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《キム・カーンズ(1981) ベティ・デイビスの瞳》



 ベティ・デイビスというのは、とにかく目の美しい女優で、若いころの映画はパッとしないが、晩年に『何がジェーンに起こったか』という極上品のカルト映画に、姉を殺す狂気の老嬢役で出演した。老いた顔の中にギョッとするほど美しい瞳がきらめいていた。

 彼女に似た目をした女に翻弄される男をチアする不思議な曲で、曲調はもちろん、キム・カーンズのこれ以上はしゃがれないだろうというほどの神秘的なハスキーボイスがつかんで離さない。

 32歳、南浦和の小さな私塾を営み小遣い程度の金を稼いでいた。日々子供たちの機嫌をとる生活に倦み、ついに妻とも離別して、樹海荘というイヤな名前のアパートに逼塞しながら毎晩飲み歩いた。

ある夜、飲み屋でカラオケを歌ってほろ酔いで帰宅し、いつものようにテレビを点けた。全身黒革のワンピースを着た女がこちらをじっと見つめながら、かすれた声で歌いかけてきた。フランス映画『あの胸にもういちど』のマリアンヌ・フェイスフルとまったく同じ衣装だった。からだを微動だにさせないでカメラだけを睨みつける変わった振り付けだった。プロモーションビデオというのが流行っていたころで、くだらないと思って聞き流そうとしたが、耳が許さなかった。LPを二枚買って聴いた。名曲はそれ一曲だった。