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《鬼火(1963) 監督ルイ・マル 主演モーリス・ロネ 音楽エリック・サティ》

 

 この映画との出会いは遅く、1971年、早稲田大学一年、早稲田通りのアクト・ミニシアターでだった。

 一人の青年が自殺を決断してやり遂げるまでの丸二日間を、淡々と、かつ細密に描写する。彼の死ぬ前の行動は、自分とともに破天荒な青春時代を過ごした人々を訪ね歩くことのみ。青年の倦怠に同化し、死の決意を翻意させるほどの友は皆無であることを確認した。
 彼らのかつての破天荒は仮面だったということだ。わかっていたことではないか。自分もそうだったのだから。即刻、仮面を脱がねばならない、いや脱ぎたくないと葛藤しているうちに、アルコールにからだを蝕まれてしまった。彼らよりも強く肉に食い込んだ仮面を引き剥がす精力もなく、その仮面への愛も捨てられないとなっては、もはや死ぬしかない。
―あまりに強く共感したのだろう、私は、全編、諸所で落涙
した。