ。ワはこのまま寝るじゃ」
 すぐに寝間に戻った。三人微笑で見送った。
「きょうはどうしてた?」
 ばっちゃが、
「昼にガマと岡田パンがきてよ、少し話っコして、ゴマ煎餅とパンをムッタど置いてった。じっちゃは食パンが好物だすけ、サドつけで三枚も食ってまった」
「じっちゃは海軍上がりのハイカラさんだからね。ガマたち何か言ってた?」
「同窓会だば遅くまで引き止めてしまってすみませんでした、とせ。とんでもね喉聴かせでもらったってへってらった」
 カズちゃんがニッコリ笑って、
「いま、どんなにキョウちゃんがいい声をしてるかを話してたとこ。お祖母さんはそのこと知ってたんだって」
「歌手になればいいって言ってくれたことがあった。うれしかったな」
「郷はいっつもその部屋で唄ってらった」
 勉強部屋を指差す。
「お祖父さんは、大吉さんの血じゃないかって言うの。お母さんが初めてここに連れてきたとき、たまたま様子伺いにきた惣介さんとお酒飲んで、いい声で唄ったんですって。男純情のォって歌。キョウちゃん知ってる?」
「うん、灰田勝彦のきらめく星座。男純情の、愛の星の色、冴えて夜空にただひとつ、あふれる思い……。キャンプのとき、巨人との交流試合のあとで唄った」
 ばっちゃが記憶を取り戻した顔で、
「それだ、それだ。憶べでら。大した歌コのうまいふとだった。郷の声とそっくりだった」
 父と声が似ていると聞いて、ほのぼのとうれしかった。
「大吉さんがここにきたときって、戦後すぐですよね」
「昭和二十二年だったな」
「西松で下働きしてたころ、大吉さんは二つ年下だと、お母さんが話してたことがありました。結婚後二年して、彼女が二十六歳のときにキョウちゃんが生まれたそうですから、そのとき大吉さんは二十四歳、ここに顔見世にきたのはその二年前ですから二十二歳。そのときキョウちゃんとそっくりな歌声をしてたとすると、いま二十歳のキョウちゃんはそのころのお父さんの声で唄ってるということになりますね」
 ばっちゃがうなずいた。
「ンだ。顔はぜんぜん似てねけんど」
「私はキョウちゃんの声を聴きながら、お父さんの若いころの声も聴いてるんですね。不思議……。お父さんがキョウちゃんの声を聴けないのがかわいそう」
 ばっちゃはカズちゃんの言葉に耳を傾けていた。
「大吉さんはいいふとだった。スミにとっ捕まって気の毒だど思った。……スミとわがれで幸せになったこだ。いっしょにいだオナゴは郷にやさしぐしてけだって聞いた。大吉さんにもやさしぐしてけだこった」
「そうですよね。女ならだれだって、キョウちゃんのような人にはやさしくしたくなります」
 ばっちゃは満足そうにうなずき、
「あしたは何時起ぎだ?」
「私は六時には起きます」
「そのころには、めし炊いとが」
「すみません。おかずはちゃんと作りますから」
「あり合わせでいど」
「しばらくさびしくなるね、ばっちゃ」
「これるとぎにくればいんだ。長生ぎして待ってるすけ。あさっては飛行機が?」
「うん」
「あ、お祖母さん、荷物はかさばるので、お土産はけっこうですから」
「貝柱ぐれ持たすべ」
「あの下着穿いて寝てくださいね」
「もう穿いでら。あったけじゃ」
 ばっちゃは笹餅を出して茶をいれた。
「おいしいわ。素朴な味」
 私もうまいと感じた。幼いころは大してうまいと感じなかったが、飽きない味だからこそ食われつづけているのだと思った。
「へばオラは寝るすけ、おめんども早ぐ寝んだ」
「はい。お風呂に入って寝ます。お休みなさい」
 ばっちゃはなんだか浮きうきと寝間に入った。カズちゃんはストーブを消し、二人、勉強部屋の炬燵で暖を取りながら、あしたの予定を語り合った。
「九時ごろの汽車に乗って、青森に着いたら、まず白百合荘に電話しましょう」
「カズちゃんも泊まるんだよね」
「ええ、どういう成りゆきになるかわからないもの。そういうことになったら、私と羽島さんは遠慮するわね」
「わかった。ホテルに泊まらないとなると、荷物は持ち歩くしかないね」
「私が持つからだいじょうぶ。ボストンバッグ一つくらいなんてことないわ。じゃ、お風呂入りましょ。髪を洗うわ。キョウちゃんも一日の旅で汗をかいたでしょう」
「うん。そのあと―」
「少しテレビを観てから、抱き合って寝ましょう」
「それだけはしたい」
「私も」
 カズちゃんは風呂の湯を入れて戻ってくると、新聞のラジオテレビ欄を広げる。
「映画は十時半までしかやってないようね。あとはニュース、ドラマ、歌謡番組、それと11PM」
 脱衣所で、寒い寒いと言い合いながら、衣服を脱ぎ捨てて、まだ溜まりきっていないぬるい風呂に飛びこむ。追い焚きをしながら抱き合い、唇を吸う。畑に向かう大窓を開け、二人で夜空を見上げる。漆黒の空から大粒の雪が落ちてくる。
「きれい!」
「満天の星みたいだ。……きょう一日退屈だった?」
「ぜんぜん。お部屋の掃除をしたあと、お祖母さんと町に出かけて、ボッケさんのお店でお茶を飲んだ」
「また?」
「そう、だれも私たちに応接しないってわかってたから、のんびりできた。お祖母さんは昆布茶を飲んだ。私はブレンドコーヒーとショートケーキ。それから五十嵐商店で買い物をし、奥山先生の家にいって挨拶してから、帰って夕食の支度。忙しくすごしたわ」
「奥山先生、驚いたろう」
「美代子のライバルが現れたって笑ってた。キョウちゃん相手だと、だれもライバルになれません、みんな揃って放っておかれますからって言ったら、奥さんまで大笑いしてた。小学生と幼稚園の子がいたわ。どちらも女の子。とってもかわいらしくて、何度もチュしちゃった。奥山先生、万能の子が野球一筋に絞ってくれて安心したって言ってた。一本道ってみんなを安心させるのね。今後千年プロ野球がつづいても、ぜったい破られない記録を作って、生きながら伝説になってしまったから、目立つのが嫌いな彼はかえって生きづらくなったかもしれない、杞憂だといいけどって」
「結局いつも心配してくれてるんだ。そういう人だよ」
「葛西さんのところでは、奥さんにしてあげた?」
「うん、旦那さんが帰ってくる前に。やっぱりそうなると思ってたんだね」
「もちろんそうよ、あのころいつもキョウちゃんから奥さんの様子を聞かされてたから。それでいいのよ、いつもやさしいキョウちゃんでいてくれてうれしいわ。奥さんも念願が叶ってうれしかったでしょう」
 いい湯加減になったので火力を止めた。
「講演のあと、白百合荘に寄って挨拶してホテルに戻り、翌日飛行機に乗るからって、白百合荘に泊まることは言わなかった」
「いいじゃない、秀子さんと美代子さんと私と管理人さん、それにキョウちゃんと五人で一晩ゆっくりすごしましょう。きょうはからだを休めること」
 湯殿に上がって、二人で髪を洗った。
「私もトモヨさんぐらい短くしようかしら」
「ショートボブ?」
「そう。私のもショートボブなんだけど、トモヨさんのは、全体が思い切り短くて、マニッシュ・フレンチ・ショートボブって言うの」
「二人、見分けがつかなくなっちゃうよ」
「そうね、キョウちゃん、私の髪が好きみたいで、お蒲団でよく撫ぜるものね」
「うん、大好きだよ。十年間変わらない髪型。野辺地に送られる日に記憶した髪型だ」
「もしかして、あのとき?」
「うん!」
「やだ、恥ずかしい」
「恥ずかしいもんか。あの日が、いまのぼくを生かしてるすべてだよ。何があろうと、カズちゃん一人を愛してることを忘れないでね」
「忘れないわ、命を懸けて」
 髪を洗い終えると、寒い! と言って二人湯船に戻る。
 みち火を消し、湯を抜いて風呂から上がると、囲炉裏のそばに寝そべり、柔らかくなった手と足の爪を切ってもらった。カズちゃんも自分の爪を切った。ストーブを切り、部屋の蒲団にもぐりこむと、今夜もカズちゃんと静かにセックスをした。横たわった片足を上げ、後ろから挿入した。カズちゃんは枕を噛んで、けっして声を出さなかった。何十回も清潔に気をやった。愛液が飛ぶので、股間を手のひらで覆っていた。自分が成長したせいで小さく感じるようになったカズちゃんのからだが、腕の中でふるえる。今夜ほどそれをしみじみとうれしいと感じたことはなかった。射精をし、カズちゃんが手ぎわよく後始末を終えると、二人手をつなぎ合って眠った。


         百一

 十二月六日土曜日。五時半起床。曇。ちょうど零度。やっぱり早起きのカズちゃんはいない。枕もとに畳んであるワイシャツとブレザーを着た。
 炉辺で賑やかな声がしている。戸を引くと、煙草を指に挟んだじっちゃが笑顔を振り向けた。味噌のにおいがする。ばっちゃが茶をすする傍らで、カズちゃんがじゃっぱ汁を掻き回していた。もう一つの鍋でスパゲティの麺を茹でている。カズちゃんがしゃもじの手を止めた。
 私はじっちゃの小さな卓袱台を用意した。カズちゃんはじゃっぱ汁をよそって二つの飯台に置いた。大切りの豆腐、鱈のアラと白子、大根、ニンジン、長ネギがお椀いっぱいに盛られている。
「食べていてください」
 そう言うと茹で上がった麺を鍋ごと台所へ持っていった。ザルにあけている。ばっちゃがストーブの上にフライパンを置いて油を敷いた。カズちゃんはざるを持ってきて、麺をフライパンにあけ、長箸で炒めはじめた。ばっちゃが殻に包丁を入れて断ち割ったウニのはらわたを入れる。カズちゃんが掻き混ぜる。
 私はそのあいだに台所へいって歯を磨き、顔を洗った。窓の外に長短のツララが垂れている。帰省してから何度も目にしたが、あらためてじっくり見る。庇の雪から垂れていることを発見する。あれは何かの拍子にドサッと落ちるので、真下から見上げるのは危ない。簡単に折れそうなツララを人の命に見立てたとたん、乱反射してくる光が美しく映った。私が食卓に戻るのに合わせて、みんなで箸をとった。じっちゃはじゃっぱ汁を一口すすって、白子を口に含み、
「あー、うめじゃ」
 と深い息をついた。
「ほんとに、どたらに腕いんだが」
 ばっちゃも味わうように箸を使っている。すすってみると、ばっちゃが作るじゃっぱ汁よりも少し濃いコクがあった。ウニの香り高いスパゲティが四枚の皿に盛られる。私とカズちゃんはフォーク、じっちゃとばっちゃは箸で食べる。微笑ましい。
「おお、これもほっぺだ落ぢるな!」
 ばっちゃも、
「ほにほに、うめ」
「おとといと同じものですみません」
「なんも、うめものはうめ」
 二人ともゆっくり、丁寧に箸を動かす。
「いままでウニで作ったことはないんですけど、スパゲティは私のやってるお店の定番なので作り慣れてるんです。ナポリタンというのが主流ですけどね」
 スジコの欠けらと片目焼きとタクアンに、油揚げとワカメの味噌汁で惣菜終了。じっちゃもばっちゃもしっかり一膳のめしを食べ終えた。じっちゃは満足げに箸を置き、
「うめがった! まだの機会を楽しみにしてるじゃ」
 ばっちゃが、
「味つけおべだすけ、ワがとぎどぎ作ってやら」
 じっちゃに向かって微笑んだ。私はじっちゃに、
「これからは毎年、十二月にくるからね」
「無理しねんだ」
「うん、無理なときはこない。でもぼくしか帰らない家だから、無理しないとね。……善郎は手紙でもよこす?」
 ばっちゃに尋いた。
「なも。たンだの一度もね。顔も出さね。こうして野辺地さくるのは、おめふとりだ」
 赤井と同じだ。私より時間のある人間が、私より時間に吝嗇になっている。あの祖母思いの熱血ぶりは何だったのだろう。そのときのことをばっちゃに言うと、
「オラの責めだ。サイドさんとごにはもういがね。おっかねじゃ。話がどう曲がるがわがんね。善郎は義一と同じで、口ばりのガキだすけ。おめをいじめて楽しんだのよ。いまはもう、何も言えねべ」
 青森放送の七時のニュースで、また吉沢のフィルムが二分ほど流れた。じっちゃが、
「こったらふうに有名になんねがったら、ンがはいづまでもいじめられたべおん。なんも逆らわねすけ、いじめやすいんだ。野球うまぐいがねぐなったら、すぐ引退しろ。ぐずぐずしてるど、まンだやられるすけな。引退して、和子さんたぢに守られて生ぎろ。そごで死ね」
「うん、そうするつもりだよ」
 カズちゃんと二人裏土間の便所にいき、風呂場に戻って桶で尻を洗う。さっぱりして服を着、炉端に坐る。
 浜と惣介さんちの嫁がきた。浜の嫁はビニールパックに入れたホタテの紐と貝柱を、惣介さんちの嫁はタッパに入れた津軽漬けを持ってきた。きのうのうちにばっちゃが電話を入れていたようだった。ばっちゃは二人に千円と五百円を差し出した。
「すたらこどしたら、土産になんねべに。いらね、いらね。それより、キョウちゃん、サインけろじゃ」
 二人で色紙を差し出した。私は快くサインした。坂本さんへ、佐藤さんへと添えた。
「何百万円もすべ。宝ものにするじゃ」
 二人が帰ってからも、田島鉄工の婆、横山のハナちゃん、和田電気の嫁、これほど近所があったかと思うほど有象無象、七、八人やってきた。ばっちゃが漬物と茶を振舞う。近所話に花が咲く。じっちゃは煙草を吹かしながら新聞を読んでいる。じっちゃは新聞から顔を挙げ、かしましい女たちにぶつけるように、
「ラジオテレビの女社員たぢが、女も男と同じぐれ働がせろて、労働省に要望書出したず。残業とが、夜中の労働とがさせろて。立派だじゃ」
 客たちがびっくりしてじっちゃを見、へば、とか、だば、と口にして立ち上がり、キョウちゃん元気でな、とか、ケガに気つけんだい、とか、毎年ジジババの顔見にくんで、などと言いながら土間へ出ていった。
「たふらんけが。ふとのことばり語って」
 じっちゃは憎さげに言った。ばっちゃが、
「そろそろ出がけろ。きりがね。またこっちゃさくるとぎは手紙コよごすんで」
「うん。じゃ、いくね」
 じっちゃが、
「おう、いっつもテレビ観でるすけ。ジェンコ送るなよ」
「わかった。持ってるお金はちゃんと使ってね」
「外塀直すので五十万は消えら。安心しろ」
 ばっちゃが立ち上がった。私は厚く身づくろいし、眼鏡をかけた。カズちゃんはボストンバッグを持ち、肩にばっちゃのくれたショールをはおった。
「長靴は置いていきますね。これ、北村席の電話番号です。何かあったらかならず電話くださいね。飛んできますから」
 ばっちゃと玄関を出る。じっちゃはめずらしく囲炉裏を離れて、土間の玄関戸まで見送りに出た。その名残惜しげな様子は痛々しいほどだった。何度か振り返ると、じっちゃは手も振らず戸口にぼんやり立っていた。ばっちゃは本町のバス停まで送ってきた。女物のゴム長を履いていた。
「お祖父さん、あの歩き具合だと、長距離の旅行は無理ですね。ふだんも心配でしょう」
「まんずな」
「何かの具合でひょいと名古屋にきたくなったら、はい、この電話番号にかけてください。北村席と、私の経営してるアイリスというお店と、キョウちゃんの自宅の番号です。旅費を送りますからね」
「いらね。いきたぐなったら、電話コすら」
「そうしてください。かならず上野駅までお迎えに出ます」
 私たちがバスに乗りこむと、ばっちゃはしばらく手を振り、まだ姿の見えるうちに、すたすたと五十嵐商店に入っていった。
「お祖父さんのお昼を作るのかしら」
「そう願いたいね。この五日間は奇跡だった」
「離れていて忘れないことは簡単だけど、そばにいて忘れないことは難しいわ」
「……深いね」
「え、私、深いこと言ったかしら」
 粗末な木造の駅舎に入る。カズちゃんが切符を買うあいだ、ストーブの効いた待合室でしばらく待つ。いつものように、もうこの場所には永遠にこないという予感が押し寄せてきた。売店に野辺地名物とりめしの看板。二つ買う。
「……二人とも、ぼくに金を残すつもりだ。手ごわい」
「さすがキョウちゃんのお祖父さんお祖母さんね。まったくの無欲」
 八時三十六分、青森行のディーゼル機関車に乗りこんだ。背もたれの垂直な椅子に向かい合って座る。すぐに走り出す。複線電化の話をカズちゃんにする。
「ディーゼル機関車から電気機関車に切り替わったって話でしょ? 去年の夏、高円寺でその記事読んだ覚えがあるわ。東北本線て日本の大事な動脈みたいなものなのに、複線化と電化がいちばん遅れてたんですってね。十月一日がダイヤ改正日で、その日上野に向けて青森駅から出発した初の電気機関車は、はい何でしょう。勘でどうぞ」
「はつかり」
「正解、はつかり二号」
 一面の雪景色の中にポツポツ家がある。
「日本の人口密度ってほんとに高いのかなあ」
「こういう景色がほとんど日本じゅうよね。都会にだけ人が異常に集まってるっことじゃない? 新宿や池袋なんか、足の踏み場もないもの」
「人間が怖いのに、人がたくさんいるほうがホッとする。飯場で暮らしてきたせいだね」
「人が好きなのね。愛することが好きということ」
 人口密度の話が愛につながる。私たちにはそれしか関心がない。
「同窓会の幹事をしていた西舘セツというゴリラ女の店で、たった五人の二次会をやった。親切な女だった。ぼくのことが好きなようだけど、応えられない」
「好みの問題ね。好みが一致しないと愛情も湧かないし、会話はできても性的なことをする気持ちにはならないのよ。セツさんには気の毒だけど、仕方ないわ」
 森、トンネル、海岸。
「あ、浅虫だ。ちょうど半分きた」
 カズちゃんがやさしい目で浅虫の海を見つめた。
「海水浴……。ふんどしから海水パンツに変わったのはいつごろなんだろう」
「昭和三十年に入ってからじゃないかしら。女は子供も大人も競泳ふうで、せいぜいセパレートになるくらいでずっとつづいたけど、この数年はブラジャーとパンティだけみたいなものも出てきたわね」
 弁当を開く。グリーピースを散らした鶏そぼろ、鶏肉五切れ、シイタケの切れ端の載った炒り卵、ニンジンとササゲの煮物、シバ漬け。
「うまい」
「おいしい。お腹空いてたのね。朝ごはんあまり食べられなかったから」
「三日かけてようやく胃が回復してきた。同窓会では相当飲んだからね。緊張で酔わなかった分、胃がやられてたんだね」
 私の残したとりめしをカズちゃんはきれいに平らげた。
 青森駅、九時半。一・五度。雨脚のはっきり見える氷雨が降っている。雪が消えるほどではない。駅構内の売店に佐藤菓子の芋菓子を発見したので、カズちゃんが一つ買った。駅前のアスファルト道にグシャグシャ轍が掘れている。いずれ鶴嘴で〈雪切り〉をしなければならないほど道路が凍えて固まるだろう。りんご市場を眺めながら、公衆ボックスから白百合荘に電話を入れた。ユリさんの喜びようは尋常でなかった。弾む声で、
「着きましたか! いま学生は出払ってます。半ドンですけど、午後はみんな講演のほうに回ると思います。早くきて、離れに荷物を置いてくつろいでください。講演は一時からですね」
「はい、十二時半に控え室に入ろうと思ってます」
「いまからタクシーでくれば、二時間近くゆっくりできます」
 タクシーに乗り、雪掻きの効いている4号線へ走り出す。きのうと同様、道の両側はうずたかい雪だ。その雪の上をサラリーマンや、ランドセル背負った小学生たちが歩いていく。ビルに貼りついた雪のせいで、施設や商店の名前などほとんど識別できない。カズちゃんが思わず声を上げる。
「わあ、堤川、なつかしい!」
 堤橋の西詰めを右折して、松原通りに入る。板屋、モルタル、葛西さんの家とそっくりの平屋や二階家がつづく。どの家からも煙突が突き出ている。重油タンクが貼りついている家もある。家の裾には掻き寄せられた雪。ポツンと藤田靴店。廃屋、空き地、喫茶店、すべて雪の中。みのる時計店、工藤カメラ、長生湯の看板、松原保育園、記憶あり、理容マツオ、工藤パン、すべて記憶あり。雪が降りしきる中、こんな遠い道をストーブと灯油を求めて歩いたことが信じられない。
 奥野の辻を曲がると筒井橋が見え、その彼方に八甲田連峰が望見できた。すぐに青森高校の生垣。関野商店。千円札を渡して降りる。


         百二

 雪掻きの跡のある白百合荘の玄関に、濃紺のスラックス姿のユリさんが立って待っていた。私たちをかつての二倍もある玄関に招き入れ、荷物を持って食堂へ招く。ガランとしている。廊下や部屋の戸口のたたずまいが一年半のあいだにすっかり変わっている。細かく二度目の改装をしたようだ。便所から食堂までの部屋の位置どりは変わらないが、廊下がかなり長くなっている。
「なんか、ピチッとしたね」
「神無月さんが今年送ってくださった五十万円を使わせていただきました。自分の貯金にそれを足して百五十万円ほど使い、廊下の奥へ四部屋増やしました。ぜんぶで八室。ドアや敷居、鴨居、床板や天板もすっかり新しくしました」
 カズちゃんが、
「キョウちゃん、こっそりいいことしちゃったのね」
「机の抽斗にお金が溜まってたころにね。つまらないことしたなと思ってたけど、喜んでもらえてよかった」
 カズちゃんは紙袋から私の靴を出し、玄関に持っていって磨いた。彼女が戻ってくるとユリさんが、
「お腹すいてますか?」
「いいえ、駅弁を食べましたから。今夜ごちそうしてくださいね」
「はい! 腕をふるいます」
「私もお手伝いするわ。あしたの朝もね。お昼は外で食べましょう」
 カズちゃんは芋菓子を差し出した。
「野辺地のお菓子よ。青森駅で買ったんですけど」
「いただきます」
 ユリさんの手でコーヒーが出る。
「私は、キョウちゃんが講演から帰るまで、あなたとここにいます。夕食の買い物をしたりしながらね。講演の内容はテレビや新聞があしたにでも報道するので、現場で観る必要なんかないでしょう。キョウちゃんにくっついて歩いてると、かならずマスコミに目をつけられます。野辺地ではほとんど注目されないプロ野球選手も、青森市ともなると話は別です。一年でも選手寿命を長引かせたいですからね。東奥日報さんだけは信頼できます」
「講演会のあとは、会食などがあるんでしょうか」
「あるんじゃないかしら。一時から始まって、たぶん三時ぐらいに終わり、マスコミを引き連れて寺山さんや校長先生たちと記念碑を観て回り、そのあと会食に誘われるでしょうね。寺山さんとキョウちゃんが断ればそれで解散でしょう」
「もちろん、断るよ」
「秀子さんと美代子さんが、きょうの日を楽しみにしていました」
「じゃ、今夜のことはすべて了解してますね」
「はい、ドキドキすると言ってました。秀子さんは、来年の春まで抱いてもらえないので全力でぶつかりたいって。美代子さんは処女なので心配したんですけど、あの清純なたたずまいに似合わず、だいじょうぶですかって尋くと、サバサバした様子で、お母さんが隠していた張り形で中学生のときに破瓜をすませてると言いました。それから何度か試して、時間をかけてイケるようになったそうです。もう鈍感でない大人のからだだから、神無月さんに迷惑をかけることはぜったいないって胸を張ってました」
「それは心強いわ。スムーズにいけそうね。私はそろそろ危険日に近づいてるし、今夜は遠慮します。美代子さんや秀子さんにまんいちのことがあったらいけないので、最後は羽島さんが受けていただけますか?」
「はい、私でよければ。和子さん、申しわけありません」
「そういう流れになったときはと言いましたけど、二人の妊娠の危険を考えて、そういう流れにしてくださいね」
「わかりました。夕食はこちらで、それとも離れで?」
「離れにしましょう。食堂だと、キョウちゃんに人がまとわりつきますから」
「はい。校門にマスコミがたむろしないうちに、十二時くらいに控え室に向かったらどうでしょうか」
「それがいいわね」
 私は、
「ミヨちゃんのお母さんに美代子をよろしくと頼まれました。ただ、白百合荘でくつろいだあとはホテルに帰るということになってるので、そこのところをよくミヨちゃんに含めておいてください。日曜日もこちらにいるとわかったら、お母さんが様子伺いにきてしまうかもしれません」
「わかりました。ところで神無月さん、カルメン・マキってご存知ですか」
「知ってます。正体は知りませんが、哀愁を帯びた声でいい歌を唄います」
「日米の混血で東京育ち。寺山修司の劇団天井桟敷で去年デビューしたばかりです。今年は歌手としてもけっこう活躍しました」
「そのくらいでいいです。寺山から直接訊きますから」
         †
 十一時五十分。ブレザーの上着だけを紺のスーツの上着に替え、紺のワンタッチネクタイをつけ、革靴を履いた。スーツの上着はカズちゃんが名古屋からボストンバッグにしまって持ってきたものだったが、じょうずに畳んで巻いてあったのでシワ一つなかった。
 一人で関野商店の前まで出る。まだ門のあたりにマスコミの気配はない。いや、空のバンが四、五台停まっている。東奥日報も混じっている。正門にいつの間にか、

 
神無月郷講演会「野球・わが人生」ゲスト・寺山修司

 と書かれた看板が立ててある。タクシーで関野商店に着いたときにはまだ立っていなかった。後ろをついてきたユリさんが、いってらっしゃい、と言って傘を渡した。
「いってきます」
 振り返って応え傘を挙げる。
 門を入り、一直線の雪道を白亜の校舎に向かう。校舎を含めて白一色なので、道が遠く感じる。傘を差した十人以上の報道陣が迫ってきた。浜中たちが私の前に立ち、無言で誘導する。校舎の玄関に歓声が上がり、たちまち教師や学生たちで混雑する。玄関の傘立てに傘を入れる。西沢、相馬、石崎が早足で寄ってきて握手する。フラッシュの嵐になる。
「道をあけて、道をあけて!」
 西沢たちに一階の控え室に導かれる。何台かのテレビカメラがいっしょに控え室に入る。筒型ストーブが燃えている。奥のソファに縁なし眼鏡の小野校長と、目玉の大きい寺山修司が座っていた。二人が立ち上がり礼をする。私は寄っていって握手をする。フラッシュが光る。奇しくも三人とも紺の背広に紺のネクタイだ。東奥日報陣が優先され、私のすぐそばに座っている。廊下が学生やマスコミで満杯になった。小野校長が、
「何カ月も首を長くしてお待ちしておりました。お越しいただいて、感謝します」
 いっせいにデンスケが回りはじめた。寺山が、
「三冠王、最優秀選手、おめでとう。高校の先輩としてうれしいかぎりです」
「ありがとうございます。寺山さんの著書は歌集しか読んでいません。すみません」
「そんなもの、どうでもいいです。英雄の読むものじゃありません。五百野に比べたらチリアクタです。とにかくお会いできて光栄です。美丈夫とは知っていたけれども、動く様子が典雅すぎる。たしかに神の域ですね」
 断続的にフラッシュが光る。小野校長が、
「あなたは青森高校、かつ郷土の誇りです。講演のあと、記念碑をご覧ください」
「はい。褒められるのは苦手です。……行き当たりばったりに思いついたことを口にするだけで、わが人生と言えるほどのことはしゃべれないと思います」
「寺山氏と並んで、言葉の魔術師と聞いています。期待しております」
 茶とコーヒーが出る。寺山の顔を見て、
「おたがい短髪ですね」
「青森高校のころはリーゼントでした」
「へえ、おもしろいですね。ぼくとちがって風潮に敏感だ。ぼくは化石人間ですから、流行に対処できません。青高時代、ぼくは花園町に下宿していましたが、寺山さんは?」
「塩町です。中学二年の十三歳のときに、塩町で歌舞伎座という映画館を営む叔父に引き取られたものでね。弘前で生まれて、青森市に移り、大空襲で焼け出されて古間木に移り、それからまた青森市の塩町です。父が警察官だったので、弘前に始まり、五所川原、浪岡、青森、八戸、青森と動いて、父が戦死してからは古間木、青森というふうに、転々としました」
「塩町というのはどのあたりですか」
「堤橋から北、左岸一帯、いまの青柳です。遠く元禄のころからあった遊郭と芝居小屋の街ですね。東北でも一、二と言われていた遊郭街です」
 その街のほうへくだっていった赤井の背中が浮かんだ。
「歌舞伎座とは大きそうな名前の映画館ですね」
「実際レンガ造りの大きなものでした。定員七百三十名。大正時代に開業して、歌舞伎はもちろん、政友会の演説会場としても利用されました。松井須磨子一座も興行したことがあります。青森一の娯楽の殿堂ですね。私が引き取られたころはちょうど終戦の年で、米軍の後押しを受けて、アメリカ映画一本になってました。青森初のトーキー映画を上映したのも歌舞伎座です。私はそこの楽屋に起居しておりましたから、上映される映画もほとんど観ました。コロナサイダーを飲みながらね。サイダー製造業者の息子の川浪というやつと友人だったんでね。時代の波だなあ、戦後二十二館もあった映画館が次々に閉館し、歌舞伎座も三年前に閉じました」
 滔々と弁じる。デンスケが回りつづけ、フラッシュが時おり光る。
「戦後すぐだとすると、寺山さんは昭和二十六年から二十九年が青高時代ですから、一九五一年から一九五四年ということになりますね。ざっと思い浮かべると、駅馬車、黄色いリボンなどジョン・ウェインもの、風と共に去りぬ、誰がために鐘は鳴る、遠い太鼓、シェーン、グレン・ミラー物語、ライムライト、ローマの休日、麗しのサブリナ、地上(ここ)より永遠(とわ)にや終着駅などのモンゴメリ・クリフトもの……黄金時代ですね。うらやましい」
「すごいなあ! なんですか、その記憶力」
「記憶力は悪いほうです。ところで、カルメン・マキの『時には母のない子のように』が今年ヒットしましたが、彼女はどういう人なんですか」
「アイルランド系アメリカ人の父親と、日本人の母親との混血です。ぼくの主宰する天上桟敷の去年の『青ひげ』の舞台をたまたま観にきて感激し、すぐ入団した十八歳の女の子でね、『書を捨てよ町へ出よう』で初舞台を踏みました。『時には……』私が黒人霊歌の『サムタイムス・アイ・フィール・ライク・ア・マザレス・チャイルドを下敷きに作詞して、私の秘書の田中未知という男が曲をつけました。これからはマキは歌手として活躍するでしょう」
「マヘリア・ジャクソンの名唱中の名唱がありますね。マザレスをマザリスと発音するんです。ぼくは、さよならだけが人生ならば、と、だいせんじがけだらなよさ、が大好きです。まさに名曲です」
「ありがとう。それも田中未知です。それともう一曲、山羊にひかれて、も。ぼくと彼は同化しあった存在です。あなたはすばらしい感性の持ち主ですね。演劇界に興味はありますか」
「ありません」
 寺山は発作的な笑い声を上げ、座も笑い興じた。ふたたび寺山はギョロリと目を剥き、
「ホームランを打つことは楽しいですか」
「打とうとする気組みと、そのための鍛錬が楽しく、打った結果には心が動きません。ボールは無機物です。ホームランは無機物が有効に機能した物理的結果です。その結果を得るための有機的な感覚、意志、努力、といったものがなければ、すみやかに野球に飽きてしまいます。寺山さんは飽きない世界にいる。うらやましいですね」
「あなたの有機も極致にある。五百野がそれです。これから傑作を生み出しつづけるだろうね。ぼくには無機の達成など願ってもできない。―きょうは飲みますか」
 柔らかく微笑む。独特の笑みだ。
「飲みません。訪ねようと思っている人たちがいます。講演会以降は、マスコミのかたがたもどうか遠慮して、あとを追わないようにしてください」
 西沢たちが固まったように直立して聴いていた。小野校長が、
「じゃ、そろそろまいりましょうか」
 記者たちに包まれて廊下に出る。さらに学生たちに包まれる。
「神無月さーん!」
「寺山さーん!」
 東奥日報の人たちと見交わしながら講堂に入る。拍手が爆発する。七、八百人の学生や教職員がギッシリ鮨詰めに座っている。チラホラ一般の人たちの背広姿も混じっている。マイクつきの演台が据えられ、背後の重厚な黒い緞(どん)帳に『野球・わが人生』の墨字の白幕が垂れている。教頭らしき男の先導で壇上に登り、ステージの袖の貴賓席に小野校長、寺山、私と並んで座らされる。演台の脇に大きく花が飾ってある。
 女教師に伴って合唱部が登壇し、演台の前方に五十人ほど整列する。教頭がマイクの前で、
「校歌斉唱!」
 と叫ぶ。講堂の全員も立ち上がる。女教師がタクトを振り下ろし、美しい校歌が唄い出される。私と寺山も立ち上がって声を合わせた。堂々と麗しい響きだ。私は壇下の制服の群れを眺めた。ヒデさんとミヨちゃんの姿は発見できない。みな真剣に唄っている。合唱部の透き通った歌声が聴衆の声を取りまとめるようにかぶさる。唄い切った。
 合唱部が壇を降りるのと入れちがいに、最上級生らしき女学生が壇に登り、ステージ脇のマイクの前に立った。ヒデさんだった。溌剌と輝き、性的な妖しさも発している。
「ご来場のみなさん、お待たせいたしました。ただいまより、寺山修司氏を賛助講演者とする、神無月郷選手の顕彰碑建立記念講演会を開催いたします。私は、会の進行役を仰せつかりました野辺地中学校出身、三年中島秀子と申します。よろしくお願いいたします」
 大きな拍手。
「おふたかたの講演終了予定は二時です。終了後すみやかに、各クラス代表参加による懇親会のほうへ移動してください。懇親会終了予定は三時です。終了後、参加者は自由行動をとってください。それではまず、小野校長先生より開会の辞をいただきます。小野校長先生、どうぞ」
 歓声。拍手。



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