週言コーナー   週に一度拓矢先生の生の声が聞ける       3月
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 また、早大合格者たちと大隈公前や時計台下で記念写真を撮る季節になった。いや、季節に巡り合えた。持病膠原病)(おも)くなる前に、一枚でも多く、学生の喜びの顔に並ぶ私の健康な顔を撮っておきたい。五年か、六年か、それとも来年か。同僚の講師である康井先生に、

「疲れたとか、痛いとか、弱音を吐いちゃだめです。少なくとも、あと十年がんばって、講師生命を引っ張ってください。私は先生の引退とともに講師を辞めようと思ってるんですから。先生お一人のからだじゃないんですからね」

 と、真剣に励まされた。彼自身、五十歳を越え、網膜剥離で左目がほとんど利かず、週三十コマをこなして疲労のきわみにあるのにありがたいことだ。(3.4)


 
 
私はそうではないけれども、たいていの人たちは「古い(ださい)」と言われることが人生最大の恐怖であるようだ。流行も含めて、大半の人生行事がこの恐怖に仕切られている。それは老若男女、個人・企業体の隔てがない。彼らのモットーは「新しさ」であり、「質」ではない。細い数直線の新しい方向への「序列」であって、その直線上にそびえる才能の「かさばり」ではない。このような世情をうかがうとき、私はいつも芸術家であらなければならないと思うし、そのように生まれついてよかったと感謝する。芸術はその恐怖と無関係な位置にあるからだ。(3.11)


 自分の好きな歌を『遺歌』と称してテープに編集している。この作業は二十年以上にわたっており、これでもう何百本目になるだろうか。遺歌なぞとは仰々しく、縁起が悪いようだが、もの心ついて以来自分が聞き惚れた歌、くらいの意図である。何かの事情でこの数百本が他人の手に残ることも、多少こころに懸けているかもしれない。だから、吹き込むときは、ささやかな死の翳りがよぎり、たいがいは幾分さびしい気持ちになる。

三十年前大学時代の友人に貸したまま行方知れずとなった、ジャンクというグループの『鵜戸参り』(P)がある人の努力によって手に入り、さっそくテープに編む。胸に沁みた。いまなお入手できないのは、朝丘雪路の『恋の十字路』だけになった。

唄を聴きはじめたのはいつのころだったろう。五、六歳の夏、青森の叔父の家で、『うちへおいでよ』と『砂に書いたラブレター』を聴いたのが最初だったように記憶している。それから五十年が経った。さまざまの名曲が私の耳を通り過ぎていった。アメリカン・ポップス、ジャズ、日本の流行歌、さらに演歌……。なかでも心の奥底に刻まれている歌を、自分になつかしく確認させる意味で、荒々私の耳の時代順で挙げつらねてみたい。

野菊(小学校唱歌)、雨に歩けば()、最果てから来た男(石原裕次郎)、恋の十字路(朝丘雪路)、からたち日記(島倉千代子)横浜

悲しき16歳(ケーシー・リンデン)、ワン・ボーイ(コニー・フランシス)、悲しき雨音(ザ・カスケーズ)、けんかでデート(ポール&ポーラ)、マッシュポテト・タイム(園まり)、悲しきクラウン(ニール・セダカ)、江利子(橋幸夫)、頬にかかる涙(ボビー・ソロ)、黒髪(梶光夫)、涙が頬にかかるとき(ティミ・ユーロー)、十字路(小林旭)、ラグ・ドール(ザ・フォー・シーズンズ)名古屋

アイ・ゲット・アラウンド(ビーチ・ボーイズ)、チャペルに続く白い道(西郷輝彦)、朝日のあたる家(アニマルズ)、女心の唄(バーブ佐竹)、恋さずにはいられない(エルヴィス・プレスリー)、青森高校校歌、秘密(アンナ・マリア)、エーデルワイス(クリストファ・プラマー)青森

早稲田大学校歌、私の小さな夢(ママス&パパス)、誰のために(赤い鳥)、ひとりゆく路(エンゲルベルト・フンパーディンク)、オーブル街(森山良子)、雨に濡れた慕情(ちあきなおみ)、アローン・アゲイン(ギルバート・オサリバン)、あなたのすべてを(佐々木つとむ)、家路(トム・ジョーンズ)、天使になれない(和田アキ子)、フォー・シーズンズ(キャロル・キング)、さよならをもう一度(尾崎紀世彦)、コズミック・ブルース(ジャニス・ジョプリン)、女は恋に生きていく(藤圭子)、カーザ・ビアンカ(ビッキー)、ジョニー・ワンタイム(ブレンダ・リー)、雨の街角(グラシェラ・スサーナ)、池上線(西島三重子)、パピー・ラブ(ダニー・オズモンド)、風の日のバラード(渚ゆう子)、キス・ミー・グッバイ(ペトゥラ・クラーク)、愛のくらし(加藤登紀子)東京

能登半島(石川さゆり)、ささやかな欲望(山口百恵)、別涙(因幡晃)、さくらの唄(美空ひばり)、水中花(井上忠夫)、鵜戸参り(ジャンク)松山

忘れていいの(欧陽菲菲)、ベティ・デイビスの瞳(キム・カーンズ)、君と歩いた青春(太田裕美)、傷ついた花びら(西田佐知子)、夜霧にかくれて(伊東ゆかり)、それは恋(森進一)、翼の折れたエンジェル(中村あゆみ)、オンリー・マイ・ラブ(松田聖子)南浦和

グッバイ・マイ・ロンリネス(ザード)、花(大高しずる)、悲しみがとまらない(杏里)、ラブ・オールウェイズ(ロザンナ)、クレイジー・ラブ(井上陽水)黄昏(岸田智史)、エヴリ・ブレス・ユー・テイク(ポリス)、そして僕は途方に暮れる(大沢誉志幸)、涙ぐらし(角川博)、ランナー(高橋真梨子)、さちこ(ニック・ニューサ)、宗右衛門町ブルース(平和勝次)、心の酒(石川さゆり)桶川

 見つめてほしい(シンシア)、止まり木(尾崎亜美)、イン・ヒズ・カー(ロビン・ウォード)、シックスティーン・キャンドルズ(ダニー・オズモンド)、セシル(浅香唯)、夜明けのミュー(小泉今日子)、あなたのことだけを(高山巌)、ライク・ア・ヴァージン(マドンナ)、風の旅人(大貫妙子)、黒い海(グラシェラ・スサーナ)、私が生まれた日(山崎ハコ)、歩きつづけて(長谷川きよし)、ハンブラメ・デ・フレンテ(アナ・ガブリエル)―伊奈
 他々々々。
 
……歌のない人生は考えられない。 (3.25)