十三

 私は千佳子に、アンチェインド・メロディのカラオケを流してくれるよう注文した。カズちゃんと睦子が拍手する。何だろうという表情の主人たちに、
「アンチェインドというのは解放という意味です。刑務所にいる囚人が恋人に宛てて、まだきみはぼくのものかと歌うんです。青高一年の冬にラジオで聴きました。よく山口が歌っていた曲です」
 前奏が流れる。私はステージに立った。高らかに歌い出す。

 Whoa, my love
 My darling
 I’ve hungered for your touch
 A long, lonely time
 And time goes by so slowly
 And time can do so much
 Are you still mine?

 高く長く歌い上げる。ピー! と菅野の指笛が鳴った。店の女たちが目を剥き、激しく拍手する。一家の者は驚かず、じっくり聴く構えになる。

 I need your love
 I need your love
 God speed your love to me

 カズちゃんが祈るようにこぶしを胸の前で握っている。女将はわけもわからず歌声に打たれてハンカチを目に当てた。

 Lonely rivers flow to the see, to the see
 To the open arms of the see
 Lonely rivers sigh, “Wait for me, wait for me
 I’ll be coming home, wait for me”

 Whoa, my love
 My darling
 I’ve hungered, hungered for your touch
 A long, lonely time

 And time goes by so slowly
 And time can do so much
 Are you still mine?

「キャー、キョウちゃーん!」
 素子が絶叫した。睦子と千佳子がなぜか正座をする。

 I need your love
 I need your love
 God speed your love to me


 大拍手。指笛。直人が走ってきて、足に抱きついた。抱き上げて笑いながらいっしょに畳に転げる。頬にキスをする。直人はキャッキャッと喜ぶ。菅野が、
「すごいなあ! 神の声!」
「神とか人間とかやないな。とにかく何か特別なものやな」
 主人が言う。カズちゃんが胸のこぶしを解かない。トモヨさんが寝転がっている私と直人の額にキスをした。千佳子と睦子は端座したままだ。優子が、
「神無月さんにはこの世界があるんですね。根強いしっかりした世界……。さっきのダッコちゃんのお話も、遠い、解決できないお話として聞くわけにはいかなくなります」
 ちゃんと聞いていたのだ。千鶴が、
「歌うと神無月さんでないみたい。人間でなくなる。ちがう世界へ逃げていってまう」
 カズちゃんが、
「ダッコちゃんの世界へ?」
「そう」
「いかないわよ。いつも私たちの世界にいてくれるわ。私たちがダッコちゃんになったら、キョウちゃん、いっしょにきてくれる?」
「最高だ。ぼくはだれかから逃げるために歌うんじゃないよ。だれかに聴かせたいわけでもない。ときどき自分の声が聞きたくなるんだ。風呂場の歌みたいにね。ふう、喉が疲れちゃった。風呂に入って寝ます」
 直人が、
「いっしょにはいる」
 イネが、
「おとうちゃん疲れるすけ、おかあちゃんと入(へ)れ」
「いやだ、おとうちゃんとはいる」
「よし、じゃ頭洗うぞ」
「うん。せっけんいたいから、おゆだけかけてね」
 結局見守り役にトモヨさんもいっしょに入った。シャンプーハットをかぶせて、お湯をかけてやる。手のひらに石鹸を塗りつけて、そっとからだを洗う。小さなオチンチンがかわいらしい。抱いて湯船に浸かる。
「奇跡の物体だな」
「ありがとうございます。授かりものです」
「おとうちゃんのオチンチン、ちっちゃくて、大きい」
「うん、的確だ」
「まあ、ホホホホ」
 トモヨさんが身をよじって笑う。
「ぼくもそうなるの?」
「なるなる。大きくて、大きくなる」
 トモヨさんはさらに身をよじった。
 トモヨさん母子は風呂からそのまま離れへ去った。私は浴衣を着て座敷へいく。カラオケ大会が始まっていた。店の女が涙の連絡船を歌い、主人が君は心の妻だからを歌う。どちらもいいこぶしだ。流行歌を敏感に先取りする丸が三百六十五歩のマーチを歌うと、女将や菅野が手拍子を入れる。カズちゃんと素子は、開け放した襖の向こうの台所にいた。イネやソテツや幣原たちと楽しげに賄いテーブルで話し合っている。睦子や千佳子の横顔もガラス戸越しに見える。百江は帰ったようだ。ソテツが何か熱心にカズちゃんに話している。ほかの女たちが呆れたふうに笑っているので、何の話か予想はついた。三上ルリ子が、
「お腹すいたでしょう」
「そうだね。河文から江藤さんと木俣さんと一枝さんと四人で歩いてきたから、だいぶ腹ごなしになった。小腹がすいてる」
 うなずいて台所へいった。直人が離れからトコトコ戻ってきた。私の膝に乗り、私のまねをしてじっとステージを見つめる。
「オネムしなかったのか。寝ないと大きくならないぞ」
「おとうちゃんは、よくねたからおおきくなったの?」
「ああ、十四歳ぐらいまで八時には寝ていた」
「いまなんじ?」
「もうすぐ九時だ。いつもより二時間遅い。あしたは保育所から帰ってきたら、おかあちゃんとカンナといっしょに散歩しよう」
「ぼくねる!」
 迎えにきたトモヨさんに手をとられて立ちあがる。大声で、
「おとうちゃん、おやすみなさい! みなさん、おやすみなさい!」
 ステージの者もこちらを向き、全員で、
「お休みなさい」
 と応える。イネがトモヨさんの離れへ去り、千佳子と睦子がお休みなさいを言って二階へ上がると、ソテツと千鶴と幣原たち賄い数人が台所に残った。優子や丸やキッコや三上が愉快そうに笑いながら二階へ退がる。
「キョウちゃん、今夜はこちらでお休みなさい。ちゃんと疲れを取ってね」
 カズちゃんと素子とメイ子が主人夫婦と菅野に挨拶して式台へいく。それを潮に主人と菅野が見回りに出た。
 ソテツが、ホウレンソウを添えたキツネきしめんを持ってきた。
「これを食べたら、私の部屋で休んでくださいね。あしたはゆっくり寝ていて、昼ごろ起きてくればいいってお嬢さんが言ってました。熊本での体力を作っておくようにって」
 女将が、
「ソテツも神無月さんをちゃんと休ませてあげんとあかんよ」
「はい、もちろん。後片づけが終わったら私もすぐ寝ます」
 きしめんをすする。油揚げを噛む。ソテツが目を細めて見ている。やがてどんぶりを持って台所へいった。
         †
 蒲団に横たわり、ソテツの部屋を見回す。小さなステレオ装置のそばにレコードが二枚置いてある。マネスの『タイスの瞑想曲』、チャイコフスキーの『弦楽セレナーデ・ハ長調』。
 ソテツが普段着のまま部屋に入ってきた。ニッコリ笑いかけ、覆いかぶさってキスをする。
「意外だ。ソテツはクラシックが好きなんだね」
「はい」
「いまほしいレコードある? プレゼントしてあげる」
「ほんと? 何枚かあります。ラフマニノフの『パガニーニの主題による狂詩曲』と、『交響曲第二番・ホ短調』、それからグルックの『オルフェウスとエウリディケ』」
「いいね、精霊の踊りだね。ほかには? ぜんぶ買ってあげる」
 少し遠慮がちになり、
「ブラームスの『バイオリン協奏曲ニ長調』でしょ、マスカーニの『カバレリア・ルスティカーナ』でしょ、シューマンの『交響曲第一番・ロ長調』、ドボルザークの『弦楽セレナーデ・ホ長調』、それからチャイコフスキーをもう一枚、『なつかしい土地の思い出』」
「覚え切れないな。紙に書き出しといて。熊本から帰ったらレコード買いのデートをしよう」
「はい!」
 いそいそと服を脱ぐ。
「お便所にいってきます」
 全裸のまま出ていって、すぐ戻ってきた。ひさしぶりにソテツの濃い陰毛と、短い小陰唇と、金原と同じくらい大きいクリトリスを眺めた。初めて見たときよりも立派な感じがする。小陰唇のレールに沿って指でクリトリスをこすり上げる。もうソテツは派手な発声をしない。慣れたふうにブルッとふるえて達する。挿入する。短い期間に成熟した膣が熱くうごめく。
「う、うん、う、うん、イク!」
 すばらしい蠕動をし、緊縛の度を強める。
「ああ、愛してます、イク、イキます、ううーん、イク!」
 愛液が私の陰毛にほとばしる。しっかりと亀頭を熱い襞で絡め取る。
「あ、神無月さん、いっしょに、いっしょに、うん、うううん、イク!」
 合わせてやりたいがもうしばらく時間がかかる。
「だめ、神無月さん、私もうだめ、イケない、あああ、気持ちいい! だめ、強くイク、あ、あ、イッて、イッてください、うううーん、イクウウ!」
 ようやく迫る。
「ソテツ、もうすぐだよ!」
「いっしょに、いっしょに、好き好き好き、私の神無月さん、死ぬほど好き、ううん、気持ちいい! イク、イクウ!」
 ソテツが一瞬私の尻を抱えて引き寄せた。快適な射精をする。おたがいの背中に腕を回し合い、腹を寄せて痙攣を共有する。ソテツが五度ほど達し終えたところで抜き、二人仰向けになる。腕枕をしてやる。空いた手でお椀の胸を握る。弾んでいる腹のほうへ撫で下ろす。汗ばんでいる。
「ああ、うれしい!」
 口を吸い合う。唇を離すと力のかぎり私を抱き締め、
「ありがとうございました。私のような不細工な女をいつもかわいがってくださって、感謝しきれないくらい感謝しています。どの女の人もすごくきれいで、アタマがよくて、特にお嬢さんなんか、優雅で魅力的で、最高のオマンコを持ってて―」
 涙を流している。指でこそいでやる。
「どんな女も自分が思ってる以上にきれいだし、よくものごともわかってるし、すばらしいからだを持ってるものだよ。ソテツは料理の名人だし、遇ったころよりずっと慎ましくきれいになったし、こっそり奥ゆかしい趣味も持ってるし、オマンコも抜群だ。毎日自信を持って生きてほしいな」
「はい。神無月さんの言葉を信じます」
「心にないことは言わない。嘘を言って将来に持ち越す時間なんかないんだ」


         十四

「……きょうのパレードの中継のとき、お家で女将さんたちと留守番しながらテレビを観ていたら、ゲストで出ていたアトムズの別所監督が、中日戦は神無月がいるというだけで前日からいやな気持ちになる、と言ってました。いつもそんな気持ちで敵のチームから見られて、神無月さん、気の毒だなと思いました」
 私は笑い、
「いやな気持ちというのは褒め言葉だよ。嫌ってるんじゃない」
「そうでしょうか。川上監督は新聞に、神無月くんの弾むようなお辞儀はじつに爽快だと褒めて書いてましたけど」
「みんないろいろな表現で褒めてくれてるんだ。ソテツたちみたいにね」
「でも、私たちみたいに感謝してません」
「感謝するのは、ぼくのようなほんものの恩恵を受けてる人間の専売特許だ。ぼくは人から感謝されるような男じゃない。ただ好きで野球をやったり、女を抱いたりしてるだけの与太郎だ。人に恩恵なんか与えてない。恩恵を与えられてるのはぼくのほうだ。野球も女もほんものの恩恵だ。女はなまめかしい声を出しながら、チンボを締めつけて、最後に神秘的に痙攣してくれる。生まれてきてよかったなあと思わせてくれる。女の反応は科学では解明できない神秘の極みだけど、野球も予測できない物理的なハプニングの連続だ。たとえばセンターへライナーを打つ。センターが前進してきて、次の瞬間あわててからだを反転させ、後ろへ走り出す。弾丸のような打球が浮き上がってセンターの頭上を越えていく。なぜそうなったのか神秘だ。ボールがセンターのフェンスを直撃する。スタンドが一瞬静まり、それからワッと沸く。一塁、二塁を駆け抜けたぼくはその神秘に恥じないように三塁ベースに滑りこむ。歓声が止まない。生まれてきてよかったなあと思う」
「神無月さんは私たちにたくさん恩恵を与えてくれてます」
「たまに降る雨という意味ではそうかもしれない。降りつづく雨はいやなものだという意味でね。たとえ気に入らない女でも、好都合も不都合も引き受け、親切もわがままも引き受け、喜びも悲しみも引き受けるなら、恩恵と言えるかもしれない。ソテツたちがぼくにしてくれるようにね。ぼくは女にそうしない。マイナスを引き受けようとしないんだ。気に食わないことをした女は無視して切り捨てる。……それはどう考えても恩恵じゃない。母性に甘えるだけのいい気な坊やのすることだ」
「いつも私たちのわがままを許してくれてます。援助もしてくれます。女の人たちを何人も不幸から救い出しました」
「分不相応のお金があるからだよ」
「ふつうの人はいくらお金があっても出し惜しみします。お金はもちろんですけど、心で救ってくれてます」
「ぼくはお金が気持ち悪いから、早く身の周りから追い払いたい。追い払ったものが人の役に立てば気分がよくなる。つまり、自分に快適なことをしてるだけだよ」
「どうしてもそういう言い方をしちゃうんですね。……神無月さんは、笠地蔵さんのような人です」
 抱きついてくる。お椀の胸の弾力が心地よい。これこそまちがいなく恩恵だ。
         †
 十一月九日日曜日。ソテツが隣から起き上がると同時に目覚めた。気づかないふりをする。彼女の普段着の背中を戸の向こうに見送ったあと、素っ裸にパンツを穿き、ジャージを着てひさしぶりに庭に出た。五時半。曇。十・一度。それでも七時間以上寝ている。三種の神器から始める。一升瓶。つづけてリングなしで素振り。きょうから、九コース、三十本ずつ二百七十本。外角高目だけ三十本増し。もうリングは要らない。毎日三百本でじゅうぶんだ。来年は外角ばかり攻められるだろう。外角低目は屁っぴり腰、外角高目はマサカリ、これで決まった。外角高目の三十本増しは、立てたヘッドをグッと遅らせて叩きつけるようにレベルに振る。木俣のマサカリ打法のように、叩き下ろしてレフト方向の単打を狙うのが賢明だ。ヘッドを寝かせて長打を狙っても無理だからだ。左肩に負担がかかるが、いずれ慣れるだろう。好奇心! まさしく好奇心は探究に不可欠なエネルギー源だ。
 早起きの直人がまだ起きてこない。軟便をし、シャワーを浴びる。上がると下着と電気髭剃りが置いてある。トモヨさんが起きてきたのだ。そっと髭剃りを当てる。これで三日はもつ。電気髭剃りは則武に一つ、北村席に一つ置いてある。鏡に映る髪の伸び具合はちょうどいい。
 一日が始まる。紅白戦、交流戦、オープン戦、公式戦、オールスター、日本シリーズ、どれもいっさい野球選手の日常の習慣を変更しない。来年やってくるという日米親善野球も同じだ。
 居間にいくと、主人が女将と大テーブルで茶をすすりながら、ハサミを横に新聞を読んでいる。
「お、神無月さん、おはようございます。パレードの後始末がたいへんやったと書いてあります。市の清掃局のトラックが五十台出動して何往復かするほど、紙吹雪やテープが舞ったそうです」
「ひっきりなしに降ってきましたからね。街じゅう大掃除になったでしょう。連合軍の凱旋フィルムでいつか見たことがある。あれと同じでした。パレードで二時間以上手を振ったのに、最後のシメに中日ビルから五分ぐらいしか手を振らなかったのは鮮やかな退きぎわの印象でしたけど、ファンに対して無情な気もしました。といって何をすればいいというわけのものでもないんですがね」
「そうですよ。じゅうぶんなサービスやと思いますよ。スターは流れ星みたいなものやから、一瞬輝いて通り過ぎる。神無月さんたちが沿道に向かって二時間手を振っても、沿道に立っとるファンの目の前を一瞬通過するだけです。中日ビルみたいに、一箇所で五分も手を振るなんてのは、天皇陛下ぐらいしかやらないでしょう」
 女将が、
「私らは果報者やね。ずっと見てられるもの」
 直人が、おはようございます、と叫びながら座敷や台所を駆け回っている。居間にもやってきて、
「おとうちゃん、おはようございます、じいじばあば、おはようございます」
 と言って、また座敷へ走っていった。女将が、
「朝はいつもああなんよ。元気がようて楽しいわ」
 トモヨさんとソテツがコーヒーとチーズケーキを持ってきた。
「八百長事件が静かになってますけど、あれっきりですか」
「田中勉が主犯格だったという記事を週刊ポストが載せとったわ。田中勉は怒って、事実無根だ、謝罪しろ、記事を撤回しろ言うて、弁護士といっしょに週刊ポストの編集部に乗りこんだそうや。編集長が突っぱねてオシマイ。夕刊フジの記者が、福岡から大阪に向かう飛行機の中で、行方不明やった永易を偶然見かけて話を聞いたんやが、俺は何もやっとらん、こんなときに何を言ってもむだや、言うて、飛行場からまた行方をくらましたゆうことや。いまはいっときマスコミは鎮まっとるが、そのうちドンとくるで」
 なぜか一枝が口にした池永の名前は出なかった。あちこちで不確実な情報が錯綜しているのかもしれない。他球団の小川や小野や葛城にとばっちりがいったほどなのに、当の西鉄の選手にとばっちりがいかないのはおかしい。不気味な感じがする。主人が言うように、ドンとスキャンダルが噴き上がるような気がする。噴き上がろうと噴き上がるまいと、徹底した不幸に取りつかれた人間の人生は不幸のまま変わらない。好転するかもしれないと思うのは幻想だ。不幸のまま、ただ不幸に慣れていくだけなのだ。
 私はいつも、不幸に取りつかれる日の心準備をしている。人は、私のどこに不幸の予兆があるのかと笑うかもしれない。予兆ではなく、私自身がいまの安定した状態を現実だと思えないということだ。私から去って当然の人びとが、私のもとに留まっていることに対する当惑、それを平常に戻すために、私は身にそぐわない愛情表現をもってする。それしか方法を考えつかないし、そういうぎこちない返礼をすることを運命づけられた義務だと感じている。
 人は強い人間に魅かれる。威厳があって、断固とした人間に。どうしてそうなのかはわからないが、確実にそうなのだ。いまの私がそういう人間に思われていることは疑いのないところだ。遅かれ早かれ、それが幻だとわかる日がくる。その日から、徹底した不幸に取りつかれた孤独な人生になるだろう。タブララサ―私が心待ちにしている人生だ。それは母の人生の再現だけれども、私は母とちがって、身から出た錆について愚痴は言わない。ぎこちない報恩の幸福を失う悲しみより、伸びのびした孤独を獲得する喜びのほうが大きいからだ。
 菅野がやってきた。
「あしたの飛行機の予約がとれましたよ。いっしょにいって、一時間前に搭乗手続きをすませますからだいじょうぶです。朝六時にここを出ます」
 トモヨさんが、
「小さなボストンバッグに、下着とワイシャツとご本を入れるだけでいいですね」
「うん、適当な本を入れといて。ハウフの『隊商』という童話があったね。あれでいいや。下着は一組」
 中介の顔を思い出す。細く切れこんだ目、しゃくれたあご。誠実そうな唇。
 睦子と千佳子が降りてきて、おさんどんに加わる。アイリス以外の女たちが集まり、賑やかな朝食。豚とシメジの生姜焼き、サワラの鰻タレ焼き、蓮根のきんぴら、キュウリの和風和え、ささみとモヤシのサラダ、豆腐とワカメの味噌汁、どんぶりめし。直人は豆腐ハンバーグ、鮭の小さな切り身、小盛りのケチャップ炒めごはん。睦子が、
「コマーシャルが流れるのはいつごろかしら」
「一月から半年と言ってた。ぼくは運転できないから、ただ車のそばで突っ立ってるだけのコマーシャルだろうな」
 千佳子が、
「神無月くんは、車の前に立っても、和室にあぐらをかいていても絵になるから」
 菅野が、
「阿蘇の観光化が進むでしょうね」
 食後、直人と優子と菅野と四人で庭を見て回る。
「十一月からは冬の花だ。いろいろな花が咲きはじめてるね」
 直人が指差す花をばっちゃのように教える。
「サザンカ。白くてきれいだね。ヒメツバキとも言うよ。嗅いでごらん、いい香りだ」
 優子といっしょに嗅ぐ。
「これは?」
「キダチアロエ。真っ赤な棒がたくさん垂れたみたいな花だね。葉っぱの肉は、お腹が痛いときや、ウンコが出ないときに効くんだ。食べすぎたらいけないよ。寒すぎる土地では育たない」
「あの日の丸みたいなのは?」
 同心円状に咲いている花を指差す。
「ハボタン。キャベツかレタスの上に咲いてるみたいだね。葉っぱは食べられるけど、おいしくないよ」
 直人が、
「あれもあかい」
「寒咲きのボケ。バラの種類だね」
 優子が、
「あ、そう言えば、幣原さんが実を焼酎に漬けてボケ酒を作ってます」
 菅野がうなずき、
「うちの庭にもあります。土を選ばない強い植物なんで。そうか、梅酒みたいに漬けられるのか」
 トモヨさんの声。
「直人ォ、そろそろ保育所いくわよォ」
「はーい」
 私は、
「日曜日に?」
「十一月が誕生日の子供たちのおめでとう会らしくて、特別にいかなくちゃいけないみたいです。毎月、土曜日か日曜日のどちらかにやるんですって」
 直人が、
「あのきいろいのと、あのあおいラッパ」
「マリーゴールドとリンドウ。マリーゴールドはそろそろ終わりだ。四月になればまた咲くよ。リンドウはきれいな花だね。中学生ぐらいになったら、野菊の墓という小説を読みなさい。そこに出てくる。政夫さんはリンドウのような人ね……」
 直人は意味がわからなくなったので、縁側を登って居間へ走っていった。残された大人三人で大笑いした。
 菅野は主人と一回目の見回りに出た。千佳子と睦子は大学へ出かけ、女将は帳場へ引っこんだ。あと片づけを終えた賄いたちは、裏庭で洗濯と蒲団干しに、家のうちでは掃除にかかった。アヤメ組は休みなので、座敷でのんびりしている。干しものを手伝いにいく女たちもいる。昼食まで時間がある。もじもじしている優子に、
「だいぶしてない?」
「文江さんのところでしてから……十日ぐらいです」
「少し空いたね。したい?」
「はい、とっても。でもムッちゃんたちのほうがだいぶ空いて……」
「若いからかえって辛抱できるんだよ。中年になるとがまんできなくなる。じゃ、優子の部屋で耳掃除してから」
 二階の優子の部屋にいき、滞りなく二人裸になる。優子は蒲団を敷いてから私の耳掃除にかかる。膝に頭を載せたとたんにピクンとする。指を膣に入れた状態で耳掃除をつづける。静かにしている指に脈が伝わる。
「動かさないでくださいね、そのまま―」
 片耳をようやく終えて、優子は、
「あああ、だめ!」
 と叫ぶと、耳掻きを放り出し、横になって激しく痙攣した。口を吸いながら挿入する。
「ああ、イク!」
 あとはラクだ。優子はこのままの状態で達しつづける。私はゆっくり動き、強い収縮と弛緩の繰り返しの中で無理なく吐き出す。そのあとの激烈な収縮のおかげで、快適な律動を誘われ、すっかりタンクを空にされる。
「優子は名器だね。うれしいな」
「ごちそうさまでした。心から愛してます。かたときも忘れたことはありません」
「ぼくもだ。……三十五歳なら、まだ妊娠できるね」
「子供はいりません。からだじゅう神無月さんでいっぱいにして生きたいから。……いまセーターとマフラー編んでるんです。十二月までにはできますので、クリスマスプレゼントにしますね」
「うん、ありがとう」
 真綿の膣への未練が振り切れず、もう一度挿入する。湯にくるまれる。まったく動かさないのに、すぐに奥へ引きこむように蠕動しはじめる。
「ああ、好き、愛してます、はああ、気持ちよくてたまらない、もうだめ、イッてしまいます、ああああ、イキます、イクイクイクッ、イクウ!」


         十五

 主人と菅野が帰ってきて、女将も居間に戻ると、厨房に音が立ちはじめた。新しく北村席に入ったトルコ嬢たちが、金魚の水槽をじっと見入っている。私は近づき、いっしょに眺める。人なつこく寄ってきて元気に泳ぎ回る。
「少し大きくなったみたい」
「そんな感じだね」
「金魚を育てるのはたいへんだそうですよ」
「自然の水温でいいそうよ。酸素さえあげてれば」
「餌は?」
「朝と夕方。ムッちゃんが忘れずにあげてる」
 彼女たちは私に秋波を送ることはいっさいない。月のように遠い人間たちだと思っている。私は座敷にのんびり寝転んで一週間分の新聞を読み返し、今年で五回目を迎えるというドラフトの前評判を探る。前評判ほどあてにならないものはないが、一応見ておく。私のようなドラフト外の選手は紙面から探りようがない。
 目玉はコーチャンブームを巻き起こした三沢高校の太田幸司。記事によると、水原監督は次期江藤を睨んで、打てる内野手がほしいと明言。早稲田の谷沢健一に白羽の矢を立てている。私が東大に入る前年の四十二年に三割九分六厘で首位打者、通算本塁打十八本は東京六大学歴代七位。早稲田の監督石井藤吉郎によれば、
「オレが見た中で早稲田史上最高の左打者」
 法元スカウトは石川島播磨重工の渡辺司投手を狙っている。ドラフトで採れた場合の背番号は、浜野百三が出て空きになっている22の予定。
 こういった記事に比べて、戸板はひどく小さな扱いだ。水原監督の褒め言葉がチラッと書いてある。
「バネがあり、将来が楽しみ」
 それだけだ。早くドラゴンズに入団して目にもの見せてやれ。
 同じく早大の荒川尭、小坂敏彦、小笠原照芳、阿野鉱二、仙台商業の八重樫幸雄、クラレ岡山の門田博光、東海大の上田二郎、日大の佐藤道郎、大昭和製紙の三輪田勝利らの名前が派手派手しく挙がっている。
 東京オリンピックの短距離選手からロッテに入団した飯島秀雄のことが、ここにもコラム欄に書いてあった。今季六十一試合に出て、ゼロ打席、ゼロ打数、ゼロ安打。盗塁十、盗塁死八、得点二十六。つまり一度も打席に立つことなく、代走専門で十回盗塁を成功させ、二十六回もホームインした異色中の異色の選手、と好意的に書いてある。来季も契約続行のようだ。浜野二軍落ち、という記事は読み飛ばした。
 主人と菅野がコーヒーを手にやってきて、寝転がっている私のそばにあぐらをかいた。
「おもしろい記事はありましたか」
「その前にまず訊きたいんですが、ドラフトというのはどういう意味ですか。選抜という英語の意味は知っているんですが、プロ野球で使われるときの本質的な意味がわからないんです」
 菅野が、
「選抜というより、選手を何人かずつ順位をつけて各チームに指名させることです。籤などで指名権を得たチームが、一人ひとりと独占交渉をするわけです。最終的に、戦力の平等な振り分けが目的ですね。あるチームが指名したい選手は、現場を歩いているそのチームの監督やスカウトからきみを指名するつもりだという報告を受けます」
「日本軽金属の戸板のことが小さくしか載っていないので、驚きました。法元さんは石川島播磨の渡辺司というピッチャーを狙っているようです。戸板はいずれ星野秀孝と並ぶ二本柱になるのに」
「注目度が低いほうが指名しやすいからラッキーですよ」
 主人が、
「ドラフトじゃ、神無月さんみたいな大リーグ級の選手はなかなか見つかりませんわ」
「お父さんは大リーグを観たことがあるんですか」
「マイナーリーグをね。昭和二十四年の秋に、後学のために東京の吉原を見物にいったときやったが、後楽園球場で東京六大学選抜対サンフランシスコ・シールズの試合を観たんですわ。十月三十日やった。サンフランシスコ・シールズゆうんは、アメリカのパシフィックコースト・リーグに加盟するマイナー球団です。戦争前から何度も来日して日本のプロ野球発足に尽力したレフティ・オドールが、そのシールズの監督を務めとりました。十月十五日から始まって、巨人、全東軍、全西軍、全日本、全日本、全日本と、日本のプロ野球チーム相手に六戦六勝。七戦目が六大学選抜との親善試合で、四万人の小中学生を無料招待したエキシビションゲームだったもんで、一般客は五千人ぐらいしか入れんかった。ピッチャーは五十二歳のオドール、キャッチャーは四十七歳のスプリンツゆうのも、もう本気出しとらん証拠ですわ。対する日本の先発は、法政のバリバリのエース関根潤三」
「エキシビションゲームって何ですか」
「予定しとった正式の試合以外に、二軍選手やら、コーチ、監督連中を中心メンバーにする余興試合のようなものです。日本で言うオープン戦よりお粗末なものです。正式な六試合のあいだにエキシビションが五試合組まれとって、ワシが観たんは五試合目やった。それまでの四試合はアメリカ極東空軍や極東陸軍と戦って、五試合目に六大学とやったわけです。お遊びみたいなエキシビションでも四勝一敗。負けたのは空軍やったかな」
「どうやっても敵わなかったわけですか」
「はい。ワシの観た試合はけっこう見れるもんやった。一回表にシールズが適時打や併殺崩れで二点入れ、三回裏に六大学がオドールを打って二点取り返して、同点。マクドナルドが継投してそのまま延長戦になり、十一回から十三回までリーンが投げ、二人で散発三安打無得点に抑えました。関根は十二回まで十二安打されたんやが、初回の二点だけに抑えてがんばっとた。十三回表で力尽きた。サードのエラーで出たランナーを六番バッターの二塁打で還され、その二塁打のランナーを七番バッターの三塁打で還された。結局、四対二で負けました。たしかに六大学の技術の高さはすばらしいもんでしたが、マイナーリーガーのスピーディでパワフルなプレーが強烈やった。マイナーにさえ日本のプロ野球も、もちろん六大学も勝てない。大リーガー相手となったら推して知るべしでしょう。その大リーガーをビックリ仰天させたのが神無月さんです。新人のドラフトに大リーグ級はきませんよ」
 菅野が、
「来年の三月下旬に、サンフランシスコ・ジャイアンツが日米親善野球できます」
「知ってます。親善野球というのは十一月じゃないんですか」
「来年だけ親善野球ではなくオープン戦の格付けでやってみようということで、三月にやることになりました。セ・パともにシーズン二位までのチームと九試合やります。皮切りは三月二十一日に東京球場での対中日戦。初戦は前年の優勝チームとやるという慣例になってまして、試合開始から終了までテレビ中継されます。メイズもマッコビーもきますよ。マッコビーは今年四十五本塁打、百二十六打点で二冠を獲りました。チームは二位でしたが、ナショナル・リーグのMVPに選ばれてます。十年目の三十一歳です」
「ぼくが日米親善野球を観たのは九年前の昭和三十五年だから、マッコビーは二十二歳だったんだね」
「入団二年目ですね。ホームラン十本そこそこの成績でした。それがいまやMVPですからね。神無月さんの先見の明にマッコビーも驚いてるでしょう。三十五年の親善野球では四番を打ってなかったはずですからね。メイズは来年で二十年目、三十八歳です」
 私はこれといって滾(たぎ)るものがなく、
「九試合ぜんぶに出る必要はないんですよね」
「初戦と、全セリーグ戦と、最終九戦目の全日本軍戦との三回です。あとの六試合は、全パリーグ戦のほかに、巨人、阪神、阪急、近鉄、ロッテの単独チームとやることになってます。ロッテは初戦のホスト役を買って出たので、シーズン三位でしたが特別に戦ってもらえることになりました。初戦の日程以外はわかっていません。神無月さんを獲得する動きもあるというので、中日球団側は厳戒態勢を敷いているそうです。神無月さんが子供のころマッコビーに感動したという話が、アメリカ側に伝わってるらしいんですよ」
「ぼくはホームランに感動しただけで、大リーグに感動したわけじゃないんだけど」
 主人が、
「心配ないですよ。小山さんと白井さんが突っぱねますから。親善友好が眼目だから、初戦前のパーティぐらいは出なくちゃあかんやろうが。日比谷の帝国ホテル。とにかく大リーグ顔負けの選手を持っていかれることには、国を挙げて抵抗するでしょうな。親善野球があった昭和二十四年に、別所は南海から巨人に引き抜かれて、家一軒と百万円もらっとった。その別所がシールズにこてんぱんに打たれた。なんのこっちゃと思いましたよ」
「あの腰高で腕だけの投げ方は、いまのプロ野球にも通用しません。ホームベースのあたりで球速が落ちたと聞いているので、ボールが重くても、打ちやすかったでしょう。ところで、百万円てすごいお金だったんですか」
 菅野が、
「六倍すると、だいたい現在の価格が出ます。六百万円ですね。土地代を入れなければ十七、八万円で立派な家一軒建ちました。当時のサラリーマンの平均月給は五千円です。三年分ですね。いまの平均月給は三万円前後。三年分だと百十万円くらいでウワモノが建つ計算になりますが、もちろん建ちませんね。むかしは家をはじめ、物価が安かったんですよ。昭和二十五年に享栄商業を中退して国鉄に入った金田の契約金が五十万円、月給二万五千円。物価の安い時代の庶民にとっては夢の金額です」
「逆に言うと、とんでもない給料をもらっている人間は、夢の時代をすごしてることになります。いつか覚めますよ」
 主人が、
「でしょうな。でも覚めたときは、いやでも億万長者になっとります。不本意やろうが神無月さんもそうです。和子がきちんと管理しとるしな。いや、仰せのとおり、ちゃんと困っとる人たちに使わせてもらったうえでですよ」
「一年前までスネかじりの学生だったのに、経済的に無理やり自立させられてしまいました」
 菅野が、
「自立どころじゃありません。慈善家になったんですよ。無理やりでなく、才能を認められて、自然に世に出て、人を救える立場になったんです」
 腑に落ちない。人はそれぞれ自分の立場に応じて自分を正当化させる理由を考え、それで納得しようとする。自分には才能があるからとか、人が求めているからとか、努力してきたからとか。そんなことで人は世に出られない。とすれば、世に出られたのは、幸運な巡り合わせのせいとか、好意的な人びとから誤解されたせいとか考えるべきなのに、人はそうは考えない。それが悪いと目くじらを立てているのではない。おそらく、巡り合せとか誤解などという考え方は皮肉れた考え方で、幸運に引け目を感じる人間がうろたえずに生きていくうえでの養生訓にすぎないものだろう。周囲に波風を立てずに、ひそかに得心しなければならないことなのだ。幸運であるからには、四の五の言わずに黙って受け入れるしかない。
 じつのところ、かつてこれほど真剣に私の言葉を聴き、これほど真剣に問い返し、これほど切実に受けとめてくれた人たちがいただろうか。そういう人たちに誤解され、褒め讃えられると、精神がある種の高揚をきたす。広い意味の快感と言うべきものが生じる。だから、受け入れることに不満はない。たしかに腑に落ちないし、心地よくもない。単純な喜びともちがう。しかし、感謝して受け入れるべきものだと本能が囁く。
 二、三時間で切り上げたトルコの早番組が戻ってきて、少し早めの昼めしをしたためる。それからそろって裏庭へ洗濯に出る。カズちゃんが、
「はい、これくらいの薄さの文庫なら、寝る前と帰りの飛行機で退屈しないでしょ」
 ひょいと差し出した。中河与一の天の夕顔だった。聞いたことはあるが読んだことはない。私はそれをトモヨさんに渡し、
「ブレザーの上着のポケットに入れといて。ハウフは分厚いからいいや」
「はい」
「直人が帰ってきたら、カンナを乳母車に乗せて散歩に出るからね。直人と約束したから」
「はい。陽射しも強すぎないし、散歩にはいい日和でしょう」
         †
 暖かい陽射しの下でトモヨさんと公園のベンチに坐って、砂場の直人と乳母車にいるカンナを眺める。窮屈な思いに襲われる。子供たちと母親に対して絶対的な優位に立ち、彼らにわずかな脇見さえ許さないような、油断なく支配している感覚が心の奥で息づく。それが屈託とまでは言わないが、窮屈だ。
 親としての務めを遂行するために神経を張り詰めるということは、子供に無条件に屈服しているということになる。こうなったからには絶対に親をやめられないという敗北感が快適だ。人道主義のようなゆるく乾いた優越感からは遠い、何やら女の内臓に全身を預けるような淫靡で差し迫った敗北感だ。
「二人とも節子さんとキクエさんが取り上げてくれたのね。彼女たちの愛する郷くんと私がセックスした証拠になるものなのに。……広い心だと思います。……子を持つ親になると、少し甘えた気分になるんです。子供にかこつけて、何でも許されるみたいな。子供を持たない人には都合なんかないみたいな。ぜったいそんなことはないのに」
「彼女たちは無意識にさえ、そんな回りくどいことは考えてないよ。純粋に、ただ命の奇跡として赤ん坊を取り上げてるんだよ」
「それはわかります。そのとおりだと思います。あの二人はとても努力して、高校や大学を出て、郷くんに巡り合って全力で愛して、その愛情を長つづきさせるために全力で勉強して、立派な看護婦さんになったんです。その努力と愛情の賜物を使わせてもらって、私は無事に子供を産めました。産んだあとは、和子さんたちが自分の都合を捨てて、いろいろと面倒を見てくれました。―甘えてなんかいられない」



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