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《水原弘(1959) 黄昏のビギン》



 水原弘の最高傑作。いつ憶えたのか思い出せない。後年ちあきなおみも歌ったが、比較すべくもない。ビギンというのは音楽のリズムの一種で、コール・ポーターの『ビギン・ザ・ビギン』を想起してもらえばわかる。スッチャー・チャ・スッチャ・スッチャというリズムだ。
 水原弘は酒で死んだ。42歳。1959年に『黒い花びら』でデビュー、第一回レコード大賞を受賞した。飯場のテレビでよく流れていたので、鮮やかに憶えている。妙に気に入らない曲だった。二枚目のシングル『黒い落ち葉』のB面が『黄昏のビギン』だったというのは近年知った。それが売れずに長い低迷期をすごしたということも。その間に、酒、ギャンブル、借金まみれの日々を送ったらしい。肝臓を傷め、血を吐きながらのドサ回り。自殺だな。
アルコールに焼かれた喉から出てくる甘くしわがれた美声は胸をえぐる。カラオケで一度歌ったが、とてもじゃないが、あんなふうには歌えない。カバーする輩(やから)の気が知れない。なおオリジナル曲は、前奏でトランペットが高らかに鳴り響き、間奏でも同様に鳴り響くドラマチックなものだが、ユーチューブにはアップされていないとのことだ。