「しらみとのみ」
しらみとのみと、二ひきで一つの世帯をもって、卵のからのなかにビールをこしらえました。すると、しらみが、そのなかへおちて、やけどをしました。これが悲しくって、のみが、わあわあ泣き出しました。それをきいて、おへやの小さなひらき扉が言うことにゃ、
「のみさん、あなた、どうしてわあわあ泣いているの?」
「だって、しらみさんが火傷したんですもの」
すると、扉が、きいきい鳴りだしました。それをきいて、すみっこにいたほうきの言うことにゃ、
「ひらきさん、あなた、どうしてきいきい言っているの?」
「きいきい言わずにいられようか、
しらみのこぞうが、やけどして、
のみが、なく」
すると、ほうきが、すごい勢いで、おそうじをはじめました。そこへとおりかかったちいさな車のいうことにゃ、
「ほうきどん、おめえ、どうしてそうじなどしてるんだね?」
「おそうじしないでいられよか、
しらみのこぞうが、やけどして、
のみは、なくなく、
ひらきは、きしむ」
すると、車は、
「そんだら、わしもかけだすべえ」
というが早いか、いちもくさんにかけだしました。それを見て、車の駆け抜けたわきに積んであった堆肥が言うことにゃ、
「車どん、おめえ、なんでそんなにかけてくだ?」
「これがかけずにいられよか、
しらみのこぞうが、やけどして、
のみは、なくなく、
ひらきは、きしむ、
ほうきは、おそうじ」
すると、つみごえは、
「そんだら、おらも、どんどんと燃えてやるべえ」
と言って、ぼうぼう、燃えはじめました。つみごえのわきにはえていた小さな木の言うことにゃ、
「つみごえさん、あなた、どうしてそんなに燃えているの?」
「これが、もえずにいられよか、
しらみのこぞうが、やけどして、
のみは、なくなく、
ひらきは、きしむ、
ほうきは、おそうじ、
くるまは、かけだす」
すると、木が、
「そんなら、あたしも身ぶるいしよう」
と言って、ぶるぶる、ふるえだしたので、葉っぱは一枚残らず落ちてしまいました。これを見て、水がめを運んでいた女の子の言うことにゃ、
「立ち木さん、あなた、どうしてそんなにふるえているの?」
「これが、ふるえずにいられよか、
しらみのこぞうが、やけどして、
のみは、なくなく、
ひらきは、きしむ、
ほうきは、おそうじ、
くるまは、かけだす、
こやしは、もえる」
すると、女の子は、
「そんなら、わたしも水がめなんか、こわしちまう」
と言って、手に持っていた水がめをこなごなにこわしてしまいました。それを見て、水のもくもく湧き出している噴き井戸の言うことにゃ、
「ねえちゃん、あんた、どうして水がめなんかこわすのよう?」
「みずがめなんか壊さずにいられよか、
しらみのこぞうが、やけどして、
のみは、なくなく、
ひらきは、きしむ、
ほうきは、おそうじ、
くるまは、かけだす、
こやしは、もえる
たちきは、ふるえる」
すると、ふき井戸は、
「おお、そうか、そんなら、わたしも流れだそ」
と言ったかとおもうと、おそろしい勢いで、がばがば、がばがば、ながれだしました。これで、その水につかって、なにもかもおぼれ死んでしまいました。女の子も、木も、つみごえも、車も、ほうきも、ひらき戸も、のみも、しらみも、みんないっしょくたに。
これは、単なる言葉あそびではないと思います。
つまり、「他人に同調するだけの人生はやがて滅びる」ということ。
怖〜いですね。
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