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《ミナミの帝王(1992〜2007)》

監督 萩庭貞明  出演 竹内力


 脚本、法律監修のすぐれもの。水戸黄門的痛快無比の筋立てに、おかずのように法律適用・解釈の緻密性が加わり、観終わって満足度高し、というところへ、音楽コーナーで紹介したいほどの名曲『欲望の街』が流れるという按配。ヤング編も含めて全話観た。DVDに編集したものを、いまなお見返すが飽きない。初期の作品には『欲望の街』のエンディングはなかったが、内容の充実度は不動である。

 銀次郎ほどの天才も、後ろ盾がなければ十全に活躍できない。後ろ盾はヤクザか隠然たる勢力を持つウルトラ素封家。政治家はいない。その基本がすばらしい。

 瑕疵のない善人が悪人に虐められる理不尽を糾す黄門さまとちがって、銀次郎はまず、善人を懲らしめる。というのはこうだ。自らの素行不良によって悪人につけ入られたオタンコナスや、麗しい性格ゆえの油断や寛大のせいで悪人につけ入られたオバカサンが窮地に陥り、トイチの金貸し萬田銀次郎にすがってくる。人間として分類すれば、彼らは極上の善人だ。

 まず銀次郎は彼らに要望どおりの金を貸す。彼らは努力しても返せなくなる状況に陥る。返せないように極上の悪人が跳梁するからだ。そこで、銀次郎は法的な手段を駆使し、裏世界の力も借りて、大金を巻き上げるという方法で極悪人を討伐する。無論、極上の善人も貸し金以上の余禄を与えて救済する。100パーセント、現実世界では起こりえない結末だ。

 精神性が希薄だと思われがちな金の世界のドラマだが、主題が善の救済と悪の打倒なので、無機質な利害計算でプロットを追いかけるのではなく、主情的に人間関係に没入しつつ、銀次郎の怒りや狡知や正義感の爆発を楽しむことができる。

 最後に、竹内力の歌声は、原田芳雄と並ぶ哀愁の濁(だみ)声である。いつか音楽コーナーで紹介しようと思っている。