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《ザ・シューター/極大射程(2006)》
 監督 アントワーン・フークア  
主演 マーク・ウォールバーグ


ボブ・スワガーはアメリカ海兵隊に所属する前哨狙撃兵である。前哨狙撃兵とは、遠方狙撃に卓越した技量を持つばかりでなく、着弾地点の正確な計測を行う砲術にも練達し、さらに、敵目標に接近して隠密行動を遂行する高度の能力も持つ。

 彼は観測手を務める友人のドニー・フェンとともにアフリカのエリトリアの前線で任務についていたが、帰還中の味方部隊を援護しているうちに孤立し、作戦本部に見捨てられる。援護射撃の最中にドニーは戦死した。ボブはどうにか生き延び、友人を失った傷心や政府に対する不信感を抱えながら、母国の山中で愛犬と隠遁生活を送っている。

 愛国心というのは兵士の泣き所である。それあらばこそ、海兵隊に志願したのだ。どれほど国家に不信を抱こうとも、愛国心は捨てられない。そこをくすぐるように国の要人がスワガーに近づいてきた。大統領暗殺計画を阻止してほしいというのである。ボブは了承し、みごとな推理で狙撃地点を特定して、暗殺阻止の案を完成させる。

 じつはこれが陰謀で、大統領から勲章を授与される予定だったエチオピア大司教の暗殺に併せてボブを犯人に仕立てるという政府計画なのだった。司教が、エチオピアでの石油パイプラインをめぐる大虐殺にアメリカ政府の一部の人間が関与していたことを知っていたからである。ボブは司教暗殺を目撃すると同時に背後から撃たれ、命からがら逃走する……。

 ここからが本番である。亡友ドニーの妻サラや、FBI捜査官ニック・メンフィスの協力を得て、ボブの綿密な復讐行脚が開始される。復讐が完遂されるまでのボブの鬼神の如き獅子奮迅ぶりに、私たちは息つく暇がない。犯人を捕らえて法の裁きに任せるという中途半端な解決の仕方ではない。完璧に抹殺するのである。殺戮の最大の動機が、自ら策にはめられ命を失いかけたからというものではなく、愛犬を殺されたからというのが、心から納得できる。『エクスターミネーター』では親友を、『狼よさらば』では妻子を、であった。

 ボブは、最後に黒幕政治家の額を打ち抜くとき、「恥を知れ」とひとこと言う。そしてふたたびサラとともに山奥へと去っていく。愛国心は完全に消え失せた。恥知らずの存在を愛することはできない。人生の目標は同伴者のサラを愛することのみに切り替わった。