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《いつか見た青い空(1965) 監督ガイ・グリーン 主演シドニー・ポアチエ》

 

 公園のベンチでビーズ刺しの手内職をしている盲目の少女(エリザベス・ハートマン)の手もとから、ビーズ玉がこぼれ落ちた。通りかかった黒人の青年(シドニー・ポアチエ)が拾い集めて手渡す。印象的な出だしだ。
 さあ恋愛劇の展開を見せると思いきや、上品なポアチエは、人種の壁という社会的背景に遠慮がちな役回りを演じて、そんなものに偏見を抱いていない鑑賞者になかなかカタルシスを催させない。それなのに胸を揺すぶられ、心洗われた。おそらく少女の醇乎(じゅんこ)たる愛が全編を貫いていたからにちがいない。

 イギリス映画に『予期せぬ出来事』という佳作があるが、作中でリチャード・バートンの秘書役を演じるマギー・スミスの顔立ちと挙措の雰囲気が、この盲目の少女ハートマンに酷似していたので、これは彼女が中年になって出演したものにちがいないと思いこみ、人にも吹聴していたが、よく考えてみると、『予期せぬ出来事』は63年の映画で、中年女が極端な若返りをしたことになってしまい、SFもどきではないか。ひとり笑った。
 『いつか見た青い空』が白黒で『予期せぬ出来事』がカラーだったせいもあるが、どちらの映画もリアルタイムで観ていなかったがゆえの錯誤だった。

いずれにせよ、ハートマンは私の好きなタイプの少女だったので、ぜひともポアチエへの恋心を成就してほしかったが、叶わなかった。少女の告白をさらりと、

「考えておこう」

と受け流したポアチエの最後の一句が冷たく響いた。愛は命がけだ。社会的制約や偏見などものともしない。命などいらないからだ。人種問題をからめた映画は、その意味で残念なものが多い。