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《松田聖子(1980) Only My Love》



 ジャリタレ全盛時代だったので、聴きもせずに、彼女のような鉄の喉を持った天才歌手を看過していた。一念発起してせっかく入り直した大学も中退し、南浦和の地元の予備校に勤めた。給料の大半を浦和競馬に使った。
 1985年の夏、授業でジャリタレ批判をした放課後、一人の坊主頭の男子学生が、両手に紙袋を提げて職員室にやってきた。松田聖子のLPがぎっしり詰まっていた。四、五年分はあるようだった。
「聴いてみてください」
 ひとことだけ言って去った。私はシニカルな気分でいた。
 ―だれが聴くか。適当に褒めて返そう。
 家に戻って、2、3曲は聴かないとな、と思い、アットランダムに『North Wind』というジャケットを選び、最初の溝に針を落とした。ぶっ飛んだ。声がどこまでも突き抜けていく。天才だった。
 深夜までかけてすべてのLPをカセットに録音した。ほとんど奇跡的な作曲で、バックのエネルギッシュな演奏が、強靭な喉に恐ろしいほどマッチしていた。
 86以降、ゴシップにまみれはじめてからは、作曲も喉もヤワなものになっていった。いまは表記の一曲しか聴かない。これ一曲で彼女の名が残る永遠の名曲である。