牛巻坂表紙

牛巻坂

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 勢湾台風一過後の昭和30年代の名古屋を舞台に、飯場で暮らす少年・純一と、ヤクザを兄に持つヤスオとの友情。ヤスオの入院をきっかけに、看護婦・節子を慕うようになる純一。東京オリンピックが近づき、もはや戦後ではないと言われ、日本が生き生きとしていた頃。
 野球選手をめざし、スポーツに没頭していた純一だったが、 15歳にして、20歳の看護婦と関係を持ち、大好きだった野球からも、ヤスオからも気持ちが離れていく。飯場、母親、教師、学校から逃げ出し、恋人節子との駆け落ち。そして、女の裏切り。

単行本 :257p 93年07月
近代文芸社

高く青く表紙

高く青く孤独なところ

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 白鳥郡司は、初めて打ったホームランボールが金木小学校の校舎の屋根に弾ね上がったのを見た瞬間、プロ野球選手になることを夢見た。そして、仙台の球場のロッテ戦で、張本が放ったホームランボールを、学生帽をグローブにしてボールに飛びついた瞬間、体を震わせながら「プロ野球選手になれなかったら、死んだ方がましだ!」と思った。
  野球の名門・青森実業から、東京福祉大学へ。突出した才能と、有能ゆえに周りを寄せ付けない傲慢さから、白鳥は、ひそかに《能面》と呼ばれていた。
 大学の先輩の紹介で水商売をしている美代と関係を持った郡司だったが、こころのどこかで、 兄弟のようにして育った従妹の朋子の面影が消えなかった。そんなころ、華々しい野球人生が約束されていたはずの 白鳥の肘に違和感を覚えるようになる。

誘惑表紙

誘惑

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 和40年代初頭の名古屋。大学受験を控え、口うるさい母や騒がしい飯場を逃れるため、古アパートに一人暮らしを始めた主人公・横地。偶然同じアパートに、横地が通う高校の保健教師が住んでいた。孤独で成熟した女教師の誘惑。一流大学を目指す秀才だった主人公は、次第に肉欲に溺れていく。
 女教師との禁断の愛。自分の将来や勉強と、欲望に溺れる女との狭間で苦しむ横地。女の妊娠と中絶。
 背徳に苦しむ女教師 と、破滅へと向かう主人公の苦悩。教師の思いがけない行動で不意に別れが訪れる。


単行本 ページ数: 179p 93年08月

近代文芸社

風と喧噪表紙

風と喧噪

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 昭和30年代後半、青森。都会から転校してきた会津純一は、大人びた口調、静かな立ち振る舞いで、他の中学生とは一線を画していた。遠い親戚にあたる横山よしのりは教室で子供の時以来の再会をしたとき、会津に理屈のない、根源的な魅力を感じ、惚れこんでしまう。貧しい捨て子のよしのりは、中学を卒業して漁師になり、会津は県内屈指の名門高校に進学する。
 それから数年後、東京。会津は早大生になり、よしのりは、会津を追うようにして上京し、高円寺でバーテンをしながら、時には偽の早大生を気取り、会津の経済的援助をかってでる。詩人を志す会津の才能を信じ、出版者や文章家の家を訪問するが、全く受け入れられない。
 会津は、よしのりが働くバーで知り合った三枝子と暮らし始めるが、同じバーで働くホステスの明美とも関係を持ち、大学への足も遠のき始める。大学生活、二人の女、よしのりとの友情、ギャンブル。会津の生活は、詩を書きながら、目に見えない芸術活動の追及だけが幹なって、現実の生活が宙に浮き始める。

五百野表紙

五百野(イオノ)

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 昭和20年代後半の青森から、昭和30年代初頭の横浜。
 物ごころついたころ、主人公・拓矢は、じっちゃの膝にいた。博学だった祖父に早くから文字を習い、母の年の離れた兄弟や従兄弟たちと、実の兄弟のように遊ぶ主人公。しかし、いつも拓矢は母の面影を求めていた。従兄弟とともに、母をたずねるため、家出して汽車に乗るが、すぐに保護されてしまう。
 母が里帰りしたのを機に、拓矢は、母とともに横浜に移り住む。母と二人だけのつつましい生活と、母が働きに出ている間の孤独な時間。 横浜のさまざまな友達と共に成長していく中で、拓矢は個に目覚め、次第に母から気持ちが離れていく。
 一人で映画館に通うようなった拓矢は、
大好きな銀幕のスター・石原裕次郎に父の面影を重ねるようになる。抽斗に入っていた父の住所を頼りに、母にだまって、父を訪ねていく主人公。

夜を渉る表紙

夜を渉る

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 昭和30年代後半。東京・三ノ輪。青木整四郎は、子供のころ足の小指にできたあかぎれのせいで骨膜炎を患い、片足を引きずる障害を負っている。中学卒業後、時計の修理工になるが、手癖が悪く、店を転々とし、今は福島から上京してブローカーをしながら、30も過ぎて、都内に小料理屋を営むキヨのもとで、ヒモのような心もとない生活をしている。
  借金に行き詰った青木は、暮れかかった公園で、裕福そうな子供に声を掛けた。男の子は簡単についてきた。あたりも暗くなり、足も痛くなってくる。ぐずる子供をつれて、墓地に入っていき、疲れて眠いと言う子供を膝に抱いた。青木はしばらく男の子の寝顔を見ていたが、首筋をさすると、少しずつ親指に力を込めていった。男の子の黒目がゆっくり白目に反っていき、この世の名残にうっすらと鼻血が流れ出している。 青木は亡骸を墓の唐柩に横たえた。
 青木は翌日、男の子の家の電話番号を電話帳で調べ、身代金を要求する。



あれあ寂たえ―夜の神話

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 者18歳から書き溜めた随想集の集大成。
 本の題名である「Alea Jacta est」は、ラテン語を日本語にモジったもので、「ああ、よくここまで生きてきたものだ」の意味。
 
エピグラフは、旧約聖書の「伝道の書」。
   『
すべてのことは人をうみ疲れさせる
   人はこれを言いつくすことができない』

1  笑い疲れているが、あしたも笑うであろうということ。
     ・・・・・・・・・・
  山師にまごうかたなき挙措を、あしたも耳朶を戦かせながら繰り返すであろうということ。
  きょうと同じように、あしたもこの世の摂理に殺されつづけるであろうということ。

ブルースノウ表紙

ブルー・スノウ

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 昭和30年代後半から、40年代初頭の青森。野球ヒジの手術をきっかけに看護婦ユリと恋愛関係になった15歳の主人公・剣。ユリは、剣より6歳年上だった。二人が関係した朝、密会していた旅館で目を覚ました剣が見たものは、ユリの姿ではなく、母と担任教師だった。 剣は、名古屋から母の実家がある青森へ単身送られ、、都会の中学校とは、まるで別世界のような田舎の中学校へ転校した。心優しく世話してくれる祖父母、田舎教師たちの激励、海辺の決闘を機に尊敬のまなざしをおくるようになった不良グループ。打ちひしがれた気持ちでいる剣の気持ちとは関係なく、剣の環境は温かく充実しているかのように見えた。剣の本質を見抜いていたのは、白血病を患い余命いくばくもないクラスメートの秀才・山田三樹夫だけだった。
 それから青森高校へ進学し、周りの秀才たちに圧倒され、勉強に勉強を重ねる。しばらくして野辺地に残った三樹夫の死を知らされる。

全き詩集表紙

全き詩集

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 「この詩集には、14歳から23歳までの作品数百のなかから選んだ数十を、概ね年代順に羅列してあります。私の中に人生の嵐が吹き荒れていた頃です。再販にあたって、それ以降に書かれた作品もいくつか加わっていますが、すべて23歳までのものの焼き直しです。筆がとどおってからの詩篇は一つも紛れ込んでおりません。ささやかなプライドです。あの頃は、どんなに嵐が激しくとも、それはほんの一時期のことで、垂れこめた暗雲の陰にはつねに輝く太陽が隠れているのだ、と信じていました。私は別段、健康を蝕まれているわけでもなく、人に恵まれないわけでもありません。それに関しては過剰なほどの幸福に満たされています。しかし、私の内部に荒れ狂う嵐はいまもってやむ気配がなく、それゆえ、私は〈苦悩〉という名の雨や風に蹂躙されつづける自分の人生に、逆説ではなく、感謝すら覚えるようになっています。・・・・」 (まえがきより) 全44篇。

  

光輝あまねき表紙  

光輝あまねき

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 昭和40年代東京、早稲田。北海道から上京して早稲田大学法学部へ入学した、新一年生の主人公・薫は、教育学部西門を出て、いねや裏にある松尾のアパートに向かった。
 
松尾や中尾はじめ、日大の御池などの九州出身のグループが一室にすでに集まっていたが、薫は思い切って借金の申し入れをする。そのうちの一人が、ポケットから、くしゃくしゃに丸めたお札の玉を取り出し、そのなかから一万円札を一枚摘み上げると「いつでん、けっこうですから」と、薫に差し出す。
 そうこうしている内に 誰かが、たばこの雁首を布団に落としていたのか、会話の途中で急に布団が炎上する。が、松尾は慌てる様子もなく、そばにあった一升瓶の酒で一気に炎を消した。

 詩人を志す、薫の心情を一番理解するのは、設計製図士をやめて早稲田に入ってきた年上の堤。女と同棲しながら、弁護士を目指す野心家・山中。安保の緊張が未だ覚めやらぬなか、法学部の面々が、剛毅・退廃をきどりながらも、政治家や弁護士をめざすのを尻目に、薫は反権威的な気持ちを核のように確立し、文学に没頭し、ある意味で本当の退廃、人生の落伍者のような生き方にむかって、走り始める。
 

単行本: 347p
発行: 05年05月
近代文芸社

解放区マリノ表紙

解放区・マリノ

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  第1話 「解放区・マリノ」

 
和40年代の赤羽。マリノは、田舎から上京して、パチンコ店に勤めながら、蒸発した夫を探している。いつものように景品場で働いていると、髪の長い男が一目散に走ってくる。そのままカウンターを飛び越えると、マリノのスカートの下に潜り込んだ。警察に追われている 自称東大の学生運動家、島村だった。純朴でいなかっぺのマリノは、知的でやさしい島村に惹かれていく。
  政治資金を無心する島村に、マリノは快く金を準備するのだった。

 


 

 第2話 「無物語」 
―怪異・力業・神話を語らず

 和40年代の高円寺。主人公・横山よしのりは、朝起きて、トイレに行き、銭湯に向かう。身を清めるように、体を洗いあげる。アパートに戻ると、ためらいもなくブロバリン一瓶を飲みきり、ガス線をひねった。
 不思議と睡魔が襲ってこない。そこに見知らぬ一人の女が訪ねてくる。セールスかと思ったがそうでもないらしい。大学時代のよしのりに世話になったお礼に来たという、その女と話すうちに、自分が抱えている苦悩を素直に表現し、気持ちが自然と穏やかになっていくのを感じる。
 そんな気持ちになったころ、激しい頭痛がよしのりを襲う。

全き詩集(旧)表紙

 

1976年、詩の世界社から出版された処女作。今は、近代文芸社より、「全き詩集」として、再販された。全30篇。

      雪の夜

雪は降りやむこととてないみぎり
じっちゃの痩せ身がいよいよ細くなり
ごろり、ごろりともどかしい
はがねの空は死を兆すのみ―

じゃっちゃの目をみれば
ながい宿痾(しゅくあ)のいたましさやるせなさ
煙草をすわせてやるよりせんかたない
無稽に笑えば、じっちゃも笑う
その笑いのさびしさといったら!

愛しいじっちゃ・・・・・・
一人変わった子は、旅のみちで
古い茶っ葉みたいになりました
愚鈍な者には慈悲を捨て
誇り高い者には別懇を、と
あなたの口癖を唱えて歩いているうちに

さようならじっちゃ
あなたが灰かぶりの幻に両手を差し出し
ぼくを忘れた一夜さ
雪道を歩いて鼻が凍て 耳が痛み
まぶたは煙ったっけ
電柱の灯が、しずかに永久に
連なっていたっけ

 

 

 

 

 

 

鯉人―淀屋辰五郎想い書

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単行本 ページ数:723p 09年04月
近代文芸社