kawatabungaku.com
川田文学.com 



海と太陽と子供たち(1983 ドキュメンタリー)》

監督 中山節夫 主演 夫婦教師と16人の子供たち

 

熊本県天草の久玉(くたま)小学校大之浦分校に、壮齢の教師夫婦(少し格好いい男先生・少し不細工の女先生)が、どこからとも知れずふらりと赴任してきた(牛深市の本校からにきまってるだろ! 夕日のガンマンじゃないんだから。しかし、まちがいなくそう感じたのだ)。

生徒数16人。ほとんどが農業を営む家庭の子供たち。1年生から6年生までの合同授業だ。出会いの初日から、小太りでやさしい女先生は彼女なりのアイデアを駆使して読み書きを教え、痩せぎすで厳格な男先生は、社会の縮図である16人の子供たちに言葉というものの本質と、人間的倫理の本道を、息もつかせぬ実践行動で教えこんでいく。彼の倫理観に反する子供や、言語表現に怠惰な子供に対しては、その存在を打ちすえるほどの強い叱責も辞さないのがみごとだ。

ふつうの大人がこの種のことを行なえば、おそらくは十人十色を一色にしようとして偽善と妥協に走り、それを見抜く慧眼の人びとから批判の洗礼を浴び、悩み、ついには挫折感にまみれ、ほうほうの態で逃げ出すのがおちだろうが、この夫婦教師は、とりわけ男先生は生来の気質が倫理の体現者として方向づけられていて、その真善追求の美意識たるやすさまじく、おのずと素朴で敏感な子供たちに彼の哲学を浸透させていく。子供たちの言語認知力と道徳観の変貌振りは激烈である。

 彼が腰痛を悪化させて入院したときの、子供たちのうろたえぶりはいじらしい。彼らは「言葉」を手紙に託する。この真善の宗教家は、愛を一身に集めるイロ男でもあった。女先生には申し訳ないが、いずれ彼に言葉とからだで愛を打ち明ける女の子が16人の中から出てきてくれることを私は願った。とりわけ、その読書能力に格段の進歩を示した最上級生の一人が、随所で潤んだ瞳で彼を見つめている姿が印象に残った。抱きしめてやりたくなった。記録フィルムであるがゆえに、真実の愛情を映し出せたのだろう。

 だれもが教育映画として観るこのドキュメンタリーを、私は根源的な人間情緒の交感を描く迫真の芸術作品として感受した。まれにみる名作であった。出会ったのは、習慣的なCSの録画のさなかだった。五度、六度と観なおすたびに、私は涙を流し、この映画に出会えた幸運と、みずからの習慣に感謝した。