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《死刑台のエレベーター(1958)》
 監督 ルイ・マル  
主演 モーリス・ロネ ジャンヌ・モロー



 世界一好きな役者。『鬼火』の主演男優。あれにもジャンヌ・モローが出ていた。1927年に生まれて1983年に死んだ。56歳。彼の年齢をずっと人生の基準にしてきた。66歳になった。さびしいが仕方がない。天与の寿命だ。
 夫殺しの完全犯罪をもくろんだ男女の蹉跌。ストーリーはそれだけ。鬼火ほど奥まった人間哲学はない。見どころは、停まったエレベーター内のロネの緊迫した演技のみ。人間がたたずむだけでいかに深遠な存在であるかを示す演技。荒唐無稽を荒唐無稽にしない静かな演技。『太陽がいっぱい』の殺され役はまずかった。金持ちの御曹司役は、彼の領分ではない。アラン・ドロンと役柄が逆転すれば名画になった。
 ところで、ロネより一歳年下のジャンヌ・モローは、まだ八十八歳で存命している。私は青年期にこの映画をリバイバルで観たとき、モローとロネとの恋愛関係を願ったが、彼女はルイ・マルやトリュフォーの愛人だった。ただ、彼女は名言を吐いている。
「役者にとって必要なのは、包みこまれる意識、役柄への無意識の精通。それだけよ。その役の実体験を追究するのなんて無意味なことだわ」
 虚言も吐いている。
「私は自分の顔の皺が好き。生きることの辛酸が刻まれた自分の人生地図だから」