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《出張(1989) 監督 沖島勲  主演 石橋蓮司》



 荒唐無稽な映画だ。東北地方へ出張した男がゲリラに拉致され、身代金を会社に払ってもらって解放され、ふたたび出張を命じられて東北へ向かう列車の窓から、山陰にあのゲリラたちの姿を望見して、
「がんばれよー!」
 と激励の叫びを投げる。これだけの映画だ。
しかし、40歳のときこの映画をビデオ屋で発見して以来、何十回となく見直している。けっして名作ではない。駄作に近い。しかし、インパクトがあるのだ。それもこれも、主演の石橋蓮司のせいなのである。コワモテの彼の爬虫類的魅力のせいで、どんな荒唐無稽なストーリー展開にも真実味が与えられる。演技ではない、持って生まれた容貌と性格がかもし出す迫真性というやつだ。この男に興味があるだけで、『出張』も『赫い髪の女』も数十回観る羽目になるのだ。
1979年の『赫い髪の女』の彼の立ち居(演技ではない)は衝撃的だった。夜も日も明けぬセックスに、まるで日常のごとく自由奔放に没入している。それは『出張』にも生きている。落石のせいで列車が立ち往生してしまい、余儀なく一夜を過ごした山中の温泉旅館で、二人の女を同時に相手にする場面だ。薄い髪を振り乱し、へろへろになって、しかも、しっかり没入している。
どうもこの顔に見覚えがあった。私が小学校1、2年のころ、たしか東映の学童向け映画『ふろたき大将』の主演をしていた。調べてみた。13歳から芸能活動を始め、1955年14歳のときにこの映画で主演デビューしている。多少かわいらしいものの、いまの顔のままである。
この映画に哲学も見どころもない。ただ石橋蓮司を堪能するのみ。